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「このような状況になっても公爵家の中で唯一、バルティア家は親国王派の立ち位置を示すことができる家だ。だから、反乱軍もここ以上に襲いにくい土地だろうし、反撃の出発点としても十分だろう」
マグナムの説明にようやく合点したアリアだった。アランもまた、頷いていることだから、彼もまた全貌を把握できたのだろう。しかし、マグナムの次の言葉に一瞬アリアは驚き、言葉を失った。
「駒として使っているようで申し訳ないが、アリア、お前は唯一、他国が認めている個人だ。それを使わざるを得ないだろう」
マグナムはかなり渋い顔だった。隣のエレノアも同じように渋い顔をしてはいるが、反対の意見を言わない。そっとアランの方を伺うと、彼はその視線に気づいたらしく、三度アリアの手をしっかりと握った。
「なるほど、そういうことですか」
アランの温もりによって何か安心したのか、アリアは自分が思ったよりも冷たい声でなかった。まあ、調停の場での経験もあるし、ミゼルシアの『留学』の件もあるので、仕方ないことだろう。
(たぶん、クロード王子と出会って以来、関わらざるを得なくなってしまったんだろうな)
と、記憶のはるか彼方に追いやっていたクロード王子との出会いを思い出してしまい、少しげんなりしたものの、その一連の流れの途中でアランとも出会ったんだと思うと少し感慨深くなった。
一方、アリアが何を考えているのか手に取る様にわかってしまったアランは、
(まあ、彼女がこうやって動かざるを得なくなったのは、あの王子の時が初めてですよね。あの王子の護衛任務に就いたからアリアと出会えた。行動だけ見ればやや難有りな人ですが、それぐらいは感謝しなければ)
と思っていた。
そんな二人の様子を気に留めず、マグナムは、
「まあ、とにかくバルティア付近において、アリアを旗頭にした軍事演習こそが、反乱軍に対しての最高のけん制になるだろう」
と締めくくった。
それから一晩して、アリアとアランはスフォルツァ領を発ち、バルティア領へ向かった。二人は先にバルティア領へ向かい、数日後、スフォルツァ領軍が発つことになっており、出立の際にはマグナムが鷹で知らせてくれることになっていた。
ちなみに、政変と内乱で王宮内や南方が荒れているとはいえども、反乱軍が全土に戒厳令を敷いていないおかげで、非常に動きやすかった。
「王都を含めた北半分はどうしても肉中心の生活になるわね」
途中の食事処で二人は夕食をとっていた。そもそもリーゼベルツは内陸部。魚介類がほとんどないのはしょうがないとしても、この国では昔だったら確実に役所から指導が入りそうなくらい肉中心の生活を送っている。しかし、北半分は山岳地帯が多くほぼ牧畜・酪農に利用されているのもまた然りだ。比較的平地である王都やスフォルツァ領が例外なのだ。
ちなみに、二人を遠巻きに見ている客たちは、口々に、
「あれは駆け落ちかもしれない」
「こんなご時世に駆け落ちねぇ」
「しかも、結構いいところの嬢ちゃん坊ちゃんじゃないか?」
「だが、そんな奴らがこんな店で旨そうに食うか?」
と言っている。彼らの会話からもわかるとおり、二人はかなり高位の貴族であることがばれている。最初は平民の設定にしようかと思って、町の服屋に入ったのだが、どうあがいたところで貴族らしさを隠せず、最終的に二人は開き直り、いかにもお忍びできています、というようなカップルに仕立て上げてもらった。
「そうだね」
アランは少し苦笑いをしたあと、肯定した。
「どうしても魚介類を摂取できないあたり、もう少し野菜が欲しいけれど、この地形だとかなり難しいよね」
「本当ね。ここに来てから貴族って大変だと思ったことはないけれど、野菜があまり食べれないのは少し大変だったわ」
アリアは『相原涼音』として生きてきたとき、ある程度は美容に敏感だった。だから、野菜オンリーという訳ではないが、野菜も多く取るようにしてきた。しかし、ここにきて最も驚いたのは野菜の高級さだ。自分自身には農業を伝える技術はない。だからこそ貴族であったことにかなり感謝していた。
「そうなんだ」
元々から男の人であるアランは、少し目を見開いていた。やはり彼も一般的な男性と同じように肉中心の生活だったのだろうか。
クロード王子「(くしゅん)――――何か、天変地異でも起こるか」
ラシード王「たかが、くしゃみで何が起こるか」





