12
12
叔母のフレデリカとミスティア王女、そしてウィリアム・ギガンティアが内乱を起こした、と聞いて、アリアは混乱した。あのフレデリカに対して、ミスティア王女は『自分自身を斬って良い』とまで言っていたくらいだ。それなのに、何故叔母に従って反乱を起こしたのだろうか、アリアには理解できなかった。それに、ウィリアム・ギガンティア。彼は『ラブデ』ではベアトリーチェのために、と国のためにと尽くしてきているはずだ。それなのに、なぜ彼が現実世界ではあの叔母に付き従っているのだろう、と悩んだ。
「国に戻るか?」
ラシード王が尋ねる。その声には何の感情も含まれていない。アリアはそれが彼なりの優しさなのだろう、と考えた。一瞬、その渦中にいるディートリヒ王やクリスティアン王子、クレメンスやセルドア、そして弟たちのことを考えた。本来ならば、国に戻った方がよい。しかし、今自分が戻ったところで何のメリットがあるのだろうか、と考えた。
おそらくはない。
「いいえ」
それならば、今はまだ帰還命令が出されていない、という事はここにいても大丈夫であろう。アリアはそう考え、口にすると、アラン以外は驚いた。アリアはそれに気づいてはいたが、何も言わなかった。
「ですが、近いうちにスフォルツァ領へ向かう事にします」
アリアのその相反する発言に、今度はアランも驚いた。そんな彼らを見て、説明をつづけた。
「おそらく今は、王都を含めて主要な町は混乱状態でしょう。この内乱は早々に片が付く可能性もありますが、まあ、悪い方向で考えると、おそらくこの内乱は1年以上続くことになると思います。それを考えると、大量の兵士や騎士たちが投入されることになります。私はすでに当主代行を解任された身ではありますが、まだ『公爵令嬢』という身分は残っています。王立騎士であるユリウスはこの内乱の討伐軍に加わることとなるでしょうから、誰かが領内の政を仕切らねばなりませんし、いざという時の備えもしなければなりません」
アリアの言葉に、確かにとアランは頷いた。すると、クロード王子が切り出した。
「姫さん、もしセリチアがディートリヒ王を後押しする、という声明と軍勢を差し向けたら、影響があると思う?」
彼の問いは非常に謎だった。まだ、ディートリヒ王側が形勢不利でない、と決まったわけでないのに、どうしてそんなことを聞くのだろうか。
「分かりません。しかし、おそらくあの方ならば形勢不利ならば、一度は王都を離れるはずです。今この時点ではまだ形勢不利と決まったわけではありませんので、何とも言えません」
アリアは困った表情をして言う。彼は結構、引きとめようとしてくるのだ。それに乗ってはだめ、と心の中で呟きつつ、彼に言った。その返答に、クロード王子は満足したようだった。いったい彼は何を言いたかったのだろうか。
それから数週間――――
様々な情報が入ってきて、クリスティアン王太子をはじめとする討伐軍が苦戦していること、その討伐軍の中にはやはりユリウスも入っていることがわかり、ダリウス王子が誘拐されたという知らせには驚かされた。
そして―――――
「今までお世話になりました」
結局、短い間の留学となり、この寒い国に慣れたと思ったら離れることになってしまいとても残念だった。しかし、これ以上この国にとどまるわけにはいかない。アランもいることだし、いい加減国に戻らねばと思い、ラシード王へ挨拶に行ったのだ。
「そうか」
ラシード王はあからさまにがっかりした表情だった。もう少しこの地へとどまって欲しかったようだ。しかし、彼も一国の王だ。割り切って、この後のアリアの計画を知っているので、
「道中気を付けよ。そして、武運を祈る」
と言い、ミゼルシア王家の紋が入った短刀をお守り代わりに渡してくれた。
アリアは身内からそれを渡され、改めて祖国へ戻ることを実感した。深く礼を言い、アリアとアランは王宮を辞し、馬上の人間となった。
リーゼベルツ・スフォルツァ領までの道のりのなかで、ミゼルシア国内はミゼルシア王の騎士団(この国では王立騎士団とか近衛騎士団という呼称はなく、騎士が属するもの=騎士団というものらしい)のトップクラスの騎士たちが護衛に付き、セリチア国内ではなぜか一緒に来たクロード王子とその部下の武官たちが護衛についてくれ、クロード王子以外はスフォルツァ領の屋敷まで護衛についてくれたのだった。
ちなみに、9歳まではスフォルツァ公爵領へ入ったことがあり、今までの6年ほど全く縁もなかったこの土地だったが、『昔取ったなんちゃら』というくらいには、領の地形を覚えていたみたいだった。難なく屋敷までたどり着くことが出来た。
「母上様」
領の屋敷は静まり返っており、かなり殺伐とした雰囲気だった。母エレノアや父マグナムの姿がないことに不安を覚える。くまなく探し回り、ようやく見つけたところは屋敷の中にある礼拝堂だ。そこで一心不乱に祈る二人の姿を見て、駆け寄りたい思いとそれとは相反する二人の邪魔をしてはならない、という思いがぶつかり合い、結局、二人の祈りが一段落するまで待つことにした。





