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転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね? ~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~  作者: 鶯埜 餡
15才編『不穏な雲行き』

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 ミゼルシアに来て3か月たった。3か月経って分かったことだが、どうやらこの国はそんなに冷え込まないらしい。しかし、この国へ来た時はかなり冷え込んでいたのはかなり珍しいことだったらしく、留学先(・・・)の第一高等機関の『学友』たちは例年はもう少し暖かいのだと言った。

 ある日、アリアは珍しく朝からミゼルシア国王ラシード――――張本人からは呼び捨てでいいと言われているが未だに慣れない―――に呼ばれているため、自主休講(エスケープ)し王城を訪れていた。ほぼ毎日の夕刻に訪れているせいか、衛兵たちと顔なじみのような関係になり、謁見室まで速やかに通された。普段は第一高等機関の制服を着用しているので、あまり服装を気にしなかったものの、今日は私服での登城だったので、かなり気を使ってしまった。


「やあ来てくれたね」

 ラシード王はにこやかに言った。後ろではザウルもにこやかな笑みを浮かべている。何だろうか、この良くないもの感は、とアリアは感じて一瞬後ずさってしまった。だが、入ってきた早々、ソファを勧められたアリアは逃げ場がなかった。

「いいえ、私はラシード様に養われている身ですから、これくらいのお手伝い(・・・・)は何なりと」

 アリアはよくないものを感じたが、それを表情に出さずにそう言った。すると、ラシード王はザウルと視線を交わしたのち、

「まあ、今回はあなたに会わせたい人間がいて、ね」

 と言った。何事も明るく話すこの王の性格からすると、その物言いは非常に暗かった。

「どういうことです?」

 アリアはそんな物言いをさせる人間に心当たりがなかった。正確に言うと、そういう人間を心の中から排除していたのかもしれなかった。

「まあ、とにかく会ってくれ」

 アリアの様子に気づかないラシード王は性急にアリアをせかした。侍従に連れてこい、と命じると、彼自身もソファに座り、用意された紅茶をすすった。

 沈黙すること、数分。先ほどの侍従だろうか。扉をノックする音が聞こえた。

「入れ」

 ラシード王は紅茶をすすりながら、扉の外に向かっていった。その声は非常に機嫌が悪そうな声だ。

(むしろ、セルドアやアランがクロード王子と対峙するときと同じような雰囲気が漂っているような…)

 アリアは部屋の中の雰囲気がどこかよく似た状況であることに気づいた。しかし、アリアは外に誰がいるのかが全く想像もつかなかっただけに、彼に声をかけ辛かった。

 ラシード王に声をけられ、扉が開いた。アリアは思わずそちらの方を見てしまい、そこに誰がいるのか気づいた瞬間、自分でも笑顔になるのが分かった。


「あなたは、アラン――――」

 そう、そこにいたのは元王立騎士であり、今はディートリヒ王の側近である秘書官に新たに任じられたアラン・バルティアだった。

「久しぶりだな、アリア」

 彼もまた、笑顔になった。

「ええ、元気そうで何よりだわ」

 アリアはそこがミゼルシア国王主従の目の前だというのに、アランに抱き着いた。しかし、周りを憚らないほどにアランに会えて嬉しかったのだ。アランも抱き着いたアリアに対して、頭を撫でた。

「ああ、君もだ。ここでの暮らしは悪くなさそうだね」

 アランはアリアの頬をさすりながらそう言う。アリアはその仕草に少しこっ恥ずかしい、と思いつつも受け入れた。彼にされるのは何とも言えない気分になるのだ。彼には政変の時、セリチアで落ち合ったときにも、抱き留められたが、その時にも何とも言えない感情を抱いていることに気づいていた。

「ええ、全くよ。ラシードさ――――陛下が良くしてくださって」

 さすがにいくら親しい仲であっても礼儀あり、だ。アリアはラシード王のことをただの友人ではなく、一国の王として扱った。その呼称の変化にラシードも気付き、余計にムッとし、部屋の中の温度はかなり下がっている。しかし、アリアもアランも気付かず、二人だけの世界に浸っている。すると、外野から勇気ある(・・・・)拍手を起こした人間がいた。それは、衛兵含むミゼルシア国王主従ではなかった。



「いやぁ、羨ましいねぇ」

 その人物は、つい数か月前(・・・・・・)にあった人物だ。彼はこの部屋の主であるラシード王に許可を得ずに入ってきた。

「久しぶりだね、ラシード陛下。それにアリア姫とバルティア公爵家の嫡男君」

 そう言いながらラシード王に近づいた彼――――セリチアのクロード王子、はその金髪を無造作に散らしているのだが、ラシード王の金髪と相まってまぶしく見える。

「お前は、確か―――」

「そうですよ。あの『糞金髪野郎』のフィリップの異母弟(おとうと)ですよ。まあ、母は違うはずですが、何故か容姿は両方とも父親似で」

 クロード王子はにこやかに笑ったが、その笑みは悪魔の笑みのような気がしてならなかった。

「えっと、ラシード様?」

 突然の乱入者にアリアは混乱して、通常通り(・・・・)の呼び名でラシード王のことを読んでしまった。そのアリアの問いかけに、ラシード王は少し頬が緩み、アランはアリアを抱き寄せる手に力を籠め、クロード王子はニヤニヤ笑う。ラシード王は、少しため息をつき、


「2人ともミゼルシアへの正式な(・・・)留学生だ」

 と言った。アリアは驚いてアランの方を見ると、彼は少し恥ずかしそうにした。クロード王子の方からは何故か悲壮感漂う雰囲気が感じられたが、無視した。

「ということは――――」

 アリアはラシード王の方を向いてそう問いかけた。

「ああ、あなたと同じように第一高等機関で学ぶ二人だ。あなたも知らない仲ではないだろう。よろしく頼むよ」

 ラシード王はそう二人にも聞こえるくらい大きな声で言った。側に控えているザウルの方を見ると、彼もまたにっこりと笑っているので、間違いないだろう。アリアはその話に愕然とした。

(いや、この2人って相性最悪でしょ、どう考えても)

 この後の生活が思いやられた。





 一方、そのころ―――

「反乱、だと――――」

 リーゼベルツ国王ディートリヒは、執務室でそう内務相と軍務相から報告を受けていた。彼らの側には、顔を真っ青にした宰相もいた。

「はい。反乱の首謀者の名前は既に割れております。以前、王宮を追放されたフレデリカ・スフォルツァ、先日王が国司に任じなさったウィリアム・ギガンティア、その背後には前宰相一派の残党が実質的に反乱を動かしている連中です」

 そこで、クレメンスは言葉を切った。そして、そこから先をセルドアが引き継ぐ。

「そして、その旗頭にされているのが、先日スベルニア皇国の建国記念祭へ出席されるため、名代として旅立ったはずの――――――――――――

               ――――――――――――――――ミスティア王女、です」

 セルドアの言葉に、王も宰相も言葉をなくす。

13章14話目を大幅改稿しております。

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