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中絶などの記述やグロい描写(もしくは単語)があります。苦手な方は注意してお読みください。

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 日にちはあっという間に過ぎ、夜会の日がやってきた。

「さあ、仕上げの着付けですわよ」

 そう仕切っていたのは、最初私の変わりように驚いたマリア=アンネだった。『転生後』のアリアは、彼女の事をかなり軽薄なメイドだと思ったが、実力は十分にあり、私の専属メイドとして支度をしてくれる。

 今日の戦闘服(ドレス)はデビュタントの少女らしく、プリンセス型のものにした。普段はピンク系統のドレスにするが、可愛らしさだけでなくしっかりしたところを見せたい、という意味合いも込めて、薄い青色のドレスにした。小物についてもドレスに合わせて青系統のもので統一した。今回の選択にはマナーを習っている最中のベアトリーチェが最初に選び、アリアが確認すると同時に自分の意思も取り入れ、マダム・ブラッサムに見せた時は、2人体制になってから初めて満点をもらえた。


「スフォルツァ家長女、アリアと申します」

 王宮での夜会はやはりけた違いだ。煌めくシャンデリア、並ぶ豪華な食事の数々、婦人方の豪華なドレスに紳士たちのタキシード、さらにはこれから曲を奏でるであろう演奏者たちとその楽器。すべてが、初めての少年少女たちには輝いて見える。

 アリアは両親とエスコート役のクレメンスと共に王宮へ来たものの、『ゲーム』内ですでに内装などは見ていたので、特段驚く必要はなかったが、その冷静さから、彼女の周りにいた人たち(主に女性)から、

あの(・・)スフォルツァ家の令嬢、驚かないのは、デビュタント前なのに何度も王宮に何度も出入りしているからね。さすが、我儘として名高いだけはありますね』

 とか、

『あの人怖じしないところ、見られました?あんなに堂々とされていますし、王族の母親を持たれているくらいなんですから、今後は王太子の妃候補に選ばれるんでしょうね』

 との声が聞こえてきたが、アリアはさらにそれを無視した。

 そして夜会が始まり、初めにアリアはデビュタントした者の務めとして、一人で(・・・)国王をはじめとする王族への挨拶があり、彼女は一番位が高い公爵でありファーストネームのスペル順だったので、最初に挨拶せざるを得なかった。中央の玉座には国王、その隣には王妃シシィが座っており、本来ならば年齢に関係なく夜会の始まりには王太子とその弟がいるはずだが、それらしき少年たちは見当たらず、代わりに国王の背後に背の高い黒髪の女性がたっていた。

 国王は王太子の父親らしく、鴉の濡れた羽のようにつややかな黒色だった。

「面を上げよ」

 彼はバリトンボイスで心地よい音、と認識した。クリスティアンにはまだ会ったことさえないが、いずれこうなるのではないだろうか、とアリアはひそかに期待した。彼女が顔を上げると、

「うむ、非常にエレノアに似ておるのう、従姉殿」

 国王は斜め後ろにいた黒髪紫目の美女に問いかけた。ちなみに、王妃はアリアを値踏みするような目で見た後は、そっぽを向いていた。

「そうね。レーンは私たち姉妹の中でも、髪の色以外は飛びぬけて父親の血が濃いと感じるけれど、レーンとは反対に飛びぬけて母親の血が濃いと感じるわ」

 彼女――国王の従姉、エンマはアリアのことをそう評した。彼女がそういうと、国王はアリアの方を見て笑った。

「また、ミスティアと一緒に遊んでやってほしい」

 国王がその名前を出した瞬間、王妃の肩が揺れた気がしたが、アリアはあえて無視させてもらうことにした。

「謹んでお受けさせていただきます」

 アリアはこれ以上いたら、王族の遊び道具(・・・・)となるのを恐れて、すぐわきにどいた。


「お見事でした」

 壁際でアリアを待ち受けていたのはクレメンスだった。彼をエスコート役として選んだ理由として彼に頼めば、本人たちと会わずとも登場人物たちの情報を集め、フラグ回避できるのではないか、と思ったからだった。もちろんその理由は言わなかったものの、内心では、彼がダンスの講師と決まってから年齢的にも、デビュタントのエスコート役をお願いしよう、と考えていたのだった。『ゲーム』内ではサポート役なので、自分自身とは関わるシナリオはない。しかし、全ての攻略対象やそれにかかわる人間と関わる回数が多いので、会っているかもし知れない、とも考えていたので、彼からの情報収集かねて頼んだのだった。


「これはスフォルツァ家のお嬢さんではありませんか」

 王族への挨拶を済ませたアリアは、さまざまな貴族に取り囲まれることになった。しかし、アリアはすでに、前世で学ばなかった社交界でのマナーも完璧に学んだ身。完璧に、

「初めまして、アリア・スフォルツァと申します」

 彼女は優雅に礼をとった。今彼女の目の前に立っているのは、黒に近い深緑色の髪をした男性だった。

「君が噂の(・・)アリア姫か」

 彼はアリアの手を取ると、その指先にそっと口づけをした。彼は王立騎士団の紋章をつけた黒色の軍服を着ていた。おそらく階級は――将軍。彼はアリアの目の前に跪いており、周囲の貴婦人からため息が零れ落ちていた。そんな彼はクレメンスと知り合いらしく、アリアを借りたいと、言ったらすぐに許可した。

「あなたは…?」

 チラホラ人影はあったが、先ほどの大広間よりもはるかに人が少ないところまで連れていかれたアリアは、相手の人物がどのような人間であるか全く想像つかなかった。

「僕はセルドア・コクーン。君の所にいる針子――マチルダの兄だ」

 確かに彼はマチルダとよく似た瞳をしていた。

「君の家にはお世話になっている」

 彼は彼女の手を握ったまま、そう続けた。

「それは母上が決められたことです。なので、私がその決定に関与しておりません。ですので、礼を言われるのでしたら、母上にお願いします」

 あくまでもアリアは彼に、彼女たちを最終的な判断をしたのは自分ではないと述べた。実際行動をとったのは母親であり、アリアは異母弟(ユリウス)がいる、と母親に伝えただけだ。

「ご謙遜を」

「?」

 アリアは純粋に疑問に思った。そこまでセルドアが言う必要性がアリアには感じられなかった。

「あなたによって自分と似た顔立ちの少年を発見し、ある不正が疑われている貴族に気づかれ、それによって2つの家庭とも公爵家に保護された、と僕は聞いていますよ」

 セルドアは柔らかいまなざしをアリアに向けた。

「それを私に言う必要があったのですか?」

 アリアはあくまでも、補助の役割を崩さないように心がけていた。

「貴女が気づいてくださらなかったら、マチルダもユリウスも未だにきちんとした扱いを受けていなかったでしょう」

 彼はモスグリーンの瞳を細めた。アリアはその言葉を疑問に思った。

「あのマチルダさんとユリウスが不当な扱い?」

「ええ、残念ながら」

 彼女たちがいたのは然る子爵家。最初にお茶会であったときもそれなりに身なりもしっかりしていたし、スフォルツァ家(うち)に来た時も(スフォルツァ家と比較すれば)、あまり質の良いものとは言えなかったが、庶民からすれば十分な衣服を着ていたような気がした。アリアがそう疑問に思っているのを感じ取ったのか、セルドアが苦笑した。

「マチルダが公爵家行きつけの服屋で働いていて、ある晩、どこかの大貴族に強引に犯され、ユリウスを身ごもったのです。その時は、僕はまだ騎士団の一介の平兵士でした。そのため、僕自身ができることは何もない事を分かっていたのでしょう、彼女は最初犯されたことを、家族の中で唯一の王宮勤めであった僕にさえ言いませんでした」

 そこでセルドアは区切った。アリアはその事件のことをこのデビュタントの夜会で聞くことになるとは思わなく、驚愕で目を見開いていた。

「しかし、ある日彼女が体調不良を訴えた時にはもうすでに、妊娠三か月目を過ぎたころだったので、医者からは身籠っている子供の命を絶つことはできないといわれました。仕方なくマチルダは子供を産むことを決意しますが、当然当時は父親が誰かわからなかったのですから、かなり悩んでいましたよ」

 セルドアはアリアの方を見つつも、どこか遠いところを見ていた。そんな彼に、アリアは無意識のうちに近寄って、手を握っていた。

「その後、彼女はユリウスを産みまして、もともとの職場である服屋に復帰したところ、ある子爵に見初められ、結婚しました。しかし、当然すぐにユリウスのことが知られ、『淫乱な女』とか、『どこの馬の骨とも知れぬ男と寝れる女』とか言われ続けたそうですよ」

 セルドアはアリアの手を振りほどき、彼女に背を向け、唾を吐き捨てながら言った。転生前のアリアだったら、絶対にそのような話を聞かなかっただろう、でも、今は自分が死なないためとは雖も、確実に起こり得す未来をすべて変えたいと思っている。だから、彼の話を聞き、可能であれば少し彼の気持ちを楽にしたいと思った。だから、振り払われても、彼に駆け寄り小さな体で、すでに三十路であろう大きな彼の背中を撫でた。すると彼はハッとしたように背後のアリアに気づき、

「これは申し訳ありませんでした、小さなレディ」

 と謝った。しかしアリアは、

「いいえ。可能であれば聞かせてくださいませんか、最後まで」

 少し微笑み、そういった。すると、セルドアは、

「アリア姫がよろしいのでしたら」

 と言い、

「彼は普段は何も言いません。ですが、家の中にいるとき、二人きりの時に彼女に言い続けていたそうです」

『涼音』として生きていた時にも、似たような事件が後を絶たなかったのを今でも、覚えていた。彼女は自分の父親がその元凶だという事に、非常に申し訳ない気持ちだった。セルドアは、そのモスグリーンの眼を伏せて、

「でも、それを、貴女、アリア・スフォルツァ令嬢がユリウスに気づいてくれたことによって妹は救われたのです、あの地獄のような子爵家から」

 と言った。アリアはもう何も言えなかった。画面越しに見る話ではなく、現実での話に恐怖を抱いていた。そんな彼女の様子を見て、セルドアはアリアをしっかり抱いた。

「あなたの父親のことはどうだって構いません。ですが、貴女だけでも困っている人が、近くに寄っていけるような、そして、本当を本当、嘘を嘘として見抜けられるような大人になってもらいたいです」

 セルドア自身に他意はないが、端から見るとなんだかイケナイ関係に思えてきたのはアリアだけだろうか、どうでもいいことを少し思ってしまったが、彼女はセルドアに大丈夫か尋ねるために、抱かれていても少し自由な手を背中に回し、背中を撫でた。その行為に、セルドアは再び驚き、

「姫様に気を使わせて申し訳ありません」

 と微笑んだ。先ほどのような暗さはそこにはなかった。

「貴女には感謝しきれません。もちろん、私は王立騎士ですので、忠誠を誓うという事はできません。ですが、貴女には無償の愛――もちろん、喩えですが、それを捧げましょう」

 再び彼はアリアに跪き、

「私は貴女、アリア・スフォルツァ公爵令嬢に生涯無償の愛を捧げます。いかなる時も、貴女に降りかかる災いを取り除く手助けをさせてください」

 とアリアの手を取り、キスを落とした。アリアは、ただその行為に見とれて、頷いてしまった。セルドアは目を細めて、笑った。


「姫様に幸運が訪れますように」


 そうして二人は会場の中へと戻っていった。

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