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 秘書官の先輩であるポールを断罪した後、すぐにアリアは城の一角にある自室に引きこもった。

 王宮事変において、国王一行は着の身着のまま放り出されてしまった状態なので、当初は野営も覚悟を辞さなかった。それに、アリアもそういった状況下で紅一点であるのを強調することは憚られた。しかし、そこは保護した国であるセリチアの王族、フィリップ王太子とクロード王子の力によって事なきを得た。もちろん、本国での地位そのまま、という訳にもいかなかったが、リーゼベルツに最も近い古城を譲り渡してくれ、そこの領主である伯爵夫妻や使用人たちをそのまま一行につけてくれた。そのため、国王の次に高い地位であり、唯一の女性であるアリアはディートリヒ王の次に良い部屋を与えられていた。


「でも、これからどうすればいい?」


 アリアは自問した。これ以上、彼女に出来ることはないと思った。もちろん、自分自身がリーゼベルツに戻ることを考えた。そうすれば、ディートリヒ王も動きやすくなるのだ。でも、自分(アリア・スフォルツァ)はまだやり残したことが多い。ユリウスの成人を見届けること、未だかつてこの目で見たことのないスフォルツァ領を見に行くこと、それに、クリスティアン王子とベアトリーチェの結婚式を見ること。アリアはもうすでにこの世界が『ラブデ』の世界を離れていても、こんな風に終わるのは嫌だった。それを考えると、それ以外の方法しか思いつかないが、できればそれをしたくない。でも、それを避けるにはどうすればいいのかが想像できなかった。

 そんな堂々巡りな考えに浸っていると、扉がノックされた。

「どなた?」

 アリアは現実に戻って、誰何した。すると扉の向こうから、聞きなれた声がした。

「入ってもいいかな」

 その声にアリアは勢いよく扉を開けた。扉を開けた先には予想通りの赤毛の騎士がいた。

「入って」

 アリアはアランを招き入れた。アランは扉を無意識のうちに締めようとしたが、途中で何かに気づき、ばつが悪そうに開けたままにした。

「どうしたの?」

 アリアはそんなアランに声をかけた。一応微笑んだつもりではあったが、その表情は硬くなっているだろう、とアリア自身でもわかった。アランは案の定、アリアの表情に気づき、

「何を考えている?」

 と尋ねた。その口調は詰問しているようにも聞こえた。

「え?」

 アリアは一瞬その質問の意図がわからなかった。

「だから、君はどうしてあなただけが不幸になることを考えているんだ」

 アランは声を押さえながらも、激しく言った。

(どうして彼は、()の考えていることを正しく言い当ててくるのだろうか)

 アリアはアランのことが少し怖かった。びくりと震えたアリアとみて、アランはまたばつが悪そうな顔をした。

「いや、君が本当に(・・・)それでもいいっていうならそれでもかまわないと思う。でも、僕は君が背伸びをしているようにしか見えないんだ」

「どういうこと?」

 アリアは首をかしげた。


「例えば、最初の時だってそうだった。何もあの場でベアトリーチェとユリウス君を引き取らなくてもよかったじゃないか。それに、クロード王子の時もそうだ。コクーン騎士団長と()がどんなに焦ったことだか!!」

 アランは彼自身の呼称が変わったことにも気づかないで激しく言った。

「俺は君のことが心配なんだ。去年の狩り会の時だってそうじゃないか。君が僕たちのところへ来ていなかったら、君があんな目に遭わずに済んだんだよ」

 アランのいう事はもっともだった。だが、アリアにはもうすでに起きてしまったことだ。後悔はしていなかった。

「でも、これからは違う。あなたはこれ以上傷つかなくてもいいんだ」

 と言って、アリアを抱いた。あの調停の場で抱かれたのと同じ感覚だった。とても温かい。


「そう、なの?」

 アリアはためらいがちにそう言った。アランはアリアを抱いたまま頷いた。

「ああ。僕たちが出来ることはする。もちろん、アリア・スフォルツァとしてやってもらいたいことはそこそこある。でも、もうあなたが犠牲になることはない。少なくとも僕はそう約束する」

 アランはそういうとアリアから離れた。


「指切りしよう。君と僕の新たな密約だ」

 彼は小指を差し出した。それはアリア(・・・)でも知っているこの世界には無い約束方法だ。それにこたえるように彼女も小指を差し出して、からませた。

「じゃあ、よろしくね」

 アリアはにっこり笑った。その瞳には涙がうっすらと浮かんでいた。





 それから数日後――――

 本来ならば、何事もなくただ息をひそめているはずだったのだが、クロード王子の突然の来訪によって、それは途絶えた。

「陛下、クロード王子殿下がお見えです」

 護衛騎士の言葉で、場内はあわただしく動いた。

 広間での会見となり、先に広間で彼を待っていたのだが、クロード王子は一人ではなく、数人の貴族を従えていた。アリアはこの場においては、二番目の立ち位置(爵位持ち)であったので、公爵代理として王の隣に控えていた。

「突然の来訪で申し訳ない」

 彼はディートリヒ王に頭を下げた。王は構わない、と言った後、クロード王子に座るように勧めた。しかし、彼は、

「まだ、職務中(・・・)ですので」

 と断った。その言葉に、リーゼベルツ一行は首をかしげた。その様子にクロード王子は満足げだった。



「今日は、マッキントン卿の要望に従い、この方々をお連れしました」

 その後ろの貴族たちをディートリヒ王の前に出した。一瞬、アランをはじめ護衛騎士たちは殺気を放ったが、ディートリヒ王自らそれを控えさせた。王はじっくりと彼らを見てから、言った。


「なるほど。久しぶりだな、セルドア・コクーン卿、ウィリアム・ギガンティア、それに内務・財務の臣たちよ」

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