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肩を痛めて、昨日は執筆できませんでした。すみません。

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 マクシミリアンの捕縛、セリチア・グロサリア間における戦争が開始されてちょうど一か月経った。

 マクシミリアンの方は捕縛された際の後遺症も一週間強で治り、フェティダ領へ戻っていき、件の疑惑に対して王立騎士団・法務の幹部らの調査を受け入れた。結局、フェティダ領へ出向いている商人たちとセリチア・グロサリア両国とのかかわりは見られなかったものの、念のためフェティダ家の面々は老若男女、本家分家問わず騎士団によってしばらく監視されることになった。また、内務相・軍務相の2人は様々な規約違反のため、更迭されることとなった。その後釜として、内務相はその補佐をしていたクレメンスが昇格し、軍務相はなんと、セルドアが騎士団長と兼任することとなり、急きょ南方からの帰還命令が下された。国王からその人事を聞かされた時、アリアはセルドアが王都に戻ってくるという事で胸がいっぱいになり、仕事に手がつかなかった。

 それはアリアだけでなく、スフォルツァ邸にいるマチルダもまた、落ち着きがないように思われた。

「マチルダさん、あなた何回そこを縫っていらっしゃるのですか」

 エレノアが『貴族婦人の嗜み』として、さまざまな貴族の婦人方を集め、スフォルツァ邸でサロンを開き、ハンカチーフへの刺しゅうを行っているのだが、そこにマチルダも参加していたのだ。当初、前当主の愛人として認識されたマチルダはかなりの嫌がらせを受けたのだが、エレノアのとりなしと、マチルダ自身が強かったので、そう言ったことは徐々に減って、今ではお針子としての知識を買われるようになっていた。

「あ、申し訳ありません。少し考え事をしていて」

 彼女は俯き加減に言った。アリアは当然、セルドアの帰還を喜んでいたので、マチルダの気持ちが分かった。

「ふふ。マチルダさんはお兄様が南方より戻って見えますものね」

「そうですわね。仲のよろしい兄妹で羨ましいですわ」

「そうですね。うちは実家に居場所なんてなくてよ」

 参加していた婦人たちは次々と話に花を咲かせていく。アリアは少し、そんな女性たちが苦手であったが、マチルダの少し赤くなった顔を見て、今回の処置はほっとしていた。


 しかし、捕縛事件の方は無事終結に向かったのだが、セリチア・グロサリア戦争はかなり泥沼化していた。

 当事国のうちのどちらかにつくと予想されていた『白き土蜘蛛』が、捕縛事件の終結後、セルドアの帰還が国民に知らされた直後に、スルグラン国との協調を発表し、スルグラン国の戦争への介入が開始されたのだ。港町のないリーゼベルツだが、『白き土蜘蛛』対策にスベルニア皇国の港町に常駐させている特派員がおり、彼から文章が届けられたのだ。もちろん、各国にも伝わっており、セリチア・グロサリアの動きが特に俊敏だった。ここまでグロサリアの先制攻撃以外は大した戦はなく、双方ともに耐久戦になっていた。しかし、今回の声明でセリチアは三方から挟撃されたらたまらなく、グロサリアについてもリーゼベルツの動きが分かっていないのがもどかしいのか、次第に一発大きな戦が起こるかもしれないとの不安がリーゼベルツ内でも不安の声があがっていた。

 そんな中、ある朝議にて事件(・・)は起こった。


「予告を出さずに儂は、兵を率いてセリチア・グロサリアの戦争現場に行こうと思う」


 国王がそう言ったのだ。この発言は侍従たちにさえ何も事前相談されておらず、クリスティアン王子やダリウス王子を含め、そこにいる全員の度肝を抜いた。

「それは、また、どうしてそのようなことを」

 一人の財務の官吏がおずおずと尋ねた。ほかの官吏たちもうなずいている。アリアは何かが、国王の裏にいると思いざっと広間を見渡した。そうすると、国王の側、王子二人を除けば最も高位の人物、宰相の姿が目に映った。彼はアリアの祖父と同年代の最古参(おじじ様)で、ジェラルド派の一員の侯爵だったはずだ。先日のマクシミリアン捕縛の際は、彼だけが全く無傷で、彼の得体が知れず非常に危険人物とみなしていた。その彼だけはかなり平然としているのだ。14才ブラスαのアリアからしてみれば、彼は侮ることのできない、かなりの大物(タヌキ親父)であるものの、彼の平然ぶりは演技であるとは全く思えなかった。

「今回、3国、ひいては『白き土蜘蛛』を含めた4者をすぐにでも調停せねば、その矛先はこの国に向かってくるであろう。この国の平穏を願うのならば、すぐにでも調停するべきだ。しかし、リーゼベルツにおいてあの4組織相手に引けを取らない人間を選抜するのには時間がかかる。時間がない今は、儂が行くべきであろう」

 国王の意見に、皆黙った。かなりの暴論ではあるものの、『時間』と比べたら確かに彼が守りを固めていくのが、一番効率的だろう、と思った。

「しかし、誰が随伴を?」

 先ほどは別の法務の官吏が尋ねた。通常ならば外務の官吏か内務の官吏だろう。しかし、内務は件の事件でだいぶ国王からの信が失墜しているとも聞くし、外務は情報収集に忙しいだろう。そんな中では出来る限り人を欠けさせたくないはずだ。


「侍従の3人と内務相を連れて行く」


 貴族・官吏たちはいっせいにざわめいた。しかし、アリアは二人ほど、ある疑いを持つのに十分な反応を示した人間に気づいた。


「そして、儂がいない間は我が愚息のクリスティアンを代理の最高責任者、武官の長である軍務相セルドア・コクーン卿、文官の長としてアルチュール・バルディア公爵を臨時の最側近として任命する。有事の際には彼らに従うように」


 ディートリヒ国王はそう命じた。そのころには、貴族たちの驚きは落ち着いていた。アリアは、先ほど気づいた二人の様子を見て、彼らも先ほどと同じように(・・・・・)落ち着いてはいたが、何故かそれが非常に演技臭かったと感じた。

 そして、その予感は的中するのだが、それが公になるのは、2年後の事だった。

バルティア侯爵とありますが、アランとアーニャのパパさんです。

一応、性格容姿共に二人はパパと凄い似ており、パパも赤毛です。

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