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しばらく同僚回続きます。

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「ヤン軍務相か」

 ポールは腕を組んで唸った。

「ああ。先王陛下に最も反旗を翻したがっていた奴の息子だな。罪状は何でもでっち上げられるが、おそらくグロサリアに内通者がいたとか、もしくは武器売ってたとかだろうな」

 ジョルジュは相変わらずだらしなく座ったまま言った。普段はポールが文句を言うのだが、今はそれを見逃すほど緊急事態だった。アリアも普段ならジョルジュに一言言ってやるのだが、大目に見逃しておいた。

「ただ、どう考えても中途半端ですよね」

 アリアは今まで黙っていたが、一言呟いた。その言葉にジョルジュが即座に反応した。

「中途半端?ちょうどいいじゃねえかよ」

「え?」

 アリアの祖父はジェラルドだ。しかし、スフォルツァ家は近年、その素行が問題視されていた。そのため、ジェラルド派からしてみれば用済みとして、扱われてもおかしくないと感じていた。しかし、軍務相はスフォルツァ家ではなく、スフォルツァ家と並んで名門と称されるが、立て続けに家長が更迭されているフェティダ家に手を出した。これ以上、フェティダ家に手を出す必要はないように感じられていたのだが、それをジョルジュは否定したのだ。

「フェティダ家は代々軍門だ。しかし、ここんところ、あの糞兄弟によってそれが廃れちまった。で、あのおっさんの親父さんに交代した。そして、あの親子は二代続けて『軍務相』という地位の味を占めていたわけだ。まあ、新当主の坊ちゃんは病弱だなんだ言って王都にさえ出てこなかった。だから、あのおっさんは暮らしてこれたわけだが、こないだの王宮夜会でようやく出てきていた」

 ジョルジュの言葉にアリアは頷いた。確かに声もかけられていないうえに、踊ってもいないものの、あの夜会にはマクシミリアンも来ていた。そして、

「それはデビュタントのバルティア家の坊ちゃん以上に綺麗な(・・・)おねーちゃんたちの話題を掻っ攫っていきやがったんだよ。だから、あちらこちらで嫌というほど坊ちゃんの復帰説を聞いた奴は、フェティダの坊ちゃんに自分の立場を脅かされたとでも思ったんだろうな」

 彼は吐き捨てるように言った。アリアはジョルジュのその発言で納得した。

「まあ、そちらはそのうち情報が上がってくんだろ。だから、フェティダ公爵について俺らは今のところ、静観する」

 ジョルジュは二人に対してそう言った。ポールも異論はなくすぐさま彼の言葉に頷き、アリアとしては少し心残りがあったものの、マクシミリアンなら何とかなる、という思いで頷いた。


「で、問題なのはグロサリアとセリチアの開戦だろうな」


 ポールもジョルジュも、昔は軍務だったが、強面の奴らに囲まれたくないからという理由で、法務に移り、その後秘書になった男たちだった。そのため、一応文官ではあるものの、仮想敵国を作り、机上における作戦などを暇つぶし(・・・・・)に立てて遊ぶという物騒なことや、周辺諸国の動向をかなりの精度で読むことができるコンビであった。なので、国内における一貴族の捕縛の話よりも、戦の方に関心が移っていった。

 しかし、アリアもまた、残念ながらここでなす術がないことを知っているので、頭を切り替えていた。話が変わったのをきっかけに、3人が通常、業務に使っているデスクに周辺諸国の地図を広げた。ジョルジュとポールは次々とチェスの駒を地図上に並べていった。

「ああ、なんといってもグロサリアは水攻めが多い。今までも小国1つ滅ぼすのに、グロサリアの海軍はとんでもなくえげつないことをやってのけている」

「その通りだな。セリチアはゴルンゴの下流に位置する。だから、商船のために閘門(こうもん)を設置していたとは思うが、彼らが思っている量よりも多くの水を、そして想定外の時間に堰を一気に解放したんだろう」

 ジョルジュとポールはその地図と彼らが知っているグロサリアの情報で、『開戦した』場所を推定していった。

「しかし、ここで王都まで攻め入るはずだが、未だに王都に到達したという報告は上がっていない」

「おかしいね」

 ポールとジョルジュはアリアに視線を向けた。アリアはすぐに自分の答えが求められていることに気づいた。

「――――おそらくは周辺諸国の怒りを買わないため、もしくは『白い土蜘蛛(シュヴァルケ)』の反撃にあわないためでしょうか」

 アリアは少し考えたのちに、そう言った。『白い土蜘蛛』とは、ゴルンゴ川河口から数十キロ、セリチア近海にいる海賊(・・)集団だ。しかし、彼らは海賊と名乗りはしているものの、基本的には海賊行為はしない。しかし、どこから情報を得るのやら、悪徳商人やらお縄から逃げ出してきた貴族などは徹底的につぶし、該当国へ送還してくれるという義賊のような集団だ。もちろんタダではなく、その見返りとして食料などを提供されているらしい。そのことから、『国境なき海軍』とも呼ばれていたりする。その海賊(・・)が自らの生活を脅かすかもしれない勢力には、組みしない気がした。それを二人に言うと、

「50点ですね」

「30点だ」

 予想外のダメ出しを食らったが、点数があるだけでもましな気がしたアリアだった。

「まあ、『白い土蜘蛛』を想像したのは正しいと思いますが、彼らはそれらも利用する気だと思いますよ」

「ああ。あの連中と『土蜘蛛』を合わせたら、本っ当にやばい奴になることが目に見えている。今の奴らなら、この世界を征服が理想だ~って言われても驚きゃしねぇ」

 ポールとジョルジュがそれぞれ修正を入れた。

「それで半分だ」

 ジョルジュは再びアリアの目をじっと見た。彼の目に抗いたかったものの、それを彼は視線だけを使って、許してくれなかった。

「―――――――」

 必死に地図を思い浮かべた。


「まさか―――」

 隣国をゴルンゴ川が横切るのを思い浮かべた時、まさか、と思った。

「スルグラン、そして、リーゼベルツに攻め込むための下準備をしている、でしょうか」


 アリアの導き出した答えに、ジョルジュは目を細めた。

「その通りだ」

アリア『昨年までのメルヘンさどこに行った。マジ頭使い過ぎで、頭痛い』



100話記念SSは、14才編《開戦ノ章》終了後に掲載します。

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