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蒼のAGAIN  作者: 「S」
第一章 終焉からの幕開け
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第一章4  『イレギュラー』

またもやいろいろありましたが、何とかなりました!

遅れましたが、引き続きよろしくお願いします。

 ――クロが考えていた、繋がるもの。



 それはクロによってこの『〝蒼の神殿〟』が脅かされたということ。

 クロの膨大な後悔の数によって、『RMI』を壊してしまったことが原因だろう。


 それは、かすかに聞こえた。

 気絶する寸前、確かに聞いた三つの音。


 後悔の数が異常にも上昇し続け、パラメーターが割れた、ガラスのような音。

 エラー発生により鳴る、危険信号のサイレン。



 ――そして、



 アオの『たち』に含まれる、『〝蒼の神殿〟』の人たちが騒めく声を。



      ※



 ――そして、今に至る。



「えっと、とりあえずすみませんでした……」


「え、なんで急に謝るんですか?」



 ベッドの上で胡坐をかきながら申し訳なさそうに頭を下げる少年――『クロ』。



 その急さに驚きをあらわにしている、黒髪にスカーレット色の瞳を持つ少女――『アオ』。


 後悔を手に死を迎えた少年は、突然の謝りに驚かれていた。


「いや、アオが言った俺の原因についてわかったからさ。とりあえず『謝っておかねば!』と思いまして……」


「それは別にいいですけど……」


 急な展開だったので、アオは『どうしようか』という間が空く。

 少しの笑みを浮かべると、どうしようもない子を見るかの如く口にする。


「……もう、仕方ないですね……クロは」


 アオの放たれる言葉に、クロは「あはは……」と頭を掻くと置き去りにされた少女に目をやる。


「すまないな、いきなり会話から外してしまって」


 クロの視線の先にいる少女。



 長い白銀の髪を垂らした、半透明で水晶のように白い瞳に天使のような容姿を持つ少女――『シルバー』。

 


 シルバーは、平然とその会話を聞いていた。


「かまいません。いつもの事ですから」


「いつもの事なんだ……」


 そんなとっさの返しに驚きつつ、話を進める。


「それで、その……俺に何のご用でしょうか……?」


 恐る恐る聞くクロに、シルバーの顔つきは相変わらず鋭さを感じさせる。

 その顔からかすかに笑みが零れる。


「そんなに怯えなくても、何もしませんよ」


 クロはため込んでいた緊張と恐怖を吐き出すかのように安堵のため息をする。


「……まぁ、用がないことはありませんがね」


 その笑みに恐怖を感じるクロ。


 冷静に考えれば、用が無いわけがない。


「それで、その用件とは?」


 クロは、少しは思い当たる節があるも聞いてみる。


「あなたはこの『〝蒼の神殿〟』において、イレギュラーな存在です。あんなにもの後悔をお持ちなのですから」


 度々言われるクロの後悔の量の異常さ。

 確かにクロは、たくさんの後悔をした。


 だがしかし、クロは果たして異常だろうか。

 クロ以上に不幸者で、クロ以上に後悔をした者はいるはずだ。

 そんな者たちよりも、クロの後悔はましだと言えよう。


 別に、クロの後悔が軽はずみのものだと言っているわけではない。むしろ重い方だと言えよう。


 でも、何故クロがイレギュラーなのか、それがクロにはわからなかった。


 それを予知しての事か、シルバーはその答えを口にする。


「あなたの後悔の量には事例があります。あなたと同じでたくさんの不幸の方も過去にいました」



 ――何だ、いるのか。まぁ、いて当然なんだが……ここまで聞くとさらに意味がわからん……。



 クロの考えを読んでか、まだ続きがあるという目でシルバーに見られ、


「ですが皆、あなたと同じ数であってもそれはここに来る前の話で、生前でいくつかは解消していました。なのに、あなたは生前で解消をしておらず、さらに言えば、ここに来る前と来てからで数がその倍と化しています。そして、全て重い……。呆れてものが言えません」



 ――グサッ!



 ――また言われた……。



 またも言われるその言葉に、心を痛めるクロだった。


「その方々には、支えてくれた人たちがいたそうです。あなたにはそんな人たちがいなかったんですか?」


「……」


 その質問にクロは黙るしかなかった。


 いなかったと言えばいないし、いると言えばいたのだろう。


 いや、正直クロにはそんなのどうでもよかったのだ。

 信じられるのは自分だけで、助けてくれる人なんていなかった。

 救いの手があっても、クロはそれを払い除けたのだ。


 誰が悪かったのかと言えば、誰も悪くなんかない。

 クロが悪かったわけでも、環境が悪かったわけでも、運が悪かったわけでも、日頃の行いが悪かったわけでもない。


 そう、悪いものなんてなかった。

 恨むものがあれば、それを教えほしい。そう思うばかりだった。


 なのに、何故クロがこんなに後悔をしているのか。それは誰にもわからない。

 わからないから、クロは考えなかった。そう、クロにはわからなかった。


 他の誰かが考えたなら、わかったかもしれない。

 誰かに相談して、支えになってもらえたなら楽になれただろうに……。


 考えなかったわけじゃない、しなかったわけじゃない、むしろしてダメだった。

 理解してもらえる人なんていなかった。望もうとも思わなかった。

 だから、クロには誰もいなかった。


「……」


「そうですか、いませんか」


 黙るクロに対しても、率直なきつい意見を述べるシルバー。


 目を瞑る。風が吹く。

 カーテンがなびき、辺りは陽で照らされて明るくなる。


 このとき、初めて窓が開いていたことに気づいた。


 そして、死んだはずの世界にも太陽があるということにも。


 そんなことを考えるクロに、シルバーは笑顔で両手を合わせる。


「かわいそうに……。なら、私があなたの支えとなりましょう」


 突然、何を言われたかわからなくなる。


 クロの支えになる。確かに彼女はそう言った。


 だが、その言葉には続きがあった。


 シルバーは顎に指をあて、上を向いて考える。


「私はあなたの……そう、ですね……」


 考えがまとまったのか、『よし!』と決めたことを口にする。


「私があなたの姉として、あなたの支えとなりましょう」


 突然に放たれた言葉に、唖然とする。


「私が姉として、あなたを……いえ、クロを支えてあげます」


 クロを呼ぶその声と共に、シルバーは愛おしい弟を見るかのような目で見つめる。


「どんなにつらい時も、どんなに苦しい時も、どんな困難にぶつかろうとも、私があなたの姉として、クロを、いついかなる時も支え、愛することを誓いましょう」


 その言葉はまるで、結婚式で新郎新婦に放たれる言葉に似ていた。

 そんな状況をクロは少しばかり理解できないでいる。


 当たり前だ。急にこんなことを言われれば『どうして』という感情が込み上げる。

 それ以前に、おかしいと思うのが普通。いや、クロがほとんど理解しているのが異常なのだろうか。


 いろいろな感情で、戸惑い、汗を垂らす。考えれば考えるほど、頭が混乱する。

 こういうときの正しい判断をクロは知っている。


 それは、感情だ。


 そんなもの、とっくに捨てたはずのクロに、それを必要とする場面がくるとは思ってもみなかった。

 感情はクロが後悔をしていく中で、捨てたものだ。完全に捨てたわけではない。全てを捨てれば、それはもう人ではなくなるからだ。


 感情は邪魔だった。クロが生きていくうえで、感情は邪魔の何ものでもなかった。

 感情があれば、人は強くもなるし、弱くもなる。逆に、なくても強くはなれる。弱くなる者もいるだろう。


 だが、クロはならなかった。慣れていたのだ。


 クロは、強くはない。かと言って、弱くもない。

 強いと言われれば、そう振る舞っているだけ。弱いと言えば、そうなのだろう。


 クロはどっちでもある。捨てても、それは変わらなかった。

 今はそんな、あっても邪魔なだけの存在が必要だった。


 感情は、時にその人の全てを現す。率直に思ったそれが本心だ。


 その本心に今、クロは頼ろうとしていた。


「俺は……」


 言葉が途切れる。まだ出し切れていない。

 感情を捨てたせいなのか、それとも動揺のせいなのか、はっきりと答えが出ない。


 迷いながら、探す答えを導こうとするクロ。

 そんなクロにシルバーは声を掛ける。


「私がクロを支えます」


 クロの脳内で今までの後悔が流れる。


 たくさんの後悔をした。

 たくさんのものを失った。

 そんなクロを彼女は支えると言う。


「俺は……」


 まだ答えが出ない。

 下を向き、苦しそうな顔をするクロに、また声を掛ける。


「私がクロを愛します」


 クロは目を瞑り、唇を噛む。

 その姿はまさに、苦しみに耐えている者だった。



 ――何故だろう……。



 不意に聞こえたのは、自分の声だった。

 心の奥底でやっと見つけた、自分自身の失くしたものだった。


 どうして、自分がこんなにも苦しいのか。


 それは、今までにたくさんのものを失ってきたからだ。

 失いすぎて、もう感じることのできなかったもの。



 ――人の優しさ。



 それは嬉しいものなのに、今のクロには、痛くて、苦しくて、でも、嫌いじゃない。失い続けたクロが、ずっとほしかったもの。それを彼女はくれると言う。


 そんなクロにはまだ、振り切れない迷いがある。

 その背中を押すように、天使はクロに言葉を送る。


「私がずっと傍にいます」


 全てを許されたかのように、クロは涙する。


貴方クロはもう、一人じゃない」


 もう、それ以上の言葉はいらなかった。


 その言葉だけで、十分だった。



      ※



 涙を拭い、落ち着いたクロはふと、ある言葉を漏らす。


「……レイ」


「……?」


 とっさに出た言葉に、頭を傾げるシルバー。


 その言葉の意味を教えてほしそうな顔だった。


「いや、好きに『呼べ』って言ったからさ。だから、『レイ』って名前はどうかなって思ったんだけど……」


「……」


「ダメ、かな……?」


 クロがとっさに思い付いた名前に、考え込むシルバー。


 嫌がっているわけではない。それは、見ればわかる。



 何故なら、彼女の顔は――満面の笑みだった。



「レイ……。いい名前ですね。気に入りました」


「そうか……よかった」


 『ふふ』っと、笑みを溢す『レイ』。


 だが、そんな笑みから変化が現れる。



「ですが、姉を呼び捨てにしてはいけませんよ。――『レイ姉ちゃん』と呼んでください」



「え……」


 笑みは変わらないのに、怪しげなオーラを放つレイ。


 さすがにそれは恥ずかしいため、回避しようとクロは言い訳を口にする。


「いや、レイと俺はそんなに年の差ないと思うけど……」


「いえ、『レイ』さんは、私たちよりも1個上ですよ」



 レイの部分を強調すしながら言うは、クロの傍に座っていいた――アオ。



 アオは腕組みをしてこちらを見る姿には、会話から除外されていたことへの不満気な怒りが込められていた。


 クロは『本当なの?』という表情でレイを見る。


 レイは笑みを浮かべながら黙って頷く。



 ――マジですか……。



 そんなことを秘かに思いながら、クロは口元が緩む。


「レイ」


「……?」


 呼ばれて、疑問符を浮かべるレイ。


 レイの目先には、クロの右手が差し出されていた。


 クロの顔をもう一度見るレイ。


 そこに映るクロの顔は二重の意味で眩しかった。

 そして、レイも手を差し出し、握る。


「これからよろしく、レイ」


 レイは少し怒り気味に困った顔をする。

 クロはその原因について気づき、訂正する。


「これからよろしく……レイ、姉ちゃん……」


「はい。よろしく、クロ」


 恥ずかしながら呼び合う二人。


 一人の少女を取り残し、決意する彼らには、まだ、肝心の事に気づいていなかった。



 彼等はまだ、問題を解決していなかった――。



 ――問題の途中に待つ幸せに浸る彼らに、この先何が待っているのか――


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