第一章3 『数えきれないものと』
えー、これからどんどん出していこうと思うのでよろしくお願いします!
(どんだけお願いすんだろ……。)
「ここは……」
クロが目を覚ますと、そこは大きなベッドの上だった。
洋風の豪邸のような空間が広がり、高そうな家具などもチラホラある。
床は藍色で、『〝蒼の神殿〟』だということを理解する。
だがそれとは別に、床に大きく円の中に星のマークが描かれた魔法陣のようなものに目を惹かれる。
意識が朦朧とする中、頭を押さえながら辺りを見渡す。
「クロ……」
それは聞き覚えのある声だった。
声のする方へ目をやると、そこには黒色の髪にスカーレットの瞳を持つ少女――『アオ』がいた。
アオはベッドのすぐ横に座っていて、心配そうにクロを見ていた。
「アオ……俺はいったい……」
頭を押さえるクロ。
「まだ無理はしないでください」
「……」
――真剣な眼差し……相当心配をかけたみたいだな……。
それに――、
「まったく……」
呆れたような顔をするアオ。
そのことに、クロは頬を掻きながら恐る恐る尋ねる。
「あー、アオ……?もしかして、怒ってる……?」
「……別に。怒ってないと言ったら嘘になります」
額にしわを寄せながら答えるアオ。クロは冷や汗が頬を伝う。
――やべぇ……相当怒ってる……。
「なぁ、アオ。何にそんな怒っているのか知らないが、その原因も話さずにいきなり苛立つのはどうかと思うぞ……?」
正論を口にするクロ。
アオに睨みつけられ、ビクッとしてしまう。
「……そうですね。しいて言うなら、クロの存在価値ですかね」
「まさかの俺の存在価値が原因だった!?」
さっきまでとは打って変わった出方で、ドストレートな言い分にクロは少し落ち込む。
そんなクロの姿にアオは噴き出し、笑い泣きで出た涙を指で拭う。
「そんなに本気で落ち込まなくても、冗談ですから――――半分」
「え、何?半分?」
「んー?何のことですかー?」
「いえ、何でもないです……」
――これマジのやつだ……。
目を逸らしつつも、話を本題に戻す。
「それで?冗談なら本当の原因は?」
「全てが冗談というわけではないんですけど……」
言いづらそうになるアオ。
クロは「言ってみろ」という素振りをするのだが、
――ていうか、やっぱ冗談じゃなかった……。
アオの反応に少しばかり心を痛めるクロだった。
「ふむ。まずは心に手を当てて、今までの事を振り返ってください」
またもやアオのセリフに冗談と思いつつ、クロはさっきまでの出来事を回想する。
「確か、アオと共に『RMIルーム』に行って……」
クロは全部思い出す。
『RMI』がエラーになり、『RMIルーム』がそれによりいろいろと異常になったこと。
クロの後悔の数も、異常さを持っていたこと。
――そして、
「それから先が思い出せない……」
「ふふふ、クロの頭はとても都合のいいように出来ていますね……」
「ぇ……?」
視線の先にいるアオ。
アオの顔は笑っているのに、放たれるオーラは怒りをあらわにしていた。
その姿に、クロは顔から血の気が引いて焦ると、アオが勘違いしていることに気づき、誤解を解いた。
「……もう、ちゃんと思い出したならそう言ってくださいよ」
「いや、俺がそう言おうとしたのに早とちりしたのはアオの方だろ?」
クロの言葉にムッとするアオ。
その顔も、やっぱり可愛いらしい。
「でだ。思い出したのはいいけど、俺にはアオがなんで俺に対して怒りをあらわにしているか全く持って心当たりがないんだが……」
率直な意見を口にするクロ。
少し意地悪がしすぎたため、怒りの原因を述べようとするのだが、アオはクロを見ながら思った。
――こう考えてくると、私って面倒くさい子だなぁ……。
「私って面倒くさい子だなぁ……」
アオは心の中でそう思うも口に出してしまう。
「……?どしたの、急に」
「な、なんでもないです」
「そっか」
クロはアオが急に黙って何か呟くので、少し心配になるも、大丈夫そうなので安堵する。
アオはアオで、自分の面倒臭さにため息をする。
そして、ようやく本題に入る。
「私が怒った原因は、クロの後悔の数です」
「……へ?」
堂々と胸を張って自信気に言うアオにクロは理解が追い付かない。
何故ならクロの後悔の数で、アオが不機嫌になる要素が見当たらないから。
機械が壊れたのは、確かにクロの後悔の数が異常なせい。
それでアオに迷惑をかけたなら謝ろう。
だが、アオはそんな事では怒らないはずだ。
いや、怒るにしてもそこまで怒ることがわからない。
会って間もないのに何故そんなことが言えるのか。
それはアオが、人の感情を共有できるほどの優しさを持っているから。
だから、もっと別の理由があるはずだ。
「クロの後悔の数は異常です。それは断言できます」
「ああ」
それはわかると頷くクロ。
問題はその先にある。
「私が怒っている要因は二つ。まず一つ。クロの後悔の数が多いことはわかっていましたが、あれほどとは思いませんでした。呆れてものが言えません」
――グサッ!
クロの心に、見えない槍が突き刺さる。
「二つ、数えようとして二重の意味で数えきれないまま。本来の目的を果たすどころか、悪化させた上にさらに困難にしたこと」
――グサッ!グサッ!
クロの心に、さらに見えない槍が降る。
――もうやめて!俺のライフはとっくにゼロよ!
「……クロはどうするおつもりですか?」
アオの声は低く、鋭さを感じさせる。
そのためクロは、自分が置かれている状況について解く。
アオが言うには、一つは後悔の数のこと。
後悔が多ければ多いほどその状況を打破するための解決法が要求される。
しかも、後悔を解決するための方法なんぞ、どれが一番正しいのか誰にもわからない難題。
さらに言うならば、クロの後悔は通常の倍、難易度も高く、数も多い。
まさに絶望的な状況。
これに加え、もう一つあるのだから、クロの場合は通常の何倍もの困難さを用いられる。
二つ目の問題は二つある。
一つは、二重の意味で数えきれないこと。
これは、後悔をした数を数えようとして、あまりの多さにエラーの発生。
さらにその異常さに数も上限を突破するほどの数ということ。
これが一つの意味。
もう一つの意味は、その突破によってパラメーターを上限突破によりぶっ壊し、直さないと測れないということ。
つまり、本来の目的であった後悔の数を測れないということだ。
アオの言いたいのは、失敗に失敗を重ね状況を悪化させたことを指すのだろう。
そして、もう一つ。
アオはこの状況を悪化させたことにもう一つあることを言っている。
いや、正確には伝えてないが、もう一つ示すものがある。
――それは、
「――インディゴ、どうやらお目覚めになられたみたいですね」
その声は、扉の向こうからだった。
扉が開き、そこに現れたのは、白銀の長い髪に白い服を着た少女。
半透明で、水晶のように白い瞳を持ったその少女は、まるで天使のような容姿。
見た目はアオと同じくらいで、声もどちらかと言えば子供に近いのに、口調は大人びていた。
そんな少女の登場にクロは冷や汗を垂らす。
クロは確かめる。
彼女の登場により生まれた疑問の数々を。
彼女が、さっきアオが言った『たち』に含まれる人物だということ。
彼女が呼んだ『インディゴ』というのは、アオに向けられたもので、アオには名前があったということ。
彼女は自分が目覚めるのを待っていたこと。
それらは、クロが導き出した答えにも繋がるということ。
「初めまして、シルバーと申します。どうぞ好きにお呼びください」
彼女の登場により確信する。
クロは、歓迎されていないことを。
自分はイレギュラーな存在だということを。
クロの『AGAIN』は困難が増すばかりで、難航だということを。
――そして、
何よりも、彼女の視線は冷たいものだということを――。
――新たなる出会い。新たなる疑問。
山のように積み重なる数えきれないもの――
その先にあるものとは