第二章21 『Episode of Memory.The Renewal.1』
すみせまん……。気づけば一か月という時が過ぎ去ろうとしていました……。そして、この『蒼のAGAIN――regret編』も後10話もあるかわからない状況です……。とまぁ、いろいろありましたが、まだまだこのストーリーは続きます!予想では第7シリーズほどまで。なので気を取り直して行きましょう!
「――なぁ、クロ……」
「――……何だ?」
夢の中という幻覚でありながら、記憶の全てを映し出すここで――『真蒼黒竜』は3度目の光景を目にしていた。
「あいつが……リナがよ、病気だったってこと……知ってたか?」
「…………」
「知ってたのか……」
「……ああ」
何度も同じ光景を、息苦しくも見せられ続け、嫌になってくる。だがそれよりも、これ以上に嫌なことが現実の狭間で起きているのだから、大したことはない。
そしてそのためにも、今の行いに投げやりになってはいけない。全てを取り戻すためには、誠心誠意をもって全身全霊を捧げるように、自分の全てを賭ける。
それくらいしか、俺にはもう何もないから。
「はぁ~……。知ってたのかよ……。ならなんで言わない?」
「そのくらい、わかるだろう?」
「……」
キスケが言っているのは、『世恋恋奈』がいなくなったことについて。そしてそれは、何となくでもわかっていることでもあった。
リナが俺だけに病のことを言ったのはたぶん、好きだからという単純な理由ではない。周りに知られて心配されること。それがただ嫌だったのだ。
――そして、
この世界で、俺が選択してきたのは『無』からは離れた薄情に頼った単純明快な未練がましい言動を取ること。
あやふやで中途半端なガキのやること。何が正しくて、何が確実なもとへと導いてくれて辿り着けるのか。それを知らない青二才だった。まぁ、誰にもわかるはずはないのだが。
――それでも、
準えるように辿っていく記憶の中の自分にたいして、何も思わなかった。ただ、隣にいるキスケとの会話がとてもリアルで、どんどん深くなっているような気がした。
「……ったくよう。それでも、教えてくれてもいいじゃねぇかよ……」
不貞腐れているその言い分に、少し微笑ましくなる。人が一人死んで、いなくなって、その世界を見ている中での言動は酷いものなのに。
「これから、どうなるんだろうな……」
「……どうも」
「どうしてそんなことが言える?」
「この出来事で俺たちの仲が割れたなら、リナが悲しみ自分を責める」
「…………」
「リナが望んでいるのは『今まで通り』でいることだ。良くも悪くもな」
そう。今まで通り。それは『みんな仲良く』という下、リナの欠けた3人で笑顔で居続ける事。たぶん、それを望んでいるのだと思う。たとえ、その逆であったとしても、そうすることが一番であり、そうでありたいと今の自分でも思う。
――それがどういうことなのか、自分が身をもってわかっているはずなのに。
「……何だよそれ。ま、いいけどさ」
「……?」
不貞腐れながらも、納得するキスケ。そのことに少しばかり引っかかる。
「……言っとくが、リナが悲しむのもあるが、同情でいてやるわけじゃない。これは俺が決めたことだからな」
「何が言いたい?」
新手のツンデレのようなその仲間意識に少し、違和感がある。だからなのか、その言葉を照れ臭そうに口にしてくる。その口で、ハッキリと……。
「俺たちは、ずっと一緒だってことだ」
「…………」
「そんで、リナの分まで生きるんだ。たくさん笑って、『心配ない』って上にいるリナに届くほどに……」
その言葉に、口元を緩めてしまう。来てよかったと、そう思わされるほどに。
――だって、
「……なんか草いな」
「いいだろ別に……」
――こいつは、
「……それでも、いい案だ」
「だろ?」
「ああ」
――そういう奴だったのだから。
「だからよ。そろそろ行こうぜ?ちゃんとお別れ言いによ」
「……わかった」
忘れていた。自分のことばかりで、もう昔のことで。朧気に覚えているつもりだった。でも、改めて思い知らされた。
立ち上がり、リナのもとへと一歩、また一歩と、踏み締めて行く。
――決別するんだ。もう、わかっていることじゃないか。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
それから、リナへお別れを告げると、今でもはっきりと覚えているはずの線香の鼻孔を燻ぶらせる香りは、瞼を開くと共に、消えた――。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
再び、新たな記憶を巡って探るように、何もない無のような朧気な空間で、一つの淡い記憶を掴み取ると、のめり込むように目に飛び込んでくる。
目から脳へと、血管という配線を通って記憶を遡るような、そんな奇妙なデジタル的感覚だった。
そんな『時』を遡っていくと共に、世界もまた新たな光で包まれる。
眩しくはない、とても暖かな安らぎだった――。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「…………」
意識が安定した時、すぐさま気づいた。ここ最近、つい先日にもあった出来事。その証拠に、周りにはいつもの3人だけが取り残されていたから。
「――……」
ガラッという、椅子が床を引きずる音と共に、一人の少年は立ち上がり、また一人は逃げるように足早に教室を去っていく足音が聞こえる。
出て行った少年は、眺めている窓越しに見えた。同じくして近づいてくる――『間木野斗条』にも、その反射によって気づいた。
「クロ」
「何だ?」
「…………」
「……?」
小さな沈黙。わかっている。斗条の言いたいこと。その握り締められた拳を見れば。この先の展開も。はっきりと覚えている。
だから俺はなぞるだけで、後のことはあいつに任せよう。
「クロ」
「…………」
「『リナ』のこと、どう思っている?」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「何やってんだ、俺は……?」
教室を逃げるようにして、出て行ったキスケ。ちゃんとお別れを告げて、いつも通りでいればいいものを、許さない自分がいる。
いや、自分だけじゃない。それを証拠に、この関係が乱れている。さっきも斗条が立ち上がった。クロはいつも通りだが。
よくよく考えてみれば、昔に戻ったみたいだ。クロに絡んだのは俺から。斗条とは自然と気が合って、どうやって絡んだのか覚えていない。リナに関しては、クロが助けたのがきっかけだったはず。
――そういえば、昔もこんなことがあったっけな。
何かのきっかけでクロとリナが喧嘩、いや、リナが一方的に怒っていた記憶がある。原因としてはクロが悪いのは間違いないのだが。
思い返せば、クロは他人を平気で捨てることのできる、一人を望んだ奴だった。酷いと言えば酷い。けど、何でも一人でそつなくこなす姿に誰もが惹かれ、引き付けられた。
そうやって、自然と一緒にいるようになって、やっとの思いで口を開いてくれるとこまでたどり着いた。当初は大変だった。名前を読んだりして声を掛けても、目も口も当たり前の如く向けず、反応も一切ないのだから。ほんと、耳栓でもしているんじゃないかっていうほどに。それを本人に確かめた時には、俺のことだったのかみたいな顔で、聞こえているふりをしていた、らしい。
それで、仲良くなって……そうそう、ある日突然リナが怒り出したことだったな。
あん時は、ほんと焦った。リナがいなくなったんだ。家に帰ってないって電話があって、俺と斗条と兄貴で総出で探しに行った。クロにも連絡したけど、出なくていらついてたんだけど、その理由は後からわかった。
2時間くらい探して、子供が出歩くには危ない時間帯で、途中お巡りさんに見つからないように曲がり角の電柱で隠れたことを覚えている。
それで、見つからなくて、報告をしようと待ち合わせをしていた集合場所へ向かうとき、見覚えのある後ろ姿を見つけたんだ。
それはコンビニ袋を持ったクロだった。いろいろ大変だったことを奴当たるようにぶつけようと思ったけど、それよりもクロの姿に驚いた。
その時は調度、電灯の明かりのおかげかくっきりとついた、いくつもの擦り傷や頭や身体に乗った葉っぱ、服はちょいちょい破けてて、いかにも山に行ってた感が凄かった。
圧倒されながらも、リナがいなくなったことを思い出して伝えたら、動揺一つ浮かべずに「あいつなら問題ない」って、心配というより信用をしている口ぶりで言うんだ。
それで、クロと別れて集合場所に行ったらみんながいた。そこにはいなくなってたリナも見つかってて、母親が迎えに来て、一段落してるとこだった。
何がどうなっているのか、出遅れていた俺は聞いたら、リナは裏山の一つである神社にいたらしい。それで、猫が現れて、追いかけていると迷子になったようだった。
そしてそこを、何しに来たのやら偶然か予想していたのか、クロが見つけてくれて、途中までここへ連れてきてくれたらしい。おまけに仲直りも済んでいるという。
平気で人を見捨てる性格は知っていたけど、親しい奴は心の底から助けるほど優しい奴なんだってことに、この時気づいたんだ。
――そして、もう一つ。
リナのクロの見る目が変わっていたことにも。否が応でもバレバレで、このことは気づきたくなかった。
――それで、俺は、
中立な立場で傍観する逃げという応援に徹した。それが意外と苦じゃなかった。その程度の想いってわけじゃないけど、みんなでいるときは不思議と楽しかったんだ。
――そんで、今。
長いようで短い回想を終えて、教室の扉近くで立ち尽くしているキスケ。戻ろうと足を教室へと向けた時だった。
「『リナ』のこと、どう思っている?」
それは斗条の声だった。自分に言ってきたかのようなその質問に、心臓は大きな脈を一つ。頬からは冷や汗のようなものが伝っていた。
たとえ、それが自分に対してのものじゃなくとも、その質問をクロにしている時点で、どの道、気になることに変わりはなかった。
ひっそりと耳を澄ます。そこにあったのは小さな沈黙。ただ、求めていた答えはすぐそこだった。
「…………わからん」
「は?」
――は?
今なんて言ったのかわからなくなる。それよりも、斗条と同じ気持ちで、茫然と立ち尽くしていた。気を取り戻し、もう一度耳を澄ます。
「リナは確かに大事な奴だった。その好意にも気づいていて、気づかないふりをしていた」
「ああ」
クロがリナの好意に気づいていた。そのことに半分理解している自分と、半分驚いている自分がいる。というか、あの2人がグルだったことに少しムカついた。
そして、どこかで安心している自分がいる。やっぱり、クロはクロだ、というように。
「それで、リナはずっと一緒にいた中の一人だ。だから、いなくなったことにまだ実感がない」
「……」
「それでいて、昔に戻った気分でもある。……皆、忘れていっている。俺もあーなるんじゃないかって思っても来てる」
「だから、わからないと?」
「……ああ」
――何だよ、それ。
クロが言いたいのは、リナはずっと一緒にいた大事な奴だったけど、周りが忘れていっていて、そんな大事な奴がいないことに実感は無いけど、自分も周りと同じように忘れるんじゃないか。そう思ってるってことで、結局――、
「ははっ」
――そういうことかよ。
「なら、仕方ねぇな。リナ……」
空を仰ぎ、微笑を浮かべながらに、鬼は彼等のもとへ舞い戻る――。
「何やってんだよ」
「キスケ……」
「…………」
驚いてる、驚いてる。冷や冷やしてんだろうなぁ。ざまぁ見やがれ。
「ふんっ……!」
「おわっ」
「……っ」
登場と途端に2人の首を肩を組むようにして絞め技を決めるキスケ。その奇想天外な行動に驚きつつも2人には何故だか安堵のようなものが浮かべられていた。
「こんにゃろぉ。俺に黙って語り合ってんじゃねぇよ。俺だけ仲間外れかよっ」
「いや、お前が勝手に消えたんだろ……っ」
「…………」
「ふふっ」
「何笑ってんだ?」
「……」
「いや、たぶんリナもこんな光景を望んでんじゃねぇかって思ってな」
「…………いや、俺が考えている予想図とは明らかにずれているって痛い痛い痛いっ!」
「……ぅ」
耳元で囁くように、2人の考えを正す。自分の意見がどこまで通用するかわからない。けれど、2人なら耳を傾け、納得してくれるだろうという変な自信がキスケにはあった。
「リナは俺たちにとって、大事な奴だ。それは変わらねぇ。周りがどう思っていようが関係ねぇよ。俺たちは俺たちだ」
「けど……おぉおおぉおおおっ!ギブギブっ!」
「……っ」
「けどじゃねぇっ。黙って今までいろ。俺たちは変わらずこうして肩組んでりゃいいんだよっ」
「お前のは殺戮的過ぎてマジ窒息死すっからぁあっ!言葉と行動じゃ威力と意味合いが明らかに違いすぎんだろぉおっ!」
「……ふふ」
「なぁに笑ってんだてめぇ!こちとら絶賛死にかけ中じゃぼけぇっ!あきらかに笑える状況ちゃうやろがぁ!」
「ははっ」
「お前まで……っ」
ただ斗条にも、わからなくもなかった。
「…………久しぶりだな。こういうの」
「そうだな」
「……俺は気に食わんうえに腑に落ちん」
地味にも嬉しそうなクロ。こういう雰囲気が懐かしく、辛気臭さには飽き飽きしていたころだった。それはキスケも同じ。だが、斗条だけは急な状況なだけに機嫌が悪かった。
「機嫌直せって」
「だったらまず、この手をどうにかしろっ。暑苦しい」
「ええ~」
「『ええ~』じゃないわっ。殺されかけたわ」
「ま、いいけど」
スッと腕をどけると、一人首をさすりながら斗条は真剣な眼差しで話を戻す。
「それで、今まで通りにするってぇ?」
「ああ」
「何故そうなる?」
「え?面白いからだけど?」
「ノリ軽っ。しかもなんか理由ムカつくしそのドヤ顔やめろ」
「冗談だよ」
「その当たり前だろ的な顔もやめろ。腹立ってくる……」
「ヘいヘい……」
「…………」
「…………」
頭を掻くと、少しの静寂が流れ空気が冷たくなるのを感じる。ハーと息を大きく吐き、顔を上げて、不足説明をする。
「……さっきも言った通り、俺たちは今まで通りでいる。これは決定事項だ。何故ならリナは、俺たちが仲の良いままであってほしいと望んでいるからだ」
「それは……」
「…………」
「わかってる。リナのことを気にしてんだろ?リナは俺たちが仲良くしていることを望んでいると言ったが、それをすると、周りのみんな同様、リナの死を気にしていないかのような同類になってしまう……」
「だから……」
「……」
何か言いたげな斗条。その心中は察する。だからこそ、そのモヤッとした感情をどうにかするべく、キスケははっきりと口にする。
「俺たちは、リナのことを忘れたりはしない」
「……っ」
「……」
その言葉は、とても強く、2人の心に刺さった。当たり前のこと。ただわかってはいても、納得はできなかった。どっちつかずで迷って。だからはっきりと告げられることで晴れるような感覚があった。
「周りが何だ。俺たちは俺たちだ。ちゃんとわかってるさ。リナはもういない。でも、俺たちには引きづって生きる選択肢なんてない。だからって、忘れていいとも限らない。この関係も、自然消滅なんてことがあったらリナが一番悲しむ」
「……」
「……」
「なら、方法は一つだろ?」
「…………」
「…………」
キスケの言葉に、どんどんと引き込まれていき、斗条は顔を俯かせクロは口元を緩める。
通じたという安心。伝えたという満足感。わかってもらえたことであろうことへの嬉しさ。
自然と3人の目線は交わり、誰もが笑みを浮かべていた。そして、これからの道しるべをここに立てる。
「答えは簡単だ。リナとの思い出をこの胸ん中しまって、忘れないように心と脳裏に焼き付け刻み込め。そんで、俺たちは俺たちのまま、あの世で顔向けできるように誇らしくのうのうと生きてりゃいいんだよ」
「……っ」
「……ふふ」
「それから、死んだときにゃぁ、生きてた頃の思い出をいーっぱい聞かせてやんだ」
「あぁ……っ」
「……おう」
「どうだ?いい案だろ」
「あぁ……」
「ああ」
ニヒッと笑顔を浮かべるキスケ。
似合わない涙を流す斗条。
相変わらずのようで困りながらにも微笑するクロ。
不安定にも辛うじで繋がれていた3人の絆。切れることがなかったのは、その糸を細くしてしまった少女がいて、誰よりも思っていた者がいたからこそ守ることができた。
――そう、
これが、一つの過去であり、物語。
――ただ、
守られたものは、愚かにも容易く引きちぎられた――。
――少年は笑みを浮かべ、思い出という記憶の中で
大事なものと、愚かさを、再確認した――




