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蒼のAGAIN  作者: 「S」
第二章 2桁の『災悪』と絶望の病
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第二章17 『泣いた赤鬼』

書いたのですが、予定時刻より遅くなってしまいました。この三倍は速いスピードで書いて行きたいのですが、現実というのは厳しいものですね。

 ――時刻は正午。現在から数時間前の時。



「……」


 午前の授業が終わってお昼になり、教室には一人、また一人と後にするものが絶えない。


 それは、この学校には給食制度がなく、教室で一緒に食べるということもなく、学校内の敷地であれば、どこでもいいということだからだ。


 中のいいものは即座にグループで別れ、よりよい場所へと席取合戦が繰り広げられる。


 だが、彼らには関係が無かった。


 この教室に不自然にも取り残された三人。


 自分を含めた彼らは意外と陰で知られた有名人だった。

 そのことに、敏感な自分は気づいているが、他の二人はどうなのかはわからない。


 気づいているのか、気にしていないのか。


 そしてそんな三人は、動くのが面倒臭いという理由で、教室で昼食をとるため、あまり外の戦いとは無関係なのだ。


 それに彼らとは別に、他の生徒も教室で食べる者だっているのだから。

 ただ、教室に人がいなくなっていくのには、少しばかりの違和感があった。


 残るのは僅か少数。


 一人になる奴なんていないし、この中には昔からの知り合いしかいないため、孤立することはないのだが、あきらかに人が少ない。


 みんな外が好きなのか。それとも自分たちを恐れてなのか。まぁこれは、自分の憶測なのだが……。



 ぶっちゃけ、今ここにいる――『鬼塚亮助』にはもう、関係のない事なのだが。



 いや、今の二人にも大した関係はないし、どうでもいいことだ。

 そんなどうでもいいことを考えていたわけではない。

 ただ、時が停まったように、彼女の姿が脳裏を過ぎる。

 


『キスケ』


『キースケっ!』


『キスケ?』


 

 名前を呼ぶ彼女の姿が、幸か不幸か頭の中から離れない。



 彼女はもう、いないというのに――。



 わかっている。早くこの関係を戻して、また仲良く三人でバカをやった日常へ戻りたい。そう願うばかり。



 ――だが、



 一つだけ、気がかりがある。



 ――それは、



 当の本人へと視線を送る。

 彼は相変わらず、窓を眺めている。もうお昼だというのに。



『なぁキスケ。もしもリナの死が、俺のせいだと言ったら、どうする』


『なら、リナを救えるとしたら、お前はどうする』



 蘇る光景。


 言動は虚言ではなく、目は本気で、そんなものはどこにもなかった。

 なら、あれが偽りではないのだとしたら、なんなのだろうか。

 そういうおかしくも不思議な疑問が頭の中を駆け巡る。


 そんな疑念に浸っていると、三人取り残され、静かだった教室にガラッと椅子の引く音が響き渡る。



 それは、最前列の席にいる――『間木野斗条』が立ち上がった音だった。



「……」


 それはとても突然で、何をしでかそうとしているのかが、静かに握りしめている拳を見ればよくわかる。


 そのことにしかめっ面になりながら、何故だか自分も立ち上がるのだが、足は逃げるように教室を出ていく。


「何やってんだ、俺は……?」


 自分でも不思議に思う。仲良くなるチャンスなのに、友が心配をして、不安を抱え、屈指の覚悟で立ち上がってくれたのに。


 そう思うと、足が止まった。

 あいつが、あの彼が、立ち上がった。



 なら、俺も――。



 そんな不思議にも変な力に誘導されるように、小走りで教室へと引き返す。



 ――その時だった。



「『リナ』のこと、どう思っている?」


 不意で強引にも持ち出された話題。

 それは自分に言っているのではないかと思わせるほど、とても心に刺さるものだった。


 でも、違う。



 この質問の矛先は、三人のグループであり、リーダーである――『真蒼黒竜』だ。



 そんなことにふと気づく自分は、教室に入る手前で足を止めていた。

 入ることもできず、気まずい中、盗み聞きするように佇む。

 自然と耳も、教室に取り残されたその二人の会話へと向けられていた。


「……どうも……。というか、知るかよ。もういない奴のことなんて」


「……っ!」


 驚いた。

 クロは何を言っているのだろうと、確かめるように噴き出した手汗を握り締める。

 だが、それと同時に、とてつもない苛立ちに見舞われる。



 ――だから、



 確かめるために、聞き出すために、その苛立ちを押さえながらも彼のもとへ足を動かす。


「おい。それ、どういうことだよ」


「……っ!」


 ただの疑問だった。


 だが彼らには、聞かれてはまずいことだったのだろうが、焦りを浮かべているのはただ一人。

 もう一人はいつも通り、平然としていた。


「キスケ……っ」


 ゆっくり振り返りながら驚きと焦りを充満させるほどの、冷静さを無くした斗条がそこにいた。

 そのことに、いつもの自分なら内心、思うものがあるだろう。



 ――何やってんだよ。らしくねぇぜ?そんな取り乱しちまってよ。いつもの冷静なお前はどこにいった。



 そう思って、その言葉通り彼に告げていただろう。


 だが今は、彼に目線を向ける余裕もなく、踏みしめる度に苛立ちが怒りへと変換され、血が騒ぐようにむき出しになる。


「おい!どういうことだよ!あぁ!?」


 血のせいなのか、それとも溜め込んでいた鬱憤なのか。

 それが爆発するように、許せないというように、クロへとぶつけていた。



 ――『鬼』。



 そう昔はよく呼ばれていた。

『怒り』というものに近づけば近づくほど血が騒ぐ。


 抑えようにも止められず、運命なのか宿命なのか、逆に貪欲な渦にのみ込まれるように誘導される。それは抗えないものだった。


 それが、内心怒ってほしくないと叫ぶ自分が半分。苛立ちに逆らえず身を任せる自分が半分。そうやって、彼へとぶつかっている。


 胸倉を掴み、窓へと勢いよく叩き付ける。

 それでも、彼の表情は変わらず、気に食わないとでも言うように、自分の怒りはエスカレートする。


「テメェ今なんつった!?もう一遍言ってみろよ!!」


 わかっていた。


 彼は不思議にも、空気を操る存在で、自分をこうして怒りの絶頂へと誘導している。

 それを血は、喜ぶように沸騰していく。


 そんな怯む姿の無い彼は、それの止めを刺すかのように最後の言葉を挙げる。


「何度でも言ってやる。『もういない奴のことなんて知らない』と」


「……っ!テメェッ!!」


「……っ!」


 その途端に、握り締めていた拳は、この時のためかというように彼の頬を抉る。

 そのことに、幸福感が絶望感が、心の中を満たしていく。


 複雑にも混ざり合い、生まれたのは、背徳感という恐怖だった。

 倒れていく彼の姿を見てそれを実感した。


 もう終わりだと、傍にいてはいけないと。

 そう叫ぶ自分がいた。


 そして、「わかっている」とでも言うような、彼の眼光は消えることが無く、甘えるように屈してしまった。


 震える拳を隠しながら、逃げるように立ち去る。



 ――すまない、リナ……。



 許しを請うような彼女への謝罪。今はもう届かぬ、その思い。


 彼女が今ここにいたらどうなっていただろう。

 きっと、笑顔を振り撒くように止めて、陰で涙を流す。



 こんなことを望んでいたんじゃないというように――。



 廊下をどんどん足早に過ぎていき、曲がり角まであと少しという中間地点でふと、ポケットからの振動音。


 立ち止まり、手を突っ込む。


 いろんな意味で複雑なこんな瞬間に、誰だろうと携帯をとってみれば、それは非通知で、何となく予想がついていた。


 気まずさの混じったこの思い空気感。


 周りに誰もいないことを確認すると、外面が赤、キーが黒というハイカラのようなガラケーを取り出す。


 耳に当て、「もしもし」と疑い気味に声を発すると、そこには案の定の声があった。


『よう、キスケ』



 そう。それは10歳にして、どこぞのマスターを目指すように家を後に急にも旅立った――『天道俊』からだった。



「兄貴……」


 生憎の陽気でクール交じりの不良染みた久しぶりのあいさつに、懐かしさと変な置手紙だけを残していったことへの怒りが混ざり合う。


 今の心境もあってか今日の複雑さは度を超えるほどのものだった。


『いろいろ言いたいこともあるだろうが、まぁ聞け』


「……」


『何だ?やけにおとなしいな。いつもならツッコミやらをぶつけてくる場面だろうに』


『大人になったのか?』といつも通りの自分を取り戻させようとしてくるその口調。


 今までの自分なら、ツッコミとか入れていたのだろうが、現状、さっきまで操られるように誘導された自分にとって、それはもう効果の薄いものだった。


「……で、何のようなんだよ」


 ぶっきら棒なその口ぶり。

 なんたって今は一人にしてほしい気分なのだから仕方がない。

 そして、「用が無いなら切るぞ」そう言おうと思った。


 だが、用が無いのに電話するはずもないなと思い、言葉にするのを迷うと、俊はわかった口ぶりでそのわけを当てる。


『お前、クロとなんかあっただろ?』


「……なんでだよ」


 何でも見通したような口調。


 そりゃあ、わかりやすいだろうが、この変な間からも何かあったのかは明白で、図星であることは確かだ。


 だが、どうして周りにはこんな奴ばかりなのだと大きなため息もしてしまう。


 ほんと、飽き飽きする。


『ふん、まぁいいか。ま、とりあえず心残りが無いようにしとけよ』


「はぁ?」


 呆れ声だった。


 言葉の意味がわからない。

 どうしてそうなるのだろうかと。


 でも、その答えは早くもすぐにわかる。



 ――何故なら、



『招集がかかった』


「……」


 あまり驚きはしなかった。いつか来るとわかっていたから。

 だから、誰とも関わろうとは思わなかった。

 けれどそれは昔の話で、今はもう違う。


 似たような考えを持つ奴がいて、でもそいつはそれを貫いていて、こっちはそいつのせいでかき乱されてばかり。


 ただ、そろそろだとも思っていたし、調度いいとも感じている。もう、終わりだと薄々気づいていたし、距離を置ける。これほど都合のいいことはなかった。


 だって、もう心残りは特にない。ここにいたって、気不味さしかない。


『彼女』がいなくなって、崩壊し、自分の心のピースが欠けたみたいに感じて、ここにいたらこの思いをずっと引きずることになってしまうから。

 まぁ、それでも、彼女のことを忘れるような薄情な奴になる気も、毛頭ないのだが。


 だが、彼女がこの世にいなくなった時点で、もうどうでもいい。

 彼女が自分の全てだったのだから。


「……用は終わりか?」


『何だよ、冷てぇな』


 呆れのため息声が電話越しに聞こえ、少しイラっとする。


 ただ、ちょっぴりだけ悪くないと思った。

 久しぶりに和みのある会話で、この重い現状と少しだけ張りつめていた思いが解れたのだから。


 そして、「用はまだある」と言葉を繋がれ、静かに耳を済ませれば、それは先のものと同等の内容だった。


『招集と共に、告げられたんだが……』


「なんだよ?」


 少しの間を置かれ、「早く言えよ」と内心思いながら口にしようとすると、はっきりとした覚悟の含まれた声で遮られる。


『……例の二つ病、覚えているか?』


「……ああ、それがどうした?」


 とても真剣身のある口調で、キスケとしてもそれはとても重要な話題なため、聞き漏らさないように耳を澄ます。


 またも深い間があった。


 短くも長いその間。


 息を吞むとはこういうことなのかと少し顔が強張る。

 深呼吸が携帯越しにかすかに聞こえ、俊は口にする。


『その二つが、〝真蒼黒竜”だと発覚した』


「……はぁ?」


 驚きだった。だがそれは焦りへと変わり、自然と後ろの教室へと振り返る。

 冷や汗が頬を伝い、終わったはずの関係が無理やりにも運命や宿命だと言わんばかりに繋がれる。

 悲しくも冷たい、現実だった。


『……それだけだ』


 落ち込み気味の声と共に、プツンと通話は終了する。

 いつもなら、それに苛立つのだが、今ではもう、その気力すら失われていた。


 そっと、携帯を耳から離し、抜けるように腕が垂れ下がる。

 上を向き、目の前に広がる陰に満ちた廊下は、現状を現す誘いのようなものだった。

 左手を握り締めれば、先の震えがまた現れる。


 それは恐れが混じった震えだった。


「……クソッ、納まれよ!……っ!……あいつ、なのか……?……あいつだったのか……?どうして、あいつなんだよ……!……なんでだよ……っ」


 悲しみに悶える叫び。別れ、崩れたはずの関係。


 なのに身体も心も感情と現状に比例するように当たり前の行動をとっていた。

 その悲しみやどうしようもなさを振り切るために、走りだす。


『廊下は走ってはいけません』という、マジックで書かれた張り紙があるが、気にせず通り過ぎる。

 もがいて、足搔いて、この感情を、現状を、どうにかしたいと叫ぶように、振り切るように駆け出す。


 滑って、転んで、冷たくも誰もいない『影』という暗闇に、満ちた廊下に這いつくばる。

 ゆっくりと身体を起こせば、膝には力が入らず、四つん這いになる。


 目には何も映らず、見えるのは歪み滲んだ床のみ。

 ポタポタと大きな粒が、床へと落ちていく。


「あぁ……っ!」


 声にならない叫び。それが悶えるように吐き出される。

 自分の無力さ。何もわかってないことへの怒り。このどうしようもなさ。

 その全てに腹が立った。


「俺はぁっ……俺はぁ……っ!」


 枯れるほどの歪んだ声。

 八つ当たりなのか、床に怒りをぶつけるように強く拳をぶつける。



 何度も、何度も――。



「クソが……」


 最後はもう、諦めるような捨て台詞。

 やっと膝に力が入れば、立つ気力が無かった。


 体を起こし、手にはもう力などはいらず、ついたり消えたりする電球が眩しく感じる。

 涙も納まるように、最後の一滴が頬を伝う。

 顎を通って、首へと向かうかと思いきや、床へと静かに落ちる。


 その音が自分には、とてもうるさく感じた。



 そんな暗闇に落ちた雫は、波紋を呼ぶほど美しいものだった――。



 ――『鬼』は、悲しくも残酷な現実に涙する――

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