第二章12 『果ての心地』
遅れ遅れで本当申し訳ありません。やる気はあるのですが、その保持が不安定で、僕自身困ってます。ただ、週1というのが確定ではありそうで、どんどん書いていきたいとは思います。
「何やってんだよ、こんなところで」
聞き覚えのある声。予想通りの展開。
いや、本当は知っていたのかもしれない。
こうなることが――。
「キスケ」
彼の名前は『キスケ』こと――『鬼塚亮助』。
今は彼女の葬式に行っているはず。
だが、彼は行っていない。
おそらく、ここにいる『クロ』こと――『真蒼黒竜』と同じ理由だろう。
けれどクロは、わかっておきながらあえて口にせず、わかっておきながら口にする。
「何やってんだよ、こんなところで」
「それさっき俺が言ったことじゃねぇかよ……って、お互い様か……」
察しながらに、クロの横に腰を掛けるキスケ。
風が吹き、少しの静寂が流れる中、彼は不貞腐れながらもクロに尋ねる。
「……なぁクロ……。あいつが……リナがよ、病気だってこと……知ってたか……?」
「……」
「……知ってたのか……」
何も言えないようで、何も言わないクロの態度はいつも通り。
察して、一人落ち込み気味な態度は、辛気臭さを感じる。
そんなキスケはクロに、また新たな質問を投げかける。
「なぁ、クロ……。どうしてリナは、俺たちには何にも、教えてくんなかったんだろうな……」
「……知るかよ、そんなこと」
本当はわかっていた。わかっている、気がした。
ただ口にはしない。彼女が言わなかったのだ。
なら、自分の憶測など、言うだけ野暮だ。
それに、キスケの言葉に対して、クロはこうも思った。
『知るかよ、もういないやつのことなんて……。死んだ人間の言葉なんて……』
事実、彼女はもういない――。
『世恋恋奈』は、もう、いない――。
話足りないのか、キスケは、クロに言葉を掛け続ける。
果てしなく、長々と――。
「何でだろうな……。今まで見てきた景色が、同じものでも、違って見える。こんなにも明るい青空が、くすんだ墨色みてぇに濁って見える。……ほんとどうしてだろうな」
ここから見る景色。
何度も見ているくせに、彼は初めて見るかのように感想を口にする。
そんなキスケに対し、クロは内心『知っているくせに、言うなよな』と思いながら、今度は彼に尋ねる。
「……なぁキスケ。もしリナの死が、俺のせいだと言ったら、どうする?」
「……はぁ……?」
動揺する心情。
そんなキスケの声はどうしようもないほど、取り乱したものだった。
だが自然とキスケは、気を取り直し、困り気味にも平然を装う。
「……何言ってんだよ。原因は『病』だ。どっちもの意味でもあるが、お前のせいなんかじゃねぇよ。たとえそうだったとしても……」
「なら、リナを救えるとしたら、お前はどうする……?」
「……」
遮るように言葉を掛けるクロに、キスケは「頭どうかしちまったのか?」というように苦笑を浮かべる。
「不毛だ」というような時間を過ごす中、クロは言葉の証明を正すことにする。
立ち上がり、葬式会場へ向かおうと決意する二人。
だがクロは、ビルの中央で立ち止まり、出口までたどり着いているキスケを置いて、後方へと勢いよく駆け出す。
勢いよく踏切、手には力を入れ、足はジャンプした勢いで胸元まで跳ね曲がる。
後ろにいるキスケの叫び声がかすかに聞こえ、遠のく中、クロは一矢報いるように歯を食いしばる。
――俺の予想が正しければ……っ!
風と勢いに身を委ね、笑みを溢しながら――、
少年は落下する――。
途中、暖かな感触に包まれたことに気づきながら――。
※
目を覚ますとそこは、見覚えのある懐かしき場所だった。
身体は重く、今にも疲れで眠りに落ちてしまいそうだったが、暖かな感触がそれを許そうとはしなかった。
――何故なら、
「何やってるんですか、クロ!」
彼女がいるから。
落下する途中でその勢いが失われ、僅かに残った落下の勢いは、彼女の身体へと吸い付くように授けられた。
仰向けに、彼女の膝へと頭は向けられ、腕は自然と彼女の腰へ。
ただ彼女も、自然とそれを受け入れるようにそれぞれの手がクロの頭と背中にあり、優しく撫でるように怒りをぶつけてくる。
どうしようもない焦りや不安、そして、悲しみと共に――。
「そうか……戻れたんだな、俺……」
彼女の声に、必死で答えるように、クロは抗う。
ただただ、この状態が心地よくて、ずっと感じておきたくて――。
「無茶しすぎですよ!あれで、戻ってこれなかった場合、クロは……っ!」
「ごめんな、心配かけて……」
「全くです、ほんと……」
怒るのをやめるかのように彼女の声は静かに、嬉しき悲しみと、優しき安堵へと導かれる。
そんな彼女――『アオ』にクロは微笑ましく、嬉しく、小さなお願いをする。
「なぁ、アオ……」
「何ですか、クロ……?」
彼女の声は優しく、クロの心と体を包み込む。
とても心地いい安らぎと共に――。
「もう少しだけ、このままで……いさせてくれないか……」
「……」
「何だか……とてつもなく……疲れた……」
クロの言葉に、アオは微笑みながら、少し涙ぐもった声で返答する。
「仕方ないですね……。ちょっとだけですよ……?」
抗いをやめ、身体を睡魔へと委ねるクロは、瞼をゆっくりと閉じる。
彼女の暖かい温もりを、少しでも浸っていたいと思いながら――。
クロの意識は遠のく――。
遥か彼方、どこかへと――。
※
――夢を見た。
見たことのある、優しく、それでいて居心地のいい、覚めてほしくない、ずっとここにいたい、そんな類の。
記憶のどこかにしまって、封じ込めようとしたものの、忘れることはできず、鮮明に覚えている光景。
思い出すたび、息苦しさと悲しみが自分を覆いつくす。
現れるのは、いつも『彼女』だ。忘れようとした時、必ず出てくる。
『私が一番よ』と、まるで洗脳のように縛り付けてくる。
その一瞬の言葉が、鮮明に頭の中を駆け巡る。
『私は――を知っている……。私は――を覚えている……。私は――を忘れない……。……だって、私は……――のことが、大好きだから……』
この言葉を聞かされた時、いつも思う。
彼女との思い出は、自分の心をかき乱し、ずっとそこに浸っていたいと思わせる。
その思わせぶりの行動が、多大の勘違いを生ませると思わないのだろうか。
大事に思えば思うほど、呪いのように固く重い鎖となってのしかかる。
期待なんてしていない。
勘違いも、信頼も、思い過ごしも。
ずっと違うと思い続け、わかっている。
けど、心は正直だよな……。
――だからこそ思う。
心が、感情が。自分の行動を、鈍らせ縛り付けるものならば、逆に支配してやろうと。
もしくは、捨ててやろうと……。
俺には必要ない。無ければいい。全部全部、不要だ。
そう思い続け、できたのが俺だ。
人でありながら、人であることを捨て、人であることを嫌う。
やらなければならないことがたくさんあるのに、こんな時にも『彼女』はその存在を忘れさせてくれない。
どうしてこんなにも、苦しまなければならないのだろうか。
――ほんと、嫌になる……。
意識が浮上し、光が周りを包み込む中、クロはゆっくりと夢の世界を後にする。
※
目を覚ませば、どこか知っている、懐かしくも久しい場所だった。
それもそのはず。クロはずっと過去に行っていたのだから。
ただ、乗り越えることも、塗り替えることもできず、そこを後にしてきた。
――そう、
おめおめと逃げ帰ってきたのだ。
できると思ったのは、自分でもらしくない過剰っぷり。
墓穴を掘り、何もできず、ただ茫然と描いた日々。
変わらぬ日常は、運命すらも変えられずじまい。
そんなクロが逃げ帰ってきたのは、何故かしらの安らぎと微笑ましさをくれる『蒼の神殿』。
目が覚めると大抵ベッドの上だというのはおかしなものだが、今回も起き上がった所に膨らみがあることに無言になる。まぁ、無言なのはいつものことだが……。
ポンッと膨らみに手を乗せると、スッとしぼんでいく。
温もりは確かにあるのに姿形がない事に安堵と騒めきが入交る。
疲れもまだあり、もう少し寝ていたいと、身体を倒す。
布団に埋もれ、天井ではなく、横を向くよう右に寝返りを打つ。
――その時だった。
「……」
小さな寝息と、可愛らしい寝顔が目の前に、数10センチもないほど至近距離にあった。
そしてそんな少女は、そっと口元を緩め、ゆっくりと目を開く。
「起きましたか、クロ?」
「ああ」
「ふふふ。元気そうでよかったです……」
「今も元気をもらってるとこ」
「……?」
伝わらなかったのか、その純粋さにまた惚れ惚れとする。
ただ、そんな中でも夢に出る『彼女』は頭を過ぎる。
「なぁ、アオ」
「何ですか、クロ?」
起き上がり、深刻そうにするクロにつれ、アオも起き上がる。
縮こまって語る後ろ姿にアオは寂しさを感じる。
そんな後姿をさらすクロは、一本の道筋を確定させる。
「『AGAIN』って、飛ばすことできるか?」
問われるは、完全たる逃げ道だった――。
――少年は選ぶ、逃げ道という後戻りで停滞を――




