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蒼のAGAIN  作者: 「S」
第二章 2桁の『災悪』と絶望の病
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第二章8  『欺・所為ナル夜明け』

あっさりとした、言葉だけの甘酸っぱい物語はもう終わり。ここからがこの作品の、この主人公の悲劇の始まり。今まで言葉だけで飾ってきたが、それはもうここまで。口だけの絶望は、もう終わった。

「……」


 見慣れた星空。


 デート終わりのこの冷めた心を静めてくれるのは、懐かしき天空に舞う星々と、自分の心を映したように濁った、真っ黒な夜空だった。


「なに物思いにふけってんだよ」



 そんな彼――『真蒼黒竜』に問いかける少年――『鬼塚亮助』。通称『キスケ』。



 どうして彼等が一緒にいるかというと、他二名である少年少女と共によって企まれていた、『お泊り会』が急にも予定されていたからだった。


 場所はここ、クロの終わりであり始まりの地である、裏山入口付近・商店街通り兼交差点十字路に建てられた13階建てビル。


 人通りの少ないここは当時、彼等彼女等によって秘密基地として愛用されていた。


「キスケ……」


 ベランダからこちらへと近寄ってくるキスケに振り向くクロ。


「起きていたのか」というように向けた視線の先に二人ほど、眠りに落ちているようで、その内の一人が盗み聞きをしているような奴を見つける。


 だが、それとは構わず、クロは視線をキスケへと戻す。

 二人して、夜に星のように輝く人口の(ほし)を眺める。


 負けず劣らず光を放つ町々は綺麗だった。


 眺めながらに、一息つき、彼等は言葉を交わす。


「なぁ、クロ……。どうしてフッたんだ」


「……俺は、リナを傷つけたくない」


「……もう傷つけてんだろ。現に今だって、仲を壊したくなくて、それでいて、諦めたくなくて、取り繕ってんだぜ?めげないように。……強い女の子だ、リナは」


「そうだな」


 落ち込み気味で開き直り気味のキスケに、クロは共感しながら答える。


「なら、なんでフッたんだよ」


「……それは、お前が一番わかっていることだろ」


 ぶっきら棒なクロに対し、キスケは真剣な表情を見せる。


「……本気で言ってんのか」


「ああ」


 本気を本気で返すと、キスケは呆れ気味に答える。


「……ったくよぅ。同情なんかいらねぇぜ?」


「別に、そんなもんでもないさ」


 意味深な笑みを浮かべるクロ。


 内心自己解決している問題。

 目を閉じ微笑する姿は怪しさを覚える。


 そんなクロに、キスケは「降参だ」と言わんばかりの反応を示す。


「なら、なんだよ」


「さぁな……」


「はぁ?」


 冷静で、吹っ切れているようなクロに、疑問符を浮かべるキスケ。

 一人わかった気でいるクロに、キスケは絶えず頭を傾げる。


 そんなキスケを気にしてか、クロは正直な気持ちを吐き出すことにする。


「……言えることがあるとすれば、俺はもう、恋をしないということだ」


「……何だよそれ」


「わけがわからない」というようなキスケ。


 そのためにクロは淡々と口にしていく。


「別に好きな人がいるからとかでフッたんじゃない。確かにリナはいいと思う。好きか嫌いかで言えば好き。素直にリナの気持ちは嬉しいし、その行為に応えてあげてもよかったんだ……」


 キスケは「ならなんで……」と言いそうになる口を押えながら、クロの言葉を区切らないように黙る。


「でも、リナにふさわしいのは俺なんかじゃない……。俺じゃダメなんだよ……。俺じゃぁリナを不幸にしても、幸せにすることなんかできない」


 悲し気で、今にも泣きそうなクロ。


 こんなにも苦しみにもがいている姿は初めて見る。


 その姿をキスケは直視して、黙然とする。



 クロのその心からの叫びは、空寝している――『間木野斗条』にも聞こえていた。



 元々盗み聞きしていたわけなのだが、クロの本心に何故か表情が沈んでいく。

 ただ、そのまま聞いていようと思うばかりだった。


 そんな斗条を置いて、二人の会話は続く。


「だからフッたのか?」


「……」


 少し、いら立ち気味のキスケは、呆れ気味に大きなため息をする。


「バカじゃねぇのか、お前はよう……。ったく、俺の周りはバカばっかかっての」


 その言葉に斗条は微笑しながら、「お前が言うか?」と心の内、秘かにツッコミを入れる。


 そんなことは知らずして、キスケは言いたいことを文句のように口にしていく。


「俺らまだ10才だろっ。どうしてそんな大人びた考えばっかなんだよ、てめぇらは。老い先短いような言葉ばっか並べてんじゃねぇよっての」


「……」


「大体よう、幸せにするだとか、不幸にするだとか、そんな大人びた台詞聞いてんじゃねぇんだよ。確かに10歳ってのは一度きりだ。だがな、それでも、てめぇらは勘違いのしすぎだ」


 キスケの垂れこぼしていく酔っぱらいのような口ぶりに、斗条は秘かながら「そりゃそうだ」と共感しつつ、笑いが止まらなかった。


「いいか、幸不幸なんぞ、そんなもんは誰にもわからんし、考えるだけ無駄だ。どんなに大事にしているもんでも、いつかは崩れ去る。それを恐れてちゃなんもできねぇし、んなもん本末転倒だ」


 キスケの言葉に、無言のクロに対し、斗条だけはまたも「そりゃそうだ」と面白がっていた。


「俺はお前のことを良く知っているとまでは言わん。幼馴染だがな。でもなぁ、6歳の頃から一緒にいるんだ。その4年間で少しはわかることがある……」

 

 どこか真剣な眼差しで、思い返す姿は、真剣だった。


 斗条も微笑と共に思い返す。


「今のお前は思いつめすぎだ。たかがとは言わん。お前のことだ。それほどのことなんだろう。それはわかる。だがな、それは自業自得というもんだ。なんせお前は心を開こうとしないし、そういう素振りを見せない。だから俺たちも、何故だか、大人の対応で聞こうとはしなかったし、支えようとも思わなかった」


「……」



「だが、今は違う。そんだけ、もがき足搔いて、どうにもならないのなら、俺たちを頼れ。俺らにできる事なんぞたかが知れてる。でも――」



 キスケは空を見上げ、晴れ晴れとした顔で、語り掛ける。



 斗条も同じような笑みを浮かべながら――。



「支え合えば、軽くなる」


「……」


 キスケの言葉に黙るばかりのクロ。


 何も言いようが無く、ただ、キスケの言葉に勇気づけられているのは確かだった。


 遠回しなその口ぶり。脱線している会話。


 そこに微笑しながらいつもの自分を取り戻す。


 そこにキスケも斗条、もわかったかのように意味深な笑みを浮かべる。


「余計なお世話だ」



 ――俺は、一人で十分だ。



「そうかい」


 ため息気味にいつもの呆れ顔を見せる。


 まったく、何度呆れられればいいのだろう。


 内心そう思いながらクロは、笑みを浮かべる。


 二人の気持ちは今昇りつつある太陽のように明るく、照らされる。


 時間帯的におかしなその太陽。

 時計が示すは12時だったはずなのに、時は進んで朝の4、5時ときた。


 心は落ち着いている。

 でも、今の現状に少し驚きを隠せない。


 ただ、わかったような気でクロは歪みゆく空の下、キスケに向かい合う。


「キスケ」


「……?」


「リナを頼んだぞ」


「……」


 笑みを浮かべながら、この『時』での終わりを告げる。


 世界は白く、それでいて、金色の光に包まれる。


 終わりゆく『時』の世界で、クロはふと呟く。


「粋な計らいしやがって……」


 この世界にはいない誰かへと投げかけた言葉。



 とてもあっさりとした、終わったようでまだ序章のこの『AGAIN』は、まだ、終わってなどいなかった――。



      ※



 リナへの返事。


 そう、俺はあの時、この告白に対しての返事をすることができなかった。


 間が悪かったとでも言えばいいのか。

 幼いころの俺が愚かだったと言えばいいのか。


 どちらにしろ、答えることができなかった。


 いや、してはいるが、それが本当に届いているのかはわからない。



 何故なら、リナは――、



 俺のせいで、いなくなってしまったのだから……。



      ※



 ああ、あれは、いつだっただろうか……。


 大事な事なのに、忘れてはいけないことなのに、知らず知らずのうちに封印したあの日、あの頃。


 光に満ちた『時』の狭間で思い出す、朧気な記憶。


 『不治の病』に遭って、気を付けながら生きていたはずが、気づいた時にはもう遅かった。


 知らなかった、わからなかった。そんな言葉でかたずけられるほど甘いものではない。


 あれは、小学生の頃。俺は負の感情に囚われていた。それはいつものことだった。


 ほとんど『無』で、偽りの仮面をかぶり続け、皆の思い描く自分を演じ続け、ばれることなどなかった。


 そんな俺には、好きのもの、嫌いなもの、それぞれたくさんあり、結局はプラマイゼロで、何もない。


 そんな状況で、そのうちの一つである、俺の本性を一部ほど、偽りながらあらわにした時があった。


 その時の俺はそれにより、叩き壊し、失ったものが家族だった。


 俺は、家族が大嫌いだった。


 雑な母親、ひねくれもので独善的な父。


 優しさはあった。幸せのようなものもあった。

 ただそれを感じることは無く、それよりも、父が荒れることが年に何回もあった。


 それが始まりなのだろうか。


 何も感じず、面倒臭がり屋で、諦め癖の自分に、耐えがたい負の感情がこみ上げてきたのは。


 それは納まることを知らず、抑えることはできても、無くなることはなかった。


 父は、荒れる自分を止めることができず、そうなったときは止めてくれと言っていた。

 酒飲みで、やめることができず、荒れた時には母に手を上げる始末。

 手を挙げないと決意しておきながら、止められない自分を悔やむことがあった。



 ――だが、



 その約束をしておきながら、お得意の自分には都合の悪いことは忘れる。


 それにより、父は約束を破る。母に、手を出したのだ。


 酔った時の父は酔ってないと言い、そんなこと言ってないだとか、お前のせいだとか、そんな言葉を並べる。


 事実、母のせいであることはある。

 だが、招いていないものや勝手に父が勘違いしたものだってある。


 そういううまくいかないことや気に食わないこと、それを酒と共にぶつける。


 母もドジを踏むことはよくあった。

 そこでそう答えれば、地雷を踏むというのは、短い付き合いの俺でさえわかるのに、母は躊躇わず、言いたいことをはっきりと口にする。

 それにより、どうなるかなんてわかっているだろうに。


 傷つく母を見て、俺は父にその場の解決策として、秘かに鍛えつつある自分の力を振るったんだ。


 怒り狂う父は反撃をしてくる。この頃の俺は小二だっただろうか。

 幼くして、大人である父の拳を全て回避。握り締めた拳を、脇腹、腹、顎、背中、首。いろいろな部位へとかました。


 子供とは思えない一撃一撃を容赦なく当てると、父は信じられないような顔で倒れる。それを母は泣きながら叫んでいた。


 少しの時間が経ち、母は、冷静さを取り戻すと、俺の肩に両手を置き、「大丈夫だからね」と声をかけてくる。


 それから、救急車を呼び、父の死亡が確認される。

 救急車に運ばれる間は息があったようだが、病院に着いた時にはもう遅かったようだった。


 その時、父を殴った個所には、見たことの無いような黒々とした紫色の大きなあざができていたそうだ。


 そしてそれは、俺がやったというようには捉えられず、触れられもせず、俺の生活に対しての影響は何一つ無いまま、父の死は謎のまま変死として扱われた。


 それからというもの、母は病にかかり、手から腕、肩から首、胸から腹、徐々に足へと広がる紫色の黒々とした父の時と同じようなあざが現れ、衰弱していき、寝たきりとなる生活となった。


 やがて、死を向かへ、俺は独り身となった。


 途中、母の両親である、祖父母に引き取られそうになるが、持病により一週間もたたずして死亡。


 父の両親である祖父母は、父を勘当してからもう亡くなっており、親せきなども存在せず、俺はある意味一人暮らしと化した。


 その状況は不思議にも表ざたにはなっておらず、俺はいつも通り生活している。



 ――どうしてか。



 それは元々、空くことの多い家で家事全般はできていたし、金も、いろいろあって、世の中で言う『一生遊んで暮らせる』というほどあり、苦労など特になかった。


 こう言っては何だが、正直こっちの方が幸せだった。


 親はいない、金はある、俺の取り巻く社会はいつも通り、何事もなかったように回っている。


 縛る者のない世界というのは、本当に自由そのものだった。


 独り身で寂しさや苦労、そんなものを感じる者がいるが、俺に対してはどうってことはないものだった。


 いつも一人で独りなのだと、実感していたから。


 そんな生活が2年ほど流れ、凡人と孤高の間を司る俺は、この『AGAIN』のような生活をしていた。



 ――だが、



 悲劇は終わりではなかった。


 俺の周りは崩壊していく。



 家族を失った俺に次に襲うは――――友人だった。



 ――そう、



 次に遭う悲劇、襲われる友人、それは、その内の一人である、



 ――リナだった。



 家族を失った?――――いや違う。

 友達を襲った悲劇?――――違う。



 ――殺したんだよ、俺が。



 家族の黒々とした痣。あれはやけどに似ていたらしい。

 それは両親に見つかり、祖父母にも小さくも目立たずあった。

 またそれも謎のまま。


 ここまで考えれば誰でもわかる。


 この亡くなっていった人たち全て、俺に触れ、燃えるような黒々としたあざで死を迎えた。


 つまりは、俺が殺したと言える。



 ――そして、



 世界が広がる。


『AGAIN』の続きが開始されるのだ。


 晴れていく光の中、立ち尽くすクロは光の向こうへと足を運ぶ。



 トンネルのように続く光の中、頭に浮かぶ少女――『リナ』。



 そんな彼女に、先の想いがじんわりと出てくる。


 共通の痣。失われていくもの。その内の一人であるリナ。


 リナにも同じ痣があったことを俺は知っている。


 リナの両親から見舞いに来てほしいと病院に足を運んだ時、リナに思いを告げられた。その時に知った。

 そしてその時、俺はリナに言われるがまま手を強く握った。


 痣は大きく広がり、明るく、点滅するように光ったかのように見えれば、リナの症状は悪化。

 病院は騒がしくなり、両親は絶えず、涙を溢す。


 ないはずの感情とは裏腹に、俺は涙を流す。知らない現状に少し戸惑う。


 頬を伝う涙をふき取る頃には、もう、リナは息を引き取っていた。


 手を放す瞬間に交わした言葉。


 光が身体を包み込み、視界がままならない中、その会話が脳裏を過ぎる。


『クロ、私はずっと……クロのことが……』


『あぁ……』


 マスクに籠る声。


 弱弱しく、切れる息の中、響く声はちゃんとクロに届いていた。


 悲しみを感じながら、出ない声を無理やりに出す。


『好き……でした……』


『あぁ……っ!』


 ちゃんと聞けた。

 それに対して、精一杯の声で答える。


『やっと……言えた……』


『俺も……リナが……』


 安堵の笑みを溢すリナに、クロも、それに応える。


 だが、それとは先に、リナの言葉が重なる。


『……今まで……ぁりがとぅ……』


 弱弱しい声は、小さく、途切れながらも、ちゃんと告げる。


『……好きだよ……』


 クロもまた、ちゃんと伝えようと言葉をかける。


 言い終えた瞬間、握っていた手から、力がなくなる。


 リナの表情は苦しそうで、笑顔だった。


 そこから先、鳴り響く病院の騒がしい音や声でかき消され、そこで記憶は途絶える。



 光の出口。


 満ち終わる光の中でクロは、脳裏に過ぎった記憶に対し、思う。



 ――そう、リナは、



 ――俺が、殺したんだ……。



 ――始まる悲劇。語られる過去。主人公が背負う絶望は、

  失いと悲しみで染められた、誰も知らぬ負のものだった――

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