第二章6 『Incurable Courtesy』
とても長い期間が空き続けていますが、問題ありません。これからそれを埋めていくつもりです。
今週中にはその埋め合わせてして、後2話ほど載せたいと思います。
ここに書いたからには確実に守りますんで、よろしくお願いします。
「……どういうことだ」
焦りの表情は無くなり、落ち着いた『天道俊』は真剣且苦く苛立った思いをぶつける。
視線の先に佇む少年――『真蒼黒竜』。
クロは視線を逸らしながらベンチへと近づき、カバンからグローブを取り出す。
振り返り、俊に見せるように手に嵌めていく。
それと共にクロは、半開きの暗い瞳で説明していく。
「俺がこの病にかかったのはたぶん……俊の言うように、俺に変化があった一回目の時だ」
「……」
クロは回想しながら、それでも、全ては話さないよう偽りの言葉を含めた、半分本当で半分嘘の事実を口にする。
話して変わるのかという半信半疑の状態。
確かな望みを持ちながら、けして叶わないと自覚している。
――今まで通り、全てを見限りながら……。
「原因はわからない。突然に発症し、ワクチンも特効薬なんかもない。ただ、わかることと言えば、この病は、俺にはあまり影響がないということ。そしてこの手袋は、この病を防ぐためのものだということ」
「……そうか」
俯きそうになる俊は、拳を握り締めるもその手を解き、苦しみを噛み締めながら、笑みを浮かべる。
受け入れられたことへの安堵、伝えたことへの罪悪感。
そんな二つの入り混じった複雑さの中、その笑顔にクロは苦笑する。
「それで、あいつらには――」
「言えるわけないだろ」
全てを言わせないようクロはその先の言葉を遮る。
視線を逸らす姿に俊は呆れながらに息を漏らす。
「……ま、わからんでもないがな」
頭を掻きながら呟く俊。
重大且深刻な話を言い放たれて間もないのに、なぜ彼はこんなにも落ち着いていられるのだろう。
クロは秘かな笑みと共に、不思議とそう思う。
「……お前はこれからどうするんだ?」
半分真剣で、半分笑みの俊にクロは視線を再度逸らす。
俯きながらに考え、半目で答える。
「……わからん」
暗い視線と俯き気味の意識は、どこか遠くを見ているようだった。
「そっか」
呆れ気味の笑みで、ため息交じりに俊は答える。
それでも、まだわからないことだらけなのは確かなため、クロはあるがままを答える。
「とりあえず、俺なりに向き合いながら調べるつもりだ」
「……手、貸してほしいか?」
その優しくもいつも通りの口ぶりにクロは含み笑いをする。
「いや、俺一人でいい」
――そう、俺一人で……。
「だな。俺にできそうなことは特になさそうだし」
「ああ。その方が都合がいいし、お前も俺に近づかない方がいい」
「それに、俺はお前に協力したくないし、する気もないんだがな」
「ひでぇな」
重い空気がいつも通りの和やかな雰囲気に戻され、二人は笑みを浮かべる。
そんな笑みと共に、俊は秘かに思う。
俺ができそうなのはこのくらいだ。
こうやって、笑って送り出してやるくらい。
お前といると楽しいし、何より――
一人で何でもできるお前は、やっぱり一人じゃないとな。
苦しいかもしれない、助けを求めているかもしれない。
そんな壁にぶち当たってどうしようもないのかもしれない。
――それでも、
俺の親友なら、いや……親友だからこんな状況を打破できると信じている。
――だから、
俺はお前に力を貸さない。貸してやらない。
一人で何でもできるすごいやつだと信じているから。
親友だから。
こんな困難にも立ち向かって、平気な顔をして乗り越えてくれると。
俺の親友はそんなやわじゃない。
――だってよ、お前は
俺が秘かに憧れた、絶対無二の親友なのだから。
俊の秘かな思いは和やかな笑みで送られる。
届くだろうか。届いただろうか。
それは誰にもわからない。
ただ、届くと信じて変化という謎の真実を知らされた彼は少年にエールを送る。
憧れた親友を信じて――。
※
「……さて、これからどうすっかねぇ」
時刻は夕方、午後4時過ぎ。
クロとの暇つぶしも調度よく終わり、玄関で立ち尽くす俊。
家は隣だが、帰るのにはまだ早い。
さらには、先の件で協力しないとは言ったが、結局は考案する。
ああはいったが、親友が悩んでいるんだ。
助けてやりたいというのが、実のところ心の底にある本音だ。
だが、どうする?
あいつがあんなにも苦しんでいるんだ。
俺にできる事なんて、あるのか?
自問自答を繰り返しながら、彼は、空を見上げる。
誰も知りえない答えを求めて、広大な空を羽ばたこうとする――。
友のために――。
※
「なぁクロ、家にこんなもんが置いてあったんだけどよ。これ何だかわかるか?」
翌日の教室内で繰り広げられる会話は、キスケの話題から始まった。
指示されるは一通の手紙。
その手に差し出された手紙は、朝起きると、テーブルの上に置いてあったそうだ。
まさに置手紙のそれを手に取り、目を通す。
『キスケへ――。俺もいい歳だ。この目で美しき世界を見て回ろうと思う。なぁに、心配はいらねぇ。金と知恵さえあれば、この世は生きていける。もしもの時は、身体をはるしかねぇだろ。とにもかくにも、俺の旅は始まった。止めるな、というのも遅い話だが、探すなよとは言っておこう。すぐにかはわからんが、必ず帰るのは確かだ。それもなるべく早くにできれば越したことないんだが、それは時の計らいによる。ま、ともかく、俺はしばらく家を留守にする。後のことは頼んだぞ、キスケ。――俊より』
手紙を読み終わり、何となく予想がついたクロだが、笑みを浮かべる。
それとは裏腹に、キスケは少しお怒りのようだった。
「『いい歳』とか、まだ10才だろっ。それで旅に出るとか、どこのマスター目指してんだよ」
「……」
「そんで、何か知ってるか?」
「……いいや、さっぱりだ」
「そうか」
あっけなく会話は終了。
クロにも予想はついていても、それは確かじゃない。
なら話すべきでもないだろうと黙っておく。
知らないのは確かなのだから。
本題は変わり、『世恋恋奈』、『間木野斗条』も加わる。
いつも通りの会話が繰り広げられ、平和な日常が過ぎようとする。
『このままいけば』などとフラグを立てるつもりもないが、犠牲者はでなさそうに思う。いや、そうであってほしいと願っているのか。
互いの感情が複雑に絡み合うこの場で、クロの感情はその名の通りにさらに濃く深く染まっていく。思うたび、それを感じる。
ただそれも、クロにとっては無でしかないのも確かなのだが。
――と、
そんな中、彼を見ながら、リナは、脳内でリピートされる昨日の会話と共に、今の気持ちを整理する。
『とりあえず、俺たちはこのまま、何もしない。その方が何かと都合がいい』
『だな……けど』
『え、何……?』
二人の視線がリナに集中する。
少し動揺するリナに対し、二人は意味深な怪しい笑みを浮かべる。
『リナはもう少し積極的に攻めていこうか』
『ああ。やっぱ変革をもたらすなら、ここはガツンッといくっきゃねぇだろ』
『……えっ!?』
そんな昨日今日で回想をしながら頬を染める。
それと共に、その先の言葉を思い出す。
『あのクロだ。俺たちの考えなんてお見通しだ。今こうやってることだって、俺たちが明日、自分に対してどう接してくるか、そこまで読んできているだろう。気づかないふりをして――』
二人は聞きながら頷き、微笑を浮かべる。
何となくわかる、というか実際にそうだから。
わかり切ったことに笑みを含むも、冷静に聞き耳を立て続ける。
『だから俺たちも、クロの異変に気付いたことに、気づいてないふりで返す。言わば、見て見ぬふりだ』
その『見て見ぬふり』という言葉に少し俯くリナ。
それは少し、嫌な感じがするから。
それを分かったうえで、斗条は声をかける。
『……言葉が悪かった。いつも通りでいようという意味だ。その方がこっちもあっちも気楽でいいし、現状維持が好ましい』
『……それ斗条が楽したいだけなんじゃないの?』
『ちげぇねぇ』
疑いの目と噴き出し笑いを向けられ、斗条は答える。
『バカ言え、めっさ楽したいに決もうとろうが』
『おーい、図星突かれて口調がおかしいぞー。というか、最低だなお前……』
『わざとに決まってんだろ。そしてそれは元からだ』
二人の言い合いにまた少し、笑みを溢す。
『ゔ、ゔん』と気を取り直して、よく脱線する本題を掘り返す。
『互いに異変に気付いた今、あいつは現状維持を望んでいる。俺たちもあいつの原因について知りたいが、無理強いはよくない。ましてや、あいつにもわからないことだ。聞きようもない。なら俺たちのやることは、クロが話してくれるまで、いつも通りでいてやることが一番だ』
その長々と述べられし言葉に、二人は相槌を打つ。
斗条は二人に向かって一刺し指を翳す。
怪しげな笑みを浮かべ、キスケもそれに呑まれる。
『ま、それでも?リナがこのままでいいわけがねぇのは確かな話。それに、助けられるとしたらリナしかいないかもだしな』
『どういうこと?』
『自分が一番わかってんだろ?』
『……』
驚きと共に、頭がショートする。
リナとしては気づかれていないと思っていたようだった。
半信半疑ではあったが、それでもやはり、恥かしさで顔から火が出そうだったのは確か。
その反応に、二人は『確定だ』と頷き合う。
彼等が指し示すそれは――、
深く、長いようで短い、一瞬の回想で、ほのかに頬を染めつつも、リナは一歩前へ踏み出す。
僅かながらクロに近づき、その視線の的となる。
今にも恥かしさと緊張で倒れてしまいそうになるのを堪えながら、思い切ってその言葉をぶつける。
「ねぇ、クロ」
「何だ」
「明日って、空いてる?」
「……さぁな。空いてると言えば空いてるし、空いてないと言えば空いてない」
一瞬の間があったかと思えば、考え込んだ末にはぐらかされる。
「もう、もったいぶらないでっ!」
だがその答えには、ご不満があったようで、リナは頬を染めながらも強く訴えてくる。
それにより、クロは押され気味にも折れるのだった。
「……内容による」
「空いてるのね」
「おい……」
おっと~、これはまさかの強制パターンですね、はい。
「最近、海岸沿いにできた遊園地知ってる?」
「ああ」
「明日そこに行こうと思うの」
「行ってらっしゃい」
「もう、そうじゃなくてっ!」
クロの盛大な決め顔と共に放たれた一言に、地味にも顔をさらに赤くしたリナだった。
そして、察しているクロは、潔く抵抗をやめ、諦めることを選ぶのだった。
「……一緒に行けと?」
「……うん」
「……わかった」
長い間と共に、諦めがちに答えるクロ。
行きたくなさそうではあるが、ちょっぴり微笑んだように見える。
そんな嬉しさが混じり合う感情の中で、リナの頭に昨日の言葉が流れる。
まるで、今の光景を祝福と共に、再認識させるかのように――。
二人が指示すは――、
――愛の力だった。
そして、今あるこの現状を表すなら、正しく、
あり得ることなき、デートだった。
――少年は絶望に抗う。友を巻き込み、望みなき世に、
望みを秘かに、気づかず内に抱く。それが齎すものを知っていながら―—




