第一章11 『変わらないもの』
遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。と同時に、もうすぐ一章完結です!
「クロ?」
『やらかした』という感情の中、それと同時に心配な表情を浮かべる少女――『アオ』
「……」
頬に冷や汗が伝いながらも、その冷静さを保ちながら同じく様子を窺う少女――『レイ』
彼女等は共に、正面に立つ一人の少年に目を向けていた。
少年の名は――『真蒼黒竜』。
後悔を手に死を迎えた少年。
その彼が今、アオの純粋さによるミスで異変が起きていた。
――『Delete』。
彼の異変の原因。
後悔をやり直す『AGAIN』とは別のシステム。『消してしまいたい』という消極的な感情から生まれた、文字通り後悔を消すシステム。
それにより、彼の『消してしまいたい』過去が、後悔が、現実のものとなった。
時が捻じ曲げられ、その時あった出来事が彼の記憶だけでなく、それを知っている者からも消され、完全に無かったことになったのだ。
これがどういうことか。さして問題はないだろうと思ったら大間違い。
『消える』ということは、その『時』によって起きたものも全てなくなるということ。
主に『感情』に大きな変化がある。元に戻った、とでも言うべきか。
その後悔によって引き起こされた負の感情がなくなる。
それはつまり、それによって引き起こされたネガティブ思考がなくなり、その『時』によって学んだ恥や反省、失敗により生み出される『成長』という過程が無くなるということ。
これによって変化するものは――人格だ。
感情に変化があれば、その人の心情、感覚、思考。
それぞれに変化がなくなり、本来の、幼き頃の自分に戻るとでも言うのか。
それが今、彼に起きていた。
しかも、彼の後悔の数と重さは異常で尋常じゃない。
引き起こされる変化は多大だろう。決して無事では済まない。
――はずだった。
「ぁ……」
小さな、漏れた声だった。
「……っ!」
目を見開き、静かに顔を上げるクロの姿には何もなかった。
クロの諸共もしない姿に少女たちは唖然とする。
ただ、感じられる空気からわかることが一つ。
冷たい空気。
それと共に何かが欠落したような、そんな気がした。
少年は微笑み、彼女等に安心の言葉を掛ける。
「どうした?」
レイはハッと気を取り戻し、
「いえ……何でも、ありません」
驚きの表情を隠せない中、流れる汗を軽くふき取る。
クロの目線は、もう一人の少女――『アオ』へと向けられる。
アオもレイと同様、気を取り直すも、何かに対して薄く、唇を噛み締める。
それが、悲しみからか、悔しさからか、そんな歯がゆさから起こるものなのかは誰にもわからない。
その誰にも気づかれない行動後、アオは無理やり笑顔を浮かべた。
何の変哲もない、いつもの彼女の笑顔。
彼女の心には今、何が写っているのだろうか。
それは彼女にしかわからない。
それでも、この空間で起きたハプニングには、冷気と欠落が存在したことは間違いなかった。
※
「クロ、ほんとに大丈夫なんですか?」
胸を押さえながら心配するアオに、クロは苦笑する。
「ああ、問題ない」
「……」
その返答に額にしわを寄せ、考える少女――『レイ』
彼女の考え込む姿には、険しさがあった。
――何かがおかしい。あれほどの後悔を持ち、多大な変化をもたらされてなお、クロにあまりにも影響がなさすぎる。一体、どうして……。
「……ィ、レィ……レイ!」
「は、はい?」
突然の呼び掛けだった。
徐々に呼び掛ける声が大きくなるにつれ、意識が浮上する。
その呼び掛けに、レイは少しの戸惑いと驚きを見せていた。
「……っ!」
顔を上げ、声の主に耳を傾けると、クロがすぐ目の前に立っていた。
覗き込むようにレイの様子を窺う姿には純粋さがあった。
「どうした、レイ?」
その問いかけにレイは「はぁ……」と小さなため息をするも、からかいの言葉を返す。
「何でもありませんよ。ただ、クロの顔が近くて……」
頬を染め、恥じらいながら答えるレイ。その瞳は少し潤んでおり、
「悪い」
笑みを浮かべながら和やかに謝り、顔を上げるクロ。
――もう少し、からかってみましょう。
秘かに笑みを浮かべ企む姿は少し、悪戯っ子のようだった。
「まったく、私はクロがキスしてくるのかと思いましたよ――――そういうのがタイプなんですか?」
「なっ!?」
今の答えに戸惑ったのはクロではなく、アオだった。
顔が赤く染め上がり、いかにも顔から火が出るような姿。
ただクロは微笑みながら、悪戯っ子なレイにやり返すことにした。
「そうだな。俺のタイプカテゴリーに『姉萌え』は無いが、レイならタイプだから、そういうのもありかもな」
「……っ!」
カウンターだった。
レイは目を見開き、赤くなる顔をそっぽ向いて隠す。頬を両手で焦りと緩む口を抑える。
クロはクロで冗談ではないようなのだが、その答えにアオは頬を膨らませていた。
「ク~ロ~っ!」
今度はアオがクロに顔を近づけ、乗り出す。
「どうした、アオ?」
優しく微笑み返すクロに、ちょっと動揺するも、自分でもわからない少しの怒りを覚えるアオ。
そんなアオが可愛いらしく、クロはアオの頭に手を添える。
ポンッポンッと軽くなでられ、その行動に全てを許してしまうアオだった。
「さて、可愛い二人に癒されたし、今後の話をしようか」
どことなく吹っ切れた感じのクロに、二人は気恥ずかしさを感じるも、悪くはなかった。
「ゔ、ゔん。そうですね」
気を取り直そうとするレイだが、まだ頬がほんのりと赤く、
「はい!」
胸を張りながら答えるアオには、満足気な笑みが零れていた。
二人の姿に苦笑するも、クロは何気なく『ミニマム』を見る。
――すると、
「……っ」
数値が『Delete』により減ったのは知っているが、そこに映し出されたもに驚きを隠せなかったクロ。
赤く点滅する画面上の数値には、十分の一も残ってはいなかった。
――冷気と欠落、そして、変化。
変わったものもあれば、変わらないものもあった――




