プロローグ 『始まりの死』
初めての投稿です。うまくできているか不安ですが、そこを含め楽しんでくれると幸いです。
少年が住む街には、お気に入りの場所があった。それは、13階建ての小さなビルだった。
そこは、廃墟でも、心霊スポットでもない。工事中止された危険区域でもない。
ビルはきれいで、使う人がいない。
壊すにもお金がかかるので、そのまま放置されている。
こう聞くと、廃墟のようなものだが、ほとんど新品で使い勝手がいいため、少年は秘密基地感覚で出入りしている。掃除などもしていて、安全面も保証されている。
13階ビルの屋上はとても気持ちのいい風が吹く。
そこから見る景色も、少年の住む町を見渡せるほど最高で、人はあまり寄り付かない。少年にとってはお気に入りの場所だった。
だが、そんな場所も不幸の場所となる。もう来ることもできなくなる。
彼が決断し、行動してしまえば、少年の全てが消え、全てを失う。
何もかもが無と化し、後戻りや、それを取り戻すことさえもできない。
少年は、13階ビルの屋上に立ち、いつも通り町を見渡している。視界に広がるのはいつもと変わらない景色。柵がないこの屋上は自由さを感じさせる。
少年が見ているのは視界にあるものではなかった。
もっと別の何かを見ているかのようだった。
少年は思い出す。今までの出来事を。
それは決して、楽しいといえる思い出ではなかった。思い出と言えるのかも疑わしい。
少年が思い出したのは、後悔だった。後悔だけだった。
少年は人生の選択肢を間違え続けた。運が悪いのかと言えばそうでもない。
何故そうなったのか、何故そうなってしまったのか、それはわからない。
いや、考えればわかることもあるだろう。
誰かからいじめを受けていたわけではない。家庭に問題があったわけでもない。
幸せはあった。思い出もあった。楽しいといえるものもあった。
だが、それを上回るほどの後悔を抱えていた。
それは、忘れることができず、忘れてはいけないもの。忘れそうになっても『忘れるなよ』というように夢に出る。悪夢ではない。ずっとここにいたいという、心地のいい夢だ。
だが、その夢が覚めると、悪夢のような現実が襲い掛かる。目覚めの時にある感情は、深い喪失感と虚しさ。少年はそれが大嫌いだった。
少年は取り戻せない『時』をそこに置いてきたのだ。
現実世界でもいいことはあった。それを忘れさせるような、上回るほどの感情をもたらす幸せが確かにあった。
少年には、夢があった。希望があった。才能といえるようなものもあった。努力をすれば、実を結ぶものもあっただろう。
だが少年は、それを一時の感情で棒に振る。そんなことが多々あった。
それが、彼の後悔だ。それが全てと言えるわけではない。あげれば数えきれないほどだ。
だからもう、彼には失うものがない。
感情はもう捨てた。捨てきれないものもある。夢やこの先の未来を今の行動で失ってしまうこと。それがまた、後悔になると少年は知っている。知った上での行動を、今起こそうとしている。
少年は覚悟を決め、駆け出す。
身体が宙に浮かぶ。加速し吸い込まれるように沈んでいく。
投げやりになったわけではない。取り戻すというためでもない。
逃げたというのも違う。諦めたというのとも違う。
たぶん、この行動をわかるものはいないだろう。
頭に今までの出来事が流れる。思い出したのではない。
振り返ったわけでもない。流れるのは後悔。幸せなものもあるだろうに。
こんな時にも見せるのはそのただ一つのみ。
そんな身体はもう地に着こうとしていた。
少年は目を瞑る。
地に着き、強い衝撃が全身を駆け巡る。頭には亀裂が入り、そこから血が流れ出ていく。もう、指一本たりとも動かせない。
視界がぼやけ、耳も聞こえなくなる――。
意識が遠のいていく――。
次の瞬間に少年――『真蒼黒竜』は命を落とした。
1週間に1つほどのペースで出していけるようにしますのでよろしくお願いします。遅くても1か月中には何本か出していけるようにしますので、お気軽に楽しんでいってください。