前途多難。
私は今、猛烈に後悔している!
「うわあああああああん!
おっさァァァァァァん
死なないでぇぇぇ~!?」
目の前でおっさん(小)が死にかけているからだ。
原因は昨日にさかのぼる。
***
「ひっ、ひっ、ひひひひ~ぃ」
森に不気味な声が響く。
それは笑い声か、動物の鳴き声か…
いや、それは…
森に森の森がもぉぉおぁりぃぃぃぃ~でぇぇぇぇぇ…
森 桃子がガチ泣きしていた。
異世界転移してから初の夜が明けた。
それはもう酷いモノだった。
自分はもっとやれると思ってた。
いろいろ転移物語は読んだし、妄想して、シミュレーションして、完璧だと思ってた。
全部駄目だった。
【鑑定レベル1】では食べられる物がわからない。
大丈夫かなと思った木の実で、強烈な腹痛になった。
【生活魔法レベル1】では湿った草木に火は着かないし、1日分の水が確保出来ない。
灯りが確保出来ない夜が来る前に食べ物を得よう思った。
生き物を狩ろうと思った。
枝と石を拾って探した。
…見つけた。
ウサギのような、豚のような小動物だ。
「ラッキー」
私は石を投げた。
「ウギュッ!?」
当たった。
頭に命中したようで、血を流して気絶している。
持っていた枝を振り下ろした。
「…」
…振り下ろそうとした、が。
出来なかった。
全身が震えた。
怖かった。命を奪う事が。
血が、
流れて、自分が更に殺すという事が、
食べ物と、思えない。
命を自分の手で殺す事が、耐えられなかった。
「うあ、
うわぁぁぁぁぁ!?」
逃げた。
枝を捨て、目をつぶって駆け出した。
後ろで湿った音がした。
何もかもが恐くて、下を向いて走り続けた。
疲れた。
頭が痛い。
2回転んで、全身痛い。
お腹が空いた。痛い。
喉が乾いた。痛い。
痛い。痛い。痛い。
夜が来る。
寝床を探さなきゃ…
でも、もう疲れたよ…
ヤバい…
夜が…恐い!
人工の灯りがない。人工の音がない。人工の匂いがない。
何もかも知らない。
恐い!恐い!恐い!
後悔しても遅い。
でも私は怯えて膝を抱えるしか出来ないんだ。
夜が明けた。
昨日より頭が痛い。
何とかしなきゃ死ぬ。
何とか…
何とか…
でも…
火魔法選んで飲み水を失うのが恐い。
水魔法を選んで火力を失うのが恐い。
攻撃を選んで防御を、防御を選んで攻撃を失うのが恐い。
命を…
殺すのも殺されるのも恐いんだ。
何も選べない。
恐い。
つらい。
そして、
「寂しいよぉ~…!」
今すぐ仲間がほしい。
保護者がほしい。
だから私は──
「 【召喚魔法】! 」
味方を呼ぶんだ!!
媒体は【鑑定】をし続けて見付けた薬草。
【生活魔法】で用意した水と、今にも消えそうな火。
私の用意できる全て。
だからお願い。
「 来て! 」
魔法陣が輝いた。
そして、
小さなおっさんが召喚された。
「…」
手のひらサイズのおっさんだ。
「……」
しかも私より死にかけたおっさんだ。
「うあ、」
おっさんがグッタリと目を明けた。
私を見た。
目をゆっくり閉じた。
「うわあああああああん!
おっさァァァァァァん!
死なないでぇぇぇ~!?」
私の異世界生活は前途多難すぎる。