時間の均衡
「よし、完成したぞ」
博士は球体状の装置を手に取り言った。その装置はサッカーボールほどの大きさで、表面上には数値を示すカウンターや様々なスイッチやダイヤルの類いが付いていた。その装置を見た助手が聞いた。
「博士、それは一体何の装置ですか?」
「これは小型のタイムマシンだ。名前はそうだな、タイムボールとしておくか…。さっそく起動実験をしてみよう」
博士はタイムボールと名付けた装置のスイッチやダイヤルをいくつか操作すると、それを地面に置いた。助手は期待に満ちた表情で言う。
「タイムマシンという事はタイムワープするんですね。楽しみだなあ」
固唾を飲んで見守る二人の前で、タイムボールは低い機械音と共に微振動を起こし、しばらくすると機械音も振動も収まり、完全に動きを止めた。とくに変わった様子のないタイムボールに助手は思わず言った。
「博士、何も変化が見られないようですが、失敗したのでは…」
しかし博士は落ち着き払って答えた。
「いや、実験は成功だ。実はタイムボールの上半分を未来へ、もう下半分を過去へと向かうように設定していたのだ。時間軸、つまり過去から現在、そして未来へと流れる時間の均衡を保つ為に、タイムボールは現在に留まったのだ」
何故だか釈然としない助手を他所に、博士は一人ご満悦だった。
「おっと、もうこんな時間か。そろそろ帰るとするか…。私は明日から一週間ほど研究所を留守にするが、その間の事は頼むぞ」
博士は助手にそう言うと帰っていった。
次の日、一人研究所にいた助手は時計を確認して独り言を呟いた。
「博士が帰った後、タイムボールを色々いじってみたがワープする事もなく、今日設定した時間にも現れなかった。やはり失敗だったんだ…。そもそも、薬学専門の博士が自分の分野とは何のゆかりもないタイムマシンなど発明出来るわけがないのだ」