王子が不幸になる婚約破棄~おかしいわ、ヒロインがフラグ建設をちゃんとしたはずなのに 編~
『王子が不幸になる婚約破棄~ ○×編~』と似たようなタイトルがありますが、それぞれが別の話になっています。
続きはありません。
「ユスティーナ・エルヴァスティ公爵令嬢、お前との婚約を破棄する!......なんて、言うと思ったか!」
私と、ヒロインは驚きをあらわにした。
おかしいわ、エッレン・ハッカライネン様はイルッカ・アハマニエミ王子とのフラグ建てを余すことなくちゃんとしたはずなのに!
他の攻略対象たちは、目もくれなかったのに!
はじめして。
私は、ユスティーナ・エルヴァスティと申します。
ここは例により例の如く『恋の瞬間は、マヨネーズ♪』という乙女ゲームの世界。
略して、『恋マヨ』。
電波とか厨二病ではないのであしからず。
前世の死因は、よくある転生小説のありふれた事象。
とりあえず、今世は寿命をまっとうして老衰したい!
そんな目標を掲げる、平凡な子娘にございます。
さて、恋マヨの内容といいますと、ありふれた内容でございます。
攻略対象たちの『心の闇』を解かして問題解決☆
やはり、テンプレの如く「自分でそれくらい、解消できないと上に立つ者として情けない!」というものばかり。
こればかりは、ぽっとでの美少女が解決できることを考えれば、仕方ないのかもしれません。
実際、彼らの周りの人たちは『この程度の問題』が、心に圧し掛かる心の闇の重要な部分になるとは思ってもみないでしょう。
幼い頃より、上に立つ者としての心得、上に立つ者としての英才教育をしっかり丁寧に施しているのですから。
私、ですか?
やだ、張りぼてを完璧に付けている公爵令嬢に決まってるじゃないですか。
日々、攻略対象である弟カレルヴォと幼馴染クレメッティ・ヒエタカンナス公爵子息が私を見てコンプレックスを抱えています。
馬鹿ですか?
ですので、悪役は悪役らしく彼らの精神を段階的かつ効果的に抉ってあげました☆
だって、私は『悪役』にございますので。
そんなこんなで、ヒロインと出会いまして
「悪役令嬢、あなた乙女ゲームの悪役を放棄するわけじゃないわよね?」
「婚約破棄を向こうからさせるだけです」
「なんでよ!どうしてよ!?」
「実は私、転生者なのです。前世一般庶民に、上流貴族の生活はとても窮屈にございます。ですので、王子と弟と幼馴染に地味でつまらない嫌がらせをして『一族永久追放、国外追放』を狙っているのです」
「それって、なんか違うでしょ――――!」
「そんなわけで、ヒロインさん。あなたは、ちゃんと『乙女ゲームのヒロイン』をして彼らを攻略してください」
「あぁ、悩んだ時間を損したわ。ヒロインざまぁになりたくないから、どうやって王子を落として玉の輿に乗るか考えてたのに――――!」
「じゃあ、ガンバレ☆」
「かるっ!」
そうして、私は学校で公爵令嬢としては相応しくないイジメをヒロインにしたり、私が学校にいない時はヒロインがイジメを自作自演したりしました。
ヒロインによると、『イジメの自作自演』は案外難しいそうです。
「乙女ゲームへの転生小説で転生ヒロインが簡単にしていたけど、アレはウソね!実際は、そんな簡単じゃないわよ!」とグチッてました。
確かに、自分から階段に落ちるなんて相当難しいようです。
それを聞くと、なんかスマンと思わず思ってしまいました。
そして、冒頭に戻る。
「ちょっと、ウソでしょ!家が成り上るため、今まで頑張ったのに!」
「エッレン様、本音が出てます」
「しまった!宰相様が父の出世の邪魔をしてたから、私が王太子様の婚約者になれば妨害できないから頑張ったのに――――!」
「確かに、ハッカライネン伯爵様が出世できないのは宰相様が原因だと周知の事実ですからね」
「そうよ!」
私とヒロインのやり取りを聞いていた王子様は、怒りで肩を震わせながら
「エッレン、今まで俺に愛を囁いていたのは嘘なのか!?」
「当り前じゃない、私が顔だけが取り柄の男に惚れるわけないでしょ」
「あぁ、それ、私も思っていました。顔だけしか取り柄がございませんねって」
まあ、乙女ゲームの中なら『顔だけが取り柄でも問題』ございませんし?
現実だと顔だけが取り柄なのは『不良物件』になりますし、問題ありでしょうか?
だから、私しか婚約者候補がいなかったのですね。
これで、納得できました。
王子は顔を真っ赤にしています。
お猿さん?
これでは、前世で見たお猿さんたちに失礼ですね。
あの子たちの方が、この王子よりもはるかに頭がいいです。
残念ですね、王子様。
「ユスティーナ・エルヴァスティ公爵令嬢、お前俺に対して何か失礼なことを考えてないか?」
「事実だけです」
「...貴様っ!今よりお前は、俺との婚約破棄とエルヴァスティ公爵家から追放する!今後、エルヴァスティの名を名乗るな!」
「謹んでお受けいたします。今後、この決定が覆ることのないようにイルッカ・アハマニエミ様の名において誓って下さい」
「当り前だ!処刑しないだけ、感謝しろ!そして、エッレン・ハッカライネン、お前も国外追放する。俺を馬鹿にするな!」
これで、私は王子の尻拭いをしなくて済みます。
今までの苦労を考えれば、やっと解放されたという気持ちでございましょうか。
国王様が反対すれば、国王様を脅してこれを覆らないようにしればいいだけでございますし。
王妃様や側妃様に隠れて、下賤の女と不義密通してる男だから叩けばいくらでも埃が出るのでございますよ。
そこに、颯爽とヒロインの父登場。
慌てる国王様と喜色満面の笑みを浮かべて気持ち悪い宰相様。
絶対に、あの気持ち悪い笑顔は十八禁仕様だと思います。
「国王様、我が娘たちが王太子様を侮辱した罪を謹んで受けると同時に爵位を返上し、国内退去をいたします」
「ちょっと、待て!お前がそうする必要はないだろう。せめて、お前の娘だけ国外追放に!」
「これはこれはおかしなことを言いますな、国王様。娘たちの責任は親の責任!これは親である私が、誠心誠意を持って果たす務めにございます」
「これは、王太子の独断だ!お前がそこまでする必要はない!」
「そういうわけにはまいりません。すでに、国の上層部で決定して宰相が承認しました」
「なに勝手なことをしているんだ、宰相!ハッカライネン伯爵がいるからこそ、今まで滞っていた外交政策が前進したんだぞ!」
「大丈夫ですよ、王様。私がいれば、その程度何とかなります」
王様と宰相様が周りを無視して、言い争いを始めました。
「ご苦労様でございます、お義父様」
「うむ。やっと、役職から解放されるわ。あの宰相の尻拭いで、連日残業続き、ストレス蓄積。いやぁ、爵位返上を国王様がなかなか認めてくれなくてな。ユスティーナ嬢も、ここまで苦労してたのだな」
「しかし、お義父様。エルヴァスティ家問題は大丈夫だったのですか?」
「それなら問題ない。王太子様から婚約破棄される娘など価値がないと言ってな。あなたを家の養子にするくらい簡単だった。むしろ、エルヴァスティ家が喜んでいたくらいだ。あちら側も、こちら側も、親子だと名乗らぬようにきつく神殿にて制約をさせたのだ。で、今までかかったのだ」
「まあ、それはそれは」
「ダメもとで、家族会議をして正解だったわ」
「それにしても予想以上にうまくいったわ。私の嘘を、より王子に効果を与える時を狙って暴露しようと思っていたの。でもよかったの、ユスティーナ?」
「もちろんです。国外追放されれば、後は勝ったも同然ですから」
「そうだな。やはり、貴族生活は性に合わん。隣国に行って、元の商人生活に戻ろう」
「やった。貴族だとお金の勘定をしなくていいから、特技を生かせなくてなんか調子が狂うのよね」
「生まれが公爵家でも、私はもともとあの生活に馴染めなかったのでとても助かりました」
「そうか、そうか」
そして、王様は王太子が公の場で私たち三人の国外追放を認めたので、泣く泣くそれを認めざるを得ませんでした。
宰相様は、役職を維持できなくなり自爆したそうです。
王子とはいうと、
「お前のせいで優秀な人材二人が、隣国に流出したではないか!よって、お前を廃嫡する!」
「父上、それはあんまりではないですか!」
自分の処遇に抵抗する王子。
「ええい、五月蠅い!あの三人は、お前の不当な処罰に対し文句を言わずにこの王宮を去る決意をしたではないか!お前だけ、ワガママを言うなど許さん!」
「しかし、父上。あの三人と私とでは立場が違いすぎます!!」
その会話に割って入る一人の勇者が。
「父上、兄上を監視できるのなら、廃嫡する必要などないのでは?」
「ニコデムス、...!」
期待を込めて、ニコデムス様を見る王子。
「ニコデムス、そのような方法があるのか?確かに、コイツを放り出せば市井に悪影響を及ぼすのは分かり切ったことだが」
「もちろんです。この国で、『同性婚』を認めればよいのです。そうすれば、私が直々に兄上を監視できる」
「しかし、お前にそのような負担は...」
「大丈夫ですよ、父上。私は、直々にユスティーナ様やハッカライネン様から教育を施されています。多少の負担があっても、何の問題もありません」
「そうか、あの二人はこのことを予測していたのだな」
「当り前です。あのお二方ですから」
「そうだな。それでは、ニコデムス。これからの国のことを頼むぞ。お前で大丈夫だと判断すれば、即王位をお前に譲る」
「畏まりました、国王様」
事態を理解できない王子を無視して、国王様とニコデムス様は話を進めていきました。
そして、王子とニコデムス様が二人きりになった時、
「兄上、今日からあなたは俺の物だ。もう俺から逃げることはできないから覚悟してください」
そう言って、王子に壁ドンをするニコデムス様。
「ど、どういうことだ!?」
困惑する、王子。
「気付いていなかったんですか?兄上。俺は、あなたのことをずっと愛しているのです。今、この瞬間も」
「何言ってるんだ!俺は男だぞ」
「男とか女とか関係ない。兄上だからこそ、俺はあなたのことを愛してしまったのです」
そう言って、ニコデムス様は王子を美味しく頂いたそうです。
前世ではこのことを『蓼食う虫も好き好き』と言ったのでございます。
悪食もほどほどにしないといけませんよ、ニコデムス様。
この話は、ニコデムス様が私が現在住んでいる隣国に来た時にご報告いただきました。
読んでくださり、ありがとうございました。