第九話
五歳になった。
色々試行錯誤はあったが、一つ一つ解決していった。
最初の失敗で、他者の視点を意識するようになってからは、
大きな失敗はしなくなった。
特に感知魔法で人や動物の動きを確認するようになってからは、
大分行動範囲も広げられるようになった。移動魔法を組み合わせて、
近くの街に行けるようになってからは、一気に世界が
広がった。
カエサレアは、ゲームにも出てきた街で、主人公は自己紹介で、
カエサレアの近くの村の出身と名乗っていたっけ。
この辺では、最大の街には違いなく、ファンタジーに出てくるような
各種ギルドの支部が揃っている。
まだ幼児の俺でも、幼児向けの冒険者ギルドの教室に通えると知り、
早速行ってみた。
授業料がかからないか心配だったけど、杞憂だった。
冒険者ギルドは、有能な冒険者候補発掘が目的で開催している
とのことで、無料だった。
他のギルドも講師を出していて、適性のある子供の囲い込みを
しているために、スポンサーには困らないらしい。
実家の金に触れない俺にはありがたい話だ。
授業そのものは子供向けだけに、そんなにレベルは高くない。
ただ、単語の発音を知ることができるのは、有意義だ。
俺は、コミュニケーションがほとんどないから、意味はわかっても
発音を知らない単語が一杯あった。
念願の筆記用具も手に入れて、実際に文章が書けるようになったことも
大きい。
なぞりである程度書けると思っていたけど、インクで紙にものを書くのは
思っていたより難しかった。
物事やってみないとわからないことが多いな。
それでも文法や単語を知っている俺はすぐに頭角を表した。
魔法を使えるようになっていたこともあり、魔術師ギルドや
冒険者ギルドから声がかかった。
「五歳でこれなら、成人したら天才になるに違いない」
なんて言ってくれると嬉しいね。
ま、実態はスタートがチートに早いだけで、才能の問題じゃないんだけど。
逆に初めての体験である魔法なしの狩猟や剣技等肉体系は苦労した。
それなりに運動をやっていたとはいえ、教師なしに前世の体育の授業を
思い出しながらやっていただけだからな。
筋が良いとは言って貰えたけど、俺レベルは他にも何人かいる。
しっかりやらないと置いていかれるな、と気合いを入れて頑張ることに
した。
幼児レベルでこれなんだから、大きくなるに従ってスタートの早さの
優位は意味をなさなくなるだろうしさ。
カエサリアで過ごす生活は有意義だった。
それで浮かれていたんだろう。
足元が危ういものだと言うことがわかっていなかった。
普段、決まった時間しか俺の部屋には人が来なかった。
そう、過去がそうだったからと言って、未来もそうだとは限らない。
それを失念していた。
自分の部屋に帰ろうとして、屋敷のそばまでテレポートしたら、
感知魔法に、俺の部屋に複数の人がいる反応があった。
ヤバイなと思いはしたものの、この時点では、苦し紛れの言い訳で
乗りきれないかと期待していた。
身体や服を清掃した上で、玄関の内側にテレポートし、いかにも
屋内で遊んでましたという風を装って部屋にドアから戻る。
しかし、二歳の時と違って、冒険者ギルドの幼児コースで
習うぐらいだから、早い子供は魔法を五歳には使い始めている。
勉強用に部屋に持ち込んでいた本が見つかったこともあり、
窓から魔法で出ていたことは、すぐに露見した。
下手に偽装工作を行っていたことも災いした。
表に出ていたのに、屋内にいるみたいに身綺麗だなんてなれば、
おかしいのは誰でもわかる。
全部隠そうとして、傷口を広げた結果だ。
こんなことなら、屋外に出ていたことは認めておけば、
偶然魔法が使えたなどの言い抜けもできたかもしれない。
いや無理か。
本棚から勝手に持ってきた本が見つかっているんだから。
幸い、あまり難しい本は持ってきてないのは助かったけど、
おかしいと思われるには十分だ。
何を言われるのかと、覚悟していた。
だが、魔法で抜け出していたことを報告された言われたことは、
俺の想定を越えていた。
「半人が何を粋がっている。学問なんてしても、半人が学べるわけなかろう。無駄なことはするな」
いや、そこまで自分の子供にたいして言うことなくないか?
というか俺、やっぱり半人だったのか。
あぁあ。