プロローグ
「夏、荷物これだけでいいの?」
玄関に置かれた段ボール箱1つを指差して、里香が私に聞いた。女の子の引越しとしてはすくないのだろう。
「うん、あっちで新しいの買うし、それに…」
いらない。お気に入りだったクッションも、たくさんの写真も、二人で使っていたマグカップも。全部いらない。全部置いていく。
里香は悟ったのか、段ボール箱を抱えて、
「わかった。じゃあ、車回してくるから、もう一回確認してから降りてきて?」と言って出ていった。
一人部屋に残された私は、言われた通り、もう一度部屋を確認した。
あの段ボール箱の中には、洋服とか必要最低限の物しか入れてない。部屋には、テレビとか机とかそのままだ。
本当にここから出るんだ…。二人の思い出が頭をよぎったが、涙一つでない。寂しいとか悲しいという感情ではないから?
時計をふと見ると11時を指していた。朝じゃない、夜だ。
そして私は最後に、手紙と首から外したネックレスを机の上に置いた。このネックレスも貰い物。でも、これもいらない。
靴を履いた。
今までありがとう。さようなら。もうここにはもどりません。
手紙に書いたことをそのまま呟いて、ドアの鍵を閉めた。