光る小瓶
きらきらのアクセサリー。カラフルなお洋服。
ピカピカの服。
ちょっぴりかかとの高いパンプスのせいか、いつもより違う景色が見える。
モデル歩きのマネをして歩いていると、隣からべったりくっついたカップルが歩いてきてわたしを抜かす。
そんな2人の後ろ姿を見送りながら、げんなりと息をつく。
たっく、雰囲気ぶちこわしね。
「沙里!帰るわよ」
…さらに雰囲気ぶちこわしね。
軽く苛立ったママの言葉に素直に返事をして、ぎこちなくママに駆け寄った。
わたし小学4年生、河村沙里。お洒落だーいすきだって女の子だもん。
て、ちょっと少女漫画みたいに言ってみる…
でもわたしには、どんなきれいなアクセより、どんな可愛い服よりもっともーっと好きなものがある。
いや、好きな人がいるかな?
わたしは生まれた時からずっと好きな人がいるんだ。
どんっ!!
ママが急に立ち止まったせいでわたしは頭を思い切りぶつけた。
「いったぁいな!もう!…」
前を向いて、すぐわたしは黙った。
「おかえり。宗助くん。」
「あ、ちわっす。買い物ですか?」
自転車をひきづりながら、人懐っこい笑顔をママにむける。
すぐにわたしはママを押し退け前に出た。
「宗ちゃん!おかえりー」
一気にわたしは嬉しくって嬉しくってしょうがない気分になる。
谷島宗助、わたしが大大大好きな人だ。
「お、沙里いたの?ちっちゃいから気付かなかった。」
ニヤニヤしながらいじのわるい顔をして宗ちゃんが言う。
「ひっどーい!身長のびたもん。5センチのびたもん!しかもヒールはいてるもん!」
「あー、本当だ。大人だなぁ。沙里は」
「もぉー」
わざとらしい宗ちゃんの言葉に怒りながらも、さりげなく頭においた手にどきどきする。
因みに冗談じゃなくわたしはよく大人っぽいって言われる。自分じゃよく分かんないけど、やっぱり年上に恋してるからかなぁ。
「宗助ぇー」
宗ちゃんの後ろから声がした。
高くて可愛らしい声だ。
一気に私は、気分が落ちた。どきどきして暖かい気持ちは、わたしの頭におかれた手と一緒に消えてゆく。
「あ、こんにちわぁ。」
わたしとママに気づいて、声の主はぺこっと頭をさげる。
「あれ?宗助、妹いたんだっけ?可愛いね。」
「ちげーよ。隣の子。まぁ、妹みたいなもんだけど」
なっ、とわたしに笑いかける宗ちゃんを無視して、私は家に入った。
胸が痛い。やりきれない、もやもやが身体中に広がっていく。
わたしは自分の部屋にかけあがってベッドにダイブした。
外ではまだママと宗ちゃんたちが喋ってる。
「彼女?可愛いわね。」
「やぁだ、ありがとうございます。」
「ごめんなさいね。あのこ愛想なくて。宗助君とられたみたいで寂しいのね。」
「いいえー。あたしもお兄ちゃんが初めて彼女連れてきた時、複雑でしたぁ。あたし結構お兄ちゃん子でー。」
高い声が響く。
わたしは窓を閉めた。
別に宗ちゃんに彼女がいることぐらい知ってる。宗ちゃんはモテるのだ。しかも短期間ですぐ違う彼女を連れている…
窓を閉めても、微かに聞こえる高い声。
小さな声で、てめーだけじゃねぇよばーかと呟く。
宗ちゃんは本気にならない。わたしの希望じゃない。確かにわたしには分かるのだ。
小学生ばかにすんなよ。
妹、という宗ちゃんの言葉を聞いて心のなかで叫ぶ。
わたしは、どんどんどす黒い煙を取り巻く自分が嫌いだった。
もうちょっと早く生まれたかった。
今、宗ちゃんは高校2年生だ。17かぁ、もし同じ年に生まれてたら絶対結ばれるのに…
わたしはもやもやと考えているうちに瞼が重くなってきた。
やば、着替えてもないのに。
心ではそう思っても、なかなか体は起きず、わたしはそのまま夢に落ちていった。
体がふわふわ浮く。
心地よくて、あたたかいものがあたしを包んでた。
瞼をゆっくりとあける。
パステルカラーの柔らかな色彩で絵にかいたようなおとぎ話のような景色が広がっていた。
わたしはなぜか驚きもしない。だけど体はまだぽかぽかしている。
これまで沢山変な夢を見ても現実だと疑ったことはないのに夢の中で夢だと気づいたのは初めてだった。
「わたしは魔法使いだ願いを叶えてやろう。」
…変なちっさいおっさんが言う。
鼻が那須のようにでかく、目がスイカの種みたい。
髪も髭も白いけど、なんかきらきら光ってる。
まぁ、とても可愛いとは言えない。
「願いを叶えてくれるの!?」
「ああ、沙里おまえの願いを言ってごらん。」
沢山あった。普段から願い事なんて山のようにでてくる。だけどわたしは迷わず考える前に口を開く
「沙里、おおきくなりたい」
「ほぉ、なぜ」
「宗ちゃんの運命の人になりないの!」
「大きくなったって運命の人になれるかはわからんだろう?」
「わかるよ!だって赤い糸で結ばれてるもん。」
ほぉ…、ともう一度呟き魔法使いは小さな手で白くてきらきらの髭をすっと撫でる。髭は足元まであった。
「割りと間違ってはないのぉ。いいこと教えてやろう。お前らは前世で結ばれておったのじゃ。」
「ええ、本当!?すごいっ!やっぱり運命なんだ。」
「ああ、けど未練があった。おまえの影に見え隠れしてる大人の心は前世のお前じゃ。」
「は?」
頭で理解ができないまま、魔法使いは喋り続けた。
「いいか、この小瓶をやろう。この中の光がすべて消えるまでおまえは宗助と同じ年になれる。じゃが1回の大きくなれる時間は5時間までじゃ。」
「うん?5時間?」
半分訳もわからず聞く。
「ああ、5時間じゃ。因みに大きくなった姿はお前の成長した姿ではない。前世のお前じゃ。まぁ宗助とやらの好みドストライクじゃろ」
「ドストライク?」
ビンを手渡される。
せいぜい頑張れと憎まれ口を叩いて魔法使いは消えていく。
瞼が思い…
目を閉じる。
再びあたたかいものに包まれた。
ぱちっ
目をあけると、そこには見慣れた天井があった。
「夢かぁ」
夢だとはわかってたけどやかにリアルな…
ふと、てに違和感を感じた。そっと掌を広げる。手のひらには小瓶がある。
がばっと起きて小瓶を見る。
「夢じゃない!」
小瓶のなかは凄くきらきら光っていてわたしの心まできらきらしてきそうだ。
小瓶を握りしめる。
手の間から光がもれている。どくんどんと、期待の光が脈を打つ。