1-8 出会いました
「最近 コモモの様子がおかしいのよねぇ。」
敬愛する上司の口から憎いペットの名前が出た瞬間、リンドウの手にあったクッキーは粉々になった。
「どうしたの?」
「いえ・・・それよりペットがどうかしたんですか?」
ここはテンレイの執務室。
2人はお茶の時間には早すぎる休息を取っていた。
朝からため息をついている上司が気になったリンドウが無理やりいれたのだ。
上司は仕事のデキる女性である。膨大な仕事の量を次々と消化するかたわら、
国主がバカバカしいイベントを思いついたり、ガツク大将率いる雷桜隊がいちゃもんつけてきたり、ダイス大将が奥で女性問題を起こしたりしても、裏で手を廻して潰したり、倍返しにしたり、今度やったらブツを切るぞと脅したりして対処してきた。
その他ようような事も涼しい顔でこなしてきたのである。
こんなに悩み深そうな上司をリンドウはいままで見た事がない。
なにかよほどの事があったに違いないと心配して聞いてみると上記の言葉がでた。
「あのね、リンドウ君。」
「・・・はい。」
「コモモはね、人の言葉がわかるの。」
「・・・まて、とか ふせ、とかですか?」
「いいえ 人が話している内容とかよ。それどころか文字も読めるんじゃないかとも思うの。」
「・・・・・・・・。」
おいぃ!ペットォ!何しちゃってくれてんだよ!!
国主を鼻であしらい、あのガツク大将に面と向かって文句・・いや意見をいい、ダイス大将は無視する
頭脳明晰にして豪胆、慈悲深い?僕の上司をこんなにして!
「・・それはどうかと・・・」
「ちょっと聞いてよ!」
「・・・はい。」
上司いわく、国主がやって来てペットに「太ったな」と言って帰って行った。それを聞いたペットは落ち込み、その後おやつを食べず、部屋中を走り回っているらしい。
「まるでダイエットですね。」
「でしょう!?お兄様の言葉がショックだったんだわ~ かわいそうなコモモ。飼い主として不甲斐ないわ・・。私もコモモの言葉がわかればいいのに・・。」
ちょっとペットォォ!!お前は僕の上司を何処に連れていくつもりなんだよ!!
上司がアッチの世界にいったらどうしてくれるんだ!
「そうですね・・・ 無理なダイエットは体を壊しやすいですし、獣医に相談してみてはどうでしょう。」
なんとか無難な答えを返して休息は終わった。
その日の深夜、奥でボヤ騒ぎが起き テンレイが事後処理を終えて部屋に帰ってきた時、
モモコの姿はどこにもなかった。
~2時間前~
モモコが物音に起きると、すでにテンレイはドアの向こうに消えるところだった。
何か緊急な事でもあったのだろう。
前にも一度こうして出て行った事があった。
テンレイさんも大変だなぁとおもったところでドアがかすかに開いていることに気づく。
あんまり慌てて閉め忘れたらしい。
(不用心だよね・・よしっ!あたしが閉めよう!)
と、ドアに近づき、
(日頃お世話になってるお返しに・・こんな事ぐらいしかできない自分が情けない・・)
前足で閉めようとして、ふと外が気になった。
(そういえば一人で出た事なかったなァ・・ちょっと覗いてみよう。)
ドアの隙間から顔を出してみる。
(おおー!夜はまた趣が違うな!)
そして部屋の中から一歩、また一歩と踏み出しついには完全に外に出た。
テンレイの部屋前にある庭園は格子状の天井があり、そこからバレーボールほどの丸い外灯を吊るしてある。それらが灯ってとても幻想的だ。
モモコがうっとり見惚れていると、なんのひょうしかドアが閉まった。
モモコは仰天した。
(げげー!!閉まった!どうしよう!)
しばらくドアを開けようと奮闘したが、猫の しかも規格外に小さい(元の世界では普通。この世界では子猫よりは大きいかな程度)モモコではどうにもならない。
諦めてテンレイを待つ事にした。
(しかし暇だな・・・・ハッ!いい事考えた!)
こういう場面でいい事~は、たいてい事態を余計にややこしくするものだがモモコの場合ももちろんそうなる。
モモコは左右に伸びる長~い回廊を見た。
(ここでウォーキングすればいいじゃん!ダイエットにもなるし、暇も潰せるし、一石二鳥!)
モモコはまず左に行ってみる事にした。
歩くよりは早い速度で進み、ようやく曲がり角まで来て、結構あったなぁともと来た道を振り返り、そして前を見た瞬間、
[おどれ、どこのモンじゃぁ・・ここらで見ない顔じゃのう。]
自分の5倍・・いや10倍はでかいドーベルマンがいた。
[あわ・・あわ・・あわわわわわ]
青ざめ、震えるモモコ。
[泡?泡なんぞついとりゃせんぞ?]
ドーベルマンはモモコをもっとよく見ようと背を屈めた。
ドーベルマンとしては誰かの飼い猫が迷い込んだのだろうと思い、もし自分の知っている人であったらそこまで送って行ってやろうとまことに親切な事を考えていた。
よく見ればまだ子供である。しかもめったにいない猫だ。
そんな紳士な事をドーベルマンが考えているとは露ほどにも思っていないモモコ。
犬が身を動かした時、恐怖にかられ思わず前に駆け出した。
[またんか!!]
続く怒声・・・に聞こえる声を背にますますスピードを上げるモモコ。
もちろんドーベルマンも追いかける。
このままでは迷子どころか行方不明者になってしまう。
総所は広い上に入り組んでいる。
(どこかケガをして野たれ死ぬのがオチじゃ!見失う前に保護せんといけんのう!)
ドーベルマンは至極まっとうな考えをもって追いかけて来ているのだが、
いかんせん顔が怖い。
モモコは死に物狂いで逃げた。
かなりの距離を走り、モモコの足がもつれ、息も絶え絶えになってきた。
(やばいっ・・・追いつかれる・・!)
モモコは生垣をやっとこさ乗り越えジャンプした。
その時後ろから、
[待て!そこは・・!]
ドーベルマンが声をあげたがモモコは聞いていなかった。
バッチャァァン!!
モモコは吸い込まれるように暗い水面に消えた。
慌てる犬を置いて、モモコは動かぬ足を必死で動かす。浮き沈みを繰り返し、やっと足が底を捉えた。
ぽたぽたと滴を落とし、ヨロヨロとよろけながら、歩を進める。
そしてどこかの建物の壁にもたれるように倒れた。
どれくらいそうしていただろう。
ふと人の声が聞こえたと思ったら持ち上げられた。
「誰だ 人の玄関前に雑巾を捨てたのは。」
雑巾?失礼な--と抗議しようとしたモモコは
「ぶえっっくしょい!!」
盛大なくしゃみをした。
持ち上げた雑巾に手足らしきものがついてる事に気づき、ちょうど目の高さまでもってきた
ガツクは顔中にモモコのヨダレや鼻水、池の水やらを浴びた。
「貴様・・・。」
ガツクは瞬間、人を殺す目つきになったが相手が小動物なのを見てとると怒りをおさめた。
「どうしたものか・・・」
ぶらさげたままの生き物は気を失っていた。
うむ!「最悪な出会い編」終了!よし次ぃ!