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偏屈さんと一緒  作者: ロッカ
82/84

7-10 わかっていてもどうにもならないもの。です


思わぬ闖入者にモモコが呆気に取られていると、


「ペッペッ・・・雪マズっ!・・・お?よぉ、モモコ。相変わらず小さいな。」


当の本人は口の中に入った雪を吐き出し、ポカンとした顔のモモコを見て、通りすがりの人の様な挨拶をした。

修羅場に割入った気まずさというか・・・緊張感の欠片すらも見当たらない。


「・・・・・シス、か?」


一方のガツクは、師であり、一応の目指す目標でもあったシスと実に21年振りに再会した。・・・というのに本人確認に名を呼んだけで、後は平素と変わらない。特別驚いたようでもない。


「おおう!おうおうおう!バカ弟子じゃねぇか!久し振りだなぁ!・・あん?・・・つーかなんでお前、裸なんだ?その下フルチ」


ドゴァアアッ!!!


シスがナニかを言おうとしたその時、地面からキラキラしいモノが飛び出しシスの顎を殴りつけた。

放物線を描いてシスが消える。


「貴方という屑は・・・いい歳して空気も読めないんですか。今何言う気でした?淑女の前を何と心得るのです、いい加減殺しますよ。」


ステルスは吐き捨てる様にシスが消えた方に言うと


「お久しぶりですモモコさん。こんな雪にまみれた風体で申し訳ない。」


モモコに向き直り完璧な紳士の礼を取った。

・・お前も空気を読んでいない。まぁステルスはわざとやっている感があるが。


「お、お久しぶりです、ステルスさん。・・・・ええーと、あの・・・お二人もお変わりないようで。」


二人の乱入のお陰でモモコとガツクの緊張感は彼方に引っ込み、モモコは今の今まで泣いていた事も忘れ何とか返事を返した。


「・・・・コイツを知っているのか。」


ガツクが怪訝そうに(すかさず)、モモコに聞いた。


「え?・・あ、あの」


(シスさんの事はガツクさん達には内緒だったっけ。あ、でも今シスさんと再会したから・・・もういいのかな?えーと・・・・ステルスさんの事をなんて説明すれば。あたしも詳しくは知らないんだよな。部

下?うーん。)


モモコがシスの事を黙っていた事に後ろめたさを感じ、焦っていると飛ばされたシスが戻って来た。


「ひでぇなぁお前はよう。少しは年上を敬まう事を知らねぇのか。」

「生憎と下等生物を敬う性格ではありません。あ、失礼人間でしたね。言い直しましょう。生憎とウゼェ死ねクソジジィを敬う性格ではありません。・・・・・・おや?言い直さなくても違いはなかったですね。」

「あるあるある!全然あるぞ!!!ていうかどっちも嫌だわ!!」


「シス。」


シスとステルスの攻防を元からなかった事にしてぶった切る声音でガツクが遮る。

まだギャースカじゃれていたシスとステルスはガツクに向き直った。


「驚かねぇんだな。」

「あんたが生きてる事はわかっていた。いつか俺達の前に姿を現すだろう事もな。それが今なんだろう、驚く事か?」

「相変わらず可愛げのない弟子だな。20年振りの再会だというのに師匠は泣いちゃうぞ?」


ガツクはシスの泣き真似を無表情でド無視シカトすると、ステルスの背後に立って2人のやり取りを見ているモモコに視線を移した。

ガツクと目が合ったモモコはビクッと体を揺らすと、激しい想いを含んだ視線から逃れる様にステルスの背中に身を寄せた。モモコが己よりも他の男を頼るさまを見たガツクの頬が引き攣る。


「そんな事よりもシス、俺とモモコは・・・・少々込み入った事情がある。後で相手してやるから今は遠慮しろ。」


俺様系、超上から目線で(ガツクに師弟の礼とかそういうモノを期待してはならない)続けると


「それはできねぇ相談だな。」

「何だと?」


シスが速攻で断って来た。ガツクの眉間の皺が増大、且つ深くなる。


「珍しい。貴方と意見が被る事があるとは。」


と、続けてステルスから否な返事が返ってきた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


ガツクがモモコに向かって歩くと、シスとステルスは守る様にその前へと立ち塞がる。男3人は顔をくっつける様にして互いにガンを飛ばし合った。顔は凶暴その物に変わり3人 (モモコは除いてやろうではないか)の間に恐ろしいほどの静寂な空気が流れる。


ガキッ!


冷や汗が滝の様に流れるモモコが瞬きすると、既にシスがガツクの手刀を受け止めている所だった。


(・・・・全然見えなかった)


何が起こったのか理解したモモコが、信じられないようにガツクとシスを只、只、見る。見る事しか・・・できない。


「シス・・・何のつもりか知らんが俺とモモコの事に首を突っ込むな。」


固まるモモコを余所にガツクが怒りのままに低い声で警告する。誰もが凍りつく声音だったが、さすがはガツクの師だろうか、シスはガツクの手をギリギリと抑えながらも、


「そう尖るなよ。それに権利なら俺だってある。なんたって俺とモモコは只の知り合いじゃないんだからな。なぁモモコ?」


からかう様に後ろのモモコへ笑って視線を送った。



・・・まさか。モモコと?


ガツクが軽く目を見張ると(自身との再会時よりも驚く顔をするガツクに、シスの丸太の様に太い神経はちょびっと傷ついた。)シスを睨みつける。


「・・・・どういう事だ。」

「聞きたいかぁ?でも薄情な弟子には教えてや~らん。」


シスがニヤニヤしながらおちゃらけると、青筋立てたガツクは無言でシスの鳩尾目掛けて下から拳を突き上げた。

それを今まで2人のやり取りをつまらなさそうに見ていたステルスが、横から流す様に手で外す。

ガツクの拳は空を切った。


・・・・・・・・・・・・・・・。


ガツクが再度戦闘態勢に戻るよりも一拍早く、シスはモモコの体を抱き上げるとステルスと共に大きくバックステップした。



「シスさん!」


モモコからは驚いた声が小さく上がり、ガツクからは


「モモコに・・・・触るな!!!」


怒りに満ちた声が雪原に咆哮の様に響き渡り、ビリビリと空気が震えた。


「・・・・うるせぇなぁ。怒鳴らなくても聞こえてるよ。」


シスが片手で耳を抑えながら顔を顰め、そこで涙の後が残るモモコの冷たい頬を擦る。


「モモコ・・・お前泣いてたな?コイツになんかされたんだろ。」


頬を撫でる指先からピリピリとした怒りの波動を感じ、モモコはハッとシスの顔を見上げた。

だがシスはもうモモコを見ていなかった。その激しい怒りの視線はガツクを睨みつけている。


「・・・シスさん、あの」


声を発したモモコだったが男達は耳を貸す雰囲気ではない。

ガツクはシスに負けず劣らずの視線でシスを睨みつけるとそれを外さないまま


「あんたには関係ない。モモコ。」


モモコに呼びかけた。

モモコがまた身構える様に体を硬くすると様子を窺っていたステルスが口を開いた。


「モモコさん、コクサとの間に何か進展・・・というよりは後退している様ですが、以前とは展開が進みましたか。」


モモコはこの大男から告げられた頭にくる・・・どころではない話を思い出し、唇を噛んで俯いた。


「それはモモコにとって泣く程のことなんだな?嫌な事か?許せない事か?・・・・受け入れねぇ事か?」


シスが次々と質問するも・・・・返答のしようがない。モモコだとてまだ混乱しているのだ。感情は散々に乱れ、ガツクに何を言い何を聞きこれからどうすればいいのか全く考えられない。瞳はモモコの苦悩を濃く映し、悲しみに潤む。

モモコを見詰め続けるガツクも苦しそうに顔を歪めた。


「ふむ。」

「どうします?」


暫く2人を交互に見て顎を擦りながら思案していたシスだったが、ステルスが話しかけると事が決まった様だ。


「よし。モモコ、暫く俺らと一緒にいるか。」


え!


モモコが弾かれたように顔を上げるのと


ブアッ!!


ガツクにシスに飛び掛かるのは同時だった。


「おっと」


が、読んでいた様にシスがモモコを抱えたまま後ろに飛び退る。


「・・・・・・・・・。」


ガツクは先程苦しげに歪めていた顔を一変、憎々しげにシスを睨む。


(さっきから・・・・ガツクさん?)


モモコは普段とは違うガツクに不安を覚えた。あの夜、シスの事を語っていた顔と全く違う。


(ガツクさん、どうしちゃったの?ねぇシスさんだよ?あんなに会いたがってたじゃない)


懐かしむ様に僅かに笑んでまでいたのに。

今は・・・尖る視線に寒気がするほどだ。


「モモコさん如何されます?コクサとの間に干渉するものではありませんし私としてはこの人間兵器に極力関わりたくはないのですが。」


いつの間にか側に立ったステルスが面倒くさそうに放つ。


「あ。」


モモコは二人を巻き込んでいる事に今更ながらに気付くと申し訳なさにシスの腕の中で身じろいだ。


「こらこら、動かない動かない。落ちるだろ。」

「でも!」

「まあ、お待ちなさい。関わりたくはないのですが、今の貴女をこの人でなしに渡すほど薄情でもありませんよ。」


ステルスは僅かに微笑むとモモコの傍らに立ち、ガツクには昨日のブリザードよりも凍える視線を送る。

だがそんなモノ歯牙にもかけないガツクは


「シス・・・・モモコを離せ。」


最後だと警告を飛ばした。


「イヤなこっ」

「モモコさんは渡しません。」

「ちょっとぉ」


シスが決め台詞でも言おうとするのを遮り、ステルスはモモコとシスの前に守る様にして立ち、ガツクと対峙した。(シスの抗議は当然の様に黙殺される)




ギシィッ・・・・




ガツクが直線でも入った様に体を強張らせた。見る見るうちに空気が凝縮していきガツクを中心に集まっていく。


ピシピシ・・・・・


不自然なほどの静けさが辺りを急速に凍り付かせていく。ゆっくりと踏みつけていたガラスが今まさにその身が砕ける様に。

シスとステルスは最大限の気迫でもって身構えた。ガツクを一目見たときから二人にはわかっていた。ガツクに全く余裕がない事を。

・・・・モモコのみを求め続け、得、留める望みを叶えるためならば他はどうなろうと構わない。

確かにそう考える自分を懸命に抑えていたガツクだったが、モモコを手酷く傷つけていた事を初めて知り、モモコが本当に離れていく恐怖を初めて知った。

追い詰められた精神ガツクは。



とうとう理性の箍を外した。








モモコを渡さんだと?




モモコ


モモコ


モモコは俺のものだ


俺だけのもの


誰にも

そう

誰にも 誰にも 誰にも 渡すものか



-邪魔だな



二人が邪魔だ


いや 俺とモモコ以外全てが邪魔だ


邪魔 邪魔なモノはどうすればいい



わかっているではないか



殺せばいい







ガツクがゆっくり顔を上げた。

無表情の中、目だけが異様な光を放っている。


(ガツクさん?)


モモコは見た事もないガツクにゾアッと全身が泡だった。

その窒息しそうな暴れる圧力に・・・不安どころではない、恐れが初めてモモコの身を奔る。

今まで暴れるガツクを何度か見た事はあるがこれは・・・・


「モモコ、しっかり掴まっていろよ。振り落とされねェようにな。ステルス、来るぞ。」


ガツクの狂気に当てられ、震えを抑えられないモモコをしっかり抱えたシスはステルスにも警告を飛ばす。


「雷桜隊大将ガツク・コクサ。あれほどのモノが見られるとは。・・・・光栄、と言ってよいのでしょうね。」


軽口を叩きながらもステルスの米神こめかみを汗はツツ・・と伝い落ちる。


「おい・・・気ィ張ってけよ。最上級どころじゃねぇ・・・・こうなった奴は異常なんだ。」


シスは堅い声で部下に再度注意を促した。


(わかっていますよ・・・忘れられるものではない)


ステルスの脳裏に初めてガツクを見た時の事が思い出される。

あれはどこの戦場だったか・・・・



戦火に荒廃した大地にて四方八方に散らばる敵の残骸を、得意がるでもなく恐れるでもなく哀しむでもなく、淡々と、只事務処理の様に検分していた。

始めから終わりまで常に同じ状態であっという間に敵を蹴散らした男。

全てが終わり引き上げる頃ステルスはシスに問いかけた。


「あの男は人間ですか?」


シスは苦笑してかつての弟子を酷評する部下を見た。初めて聞くものではない。


「正真正銘人間だよ。まぁ、そう言いたくなるお前の気持ちもわかるが。」

「・・・・おかしいですよ、あの男は。何かが。」


あくまで作戦に乗っ取り、教本の手本の様に粛々と敵を屠るガツクの様子に、ステルスは言いようもない違和感を感じた。


(あんな人間・・・見た事がない)


職業柄おおよその人間を見てきたステルスにとっても、ガツクという人間は未知なるものへの恐怖に背筋が凍りつく様であった。


「あいつはあれで通常なんだよ。おかしいと思ってないのは本人だけだ。」

「あの男が・・・道を違える様な事があればどうするのですか。」


ガツクが一度意を反意すれば。

ゾッとする。考えたくないほど強大な脅威になるだろう。それほど戦場のガツクは異様を放っていた。

シスが悲しそうに肩を竦める。


「どうするってもな・・・・・俺達には願う事しかできねぇよ。ただ・・・」


シスはそう言って祈る様に空を見上げた。


「あいつを止める物・・・満たす物とも言うか・・・ソレが見つかればあるいは。ソレを知り、自分の中にカラを見つけたその時・・・」





あいつはきっと、な。






ヒュン


予備動作の一つもなくガツクはいきなり目の前に現れた。

シスの喉に向かって手刀が下から出される。シスが軽く仰け反ってかわすのと、ステルスがガツクの真横から脇腹目掛けて拳を叩きこむのは同時だ。



確かに捉えたと思ったステルスだったがまるで手応えがない事に気付く。と、考えるよりも身を反転させてガツクから距離を取った。

ガツクの長い脚が唸りを上げてステルスの衣服の端を掠める。ガツクは振り下ろした足をスイッチすると後ろ回し蹴りで今度はステルスの胸を強かに蹴り上げた。


「グウウッ!」


咄嗟に両手でガードしたステルスだったが、重く内臓にまで響く蹴りに堪らず呻き声が洩れた。折れたかひびが入ったか。

ガツクはステルスを遠ざけるとシスに向かって再び攻撃しだした。その顔は憎悪に強張っている。固く固く・・・・モモコに怯えられているのにも気付かない程固く。

モモコは暴風の様な二人の攻防に揺さぶられシスに必死にしがみ付く。激しい動きにそれを見てますますガツクの内に盛る嫉妬と憎悪が蓄積されるのも気付かない程だ。目はとうに閉じられ、耳にはバシッ!ドガッ!等と心地よくはない音が飛びこむ。息が出来ない苦しい。動いてはいないのにモモコの額から脂汗が流れる。手が震え始めた。


「ガツク!ちょっと待たねぇか!このままじゃモモコが」


シスがモモコの状態に気付いて待ったを掛けるが


「・・・・・・・・・。」


ガツクは止まらない。


「こ、の男は!」


痛みを堪えて間に入ったステルスが渾身の力でガツクを殴りつける。


ギロ。


よろめいたガツクだったが踏み止まり、もう一つの獲物に目をやった。


ギクン


(殺される)


ステルスは獰猛な視線に本能から体が硬直する。

ガツクはステルスを目に捉えたが、体を捻ると、ステルスの援護で一瞬体が緩んだシスの脇腹にくそ重い一発をめり込ませた。ミシッと嫌な音がやけに大きく聞こえる。シスから細く息が漏れた。


「社長!」


ステルスが思わず声を上げると


・・・・・ィン


ガツクの拳が己の目の前まで来ていた。




反応できな




「ガツクさん!!」


ビタッ


直撃すれば間違いなくステルスを破壊できる拳はステルスの目、ほんの数センチ先で止まった。





「ガツクさん・・・・・」



モモコが泣きそうな声でガツクを呼ぶ。


「モモコ・・・・・」


ステルスに拳を突きつけたまま停止したガツクは目を瞬いてモモコを茫然と見つめた。狂う様に動いていた体から急速に力が抜けていく。


(俺は・・・モモコ・・・怯えているな・・・俺に。やはり、俺には。何故俺は)


そんな顔をさせたいわけではないのに。

だが間違いなく己のせいなのだ。何故・・・何故もっと上手く立ち回れないのか。


ガツクが立ち尽くす一方、シスはモモコをゆっくり降ろすとガツクに近寄り思いっ切り拳を突き上げた。ガツクが仰け反る様にして雪の地面に倒れた。だがシスはそれでも足りない様にガツクに拳をめり込ませ時には蹴りまで入れていく。


「天下の雷桜隊大将が何ブレまくってんだ?たかが女一人によォ。名が泣いちまうぜ。」


一頻りガツクをボコボコにして気が済んだシスは腕を組んで喋り始めた。


「・・・・・俺は・・・シスよ、俺にとってモモコは只の女ではない。大事な・・・かけがえのない大事な存在だ。」


ガツクは軋む体に鞭打って暖慢な動作で起き上がると、殴られた際切れた口元の血を拭った。口はシスに向かって言っているのだろうが目はモモコを真っ直ぐ見たまま。


(ガツクさん・・・)


モモコが息を飲んで硬直する。

ガツクから直接聞く初めての言葉だ。なのに・・・どうして素直に喜べないのだろう。心は曇ったまま。

・・・いや、本当はわかっている。わかっているから。


「その割には褒められねぇ扱いだな、お前がコイツにしてきたことを考えりゃ。・・結局テメェは何がしたいんだよ?引き寄せたり手放したり、かと思えば周りをチョロチョロしやがって。お前はモモコの事をどうしようとしてるんだ?お前がグラグラしてりゃ周りが迷惑すんだよ。いつまで周りに迷惑かける気だ?そしてそのいっちゃん筆頭がモモコだ。お前だってわかってんだろ?・・・・もう一遍頭冷やしてコイツとの事考えろ。それまでモモコは俺が預かる。」


有無は言わさない、そして真っ当な事を正面切って諭すシスにガツクは一言の反論も出来なかった。

自分の不甲斐なさばかりが空回りで、ただただモモコを傷付けるばかり。


「ガツクさん。」


立ち尽くしたまま項垂れるガツクにモモコのか細い声が掛かる。

のろのろと顔を上げたガツクだったが、モモコの泣きそうな顔を見て辛そうに眉根を寄せると固く瞼を閉じた。


「モモコ・・・・・・俺、は」


何とか言葉を絞りだそうとするが喉が塞がれたかの様に出てこない。

モモコが首を振る。

ガツクが恐れる様に目を見開いた。それを見てモモコはもう一度ゆっくり首を振って言い添える。


「違うのガツクさん。あたしも・・・あたしだって。」


ガツクが何を危惧して自分を遠ざけたかよくわかった。ただ、だからと言ってあの仕打ちは許せるものではないし今でも心は傷ついている。でもガツクを慕う気持ちもまだ、いやいつもそこにある。強い想いにどうにかならないのが不思議なほど。

モモコもまた己と同じように荒れ狂う感情に惑っているのを感じたガツクは再び目を瞑ると


「シス・・・ステルスといったか・・・・・モモコを頼む。」



シスとステルスに頭を下げた。

シスの言う通りだ。

時間が必要だ。それぞれが一人になって考える時間が。


「フウ。」


嘆息したシスはモモコを抱え直し


「ホクガンとダイスによろしく言っといてくれよ。ああテンレイにもな。他の奴等、特にシラキ達には俺の事はまだ言うんじゃねぇぞ。」


すぐに背を向けて肩越しにガツクに言うと、ステルスの方はチラリとガツクを横目で見て無言で二人に続いた。





ガツクは歩き去る3人を静かに見送る。


モモコの頬を我慢していた涙が滑り落ち、朝日が照らす。

だがモモコは涙をガツクに知られないよう深く俯いた。これ以上ガツクを動揺させたくなかったからだ。


だがガツクはそれに気付いていた。

モモコに己を気遣ってもらう事は更に負担を掛けてしまっていることの証であり、自責の念にかられる。一方。また逆も然り。己の存在をモモコに刻んでいる事に対する喜びもある。


ガツクは歯を食い縛った。叫ばぬ様に。

きつく。きつく。

血が出るほど口元を噛み締める。


モモコから耐えきれず嗚咽が漏れた。

慌てて手で抑える。

それでも溢れる涙は頬を伝い続けた。


どんどん遠ざかる。

やがて姿は


見えなくなった。






渦巻き混沌とし想い。それでも求めずにはいられない。


シスは・・・・・・多分役に立ってる。


おおよそ。

おそらく。

かろうじて。


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