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偏屈さんと一緒  作者: ロッカ
78/84

7-6 ドコモカシコモ、アツク・・・テ

バシャッ!


運んでいた水差しが倒れ、零れ落ちた結構な水の量はちょうど正面にいたガツクを盛大に濡らした。

呆然と立ち尽くすモモコ。

ガツクは無表情でずぶ濡れのシャツとズボンを見ている。




や・・・やっちゃったぁあああぁあ!!!




今日この時間、モモコは総所全体の部のトップを集めた定例会議に、給仕手伝いとして駆り出されていた。カップやら何やら細々とした物を準備していた所、ちらほら人が集まって来たので喉を潤すための水差しをテーブルに置こうと重そうなそれらをモモコはいくつかトレイに取った。


「モモコさん、大丈夫ですか?」


サムが心配そうに聞くが


「・・・何とか!いけそうです!」


ちょっと持ち上げてみてモモコにはかなりの重量となったが、何の根拠もない、いつもの前向きな思考はギリギリ持てると判断した。

んが、期待を裏切らない(ホクガンの期待も裏切らない)モモコなのでやっぱな-な容赦ない展開に・・・・








「ごっごごごめんなさい!」


青ざめ、固まったモモコだったが我に帰ると急いでタオルを取り濡れた箇所を、とにかく拭き取れ!とパ二くりながら水気がある所を拭き続けた。

水はガツクのスラックスまで零れている、当然拭く手は徐々に下の方へ・・・


「モ、クロックス、もういい。」


一見(耳聡い者達には僅かに上ずっているのがわかる)冷静な声がして、ガツクの大きな手はモモコのソコを拭き取ろうとする手を掴んだ。


(うわぁああぁ!いいぃいぃいい!!)


ハッとしたモモコは自分がもう少しで到達する箇所を見て慄くと共に羞恥で真っ赤になった。


その時。


ドン!


「ぶっ!」

「!!」

「お、わりいモモコ。」


通りがかったホクガンがぶつかり(チャンスだろ。これでいかない俺じゃない☆)、モモコはガツクの膝に前のめりに倒れた。



(ホ・ク・ガ・ン~!!)


モモコは心の中でホクガンに呪いの念を送りながらも急いで起き上がろうとした。恥ずかしさのあまり涙目である。と、ガツクが掴んだ手頸をグイと引っ張り上げ、勢いよくモモコを引っぺがした。急な動きにモモコが体をぐらつかせる。


「・・・・・っ!」


思い切り引き剥がしたガツクであったがモモコの状態を一目見て息を飲む。と、剥がした時よりも強い力でモモコを抱き寄せた。

壁にぶつかった様な衝撃に、


「おぶっ!」


とモモコから可哀相な声が漏れる。

ワケのわからないガツクの行動にモモコは目を白黒させていたが


「・・・カイン、着替えを持って来い。予備室に居る。」


頭上からガツクの低い声が聞こえると我に返った。


「あ、あのっ!」


声を上げるが抱き上げられ、コートの中に包まれるとその声もくぐもって消える。隙間なく抱きかかえられているので息が詰まりそうだ。振動しているので何処かへ移動か?


(なんだ?なんなんだ?どうしてこんな展開?ていうかあたし仕事中!)


混乱と息苦しさでモモコがグルグルになっているとやっと頭を解放された。


「ぶはっ!」


新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込むと落ち着いてきた。周りを見渡すと会議室と廊下で挟んである、予備室の一つである事がわかる。

ゆっくりとガツクに降ろされたモモコが反射的に見上げると、眉間に皺を寄せたおっ怖ろしい顔がこちらを見下ろしていた。


「さ、さっきはすみません!」


瞬時に先程の失態を思い出したモモコは慌てて後退して頭を下げた。

はぁとため息を零す感じがして益々モモコは恐縮した。


「・・・・・クロックス、まだ自分の状態に気付かないのか。」


呆れる様な詰る様なガツクの声がして


「?」


身を起こしたモモコが首を傾げる。

再び全体が露わになった姿にガツクはアイアンクローで自身の目を覆った。力を入れ過ぎたのかミシッと音がする。(ガツクの頭蓋骨と手の力、どっちが強いと思いますか、諸君。ちなみに作者は頭蓋骨です)


「あ、あの・・・どうかしました?」


ドンくさい上に鈍いモモコは全く状況に気付かず、逆に不審げな態度のガツクに声を掛ける。


「・・・・・・・・お前の服の状態を見てみろ。」


硬い声でガツクが言うのを目線を降ろして見てみれば。


今日のモモコの給仕スタイルは白いシャツに黒のズボン、黒の前掛けといういわゆるギャルソンスタイルだ。

諸君はホクガンがワザとモモコを突き飛ばしたのを覚えているだろうか?ダイブした場所がびしょ濡れのガツクの膝の上だった事も。とーうーぜーんーモモコのシャツも濡れた。

もう察しが付いている諸君だろうが何が言いたいかというと、




透けている。

何が。胸が。

バッチリ、柔らかな谷間も下着の色もどんな意匠なのかも。




「ぎゃぁああああ!!!」


モモコは体を抱く様に腕を交差させると蹲った。顔から、いや体中から湯気が出そうだ。


(っっっ!!!このっまま!頭ショートして気を失ってしまいたいっ!いやいやいや!気を失ったらまずいっなかった事にして速やかに立ち去りたい!!)


とにかく消えたい!とひたすら羞恥に悶えているとふわりと何かが掛けられ、次いでズシッとした重みが加わった。

首を回して見てみると黒く硬質な布・・・もとい、雷桜隊の黒のコートが被されていた。


「ガツクさん・・・・」

「それを着てとっとと部屋から出て行け。」


ぶっきら棒なもの言いながらも、また助けてくれるガツクにモモコが感謝の念で見上げると、ガツクは背広を脱いでいるところだった。


・・・・モモコは固まった。


ガツクは脱いだ背広を近くの椅子にドサッと投げると黒のネクタイをシュル・・・と外し、後を追わせた。次いでワイシャツの第一ボタンを外そうとしたところで、モモコの視線に気付いた。

濡れて、ピタリとガツクの肌に張り付く生地。ガツクは体温が高いので、真冬でも余程の事がない限りアンダーシャツを履かない。なので鍛え上げられ、盛り上がる胸の筋肉とばっきり割れた腹筋を濡れた生地は絶妙な透け加減で晒していた。その浅黒い肌を、呆然としながらもモモコの無意識だろうか、熱を孕んだ視線がゆっくり、ゆっくり胸を辿り、鳩尾で少し留まってから一つ一つなぞる様に下へと下がる。

ガツクも魅入られたかのようにモモコから目が離せない。

頬をうっすら赤らめ、潤んだ目と僅かに開かれた唇。掻き合わされた黒衣の下の柔らかな肌がどうなっているかはもう知っている。


カッと体が熱くなった。


ギリギリと締まる様に硬くなり膨張する。ガツクは暖慢な動きで作業を開始した。第二ボタンが外れる。しっかりとした鎖骨が現われた。




張り付くシャツを着たモモコを・・・・・




第三ボタンが外れた。モモコが息を飲む音がする。腹の底がまた熱くなった。




・・・・己の熱い肌に抱き寄せたなら。




ガツクはシャツの裾を引っ張り出し、第4ボタンを外した。纏わりつく生地。ガツクを諌めるかのよう。




冷たいと思う側から温まり・・・やがて手の付けられない熱さになるんだろう。




何も考えられなくなるだろうその熱い想像に、細く震える息を吸い込むと今度は絞り出すように吐き出した。掻きたてられた熱い熱い情はもう我慢できない程高まっている。

モモコに触れなくなって随分経っていた。己の所為ではあるのだが。


ガツクの凝縮した空気に当てられたのか、モモコの体は男の硬い体と対をなすかのように柔らかくなった。なんだか胸が痛い。足に力が入らず、それどころかペタンと床に座り込んでしまった。コートの襟を命綱の様に握り締めていたはずの手は徐々に下に落ち、少し開いた隙間から薄く色づいた肌と張り付く生地が微かに覗く。全部が見えているわけない。なのにガツクの飢えた様な焦がれる視線に全て肌蹴られ晒している気になってしまう。頬が熱を持っているのがわかる。上下するしっかりとした喉仏。荒々しく息を付くガツクから目が離せない。何もかも奪い尽くすかのようにひたと見つめる男から女の本能は震え、逃げたくなる。

でも。

モモコは眩暈を覚え、やっとの事で眼を伏せると籠った熱をため息に変えて零した。


(・・・逃げたくない・・・・掴まえて・・・欲しい・・・ガツクさん・・・)


モモコが切なそうに再びガツクを見やると。


それを受け取ったかのよう、うねる様な熱気を纏った男は一歩、女へと踏み出した。



ドクッドクッドクッ・・・・



自分の鼓動が相手に聞こえているのではないかと思うほど高鳴る。

ガツクの手が僅かに上がる。

・・・・緊張が最大限に高まったその時。




コンコン。




!!


ガツクはギョッとして咄嗟に後ろへ飛び退った。

モモコもビクリと体を揺らす。


・・・・・・・・・・・・・・・・・。


2人とも暫く縫いとめられたかのように固まっていたが、


「・・・入れ。」


いち早く立ち直したガツクが、モモコがしっかりと前を閉めているのを確認すると入室を許可した。

失礼します、と声が聞こえドアが開いてカインが入って来た。カインはモモコにコートが渡っているのを片眉を上げて見ただけだが、半裸に近いガツクの方はあからさまな非難を込めて見る。が、何も言わずに着替えを渡した。

2人のぎこちない雰囲気には敢えて気付かない振りをし、普段道りの態度を通す。


「ガツクさん、あと5分ほどで始まります。」

「ああ。」


瞬く間に熱を封じ込めたガツクは、完璧に抑制の取れた返事を返した。まだ放心状態のモモコに冷たい目を向ける。


「何時までそこに居るつもりだ。お前もさっさと着替えて来い。部屋は暖かいとはいえ真冬なのだぞ。」


出た。

キリッとしていたカインの目が生温かくなる。


「早く着替えて体を温めるんだな。・・・・・・お前の事を思っているのでない、お前の具合が悪くなれば・・・サムが困るだろう。それだけだ。勘違いするなよ。」


(いえ、心配はするでしょうけど困る事はないと思いますよ。だって国主に頼まれて今回モモコちゃんを使ってるんだし。・・・しかしガツクさんのツンデレは超絶キモコワ、いやいやいや?何思ってんだ俺。一応この人は上司なわけだし、気持ち悪いなんて思っちゃダメだろ。だがしかし・・・凄まじいなぁ・・・)


カインは、気が遠くならないかなと現実逃避望む!的に心の中で呟いた。

が、鈍いモモコはそれを真正面から受けてあたふたと立ち上がった。ショウの想いを打ち砕いたプリシラといい勝負である。ショウのツンデレに気付いて、なぜガツクのには気付かない。二匹に謝れ。


「あ、は、はいっ!・・・あの、本当にすみませんでした。しかもコートまでお借りして、ありがとうございます。早めにお返しします。」


もっと何か言う事がある様な気がするのだが、すぐにでも着がえたいだろうガツクの邪魔をしてはならないと、もう一度頭を下げて重いコートを引き摺りながら出て行った。


フウ・・・・


閉めたドアに寄りかかってため息を付いた。頬はまだ熱くほてっている。


(・・・・何か・・・ガツクさん・・・・)


そこまで考えてモモコはそれを振り払う様に首を振った。


(そんなわけない。・・・あれだけはっきり言われたんだもん、過度な期待はもたない!そう精神安定状、それがいい!)


期待を持ってしまったら。

それがまた勘違いだったら。

モモコはガツクのあの言葉を忘れてはいない。

そこから落とされるのは一度で充分だ。


モモコは片手で赤い頬をひと撫でするともう一度ため息を零し、ドアから離れて人気がない廊下をコートの裾が付かないようによいしょとたくし上げ、早く持ち場に戻るため足早に進んだ。


この衝撃的な(作られた)ハプニングの後、ホクガンの指揮の元、場を変え、品を変え手を変えてそれらは続き、何も知らないモモコとガツクは振り回されるだけ振り回された。


・・・・・・・合掌。いやこの場合はモモコだけか。







ガツクは持ち帰った書類を手で手繰ったが、気付くと同じ文章を何度も読み返している。ため息を付いてそれをリビングのテーブルに置いた。

片手で額を擦ると眉間を揉みそのまま手を滑らせて口元で止まる。


(モモコ・・・・)


ガツクの頭を占めるのは小柄でありながらも元気いっぱいに動きまわる一人の女性 (ここ強調)。

ガツクは窓の方へ歩むとカラカラと引いて空を見上げた。満天の星が見える。


(キアナンの方は星が殊更輝く・・・・モモコも堪能している事だろう。)


モモコが南の湾岸地方、キアナンの港町に出掛けて10日になる。

沿岸区域を守る波桔梗隊の取材だ。普段は影の薄い部隊だが地味でも大事な国境を守る部隊である。初めての遠出という事も手伝い、是非取材したいと喜び勇んでモモコは発った。

唐突に降ってわいた様なモモコの出張(これもホクガンの仕業である)。それを小耳に挟んだガツクは身悶えするほど悩んだが、さすがに何百キロも離れているキアナンと総所の往復は出来そうにもなく(悩むな!お前なら出来そうだけどな!)口惜しさに歯噛みしながら付いて行くのを諦めた。




(俺は・・・俺はモモコを諦めたのではなかったのか。モモコの未来を思えばこそ、傷つけてまで手放した・・・ならこの体たらくはなんだ。)


ガツクは頭を冷やすと自分の手がつけられない感情に呆れた。

ふと我に帰ると、モモコの事を考えたり我慢できずに顔を見に行ったりそのままこっそり後を付けたり眠るまで窓の外にへばり付いていたり無理はしていないかちゃんと寝たか飯は食ったのかまだ仕事するのか風呂は入ったか男と喋り過ぎてはいないか・・・等と一々チェックを入れたりしてしまう。

現に今も離れているのが苦しくて苦しくて仕方がない。人目のあるところでは鉄壁の理性と鉄仮面のごとき無表情で鉄鉄ガードを(ホクガン達に気付かれている時点で「鉄鉄違う」という突っ込みは勘弁してやってくれ。)展開しているが、一人になると途端にモモコがいない空虚にどうにかなってしまいそうになる。その原因は全て自分にあるのはわかっている。モモコの手を突き放したのは己だ。


(俺の執着は並みではない、いつか必ずモモコを傷つけてしまうだろう。)


あの雪まつりの間に、ガツクは自分にあるモモコへの暗く凶暴な感情を初めて自覚し、その激しさに慄いた。

一旦箍が外れてしまえば本人の意思など無視して欲望の赴くまま心も体も全てを貪り尽くすのは目に見えている。




簡単に

自分の力なら

呆気ないほど簡単に


モモコを。





熱を孕んで潤んだ瞳、上気した頬、色づく白い肌、吐く吐息の甘い色。

自分はその小さな体を優しく蹂躙するだろう。

何時もそうだ。矛盾しているがモモコへのこの感情は。

何ものからも守り、慈しみたい。心底そう思うと同時に。




全て


お前のその全てを俺の物に。





(正気の沙汰では、ない)


だが理性の声を余所にガツクは昏い欲望に震えた。


(・・・曲がりなりにも俺に好意を抱いている内はいいかもしれん。だがそれが変わったら?俺は絶対にモモコを手放さないだろう。だがモモコは真っ直ぐな女だ、俺の想いを優しくだがはっきりと拒むだろう・・・その時・・・その時俺は・・・俺はモモコを・・・)


ガツクは拳を握ると壁に叩きつけた。


(駄目だ駄目だ!絶対に!俺の様なケダモノを・・・モモコに近づけてはならない!)


ガツクは貫く様に天を見上げた。


何故・・・・

どうしてお前を愛してしまったんだろうな。

人でなしの人間兵器ならそれらしくあればいいものを。

俺などお前にとってはわざわいにしかならんというのに。

お前が数日いないだけでこの有り様だ。このままではまた無理難題を言ってモモコを困らせ、やりたい事もしたくない事も我慢させてしまう。そんな状態がモモコの幸せだとは思えない。だが実際モモコを前にすると自分の暴走を止めらない。それならばいっそ。モモコを拒否し、自分から遠ざけるしかない。独り善がりだと言われようと。こんな事しかできない自分に呆れた様な乾いた自嘲が洩れる。わかっている。充分わかってる。人でなしと呼ばれるに相応しいやり方だ。





・・・・・・だが・・・それでも、お前を愛する事だけはやめられん・・・許せ、モモコ。





ガツクは改めてモモコへ近づかない事を決意し、翌日帰って来たモモコへのストーカー行為、及びにツンデレもピタリと止めた。


モモコが帰ってきたら我慢の限界に達するだろうと踏んでいたホクガンサイドだが、予想外に我慢強い、それどころか逆に傾いたガツクに慌てて次の策を練っている内に、それよりももっと強力な試練がガツクに課せられようとしていた。



「モ・・・クロックスが面会許可だと?」


これがガツクの本音。かなり勝手な事言ってますが、自身の凶暴な力と(拉致監禁)出来うる権力を持っているのを知っているが為に、必死で思い止まっている次第です。一度始めてしまったら加減などできないのがガツク。こういう男です。

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