7-5 窓の外には充分気を付けましょう
応急処置が良かったのか早めに足が治り、開き直りという名の復活を遂げたモモコは精力的に広報課の仕事をこなした。
そこで少し困った事がある。
モモコの広報紙には「君の素顔に密着」というふざけた名の隊士達の訓練時の様子を取材したコーナーがあるのだが、最近掲載が危ぶまれていた。
広い部署部屋にモモコのため息が落ちる。
「・・・あたしみたいな普通の人間が付いていくレベルじゃないからなぁ・・・」
隊士達の訓練は容赦とか温情という言葉を何処かに置き忘れてきた大将以下将校達によって、一般人がドン引きするほど過酷なモノである。とてもドンくさいモモコがついて行くレベルではない。それでも前はウサちゃん魔王が抱えてくれたので何の苦労もなく存分に取材できたのだが・・・・
「ガツクさんにお願いする訳にはいかないし・・・言う勇気ないし・・・」
ていうか今までよく平気だったな!意識はしてたはずなのに・・・あの頃の自分が恥ずかしい!!
モモコは一頻り過去に悶えてからこの問題に取りかかった。
「う~ん・・・・最大の問題は隊士さん達が移動とかした時に一緒について行けない事なんだよな・・・。」
人間の限界に挑戦しているようにしか見えない移動時の彼らの速度。
移動がなぁ・・・移動・・・移動かぁ・・・・・・・・・・・・・・あっ!
「何か乗り物に乗ればいいじゃん。」
モモコはポンっと手を叩いて名案 (・・・おそっ!)を思い付いた。
「あ、でも待てよ。許可されるものかな?・・・まぁ・・それは後で検討するとして・・・何に乗ろう。」
普通に車かな?一応前の世界でも乗ってたし・・・
「バギーなんかどうだ?」
いっ!!?
一人しかいないと思っていた部屋に聞こえた声にギョッとしてモモコが顔を上げると・・・
「よっ!」
軽く手を上げて二カッと笑ったホクガンと持参した茶菓子を開けてぱくついているダイスがいた。
「一体いつの間に・・・・さっきまで誰もいなかったのに。」
モモコがデスクから離れ、2人の側まで来ながら呆然と呟いた。
「お前がグダグダどうでもいい独り言を言ったり何か気持ち悪くクネクネ身体をくねらせていた時からだ。」
「帰れ。」
ムキー!となったモモコがホクガンに罵声を一頻り浴びせた後。
「移動手段に悩んでるんじゃろ?」
モモコは「酒!」と言うホクガンに「勤務中だよ!バカ!」と返し、「じゃあ甘いモンくれ」と返されると「ホクガンは無視」と口に出して言ったが、結局は「くれくれくれくれくれくれ・・・・」と永遠に言いそうなホクガンに負け、ココアを入れてやった。ダイスには熱いほうじ茶だ。
「そう。以前はガツクさんに運んでもらったでしょ?だけどもう言えないし。って私って・・・。」
甘えだ・・・これ完璧甘えだな・・・口でいくら成人してるって言っても中身は子供のころと大差ない。本当は全部自分でやらなくちゃいけない事なのに・・・コレがあたしの仕事なのに・・・言われるがまま頼っちゃて・・・
ため息を付いて反省しきりのモモコ。
「いいじゃねぇか 別に。んな落ち込む事でもないだろ。」
「でも、もっと早くなんかできたはずでしょ。皆に頼ってばかりで情けないよ・・・」
「まぁだ始めたばかりじゃねェか。何もかんも自分でやるこたねぇ。あんまり力入れ過ぎると周りが見えんようになるぞ。」
ホクガンとダイスがもっともな事を諭す様に交互に言うが仕事をサボり、それぞれの補佐官に鬼の形相で追いかけられたり、ブリザードもかくやの冷たい声で説教されたりの2人の姿を日常的に見かけるので効果のほどは限りなく低い。
(この2人の言うのを真面目に聞いてたら怠け者になっちゃいそう。話半分に聞いとこ)
モモコはヘラヘラ笑う大男2人をじと目で見ながら思った。当然だ。
それはともかく、2人の提案を受けてモモコはジエン・ガトウ率いる武器製作開発部隊・雪菫隊に自分専用のバギーの製作を依頼した。そんな物をしかも彼らからしたら規格外に小さい乗り物はメカ狂いの興味を大変よく引いたようで、依頼書にサインしているモモコの耳に、
「ここからミサイル出したらどうだ。」
「ばか!クロックス課長の体ごと飛ぶだろ!そうじゃなくてここはやっぱガトリングガンだろ!」
「違う!訓練時は何があるかわからないですよ!ここから煙幕出したり油が出たり撒菱が出たりしてですねェ!」
等と不穏な会話が聞こえてきた様な気がするが・・・やはり軍部は変わった者が多い。と言うだけに留めておこう。
依頼は快く引き受けられ、それと同じくして各部隊の補佐官らに訓練時の取材時にバギーで同行させてほしい旨への(国主の認が降りた)書類を提出、受理された。
そして早くも(あまりの早さにモモコの胸に不安の二文字が浮かんだ)2週間ほどでモモコ仕様にカスタマイズされたバギーの試作品が出来上がり1週間ほどで細部を補強改修、新たなモモコの相棒が誕生した。
「あの・・・・・・・・・この色は一体。」
モモコは隊士達のバイクと比べれば格段に小さい自分の可愛い相棒をボーゼンと見つめた。
ピンク。ピンクピンク、ピンクピンク。
そこにはグラデーション豊かな様々なピンクに彩られた小さなバギーがちんまりと・・・いた。
この前見た時は黒かったはず・・・・
「いやぁ・・・こんなに可愛いバギーを製作したの初めてだったんで隊士達が張り切っちゃいまして・・・つい調子に乗ったしまったというか・・・あの、すいませんやり過ぎてしまいました。」
自分も混ざっていたジエンは面目ないとばかりに頭を掻いた。
あ、でも記者は目立った方が誤射されにくいと思いますし(されてたまるか!)、コレくらい派手な方がいいんじゃないでしょうか?と笑ったジエンの首をモモコが締めたいと思ったのは内緒だ。
その後、バイク専用の訓練場で同じように練習していた隊士達に吹き出されたり、クスクス笑われたり、指を刺されて写真を撮られたり、まあ全体的に笑われながら、それでも練習するモモコが心の中でジエン以下雪菫の隊士達を激しく呪っていると
「えらいかわええモンに乗っとるのうモモコ。」
「ダイスさん・・・」
ニヤニヤ笑うダイスがこちらを見下ろしていた。
「あ、あたしが希望したんじゃないですよ!ジエンさん達が勝手に!」
自分の趣味だと思われては爆死もんだ!とばかりに必死になって訴えるモモコにダイスはどうどうと肩を叩いた。
「わかっちょる、わかっちょる。モモコは可愛ええ外見とは違うて案外あっさりしたモンが好きじゃからなぁ。大方調子に乗ったジエン達にええようにされたんじゃろ。」
首が捥げるかという程首を激しく上下に動かし肯定したモモコは、ダイスの横にウィンドニクが停車しているのを見た。
「ダイスさん程の人でもここで練習するんですか?」
モモコが今いる訓練場は主にバイクに乗りたての者が使う場所。ガツクと同じ位運転の技術に優れているダイスの来る場所ではない。
「うん?ここでお前が練習しとる聞いての、いっちょワシが見てやろうとな。」
「ええー!いいんですか!?」
運転の技術に関してはガツクにも引けを取らない(他にもあるわ!)ダイスからの提案にモモコは驚くと共に素早く喰いついた。
早く上達すればそれだけ早く現場に行けるし同行させてくれる隊士達にも迷惑をかける事は少なくなる。
モモコは訓練の過酷さでは部内一の雷桜隊にも同行取材するつもりだ。後れをとるわけにはいかない。
ー今のままじゃ確実に足手まといー
「よろしくお願いします!!!」
広い訓練場にモモコの高い声が響いた。
そのから1週間ほど、ダイスの厳しい訓練をみっちり受け(半ベソで頑張っ・・・バイクに乗ったダイスは別人だった・・・)、多少デコボコした道でもスムーズに乗れるようになったモモコは
「次の段階。」
と言うダイスに導かれるまま、知らずに上級者用訓練場に乗り入れた。
どうして・・・・
モモコは、ピンクの小さなバギーに跨り、これまた小さなヘルメットとゴーグルを付け、スタートの合図を待っていた。
隣からは黒光りする化け物バイクが轟音を響かせてスタンバっている。ガツクの愛車「レイマド」だ。
もちろん乗っているのはガツク。
戦闘用バイクの名に相応しく戦う事に特化した躯体は持ち主であるガツクによく似ていた。
即ち、ずば抜けて大きく、厚くて、俊敏。他を容易く掌握する程の圧力、そして冷徹。
その巨体の横に並ぶモモコのバギーは・・・チョロQに見えるほど小さい。
2人と2体は今・・・・『勝った方が訓練場使う権利あげちゃうレース』を行おうとしていた。
モモコは充分距離を取っているにもかかわらず、レイマドから発せられるエンジンの熱を感じながら心の中で叫び続けている。
どぉしてこうなったのぉおおお!!!
「・・・何のつもりだ。」
ガツクはピンクのバギーの横に首を竦めて立つモモコと
「何って・・・ここはバイクの練習場じゃろうが。モモコがバギーに乗る練習しにきたに決まっとろう?」
腕を組んでニヤニヤ笑うダイスを睨みつけた。
「ここが何処かはわかっている。今日この時間は雷桜隊が使う事になっているはずだ。何故今お前達がここにいるかと聞いているんだ。部外者は退け。」
圧力の掛かる声と目で言ったガツクであったが長年の親友には効かなかった。
「それがどういう事かのう、モモコも今日この時間ここで練習する事が決まっておるんじゃ。ほれ、コレがその証じゃ。」
ダイスは着崩したスーツの内ポケットから一枚の書類をペラッとガツクに差し出して見せた。
それをひったくる様にして受け取ったガツクはじっくり目を通してダイスの言っている事が本当の事だと知る。
今日ガツク率いる雷桜隊第1分隊から第5分隊は高度なバイク操縦の訓練の為、起伏に富み、ありとあらゆる地形を模した二輪専用の練習場に集っていた。
そこで今回の訓練内容を話していたところ、ピンクのバギーを押すモモコとウィンドニクを軽々と押すダイスが現われたのだった。
2人を見た途端ガツクの眉間に深い皺が3本もでき、これから起こるだろう展開に一気に張りつめた空気になる隊士達を、押しのけるようにしてガツクは2人に近寄った。
「ズブの素人が俺達の横でバギーに乗るだと?・・・死にたいのか。」
ガツクは睨みつけるようにモモコを見下ろした。
ひぃっ!
モモコはビクついて体が震えたが目だけはなんとか逸らさない。
「だ~いじょ~ぶだて。ワシが付いちょるんじゃぞ?お前等なんぞ寄せ付けんわい。」
ダイスはヘラヘラしながら尚も言うが、
「お前が付いていようが付いていまいが関係ない。俺達と素人どちらかが同時に使うとなれば優先されるは当然俺達だ。・・・・帰れ。」
ガツクは腕を組んでダイスを睨め付けた。
「それは聞けんのォ、ワシもモモコも今日を逃したら今後の予定が立たんのじゃ。・・・それとも雷桜は素人が横におられちゃ訓練に集中出来んほど下っ手クソ揃いか。」
モモコはダイスをパチクリと目を開いて見上げた。
えっ・・・このあと何かあったっけな・・・あ、そっかあたしにはなくてもダイスさんにはあるよね・・・何かダイスさんに悪いなぁ・・・・・あれ?「モモコも」って言った?ていうか今ケンカ売らなかった?
ゆらり。
ダイスを見上げていたモモコは体の正面から何かの不穏な空気の流れを感知した。
ひょええええ!!!
モモコがガツクに視線を戻すとダイスの煽るような言葉にガツクの顔が先程とは比べ物にならない程凶悪になったのを見てしまった。
・・・・いくら好きになった男でも恐い。恐すぎる。
「・・・霧藤を率いるお前の言葉とは到底思えんな。俺達の訓練の苛烈さはよく知っているだろう。素人のよちよち運転なんぞ小さすぎて目に入らんと言っているのだ。・・・・俺も乗るのだぞ。」
モモコは低く呪うかの様なガツクの声に、ガツクの向こう後方に堂々と鎮座するレイマドをチラッと見た。
モモコはガツクと共に一度だけ乗った事がある。
まだモモコが猫で誘拐された、あの夏の帰り道でだ。
・・・なんだか懐かしいなぁ・・・
モモコはほろ苦い想いと共に思い出す。
あの夜、気付いたんだっけ・・・・ガツクさんの事が好きだって。
黒猫に嗾ける様な言葉を言われた事もついでに思い出し、
(黒猫さん元気かなぁ・・・黒猫さん、こっちは全然思う通りにいってないよ。また意気地なしって言うかな?)
モモコは今の状況を黒猫が知ったら何て言うだろうかとクスクス笑った。
「余裕だな、クロックス。」
・・・へっ?
「俺に勝てる自信があるのか、それとも・・・つまらぬ意地か?」
はい!?
モモコは訳が分からず目を白黒してガツクを見上げた。
か、勝つ!?誰に?意地って何のっ!?えええー!ちょっとほのぼのしてる間に何か進んだ!?
モモコは半ば呆れるように自分を見下ろすガツクとダイスを交互に見上げた。
背を汗が気持ち悪いぐらい流れていくのがわかる。
ダイスは少し意外そうにモモコを見下ろしていたが、
「モモコが勝てばお前らには退いてもらうぞ、ええな。」
ちょちょちょっと!!!だから!勝手に話し進めないで!説明してよ!
青ざめたモモコがダイスの袖を強く引っ張る。
「大丈夫じゃ、ハンデは付けるから安心せぇ。」
それにニコニコと返しダイスはモモコの柔らかな髪をクシャクシャッと優しく撫でた。
そんな優しさいらないから!そ-じゃなくて!セ・ツ・メ・イ!!何がどうなってるのか説明しろぉ!!
パニック寸前のモモコは目を剝いて抗議するようにダイスの手を握り締めるとブンブンと上下に振った。
「なんじゃ話を聞いとらんかったんか?お前とガツクがレースをして勝った方がココを先に使う事になっただけじゃて。3周して先にゴールした方が勝ちじゃ。ガツクはお前が2周した後にスタートになるハンデじゃ。ええじゃろ?」
「よくないよくないよくないよ!!何でそんな事勝手に決めちゃうの!?あたしがガツクさんに勝てるわけないじゃん!」
「ええからええから。」
「ええくないっっ!!!」
先程いた場所から少し離れて内緒話をするようにくっ付いて喋る2人。
ーガツクの目が僅かに狭まり、組んだ腕に指が少し食い込んだ。
僅かな動きだったが注意深くガツクを観察していたダイスにはわかった。
~回想終了~
やばいっ!抜かれちゃう!
モモコはあっさりハンデ分の周回を走られ並んだガツクに抜かれた。
モモコは焦ってグリップを強く回した。
ギュルッ!
バギーの前輪が地面に出来た瘤に滑った。
え。
グルン。
反転する視界。
モモコとモモコのバギーは宙に投げ出され、泥の地面に叩きつけられようとしていた。
・・・・・・が。
「ぐえっ!」
胴をものすごい力で引っ張られ締め付けられてモモコの肺から空気と共にへしゃげた声が漏れた。
硬い何かに押し付けられ抱えられたと思ったら下の方からドオオォンン・・・・という重い振動が体を揺さぶる。
な・・・なにが・・・・・・・
「・・・・モモコ・・・・」
小さく、
聞こえた。
ガツクさん・・・・・・・?
気付けばモモコは胸に押し付けられるような形でガツクの前に座っていた。
あ・・・・・・・・・
体の下からはドッドッドッ・・・とレイマドのエンジンが轟く様に振動しているのが感じられる。
あたし・・・
頬にサラッとしたワイシャツの感触と熱いほどのガツクの体温、彼の匂いがする。
そして。
ドクンドクンドクン・・・・
愛しい男の心臓の鼓動に・・・・・心と体全部が揺さぶられる。
ガツクさん・・・・・
モモコはそっと目を閉じた。そして深呼吸を一つしてからガツクの胸に手を置いて身を離す。
目の端にダイスが近寄って来たのが入った。
ピク・・・
ガツクの腕に力が一瞬入ったが、ダイスがモモコを引き寄せるままに任す。
・・・・・・・・・・・・
重苦しい沈黙が落ちる。
「・・・・・・勝負あったな・・・・・・アレでは続行は無理だろう。」
やがてガツクは忌々しげにダイスを・・・強いてはモモコを睨みつけると背後を顎をしゃくって示す。
!
息を飲んだモモコの目にスピードに乗ったままに地面に激突し、フロントフォークが折れて軸の曲がり、へしゃげたバギーが映った。
ああ・・・・
モモコは相棒の無残な有様に、ジエンや雪菫隊の皆や指導してくれたダイスのこれまでを思い落胆した。
「アレを使って訓練に付いて来るつもりらしいが・・・身の程を知るがいい。お前など邪魔なだけだ。」
ガツクがダイスの腕にぶら下がったままのモモコに、冷たい目を向けながら付き離す様に放った。
だが何時もの調子を取り戻したモモコは怯むどころかムッとなって逆にガツクを睨んだ。
「邪魔になんかならないぐらい上手くなりますっ!それにこれはあたしの仕事のやり方です・・・・いくら大将のガツクさんの言う事でも聞けません。」
モモコは常より低い声で応酬した。
「・・・フン・・・目障りだ。その玩具を持ってさっさと消えろ。」
吐き捨てるよう言うとレイマドのハンドルを回してさっさと隊士達が整列する場へと戻った。
ダイスは肩を竦めるとモモコを降ろし、バギーの方へ歩いた。そして小さいが重量はあるバギーを軽々と持って戻りモモコの前に置いた。
「そうしょぼくれるな。惜しかったじゃねェか。」
「でも・・・追い出されるし、何より壊れちゃった・・・」
さっきとは打って変わってモモコはがっくりと肩を降ろした。
「悪いだけじゃねぇぞ。ガツクの隣で走るっちゅう貴重な経験も出来たし、このコースだって走れたじゃねェか。確かにもう少し練習が必要じゃがのう。バギーはまだ改良が必要じゃな。お前は軽いからもうちっと軽量化したらええかもしれん。ビデオカメラに収めたからジエンと構造から練り直しだの。あと」
まだ何かつらつらと喋っているダイスを後にモモコはため息を付くとガクガクするハンドルに四苦八苦しながら訓練場を後にした。
「興味ないと言ったわりにはスゲー良い反応だな。」
ホクガンはダイスが撮って来たあの時の映像を見ながら、半ば呆れたようにあと半分は・・・嬉しげに呟いた。
スピードを増したバギーがでこぼこした地面に出来た瘤の一つにぶつかり、ハンドルを取られ宙に浮く。
と、前を走っていたガツクがレイマドごと後方宙返りをして空中でモモコの胴を捕まえ胸に抱きこむ。
轟音を立てて着地するレイマド。
その前方をバギーがもんどりうって転がって行くのが見えた。
大事そうに片手でモモコを抱きしめるガツク。
そのややうつむき加減な顔がモモコを愛おしげに見ている様に見えるのは・・・・自分達の願望が混ざっているからだろうか。
ここはホクガンの執務室。
テレビに映った映像を見ているのは3人。ホクガン、テンレイ、ダイス。
「どう思う?」
ホクガンが自分と同じように食い入る様に画面を見ていたテンレイに話しかけた。
「お兄様と同じ意見よ。」
テンレイは顔を顰めながら答えた。
「お前は?間近で見た感想はどうよ。」
ダイスは足を組んでソファの肘かけに腕を置くとため息をついた。
「ワシがワザとモモコと接触しとるとのぅ・・・・殺気がまぁ、刺さる刺さる。モモコも周りのモンも気付かんほど上手く隠していたが・・・うんざりするほど長い付き合いじゃからなァ ワシの目は誤魔化せんて。」
それに、と続ける。
「訓練時に小っこいバギーなんかに乗ってちょろちょろすんなァ 危ないからやめろと言いたいんじゃろうが・・・見事にツンデレな事言っとったぞ。」
「気持ち悪ッ!」
ホクガンがうげ、という様に口から舌を出した。
このダイスの一連の行動は実は試験的な意味合いがあった。ガツクの注意してみなければわからない奇妙な行動に気付いたホクガンとダイスはガツクを試してみる事にする。モモコが目の前で男と親密そうにしたり、危ない事になったりしようとしたらどういう行動に出るか、と。もちろん、モモコにバギーの正しい乗り方を教える必要もあったが、教えるのは何もダイスでなくてもいい。が、ガツクの反応を拾いやすいのと、気付かれることなく自然にできそうなダイスになっただけだ。
結果は予想通り。
やはりあの斜め上思考だが一度喰いついたら死ぬまで喰らいつく執着心が人一倍、いや百倍ほど強いヤンデレ魔王がモモコへの想いを翻すはずがなかった。
「このまま静観する?」
まだ顔を顰めたままのテンレイが尋ねる。
ホクガンは姿勢を正すとニヤと笑った。悪巧みしている顔である。
「いーや。この気持ち悪いツンデレ大将を追い込んでやろうぜ。不必要なくらいにモモコと接触させてやろう。どんな恐ぇー顔が見れるか楽しみだぜ。」
「じゃな。ワシ等をやきもきさせた代償じゃ。」
「でも・・・・・・」
ガツクに意趣返しなど真っ先に率先して嬉々としてやるだろうテンレイは意外にも口に指を当てて心配そうに呟いた。
「やりたくねぇのか?」
超意外という様にホクガンが軽く目を見開いてテンレイを見た。それに首を振って懸念を口にする。
「違うわよ。ガツクなんてどうなろうと知った事ではないけど、それに利用する形になるモモコが・・・心配なの。」
「ふーむ。・・・それもそうじゃな。だがテンレイ、このままの状態は多分長く続かんぞ。」
「え?」
「そうそう。」
ダイスが両手を組んで考え込む様に言うとそれを肯定する感じでホクガンがうんうんと頷いた。
「ガツクの野郎が我慢できなくなるに決まってる。奴お得意の鉄の意思でめっちゃセーブしてるんだろうが、最近じゃそれがポロポロポロポロ綻びてきてる。」
ガツクはよく巧く隠しているが目敏いホクガンやダイス、注意深く2人を見守っているカインや他の幾人かの隊士や職員達に・・・その・・・えーと・・・そうだな・・・例えば、
モモコが夜遅くまで記事を書いているその部署部屋。
窓の外、モモコからは死角になって見えないが全身を真っ黒にした特殊工作員姿のガツクが壁にへばり付いてそっ・・・・と覗き見・・・いや見守っている姿が目撃されたり、モモコがちょっとバタバタして朝と昼を取り損ね、空腹のあまり貧血で転びそうになったのを偶然通りかかったみたいにして支えたり(その際「きちんと飯を食わんからそうなるのだ。周りが迷惑だ。」とドコから見ていたアンタ。とツッコミ入れたくなるツンデレを披露したりして・・・
わかる人にはわかる、はっきり言うとストーカー行為をしていた。(ちなみにモモコはわかっていない人の方)
「このまま見ていても面白いがどうせならもっと面白くしようぜ。モモコにもいい方に向かうんだ、利用するにしてもハッピーエンドになるためだ。大丈夫だよ。」
本当に2人の事を思って言っているのか疑わしいセリフでホクガンはテンレイの心配を杞憂だと蹴飛ばす。
「そう・・・ね。」
それに納得がいかないまでもテンレイは頷いた。
自分が参加しなくてもこの男達はやるであろうし、行き過ぎる悪戯にストップをかけるのは自分しかいない。モモコを守るためには。(テンレイの脳内にガツクを気遣うという文字は一文字たりとも、似た様な文法も、類義語もない)
「よし、決まりだな。」
憂さ晴らしに最適な、しかもあのガツクに仕掛ける悪戯を既にいくつか思いついたホクガンがニヤニヤ笑いながら言うと、ダイスとテンレイも頷いた。
これからとんでもない目にあう事になる2人の、もう片方は自宅のベッドでぐっすり眠り、もう片方はそれを窓の外側からジッと見ていた。
怖ぇーよぉおおお!!!
ちと、サブタイトル直しました。
こっちの方がしっくりくる。