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偏屈さんと一緒  作者: ロッカ
74/84

7-2 驚き、そして驚きです

「・・・酒はねぇのか。」

「ないですね。お茶ならありますが。」

「茶ぁ?まだ縁側で日向ぼっこは早いだろ。」

「もう充分お年を召して・・・」

「何か言ったかコラ。」


(・・・・・ん・・・)


モモコはボソボソと話す声に意識を浮上させた。


「お、嬢ちゃんが起きたぜ。」


ハッ


モモコは寝ていたソファから急いで身を起こした。サッと辺りを見渡す。


(あ、あれ?ここ・・・もしかしなくても広報課の部署部屋!?)


てっきり何処かに拉致されたと思ったモモコは、見慣れた部屋で目覚めた事に軽く混乱する。


「おいおい大丈夫か?」


かけられた声に驚く。と、テーブルをはさんで向かい合うソファに先程の男が一人、そしてもう一人、壁にもたれる様にして腕を組んだ男がいた。

たちまち恐怖がせり上がり、手足が冷たくなっていく感覚に捕らわれたが、怯える態度は見せまいとモモコは目の前の奇妙な2人組を睨みつけた。


座っているのは整っているとは言い難いが不思議な魅力を湛えた壮年の男。彼が先程モモコを意識喪失させた男だ。潰れた片目は横に削いだような傷になっていて、残った目の色は濃い緑。日に晒され、元は黒かっただろう短い髪の毛は白髪が大半を占めている。

もう一人は細身の男で柔らかそうな銀髪にはシャギーが多く入り細面の顔には銀縁の眼鏡を付けている。サファイアの様に濃い青い目が印象的だ。


「・・・あなた達一体何者?・・・何の目的が。」


モモコは震えそうになる声を叱咤しながら男達に質問した。


(あたしを気絶させた後、ここに連れてくるなんて・・・)


偶然じゃなかったらモモコの事を広報課の事も知っている事になる。

隻眼の男はそんなモモコを面白そうに見ていたが


「まぁまぁ・・・そう身構えんな。嬢ちゃんに何かしようとしているんじゃねぇからよ。・・・それに目的なんて言うほどのモノもねぇ、面白い噂を聞いたからちょっくら寄ったまででよ。」


ふざけているのかからかうような口調で答える。その後、「さっきは悪かったな、あそこで騒がれちゃ困るんだよ。でも悪者じゃないぞ」と胡散臭い顔で謝られた。


なんなのこの人・・・・。


モモコはチラッと銀髪の男を見上げた。銀髪の男はモモコと目が合うと肩をすくめてため息をついている。


(面白い噂・・・?そんな理由で軍部のこんな奥まで侵入するかな・・・・信じられない・・・・)


モモコが疑う様になおも睨みつけていると隻眼の男はまいったなという風に頭を掻いた。


「ガツク・コクサを知ってるだろ?」



モモコは息を飲んで固まった。

ガツクの感情のない顔が浮かぶ。

思わず身を竦ませるモモコを隻眼の男と銀髪の男は目配せし合った。


「俺はアイツの古い知合いなんだが・・・・あいつが嫁を見つけたってぇ笑い話にもなりゃしねぇ噂を聞いてよ?どんな奇特な女かとつらぁ拝みに来たんだが・・・・嬢ちゃん?」


モモコはポカンとした顔で隻眼の男を見た。


ガツクさんが、よ、嫁!?

嘘・・・うそ・・・ナニソレ・・・・いつ・・・誰が・・・・そんなの聞いてないよ・・・


何がどうなっているのか。

ガツクに想い人がいるというのも初耳だ。モモコの混乱に一層、拍車がかかる。


・・ううん・・・聞いてないじゃない。

気付かなかったんだ。

だから・・・だから・・・・ガツクさんは?・・・・


モモコはガツクの突然の豹変を最悪な方向へ位置づけた。


ガツクさんは正直な人だ。

嘘とか建前とかないし思った事を思った通りに実行する・・・・

ああ・・・そっか。

・・・そういう事か・・・ガツクさん好きな女性ひとが。

そ・・・う、だよね、奥さんにしてもいい人が出来たんならあたしなんか・・・邪魔もいいとこ。



目障りだ。




隻眼の男は俯いたモモコの白い頬を涙が伝ったのを見てギョッとした。


「おっおい!どうした!?なんで急にっ!こっこれどうしたらいいんだステルス!」

「これはアレですね、貴方の顔が恐いんじゃないですか?いかにもな凶悪な人相してますし。性格も悪いですよね。良いところありませんしね、全部悪い。」

「それ部下が言っていい言葉か!?」

「え。私貴方の部下だったんですか?」

「おいっ!?」


クスッ・・・・


モモコは漫才のような2人のやり取りにジクジク痛む胸をしばし抑え、思わず笑ってしまった。

隻眼の男はモモコが弱々しいながらも笑うのを見てホッと息を付いた。


「やあ、笑ったな。俺は女子供の悲しい顔には弱いんだ・・・勘弁してくれよ?ところで嬢ちゃん、嬢ちゃんがモモコ・クロックスだろ?ガツクの嫁さんって・・・アンタじゃねえのか?・・・・にしても歳が離れ過ぎているような・・・・これで20歳って本当か。」


・・・・・・・・・・・・・・・は?ヨ、ヨメ?あたしが!?


モモコは隻眼の男の言葉に驚き涙も引っ込んだ。我に返ると慌てて首を振る。


「あの・・・名前と歳は合ってるけど・・・ガツクさん・・・コクサ大将の奥さんは・・違う。あたしじゃない・・・・。」



そうだったならどんなに良かったか。



ガツクのお嫁さん・・・・もしそうなれたらモモコはきっと幸せ。ガツクへの愛を気持ちのまま毎日表すだろう。大好きと言ってしょっちゅう抱きついているだろう。ガツクの為に料理をしたり、手を繋いだり、たくさんお喋りするのだ。ガツクはあまり話す方ではないのでほとんど自分の話だろうけど。・・・・そして2人だけの秘密の夜。その後自分はガツクの寝顔に小さくため息を付くのだ・・・・それはとても・・・とても満ち足りたため息で・・・・


モモコは束の間幸せな想像に浸る。




”・・・・一時的な感情・・・・勘違いだったようだ・・・・今はもう何の興味もない・・・・”




天気の話をしているかのような平坦な声だった。

ピシャリ!

モモコには・・・・・知らない誰かにいきなり頬を叩かれたような衝撃だったというのに。




ガツクにとって自分は・・・・一体なんだったのだろう?




「おかしいな・・・コクサに他の女の影なんてなかったですよね。」

「ああ。アイツ、人間おかしいからな。人間っていうか人外。」

「貴方と一緒ですね。さすが師弟。」

「何言ってんだ。俺はマトモだ。」

「はいはい。自分は正気だって言い張るのがねぇ・・ええ・・・そうですか。」

「だからマトモだっつうの!」


「あ、あの・・・」


何時までも続きそうな掛け合いにモモコはもの思いから覚め、遠慮がちに声を挟んだ。


「お、悪い。・・・まぁ・・なんつーか悪い事聞いたようだな?・・・嬢ちゃん、ガツクの事が好きなんだろ。」


隻眼の男は残った目を暖かさで一杯にしながら優しく聞く。


男はモモコが泣きながら走ってきたところから見ていた。

転んでも暫く動かなかったので心配して近くまで寄ったところ、よろよろと起き上がり書類を集め始める。その姿は少しの風にも飛ばされそうなほど弱々しく見えた。

と、体を強張らせて連絡機に出、「テンレイさん」という懐かしい名を耳にする。小生意気な女の子がたちまち目に浮かんだ。

しばらくして、モモコがしょんぼりしながらまた紙を集め始めるともう我慢しきれずに近づいた。


ある強力な筋から聞いた話に部下になるはずだった、己自ら跡を継がせるはずだった(奴が自力で大将に就任した時、嬉しいような面白くない様な複雑な気持ちだった)男の祝い事に、ステルスには反対されたが陰ながらも祝おうと駆けつけたところ・・・・何やら様子がおかしい。

ガツクの相手のこのモモコという少女・・・いや女性は今もっとも華やいでいるだろう結婚を控えている様にはまるで見えず、それどころか酷い混乱と打ちひしがれた様子だし、ホクガン達も動揺が激しい。

肝心のガツクだが・・・・異様に警戒心が強い。以前はなかったものだ。ステルスの忍びの術をもってしても身辺に近寄る事は出来なかった。


想い合っていると聞いたが・・・・一体コイツ等に何があったんだ!?


男は潤んだ目で自分を見ているモモコに微笑むと、


「・・・・よかったら何があったか聞かせてくれないか。悲しい事や辛い事口に出すだけでもな、楽になるぞ。・・・えーとな?俺達はあんたに危害を加える者でもないし、ドミニオンに仇成す奴らでもない。そうだな・・・只の流れ者・・・通りすがりのジジイだと思ってよ、」

「充分怪しいですね。私ならとっくに通報してますね。壁に聞いてもらった方がマシですね。」


男は余計なツッコミを入れるステルスを片目で睨んだ。


「うるせぇぞステルス!今口説いてる最中なんだ、静かにしろ!」


「お可哀相に・・・」と小さくだが聞こえる声にイラつきながら男はモモコに向き直り、もう一度微笑んだ。

モモコは昔はさぞかし強面だっただろうが、今は不思議な魅力を湛えた男の顔をまじまじと見た。

なぜだろう。この顔を見ていると不思議な親近感が沸いてくる。会った事ないのに。


「あの・・・あたしと会った事ありますか・・・?」


こんな強烈なキャラ一度見たら忘れないはずだ。なのに・・・・

男はニヤッと笑う。


「いいや会った事はねぇな、それは間違いねぇ。だが・・・・俺の昔話は聞いたことあるんじゃねぇか?」


悪戯っぽく笑う顔はガキ大将そのものだ。

昔話・・・・


「あっ!?えっ!ウソ・・・・」


思い当たったモモコが驚き慌てる様子を楽しそうに見て男は告げる。

20年以上前、確かにその名で生きていた。今は名乗らない名を。





「そう。シス・フェザーランたぁ・・・俺の事さ、嬢ちゃん。」




こうしてモモコはドミニオン一の大馬鹿男、シス・フェザーランとの邂逅を果たした。

後にこの男が自分にとっての最上の切り札になるとは・・・・今はまだ知らない。

隻眼の男の正体はシスでした。

諸君の予想はどうでしょうか。ビンゴ!な方も多かったと思いますが。


ここで謝罪を。


実は思っていたラストが思うより可哀相な感じになり、急遽ラストを、即ちストーリーを返させて貰う事にしました。

「可哀相な方も見てみたい!」と仰る方がいましたら、またその内特別編で載せたいと思います。


どうもすいません。


さて、シスはどんなジョーカーに成り得るんでしょうか・・・・

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