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偏屈さんと一緒  作者: ロッカ
73/84

7-1 これは現実ですよね?

あ・・・また寝ちゃったんだ、あたし・・・


モモコはシバシバする目を擦りながらベッドから身を起こした。

昨夜、雪まつりの最終日。打ち上げが行われた会場にガツクの姿はなかった。


(来てねってメモ残したけど・・・お仕事だったのかな?)


モモコは服に着替えながらガツクの事を考える。


(最近ガツクさんおかしいんだよね・・・あ、あれ?あたし・・・)


そしてある事に気付きに愕然とした。


「話してない・・・・もう1週間以上ガツクさんと話してない。」


忙しさにかまけてガツクと会話が皆無なのを気付いてなかった。


モモコは慌てて仕切りのカーテンを開けガツクの寝室を覗いた。

ベッドに人が寝た形跡はなく、室内は昨夜見たのと何ら変わりはなかった。


「・・・・・・・。」


モモコは力なくカーテンを元に戻すとガツクの寝室を出、リビングに向かう。

廊下に出た途端に朝食のいい匂いがしてホッと息をついた。


(よかった。ガツクさんまだ居たんだ。)


モモコは笑顔を浮かべ、いつものように元気よくガツクに朝の挨拶をする。


「お早うガツクさん!」

「お早う。」


・・・・・・・・あれ?


モモコは浮かべた笑顔を戸惑うようなものに代える。


(なんか・・・違う?ガツクさんの・・・なんだろコレ)


「どうした。」

「あ・・・ううん・・・き、今日お仕事なんだ。」

「ああ。」


本来は休みに日だが何らかの任務があるのだろう。そこでモモコは最初の違和感に気付いた。

モモコが休みの日は必ずガツクも休みを取って一日中ずっと一緒に居るのに。


(・・・よっぽど大事なお仕事なんだな・・・・でも・・・いつもなら教えてくれるのに)


モモコは何かがおかしいと思いながらも大人しく朝食の席に着いた。


「モモコ。」

「・・・なあに?」

「この世界・・・ドミニオンや軍部には慣れたか?」

「うん!どうにかこうにかだけど・・・知り合いも友達もたくさんできたし。えへへ。」


モモコがふにゃっとして笑うとガツクはそれに目を少し狭めながら・・・・言った。





「・・・・そうか。それはよかったな。ではそろそろ独り立ちする時期だな。」




・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・・


モモコは目を見開いて固まった。

ガツクが言った事が頭に入ってこない。


イマ ナンテ イッタノ?


「・・・・ガツクさん?」

「お前も成人した女だ。後見人とはいえ独り身の男の家に何時までも居るわけにはいかないだろう?そろそろ別に家を借りたらどうだ。テンレイ辺りにでも相談してみろ。」


そう言うと茶を啜り、頭が真っ白になっているモモコを残して席を立った。


ちょっと、ちょっ・・・と待って。

あれ?引っ越す?誰が?あたしが?ガツクさんから離れて?え?テンレイさん?居るわけにはいかない?


モモコは玄関が開かれる音にハッとなって呆然自失から覚めると、急いで向かった。

開かれたドアの向こう、ガツクはスリムな旅行鞄を、迎えに来たのだろうかカインに渡している所だった。


「・・・・ガツクさん?」


・・・呼ぶ声が震える。


「出張で1週間ほど留守にする。自由にしていいが節度は守れよ。ではな。」


ガツクはそういうとそのまま背を向けて歩き出す。強張った顔のカインが何か言いたそうにモモコを見たが、結局何も言わずにガツクに従った。


後にはモモコだけが残された。

どれほどそうしていただろうか。モモコはゆっくりとドアから離れると無意識にリビングへと戻り、テーブルに座った。向かいにはさっきまで座っていたガツクの幻影が見えるようだ。


まるで見知らぬ他人を見るかのようにモモコを見下ろしていた。黒いガラス玉の眼。




ガツクさん・・・・あたしに出て行けって・・・ううん、違う、違うでしょ・・・独り立ちしろって、言ったんだし・・でも、なんで?なんで急に?わかんない・・・どうして?ガツクさん・・・・どうして・・・どうして・・・




モモコはテーブルに思いっ切り突っ伏し額を打ち付けた。ゴツッと鈍い音がして、痛みが込み上げてきたが気にならなかった。








モモコの混乱の日々が始まった。


モモコは相談したテンレイからここ数日のガツクの異様な変化を聞かされ、益々不安に思ったがまだ信じられずにいた。当り前である。想ってくれる、とはいかないまでも過保護だな、過干渉だなと思うほど構われまくっていた人から突然の拒絶とも取れる態度。


信じられない。信じたくない。・・・・どうして?


グルグルグルグル


モモコの思考は行ったり来たり。そこから抜け出せない。







モモコが混乱にいる内に彼の人は1週間の予定を超え2週間ほどのち、漸く帰って来た。


「出迎えご苦労。・・・それで?進展の程はどうだ?」


コレが苦しく逸る気持ちで出迎えたモモコへのガツクの第一声。

モモコは大きな目を更に開きながらガツクの言葉を聞き・・・・今にも零れ落ちそうな涙をギュッと抑える様に瞑ってから


「・・・・・ごめ・・なさ・・・まだ・・・き、決まってな」

「ふむ・・・・そうか。」


何かの塊で塞がれたような声で答えようとするモモコをガツクは途中で遮った。

項垂れるモモコにまるで出来の悪い部下に対するように嘆息してからガツクは、モモコに一瞥もくれずに雷桜隊の将校達と共にそこから歩き始めた。

ハッとしたモモコが追いかけようとするが・・・コンパスの違いか、ガツクとの距離はあっという間に開き、遂にはその広い背は視界から消えた。

そのモモコを雷桜隊の面々が気の毒そうに見ていたが、やがて彼らも去った。



ガツクさん・・・・・



一人残されたモモコ。


やがて歩きだす。


どこをどう歩いてきたのか。モモコは歩いている感覚がないまま自分の部署部屋まで来た。


あれ・・・いつ座ったんだっけ。


モモコは纏まりのないグチャグチャな文が連なる原稿を見ていた。

ふと気付くと部屋はオレンジの光が溢れている。


あ・・・夕方だ。


壁の時計を見ると終業の時間だ。

モモコはまた1週間前からちっとも進んでいない原稿を見た。


・・・仕事しなきゃ。


ペンを取って原稿用紙に手を置くがそこから動かせない。

文面が出てこない。まともに頭が働かない。

暖慢な動きをしばらく続けてから1時間、モモコは仕事にならない事を認め、帰宅の途に就いた。


どうしようか。


家に帰る・・・?あのガツクさんがいる空間へ?恐い・・・・これ以上無関心な態度を取られたら・・・・


呆れたような空気のガツク。初対面かのような無関心な目。


帰る?帰れる?居れる?ご飯食べれる?眠れる?


信じたくない。今までとは全部が違う、180度違うガツクの態度にモモコは混乱の極致にいた。





どうしてどうしてどうして?


あんなに優しかったのに。あんなに優しい目で見てくれてたのに。笑ってくれたじゃない。





何時までも側にいろって言ってくれたじゃない





なのにどうして?

どうして今になって離れろっていうの?

ガツクさん世間体なんて気にする人じゃ ないじゃない。

なんでなんでなんで?


どうしてどうしてどうして?


ガツクさんガツクさんガツクさん





気が付けばずっと堪えていた涙が溢れて流れ地面に黒い染みを作っていた。染みはどんどん増える。


「うっ・・・・うっうっうう・・・」


モモコは堪え切れず声を漏らし、しゃがんで肩を震わせて泣いた。




わかんないなら聞いてみようか。




ふと冷静な声がする。


え・・・・聞・・・く・・・?


上手く働かない頭で反芻する。


わからないなら聞いてみるのが手っ取り早いじゃん。ホクガンが前に教えてくれたでしょ?


呆れたように言うもう一人のモモコにモモコは・・・・





「いやっ!!!」





聞いてみる?それで?決定的な言葉が返ってきたら?

かろうじて繋がってるこの想いが切れてしまったら、あたしはあたしは・・・・あたしは!!!




キキタクナイ!!!




「・・・どうすればいいんだろ・・・・ガツクさん・・・・」


モモコはさっき鍵を掛けた部署部屋のドアを再び開け、部屋に入った。


「お願い・・・・嫌わないで・・・ガツクさん・・・」


モモコは小さく呟くとデスクに置きっ放しだった原稿を捨て、新たな原稿用紙を置いた。

棚から資料を引っ張り出し、かばんからメモや写真の束を取り出してデスクのライトを点けた。椅子に座ってメモや資料を片手にゆっくりだがちまちまとマスを埋めていった。


せめて仕事はできていればいいかも。


カリ・・・カリと小さな明かりを灯しただけの部屋にペンの音だけがしていた。







「どういうつもりなんだガツク。」


ホクガンは自身の執務室でガツクを詰問していた。

睨みつけるかのようなホクガンの鋭い目にガツクは何の感情も浮かんでいない凪いだ黒い目を向けた。


「何の事だ。」


平坦な声でガツクが返すと


「貴方!!!・・っ・・・・モモコの事に決まってるでしょ。惚けてないで。」


テンレイが激昂したように叫び・・・我に返って静かな声でガツクに言った。


「・・・・ガツク・・・お前の中で何があったんじゃ?なぜモモコに冷たくする。なぜ家から出て行けなんて言う・・・」


ダイスが心配そうに眉を顰めてガツクを見やる。


「・・・・・・・・・。」


ガツクは座ったソファの肘かけを人差し指でトントンと暫く叩いていたがやがて口を開いた。


「・・・本来なら俺個人の事だが・・・・そうだな、お前達には言っておいてもいいだろう。」


ガツクは肘かけに肘を置くとその手に顎を乗せ淡々と話した。






「モモコに感じていた特別な感情だが・・・・あれはただの勘違いだったようだ。今はもう何の興味もない。」





しん・・・とした部屋。時間が止まったかのようだ。触れられそうな、やけに濃密な空気の中、ホクガンの静かすぎる声が静寂を滑る。


「・・・・・嘘つけ。なんだ、拗ねてんのか?新たなやり方か?どこでどうねじ曲がった。え?ガツク。」

「嘘?何故そんなモノを付く必要がある。お前の言う意味がわからんな。」


首を捻って本当に訳が分からないと言うガツクにテンレイが怒鳴った。


「わからないワケなんかないでしょ!!あんなにモモコの事を大切にしていたじゃない!!あんなに慈しんでいたでしょう!?今になって何を・・・言っているのよ!?今更・・・今更・・・!モモコは貴方の事が!!!」


怒りのあまり喉を詰まらせるテンレイ。憤りのあまり言葉が出てこない。

呆然自失でテンレイの執務室にやって来たモモコ。今にも涙が落ちそうな大きな目は激しく瞬きを繰り返し、説明する声は震えて要領を得なかったが、大体の事は理解できた。が、その内容はとても信じられるものではなく、テンレイは急いでホクガンとダイスに連絡を入れたのだった。

ホクガンにとっては寝耳に水、ダイスは嫌な予感が最悪な事になって当たったのを知った。

勿論、どうなっているのかと聞いていなかった出張に出たガツクに連絡を入れるが「任務中」とバッサリ切られ、モモコ同様不安な2週間を過ごす事となった。

漸くの帰還の後も「忙しい」を理由にホクガン達を突っぱねたガツクであったが、「国主令」まで出してきたホクガンに渋々従った。


「のう ガツク、お前・・・お前、あのモモコの姿が目に入らんのか。お前にあんなに冷たくされて・・・ショックで呆然としとるんだぞ?今にも泣きそうなモモコを見て、もうなんも感じんと、何の感情も沸かんと本当に言い切れるんか?何を我慢しとる、何を考えとるんじゃガツク。」


ガツクは横目でダイスをチラッと見るとため息をついて立ち上がった。


「呼びだした用事はこの事だったのか?下らない・・・俺は帰る、仕事があるんでな。」


ドアに向かって歩き始める。

その背に「待て!まだ話は済んでねぇぞ!」「待ちなさい!!ガツク!」と呼び止める声がするがガツクは無視してドアを開けた。




「・・・・・・・モモコ。」




そこには蒼白になったモモコが佇んでいた。




何時からそこに居たのか


どこまで聞いていたのか。




嘘だろ・・・・

何てこと・・・

・・・・最悪じゃ


・・・・



「・・・・あ、あの・・・き・・記事の・・・し、資・・料を・・・」


つっかえつっかえそこに居た理由を話そうとするが最後まで続かずモモコは黙った。

ガツクはモモコの俯いた顔を無表情で見ていたが、やがて。


「モモコ、何処まで聞いた。」


!!!


モモコは目を見開いて固まった。唇が震えて言葉が出てこない。頭上からはガツクの無言の圧力が掛かっている。


待たせてる・・・・ガツクさんが待ってる・・・・答えなくちゃ。


モモコは張り付く舌を何とか動かしガツクの容赦ない質問に答えた。


「・・・わか・・・んな、いです・・ガ・・ツクさんが・・・勘違いだっ・・・て言った・・・と、こから。」


ホクガン達が黙りこむ。


ガツクのあの言葉を全部聞いたのか。


色を失くすホクガン達とは対照的にガツクは特に驚く事もなく、ホクガン達に対するのと同じように淡々とモモコに告げた。


「そうか。話す手間が省けたな。モモコ、あの時感じていたものは一時的なものだったようだ。お前には迷惑を掛けてばかりですまなかったな。だがそれももう終わった・・・これからは軍部の一員として扱う。」


「ガ・・・ツクさん・・・」


縋るようにモモコはガツクを見上げた。

決定的な事を言われているのにまだどこか信じられないでいる。


浅はかなアタシ。


どこからか自分を嘲る自分の声がする。





「そうだ、ホクガン。」


ガツクはそんなモモコを無視するようにホクガンに話しかけた。


「・・・・・なんだよ。」

「これからは集合時にモモコは加えないようにしろ。」


・・・・・・・・・・


「・・・な、んだと?」


ホクガンが立ち上がり、怒りを抑えるかのように低い声でガツクに詰め寄った。


「モモコはたかが軍部の一員だ。しかも隊士でもなく、階級もないに等しい。そんな人間が俺達中枢の人間と対等に話し合うのか?国の機密に関わる事だとてあるのだぞ、子供の遊びではない。」


度重なるガツクの暴言とも取れる言葉に、とうとう我慢がならなくなったホクガンはガツクの襟元を締め上げると食ってかかった。


「てっめぇ・・・よく言えるな!最初にモモコを連れてきたのはお前ェじゃねぇか!今更何言ってやがるんだよ!?」


ガツクは語気を強めるホクガンの手を易々と外すと。


「そうだな。それについては悪かった。これでいいか?」

「・・・・俺を本気で怒らせるなよ ガツク・・・」

「ほう?怒らせたらどうなると言うのだ 国主。俺の言っている事が間違っているか?」


ホクガンはモモコを庇おうと口を開きかけたが寸でで止めた。また何か言ってガツクに否定されたら。モモコはどんなにか・・・・!

ギリギリと2人が睨みあう。テンレイは涙がにじむ目でガツクを睨みつけ、ダイスも立ち上がってガツクに詰めよろうとした・・・・その時。


「あっ!あったぁー!これっ!ねぇコレ借りてっていいですか。国主。」


緊迫する場に異様に明るい声が響いた。


国主・・・?モモコがホクガンを国主と呼んだ。


「モモコ・・・・」


テンレイがやり切れない様にそっと呼んだ。

モモコは顔一杯に笑顔を張りつけ、小走りにホクガンに近づくと紙の束を見せて確認を取ろうとする。


「あのですね国主、どうしても今度の記事に少し必要で。あの・・・・今夜中に模写して明日出来るだけ早く返しますから。」


モモコはまたホクガンの事を国主と呼ぶ。その声は少し上ずっている。

「あ、何か貸出証とか書くものあるのかな」と呟きながらキョロキョロするモモコをホクガンは険しい顔で見ていたが


「・・・いいぜ。持ってけよ。返すのは何時でもいい。」


モモコは蒼白な顔のまま、どこを見るともなしに頷くと無言で執務室の出口に向かった。と、戸口に立ち、クルリとガツク達に向き合う。


「あの・・・もう、皆とは・・・皆さんとは・・・その・・・あの!う、上手く言葉が出てこないんですけど。とにかくここにはもう来ませんから!・・・・・・よ・・・呼ばないで下さい。」


呼ばれたら来たくなるから。また困らせるから。だから。


強張る顔を無理に微笑むとモモコは一礼してから消えた。

振り向いた瞬間涙が溢れてきた。見られたくなくて走る。




バカバカバカバカバカバーカ!

あたしはバカだ!バカだ!バカだ!

一時的!終わったって!たかが一員。代わりはたくさんいる!?

言われるまでわかんない!?どんだけ皆との差があるのか?ガツクさん呆れてた?ホントは?何時から?

恥ずかしい!恥ずかしい!口惜しい!恥ずかしいよ!!


「あっ・・・」


ズザザアァ・・・・


モモコは芝生に足を取られてスッ転んだ。

抱えた紙の束がバサバサと夜中の庭に散らばる。


「・・・・・・・・っ・・うぐっ・・うっうっ」


モモコはヒラヒラと舞いながら落ちる紙を転んだ体勢のまま見ていた。嗚咽が零れる。






なんだろ。なんかの罰でも当たったのかな。あたしなんの為にここにいるんだっけ。


あたし・・・・もう少し・・・なんかあるのかもって思ってた。


・・・・・・特別な・・・ガツクさんだけの人間になれると思ってた。


でも、違った?

自惚れだった?

タダの勘違い・・・・優しくされて舞い上がって、自分の都合のいいように・・・夢みただけ・・・?


見透かされて。


モモコはこのところ血の気のなかった顔を恥辱に真っ赤に染めた。


年下の。後見人を引き受けただけ。なのに・・・・

困った?厄介になった?手に負えないって?メイワクに・・・・・?


嫌われてないって思ってた。嫌われたわけじゃない。そこまで酷くないって。

そう。たぶんガツクさんには嫌われてない。でもその一歩手前?煩わしくなってる?






モモコは涙が流れるに任せ嗚咽は出るだけ出した。


しばらくして涙が止まりだした頃、ぎこちなく立ち上がると目をごしごしと擦って震える息を零しながらあちこちに散らばった資料を集め始めた。その時連絡機が震えた。


ギクリ


体が強張る。

ゆっくりと取り出して画面を見るとテンレイからだった。

フ・・・・・ガツクさんなワケない。モモコは自嘲するように笑う。


「・・・・・・・・・・もしもし。」


掠れた声が出てモモコは喉が痛い事に気付いた。


『モモコ・・・大丈夫?』

「うん・・・大丈夫。ゴメンねテンレイさん。・・・・あたしのせいで」

『モモコのせいじゃないわ!!バカ言わないで!』


ほら、あたしの為に怒ってくれる人がいる。心配してくれるんだ。まだ・・・ガンバレるだろ。


「テンレイさん。あたしは大丈夫だから。・・・でも今夜は一人にしてくれる?まだ記事が上がってないんだ。」

『その状態で仕事なんて!』


クスッ・・・今度は苦笑がモモコから出た。怒るテンレイは目に浮かぶようだ。


「もう少しで終わりそうなの。無理はしないから。」


向こうでホクガンやダイスの声がする。テンレイを宥めているのだろう。


『・・・わかったわ。ちゃんと寝るのよ。』

「うん・・・・ありがとうテンレイさん。じゃあね・・・」


淡く光る画面をしばらく見ていたがため息をつくと再び拾い始める。と、ぬっと目の前。俯くモモコに紙の束が差し出された。




え・・・・なに?




モモコは繁々とその手を見詰める。日焼けした太い指は大小の傷がたくさんついているが爪は短く案外綺麗だった。モモコはその手を伝ってどんどん視線を上げていった。


「そんなに俺はいい男かい?嬢ちゃん」


モモコは男に揶揄されるまでソレを不躾に見ていた事に気がつかなかった。

ハッとし、謝ろうとして、男が間違いなく見た事もない部外者だと確信する。咄嗟に大声を上げようとしたモモコだったが。


トンッ


首に軽い衝撃を感じると同時に意識が急速になくなっていく。


薄れゆく意識の中、モモコは男の碧の目が気遣う様に眉根を顰めたのが見えた。




へんなの・・・あなたが・・・やった・・・く・・せ・・・に・・・




モモコの意識はそこで途絶えた。





モモコが不躾に見ていたソレ。


その男には本来なら2つあるもの・・・・片目がなかった。

いよいよ最終章まできました。

辛い事が今後も続きますがどうかお付き合いください。

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