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偏屈さんと一緒  作者: ロッカ
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6-10 芸術的センスは明後日です


「そうか・・・いや、俺も今から別件の用がある・・・ああ。頑張れよ。」


ガツクはモモコが電話を切った後も受話器を耳に押し当てていた。

まだモモコの声が残っているような気がする。


”ゴメン、ガツクさん。雪像が安定しなくて・・・で、バタバタしちゃって昼食間に合いそうにもないんだけど、後で・・・あ、そ、そう?うん・・・わかった。じゃあ後でね!うん、ありがとう!”


気付けばツーツーと鳴る受話器を、10分以上も握りしめていたガツクはため息をついてフックに戻した。


「モモコちゃん、忙しそうですね。」


カインがガツクの昼食をサーブしながら気遣う様に言うと、


「・・・・・・ホクガンを殺してやりたい。」


物騒な事を呟く上官に今度はカインがため息をついた。




『寒いだとぉ!そんなモン熱い魂で溶かしてやんな!!Viva!雪まつり!!!』



・・・・・・・・・・・・・・・・・。


相変わらずセンスもくそもない異次元なネーミングセンスだ。名付けたのはもちろんホクガン。


雪まつり開催が本格的に決まり、実行委員の一人としてモモコは多忙を極めていた。

雪像の事や雪合戦を知る唯一の者としてあちこちからレクチャーを頼まれたり、ない脳みそを絞って一度しか見た事のない(しかもテレビで)雪合戦のルールを教えたりとその他にも本来の広報の仕事も抱え、ガツクと昼食も共にできないばかりか夕食さえもままならない程の忙しさ。

しかも連日連夜モモコはホクガンの執務室に詰めて、開催の成功の為、調整あるいは変更などを検討し合っていた。


当然ガツクは抗議した。


抗議と言うよりはブレイドを出してホクガンの首元に押し当て低い声で「いい加減にしろ」・・・・と本人が言うからには抗議した。


が。


「待て待て。俺は呼んじゃいねぇよ。モモコが俺の所にやってくるんだ。しかも内容は祭りの事だけだぜ?真剣になって祭りを成功させようとしてるアイツにお前が寂しがってるから帰れと言えるか?」

「ぐ・・・・」

「はぁ・・・・お前さぁ、これからずっとモモコと一緒に居るつもりなんだろ?」

「ああ。」

「なら、こんな場面いくらでも起こると思わねぇか?例えばだ、モモコを連れて行けない様な任務とか広報課の仕事が詰まってとか何とか何日か会えない時もあるだろ。」

「・・・・・・。」

「それを一々自分の側に居ないと駄目だの、ご飯はいつも一緒だの、夜は抱っこで部屋まで送るだの(ナゼシッテイルンダ。ホクガン)駄々をこねる気か?お前アイツよりいくつ年上だよ。申告が正しくてもだ(まだ疑ってる)17も上なんだぞ?」


ガツクは眉間に皺を深く寄せながらもホクガンの言う通りなので何も言い返せない。


「もうその位にしておけホクガン。あまりガツクを苛めるんじゃねぇ。」


ダイスから仲裁が入り、2人は促されるままホクガンの執務室、いつものソファに座った。

今夜は久しぶりに皆で顔を合わせるのだがそこにモモコの姿はなかった。





夜も深まった頃、ホクガンから今夜集合の連絡を受けた。それに是と返事をしてガツクが家に帰ると明かりが点いていた。


(モモコがいる!)


この所祭りに忙殺されていたモモコは、ガツクが帰ってくる前に疲れて先に就寝してるか、後にモモコが帰って来ても碌に会話もしないまま食事をしてすぐ寝てしまうと言うサイクルだったので、家は大体真っ暗な状態でガツクを迎えた。


急いで玄関を開けリビングに入ると・・・・

ソファで爆睡しているモモコがいた。

手には祭りの概要だろうか。数枚の用紙が握られたまま。一部は床に落ちている。食べかけの夕食、飲みかけのお茶、風呂に入ったのか髪はまだ湿っていた。


「モモコ・・・・」


ガツクは手をそっとモモコの額に当て幾筋かの髪をそっと払う。

下まぶたが少し窪んでいるように見える。

疲れているんだな。しかしこんな所で寝ては風邪をひくではないか。何故ベッドで休まずに・・・・・

その時ガツクの脳裏に猫のモモコが玄関で丸くなって寝ていた姿が今のモモコと重なった。




「俺を・・・・俺を待っていたのか。」




激しい喜びがガツクの胸を苦しいほどに満たした。

思わずモモコを掻き抱きたくなるのを理性を総動員して堪える。

今、想いのままに行動してしまえばモモコを壊してしまいそうだ。

額に置いた手が少し震えている。


ガツクは何度か深く深呼吸して自身を落ち着かせると、モモコの肩と膝裏に手を回し、そっと抱き上げた。力を入れ過ぎないように己の胸へと抱き寄せる。

しばらくじっとモモコの柔らかな肢体と体温を感じていた。




モモコ・・・・お前は時に心臓に悪い。

まるでお前だけが俺を殺せ、お前だけが俺を生かすようだ。

俺の人生にこんな事が起きるとは・・・・全くお前は・・・




ガツクは暴走しようとする心をモモコのふにやっとした寝顔を見る事で抑え、モモコを部屋へと運んだ。

ベッドへと下ろし自身は片膝をついて丁寧に毛布を掛けてやる。

柔らかな頬をガツクの節くれだった大きな手がゆっくり撫でた。




この気持ちをどうやって表わせばいい。

俺はお前の為に何が出来る。

お前は俺に何を望む。

モモコ・・・・




ガツクは静かに状態を屈めると眠るモモコの頬に耳に首に手首に口付けを繰り返した。

甘やかな匂い。唇に感じる素肌。モモコの緩やかな鼓動。時折漏れる小さな吐息。

・・・・・・それらがまたガツクを狂わせる。


(これ以上はやめておいた方がいいな。歯止めが利かなくなる。)


少し息が乱れたままガツクは身を起こし立ち上がった。

このままずっとモモコの寝顔を見ていたいが・・・・くされ国主が呼んでいる。しかもモモコもいると思って行くと返事してしまった。無視することも可能だが少し抗議 (彼の中での少し抗議は武具を持っての脅迫)しよう。モモコを働らかせ過ぎだ。起きているモモコにも会いたい。


そして、先程の執務室の場面に戻る。


「ガツク。」

「なんだ。」

「この祭りが終わって落ち着いたらよぉ、モモコとくっ付けば?」

「・・・・・・・・・・・は?」


ホクガンはガツクのポカンとした顔を見て


(レアな表情だけどポカンとしてても怖い顔だな~)


と余計な事を考えた。


「だからー、嫁にしちまえって言ってんだよ。お前もいい歳だし(お前もな)モモコだって成人してるし見た目は性犯罪者と誘拐された子供にしか見えねぇとしてもだ、互いが想い合ってんだ。何の問題もないだろって・・・・・オイ、俺の話聞いてるか?」


ガツクは聞いてなかった。




モモコを嫁にする・・・・・

モモコと結婚する・・・・・・・

俺がモモコの夫・・・・・・


祝福の鐘が鳴る教会でバージンロードを歩いてくる真っ白なウェディングドレス姿のモモコ。

やがて誓いの言葉が取り交わされ、

「それでは誓いのキスを。」

ガツクがヴェールをゆっくりと上げる。

ガツクを見上げて恥ずかしそうに微笑むモモコ。



”ガツクさん・・・・ううん、これからは旦那さまって呼ばないとね”


(注:ガツクの妄想です)



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




「俺、普通の事言っただけだよな。最近周りが思ってた事。」

「ああ。今回お前に非はねぇ。こいつがおかしいんじゃ。」

「まだ近づかない方がいいよな。」

「いくらワシ等でも死ぬのう。」


ホクガンとダイスは嬉しさが脳天突き抜けたガツクの狂喜乱舞と言う名の破壊活動を、巻き込まれないよう執務室の壁にピッタリくっ付いたまま静かに見ていた。


「アイツのあんな顔初めて見るなぁ~。珍獣発見した気分。」

「全開笑顔はやはり恐いか・・・・さすがガツク。」


その後遅れてやって来たテンレイの怒号によって、漸く活動をやめたガツクであったが・・・・・


「・・・・・ガツク。」

「なんだ?」

「その顔やめてもらえないかしら。」


モモコとの新しい関係に胸を躍らせニヤニヤが止まらないガツク。その締まらない顔はやはり絶望的に怖かった。


「見なければいいだろう。」

「視界にチラチラ入って来てイラつくのよ。うっとおしいの。止められないんだったら貴方、向こう向いてて頂戴。」


酷い事をさらっと言うテンレイ。断っておくがテンレイは普段は慈悲深い。ただガツク達3人には氷河の様に冷たいだけだ。


「お前が向こうを向け。」


だが、テンレイが氷河ならガツクは絶対氷壁。

2人の不毛な争いはどちらかがくたばるまで続く事だろう。


「まあまあテンレイ、そう言うなよ。ガツクがやっとモモコを嫁にする気になったんだからよ。」


その気になったのではなく漸く気付いただけ。


「それであの惨状?貴方って本当迷惑な生き物ね。モモコが可哀相。」

「弁償するからいいではないか。」

「そういう問題じゃないでしょ。いい、モモコは繊細な子なんですからね、扱いは細心の注意いを払って頂戴よ貴方が粗暴でガサツな事は」


また始まった・・・・

キター 過保護ママテンレイスイッチ キタ-・・・・

小言が長くなければ最上のええ女・・・いやこれもテンレイ・・・・


男達は止めても無駄なテンレイの小言をこの後小1時間聞く破目になる。




「早速今夜・・・・・起こすのは可哀相だな。では明日モモコに申し込むか。」


はやっ


「ガツク・・・・今モモコ忙しいからよ。祭り終わってからにしたら。ってさっき言ったよな俺。」

「急いては事をし損じるぞ。」

「お前は石橋を叩き過ぎだ。」

「う、うるせぇっ!」

「ホントだよな~何時になったら渡れるようになるんだか。」

「ワシの事はええじゃろ!今はガツクの」

「ガツクの事が済んだらお前だな。」

「そうだな。仕方がない、俺も協力してやろう。」

「!!! いらん!お前らはええっ!ワシ一人で」

「そう言い続けて早や ン10年。そろそろ引導渡すかガツク。」

「ああ。楽しみに待ってろダイス。」


人の悪そうな笑みを浮かべた親友2人に言葉もなく青ざめるダイス。これでただでさえ(ヘタレによる)成功率が低い彼の想いは一気に底辺まで落ちた。


「くだらない話の途中悪いけど。」


それまで何か考え事をしていたテンレイが酷い言葉で輪に加わった。


「ガツク、私も今貴方がプロポーズするとモモコは煩わしいと思うわ。(うおぉおテンレイ姉さんんん!)そこでね?どうせならロマンチックな状況で一生忘れられないプロポーズにしてみたら。」

「何?」

「おーそれいいねぇ。サプライズな感じよくなくね?」

「せめてプロポーズぐらい人並みに経験させてあげたいわよねぇ。」

「どういう意味だ。」

「そのままの意味だけど。」


無表情な男と笑顔なのに笑顔に見えない女が火花を散らしている。


「ママと婿の戦い再び。」

「モモコが居らんとすぐコレだからの~」


こんな時傍観者に徹する事しかできない2人はモモコの不在を嘆いた。下手に口出ししようものなら被弾は免れない。



「雪像どうよ。」

「雪像?」

「像は何でもいいけどお前が雪像を手作りしてその前でプロポーズ。」

「あらいいわね。モモコそんなの喜びそう。そうね・・・タイミングは祭りが終わった後、がいいわ。」

「ふむ・・・なぜそんな回りくどいやり方をせねばならんのかわからんが、これでモモコは俺の申し込みを受けるのだな?」


顎に手をやり難しい顔をしてガツクが呟く。


「まあな・・・。」

「モモコに気付かれんようにせぇよ。」

「わかった。」

「なぜ内緒にしなきゃいけないんだなんて思ってるでしょ。」

「理解はしている。」

「モモコに同情するぜ・・・・マジ。」


まァこれがガツク・・・・海の様に広い心で受け止めてやってくれ。モモコ。




次の日からガツクはモモコに秘密で像を作り始めた。

相変わらずモモコは忙しい様で僅かな時間しか会えない。

ガツクの心が悲鳴を上げる様になっていったが、ガツクはそれを像を作る事とモモコの寝顔を見て触れる事で紛らわせていた。

モモコが自分を待ち切れず寝てしまったあの日から唇でモモコの肌を探らずにはいられなくなっている。

時々眠りが浅いのか「・・・・ん。」と吐息にも似た声を上げるモモコに体が熱くなる事もあった。


もうすぐ・・・もうすぐ・・・モモコの全てが手に入る・・・・モモコとずっと一緒に居られる・・・


ガツクは白い息を吐きながらせっせっと雪の塊を何かの形に仕上げていった。

しかし・・・・・・・




「お前の芸術的センスが明後日のモンだって事忘れてたぜ。」




ガツクのほぼ出来上がった雪像を見て開口一番ホクガンは言った。

超忙しい合間を縫って漸くガツクの仕上がり具合を見に来たのだが、あまりの出来にしばし声が出なかった。

ぐちゃぐちゃで何がどうなっているのかというワケではなく、むしろその逆で職人技の様に精巧に出来ているんだが・・・・いるんだが・・・・だが。


「これ・・・」


ホクガンはある生き物を指差した。


「カタツムリだ。」

「だよな。・・・・・なんでケーキの上にあんの?」

「2つともモモコが好きなモノだ。」

「・・・・・・・・・。」


苺やらオレンジやらが乗っかったデコレーションケーキの上になぜか何匹ものカタツムリが来襲している。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


像は等身大のモモコを中心にモモコが好き、もしくは好物、関係がある物が並べられているのだが、その組み合わせというかなぜその並びに?と首を傾げたくなる有り様になっていた。

例えば、モモコは今でもショウが大好きでたまに会いに行っているのだが、そのショウの下半身をなぜかレインボーフィッシュが飲み込んでいたり、この前着ていたメイド服をゾンビが着ていたり(ホラー映画はゾンビに限ると言っていた)、巨大な満月 (冬場の月は素敵だそうだ)をガツクの武器、ブレイドが貫いていたりしている(ブレイドを初めて見せた時「カ、カッコいいね・・・・」と若干引き攣り顔で言っていた)。それらが全てガツクの鬼気迫る技で本物そっくりに作られているのだ。


さすが魔王様は違う。何かが違う。決して余人には理解できないしてはならない頭の中身になっている。


「この像の前でプロポーズ?」

「ああ。」

「マジで!?」

「そのために作っているんだろうが。」


このままいけば祭りが終わった夜中、ライトアップされたこの像の前でモモコはガツクのプロポーズを受ける事になる。


(あまりの衝撃に肝心のプロポーズがブッ飛んじまわないか?)


「これ、誰かに見せたか?」

「作業中にカインが来た。」

「何か言ってた?」

「いや。」

「・・・・・・・・あっそう。」





「カイン、ガツクの雪像見たって?」

「国主・・・。」


ホクガンはわざわざカインを捜してあの像に関する一般的な意見を聞いてみた。

不吉な事に顔色が悪い。


「見た事には見ました。」

「・・・・・・で?どう?」


カインは真っ青な顔で俯くと話し始めた。


「俺・・・・・あの像を見てから眠れないんです。」





夢を見るんですよ。


俺、夢の中で真夜中にあの像の前に居るんです。

あれ?部屋で寝てたよな?なんで?て思って、只でさえ怖いじゃないですかだから引き返すんです。

でも歩いても走ってもいつの間にかあの像の前に行き着くんですよ。で、もう本当怖くてパニックになって「うわあぁあああ!!」なんて軍人にあるまじき悲鳴なんて上げちゃってるんですけど、それも気にならない程の恐怖なんです。そして何度目かの時走りだそうとした俺の・・・俺の肩に・・・・!!!




カ タ ツ ム リ が




「ギャァアアア!!!!」


ホクガンはたまらず悲鳴を上げた。


その後何とか心臓を落ち着かせたホクガンは作業中のガツクの元へ引き返し、怪訝そうにするガツクに「万が一にもモモコに見られないように」と嘘っぱちで言いくるめ、作業中はシートで周りを囲み、終了後はシートを被せる事をガツクに約束させた。


豊饒な海に囲まれそれぞれ個性のある島々が点在し、陽気な気質とバイタリティ溢れる国民性を併せ持ち、強力な軍隊と優秀な奥とその他の部がそれらを守るドミニオン自治領国。


今日も、もちろん平和です。


例え真夜中に国主の部屋から大音量の悲鳴が聞こえていても。

ガツクに相手の為に自分が何をしてやれるかという想いが漸く芽生えました。

それでもコレも個人のエゴだと作者は思うんですけどね。

恋とか愛とかってエゴだらけですからね。それをどれだけ受け入れてもらえるか、受け入られるかで今後の関係は変わってくると思うんですよ。

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