表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偏屈さんと一緒  作者: ロッカ
67/84

6-7 呼吸はバッチリです


「密着取材?」


いつもの昼食時間、モモコは昨日から思っていた事をガツクに打診してみた。


「はい。今度野外訓練があるでしょ?それに同行させてくれないかなって。」

「・・・・・広報関係か。」

「うん。第一号で何を発信するか漸く決まったの。」


昨日テンレイからかねてより依頼していたアンケートが届き、モモコはそれを読んである結論に達した。

ちなみにアンケートの冒頭はこうだ。


『あなたの軍部の印象ズバッと言っちゃって!愚痴でもOK!被害届けでもOK!呪いの言葉でもOK!思いっ切り罵って!匿名記名何でもオッケ!』


・・・・趣旨が違う様な気がする。「印象」は何処へ。


それはともあれ奥の職員達は真面目にアンケートに答えた。・・・・・真面目に。

そして気になるその内容だが・・・



「ゴツイ。でかい。顔が怖い」

・・・・まぁ、うん、否定はできない。


「仕事を受け付ける時必要以上に威圧的。言葉も軍隊調で声が大き過ぎて耳鳴りがした」

・・・・加減がね、わかってないっつーか。


「目が合うとフンッ!と逸らされ非常に不愉快」

たぶん・・・・照れてるんじゃないかなと。


「持っていた資料をいきなり奪うと全く関係ない部署に置き捨てにされ、仕事を妨害された。」

手伝いたかっただけなんですよ・・・たぶん。余計なお世話どころか完全に邪魔してますけどね・・・・・。


「終始無言」

「薄ら笑いが怖いです」

「私より料理が上手いのがムカつく」?

「依頼人は一人なのに連隊全員で来ないで下さい」

「奥の廊下で国歌歌うな」

「奥の廊下で喧嘩するな」

「奥の廊下で紙相撲するな」

「奥の廊下で雄叫び上げるな」





・・・・あんたら何してんだ!!?





モモコは頭を抱えた。

たぶん隊士達にも何某なにがしかの事情があったのだろうと思うが、其処を考慮してもこれは酷い。


「怖がられるし嫌がられるし不気味がられるわけだよ。」


自分だって隊士達の事を知らなければ奥の職員達と同じ反応だろう。

ん?待てよ?知らなければ?・・・・・あ・・・そっか。






「まずは隊士さん達の事、もっと奥の人達に理解してもらおうと思って。隊士さん達がどんな人隣か、さわりでもわかってもらえたらもう少し距離が縮まると思う。・・・で、思いついたのが奥にいる時みたいに奇抜な行動している軍部じゃなくて、真面目に恰好よく軍務をこなす、尚且つ自然な感じの彼らを紹介したらどうかと。」


モモコは考え考え、昨日から頭を占めていた事をガツクとカインに話した。

ガツクは顎に手をやってモモコの話を聞いていたが、やがて。


「ふむ・・・カイン、明日の予定表を持ってきてくれ。」


ガツクは受け取るとそのままモモコに差し出した。


「その訓練だが近くの無人島を使って対ゲリラ戦 (訓練です)を行う。時間は朝四時から夜半一時まで。取材は構わんが・・・・ついて来れるか?」


うっそーーん!!?

モモコの口があんぐり開き、有り得ないという目でガツクを見た。


「・・・・無理そうだな。だが問題ない。」


え?

・・・・・・嫌な予感がする。めっちゃ←カイン




「隊士達に密着取材・・・・間近で取材すると言う意味だろう?ならば俺がお前を抱きかかえて隊士達と並走しようではないか。」


ばくだーん投下っ!




「えーっ!」


驚くモモコとは対照的に、カインは胃の辺りをを押さえてうずくまった。


「何を驚く。お前の体力では小半時 (約30分)も持たんぞ。取材どころではない。」

「それは・・・そうだけど。」

「俺が抱きかかえて運べば万事解決だ。」


解決どころか壊滅なんですが。

貴方の隊が。

伝統ある雷桜隊が。


「うう・・・じゃあ、迷惑にならない程度でお願いします。」

「任せろ。」


任せられませンンンン!!


「あ、あのガツクさん、モモコちゃん・・・それはちょっと。」


カインが死ぬ思いで勇気を出して声をかけるとモモコがしゅんとして謝った。


「あ・・・そうですよね。対ゲリラ戦なんて訓練でも大変なのに・・・・あたしみたいな素人が・・・すいませんさっきのはなしで!ワガママ言っちゃってごめんなさいカインさん。あ、じゃあ別の日に」






「カイン・・・・・・・・・・・。」





ガツクはモモコの言葉を遮るとモモコと、カインの間に立ちはだかり、遥か頭上からカインを睨んだ。

睨まれたカインの顔色が瞬時に青から白へと変わった。


「モモコのこの取材は軍部と奥の今後が、しいてはドミニオンの未来をも左右する大事な仕事なんだ。それをお前はやめろと言うのか?」


いつからお前の楽しみがドミニオンを左右する事態になったのだ?ガツクよ。

暴走した魔王ガツクを打ち取れるのは勇者モモコだけだが、そのまさかの勇者からの打診。まさにガツクにとって願ったり叶ったり、鬼に金棒である。魔王がこの機会を逃すはずがない。

そして生贄は雷桜隊隊士全員だ。


ガツクさん大袈裟だよ~と呆れるモモコを余所に、ガツクの眼光に生命の危機を感じたカインは、心の中で、魔王を止められなかった事を同僚達に謝りながら 「わかりました」と返事をした。






そして当日。

前もってカインから事情を聞いていた隊士達は、モモコがよろしくお願いしますと頭を下げるのを何とも言えない表情で見ていた。

確かに奥に対する自分達の態度は、無礼を通り越してどうしてこうなった的にマズいモノがある。

だからモモコのこういった取材は歓迎すべきものだが・・・ものだが・・・。

無駄に緊張を煽る大将がもれなく付いてくる・・・・・・。



最初の生贄はくじ運の悪いダイナンがいるグループだった。

当たりを引いたダイナンにグループの皆が「ドンマイ!」「ドンマイ!」と言いながら腹への肘打ちやケツへの容赦ない蹴りが入りまくる。


「モモコちゃん何してるの?」


せめてガツク達に同行して被害の拡大を防止しようと健気に頑張る軍部一の苦労人カインは、モモコが何やらリュックをごそごそするのを見て問いかけた。

モモコはかばんを漁る手を止めて顔を上げると


「あ、あのーカインさんがどうしてストップをかけたのか理由がわかって・・・ホントそういうつもりじゃなかったんですけど。すいません、カインさん。」


気付いてくれたんだね、モモコちゃん。謝らなくてもいいんだよ。だってもう遅いから。


「で、どうにかしてガツクさんの怖さを柔らげないかなと、あたしなりに考えていいアイテムを持って来たんですよー !あっ、これです!ガツクさん!これ着けて下さい!」


モモコはソレをガツクに差し出した。





「・・・・・・・・面か?」





ガツクの手にはよく縁日なので売られているあのプラスチックの平たい面があった。

もうこの時点でいろいろ間違っているが、さらにそのキャラクター・・・・



長い耳があった。

目の部分がキラキラしている。

寂しいと死んでしまうらしい都市伝説があって。

愛らしくも「テヘッ☆」とばかりに舌を斜めに出しての笑顔が白銀に映える。


「ウサギ・・・・・・・・ピンク」


極めつけはカラーがピンク。

本来なら懐かしさ、子供らしさを感じさせてくれる何の変哲もない祭りの面が、当代随一の呪いのアイテムにアラ早変わり。

もちろん呪われるのは隊士達だ。


・・・・なんてモノをチョイスするんだ君はっっ!!!!

もっと選択肢あったろう!!

ソレを着けた大将は何かに・・・何かに進化するぞ!!ホントにもう人間じゃなくなるんだからな!!!

ハッ・・・待てよ・・・軍務に関しては鬼の様に厳しいガツクさんだ。「遊びは駄目だ」と着けない方向へ・・・


「これはどうやって装着するんだ?」

「あ、ここのゴム紐をね」


着けちゃうんだ!!?アナタやっちゃうんですね!!!


「ああああああああの!ちょちょちょっと待って下さい!!」


カインがこれだけは!とばかりに声を張り上げる。

隊士達の一縷の望みを含んだ視線がカインに注がれまくった。

モモコは大声を出したカインを見て「あ」と何かに気付いた顔をした。

カインの目が安堵のために潤みだす。

ホッ、わかる子だと思ってたよモモコちゃん。頼むからその呪いのアイテムを暗黒世界に返してくれ。

隊士達も間にあったか・・・まさに危機一髪だったな・・・今世界は救われた・・・と思い思いに安堵した時。



「大丈夫ですよカインさん!ほらココ!口元と鼻の部分に小さな穴があって!だから呼吸はバッチリ確保です!」



そこじゃないっ!!!

大将の呼吸はどうでもいい!!!大将なら24時間潜水出来そうだし!!確保するのはそのヤバいブツだ!!!

あ・・・やめ・・・やめ・・やめてぇえええ!!!





「これでいいかモモコ。」

「うんバッチシ。」


!!!!!!!!


うぉおおおぉおおお!!!!


面を付けたガツクを中心に、隊士達のナニカをなぎ倒す衝撃波が巻き起こった。


限界まで鍛えられた大きな体躯に凄まじいほどの威圧感。

しかも野外訓練のためいつものスーツではなく白いミリタリージャケットに白いミリタリーズボン、白いコンバットブーツは周囲の景色に同調する為のモノだろうが・・・・・ウサちゃんの面のお陰で何やら混沌カオス


・・・・・大将ぉおおぉおおお!!!




その後、対ゲリラ戦の激しい訓練をこなすあちこちのグループに出没するウサちゃん魔王と抱えられたモモコが見られた。

最強&最凶タッグの誕生である。どうやらモモコは勇者でありながらも、ガツクが単体でいる時よりもパワーアップさせるスイッチでもあったようだ。今日ソレが証明された。

2人に怯えつつ「俺達の大将って・・・・」と瀬無せない思いを抱いた雷桜隊。

しかし彼らはまた強くなった。

「何に?」と聞かないのは人間としての優しさだと心得てくれ。by雷桜隊


この後、モモコの初仕事なる広報紙第一弾「軍部通信」が創刊となる。

これが意外と好評を受け、モモコはホッと肩を撫で降ろした。

一番人気が「君の素顔に密着!」コーナーのあの問題の野外訓練記事だった事は追記して置く事だろう。


”軍部を少し見直しました”

”男らしくて素敵です”

"もっと訓練時の彼らを見てみたいです”


嬉しい感想と共に(恐怖の)アンコールまでもらったモモコは、定期的に軍部の訓練時に同行取材するようになった。

あのウサちゃん魔王と共に。


名だたる列強に一目も二目も置かれるドミニオン軍部。

彼らは国土を国民を守るため今日も額に汗を流し、味方であるはずの大将に精神的に追い詰められながらも任務や訓練を頑張ります。


栄光あれ!ドミニオン軍部!

お前らの・・・明日はどっちだ!


モモコの「仕事やってますよ!お飾りじゃありません!」的話を考えたら出て来ました。

カイン!雷桜隊の皆!そして軍部!ゴメンね☆

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
変換ミスらしき箇所があったので報告します まずは隊士さん達の事、もっと奥の人達に理解してもらおうと思って。隊士さん達がどんな人隣か、さわりでもわかってもらえたらもう少し距離が縮まると思う。 もし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ