6-6 またもや出ました
モモコは手の中にある巨大なサンドイッチを四苦八苦しながら食べていた。
軍部は規格外にデカイ体躯を持つ者が多く所属する。当然と言うか必然と言うか食事のボリュームが多いメニューが並ぶ。それは、メガ!とかジャンボ!とか地球でなら「ラーメン10人前!これ完食できたらお代は要りません!」的なチャレンジャー級ばかり。
比較的量が少なめのパン類でもモモコの両手からは完全にはみ出している。
縦も幅もあるサンドイッチにモモコは口が裂けそうなほど大きく開け、齧り付いていた。
「ごちそう様です。」
モモコが手を合わせて食事を終える。
「それだけでいいのか?」
ガツクは焼き魚定食を食べていた手を止め、モモコのトレイを見た。
サンドイッチの2つあったうちの一つが残り、サラダもデザートも手つかずだ。
「うん。もうお腹いっぱいだよ~。満足です。」
背もたれにもたれ、爽やかなレモンティーを飲むとモモコは満足気にため息をついた。
「モモコちゃんには多かったようだね。明日からは半分に減らすよう食堂に言っておこうか。」
「折角用意してもらったのにすいません。」
「いや、ガツクさんの用意もあるし、俺のメシだってある。2人も3人も一緒だよ。気にしないで。」
「ありがとうございます、カインさん。・・・あ!あの!食器はあたしが返してきます!」
ガツクとカインは顔を見合わせた。
ガツクは完食した定食の器とカインの器、モモコの残した食事が乗った大きなトレイを見やる。
「・・・やめておいた方がいいのではないか?お前にはかなりの重さになるぞ。」
「ガツクさんの言う通りだよ。モモコちゃんには無理・・・」
「いえ!せめてこれくらいの事はさせて下さい!食堂への道も覚えたいし。それに・・・こう、なんていうか、できるだけ隊士の皆さんと知り合いになりたいんですよね。その・・・なんか警戒されてるらしくて・・・」
ちょっと困った顔で俯くモモコを見て、ガツクとカインはまた顔を見合わせた。
モモコは迷子になって恥ずかしかった・・・・
だが、いつまでもウロウロしている訳にも行かず、恥を忍んで、たまたまに出会った隊士に道を尋ねようとしたところ、
「ヒイィ!」
と悲鳴を上げられ全速力で逃げられてしまったのだ。
見る見るうちに遠ざかる隊士の背中を呆気に取られ、見送ったモモコだったが次に出会った隊士にも
「勘弁して下さい!」
とか
「まだ死にたくない!」
とか
「俺は何も見ていないぞ!断じて!あれは錯覚だ!しんきろー!」
とか言われ、道を尋ねるどころか話しかける事も出来なかった。
(・・・・何だか怖がられている?でも軍部だし・・・あたしみたいなへなちょこ、相手にもならないだろ。うーん、怪しいとか変な奴とか思われてるのかなぁ・・・まいったな。)
隊士達はもちろんモモコではなく、その背後の、モモコに異常な程の執着心を見せる彼らの上官に怯えているのだが・・・・・
「広報課として、これから軍部の皆さんを、奥やその他の部の皆さんに知ってもらいたいのに肝心のあたしが警戒されるのは問題じゃないかなって・・・だからあたしから積極的に隊士さん達に働きかけないと。」
話を聞き終えたカインはガツクをじと目で見た。
ガツクが目を逸らす。若干気まずさげだ(珍しい、というかこんなガツクを見るのは初めて)。
~テレパシー開始~
”・・・明らかにガツクさんのせいですよね”
”・・・・・・・・”
”コレ、モモコちゃんの仕事の邪魔してると思いませんか”
”軟弱者共が・・・”
”軍部最強の男に鬼の様に暴れられたら大抵の男はその元凶・・・失礼、原因には近づきませんよ”
”・・・・・・・・”
”わかっていただけたようでホッとしました。以後はなるべく(ヤンデレ)控えて下さい”
”・・・・やってはみる”
~テレパシー終了~
カインはため息をついた。
モモコが人に戻ったお陰でガツクのモモコへの対応が変わったように(言うほど変わってないか・・・)カインもホクガン同様の懸念を持ち、それまで放置とはいかないがガツクに押し切られていた事を細かく、めちゃ細かくガツクにソレ(ヤンデレ)を自覚するよう必死になって働きかけた。その結果、ある程度までは話を聞いてもらえるまでにはなった。
ただそれだけではあったが以前の問答無用で誰の意見も聞かず、モモコのストップしか利かなかった頃に比べると格段の進歩である。
(モモコちゃんが人に戻ってよかった・・・)
ガツクの暴走をある程度までは抑えられる・・・かもしれない。
その前には猫から人に変化など些細な事だ・・・いや、これはこのままではいつか起こるかもしれないハルマゲドンを想定しての神の奇跡に違いない。カインは心底そう思っている。
「モモコちゃん、そのやる気に水を刺すようで悪いけど食器も大きいし、量だってあるんだ。ここは俺が・・・」
「いえ!大丈夫ですって!ほらっ!」
モモコは渦高く積まれた食器をうぬぬっと持ち上げ歩きだそうとした瞬間。
「あっ!」
想像以上の重さにバランスを崩し、食器もろとも転んだ・・・かに見えたが。
「モモコ・・・頼むから今回だけはカインの言う通りにしてくれ。」
ガツクは片手でモモコの体を支え、もう片手で食器が乗ったトレイを持ちながら言った。
トレイから零れ落ちた数枚の食器はカインが救った。
「そ、そうします・・・」
モモコは若干、顔を赤らめ頷いた。
(猫の時も困ったけど・・・・)
ガツクは風呂上がりのままガシガシと髪の毛をタオルで拭いている。
が、その姿は上半身裸、下はスウェット。
(ガツクさんって・・・恥ずかしくないのかな?いや、そもそもあたしの事なんて眼中にないからするんだろうな・・・だって、仮にもあたし女の子だし、意識してくれたら、裸になんてなれないと思う・・・うわ、ちょっとへこむかも。・・・でも正直これは・・・目のやり場に困るからやめて欲しい。)
違うぞ、モモコ。
眼中にないどころかお前さえいれば他はどうなってもいいし、関心すらない。
だがお前を女と意識はしても残念ながら羞恥心は欠片もない。多分、モモコが「真っ裸でもいいよ」と言うなら全裸すら厭わない。
モモコはガツクが寝る時は服を着る派である事を神に感謝すべきであろう。
裸族じゃなくてよかったな(ちなみに我が家では家で真っ裸派の人を裸族と言いますが諸君ん家ではどうだろうか)。
モモコは見まいとしてもチラチラと視界に映る鍛え上げられた大きな体にドキドキした。
今この瞬間襲撃があったとしても即座に相手を仕留められるガツク。戦う事のみに特化した体は常に暴力の気配を纏っている。
ごく一部を除く、その他の人達にとって、その気配はガツクが意識して消さない限り同じ部屋に長時間居たくない程の圧力となって発せられる。
だが、モモコといる時は不思議な事にその圧も鳴りを潜める(モモコは緩衝材、衝撃吸収材、なくてはならない最終防波堤)。
「?」
ガツクはモモコが己を見ないようにしているのは気付いたが、それが何なのかはわからない。
素肌にタオルを引っ掛けたまま、モモコの真向かいに腰を下ろした。
「モモコ 今日の事だが・・・」
ビョイインン
ガツクは話しかけた途端モモコが跳び上がり、走ってリビングを出て行ったのを呆気に取られて見ていたが「もしや逃げたか」と思い(重傷だなコイツ)、すぐさま捕食者の様な気配を滲ませて立ち上がった所にモモコが走って戻ってきた。
そして手に取った黒いTシャツを顔を背けたままガツクに向かって差し出す。
「こ、これっ!あああの・・・・風邪っ!そう風邪引くと大変だから!湯上りって体温奪われやすいし!」
ガツクはどもるモモコに?となりながらも
「風邪など引いた事はないが・・・」
「・・・な、何でも最初があるんだよ!今日がその日かも!体調管理は軍人さんは必須!」
「?・・・まあ、そうだが・・・」
ガツクは腑に落ちないながらもシャツを受け取り、それを着た。
モモコはホッとした。
が、袖から覗く太くて血管が浮き出た腕、ガッチリした首から広い肩のライン、鍛えた筋肉が覆う厚い胸、服の上からでもわかる割れた腹筋(人間ってあそこまでハラ割れるモンなの!?)。
(ガツクさんってホントに・・・・闘う男の体だよな)
好きな男の体である。気にならない方がおかしいがスーツを着た時とはまた違う男臭さ。しかも常に鍛錬を欠かさずストイックな程極められている。
モモコはポケーッとガツクに見惚れていたが、話しかけていたようなガツクが怪訝そうに
「モモコ?」
と言うとハッと我に返り
「ななな何?」
慌てて顔をガツクに上向けた。
「どこか体調でも悪いのか?顔が赤い。お前こそ風邪を引いたのではないか?」
「あ・・・大丈夫・・・うん、大丈夫だから。ごめん、なんの話だったっけ。」
「謝らずともいいが・・・頼むから病など罹るなよ、苦しむお前を見るのは辛い。」
「ガツクさん・・・。」
モモコは困った顔で笑うガツクにきゅーんと胸が締め付けられた・・・けど傍目から見ると鬼が獲物を逃してちょっと口惜しそうにしているみたいに見える。
・・・・恋は全てのモノを、本っ当に全てのモノを覆い尽くす摩訶不思議な感情。盲目とはよく言った物だ。
「今日、お前が迷った件だが。」
ガツクは本題に入ると傍らに置いた紙束から数枚抜き出し、テーブルに置いた。
「これって・・・」
「そう、総所の地図だ。」
総所は地下10階、地上40階建ての超巨大な城である。
その中には、軍部施設や訓練場を始め、その他の部の施設、中庭、病院、スーパーマーケット、レセプション会場、宿舎等、それ自体が小さな町の様なドミニオンの心臓部、総所。
その大きさはごく一部の人間を除き誰にも把握できない程広大だ。
ちなみにガツク達4人は総所のありとあらゆる道、施設、部屋、抜け道に至るまで全てを網羅、記憶している。
彼らが総所の化け物と言われる理由の一つだ。
「一応お前が行動するだろう範囲のものを用意した。だが、これはほんの一部だ。この地図以外に行きたくなったら俺を呼べ。連れて行ってやる。」
「でも・・・ガツクさんだって仕事があるし・・・いいよ、そんな。」
「気にするな。俺の仕事なら何とでもなる。」
「ガツクさんったらあたしを甘やかし過ぎだよ・・・でもありがとう。」
(よーし、なるべくそんな事ないように頑張って地図を覚えるぞ!)
恐縮しきりのモモコだが奴の本音は会えない仕事中、少しでもモモコの側にいたいだけ。
健気というか何でもするなというか・・・ちょっと涙の一つでも浮かんでくる・・・ないな。ない。
「ねえ、ガツクさん。」
「なんだ。」
「奥と軍部ってどうして仲が悪かったの?」
「知らんな。」
「えっ!?・・・知らないの?」
「ああ。」
モモコはあっさり言い放つガツクに啞然とした。
「知らないでケンカっていうか仲違いしてたの?」
「その話だが、仲違いなどしているのか?周りが言うには向こうが突っかかって来るんだそうだが、俺はそんなものされた事はないぞ?(お前にんな事出来るか。精々がテンレイぐらいだ)確かに部下達からは冷たいだの無視されたのだのと聞く。が、正直任務に支障がない限りどうでもいいと思っていた。だからどうしてと言われてもな・・・全く思いつかん。」
首を捻るガツク。
奴らしく、興味のない事にはとことんないのがわかる返答。気にも留めていなかったようだ。
モモコは頭を抱えたくなったが堪えて違う質問をしてみた。
「じゃあ、いつから仲悪かったの?」
「いつから・・・さあな。」
ガツクは自分の答えに「え?それも?」となるモモコの顔に慌てた。
「ま、待て!それに関する一番古い記憶は・・・ううむ、そうだな・・・奥に何かされた様なキングの愚痴を聞いた事がある。それが軍部に入って間もない頃だった。だから少なくともその頃はあったと言う事になるだろう、俺とキングは同期だから15年以上前の話だ。」
「ふーん。ガツクさん達の世代より前・・・結構根深いのかな。」
モモコは解決できるかなと思うが、レセプションの準備中や最中に奥と軍部がぎこちないながらも協力し合っていた事を思い出した。
(切欠さえあれば何とかなりそうなんだよな・・・ちょっと希望的観測混じってるけど。それにしても気になる・・・一体軍部と奥に何があったんだろ)
悩むモモコに
「奥と軍部の過去が気になるならシラキさんを尋ねたらどうだ。」
ガツクから提案がなされる。
「シラキさん?」
「シラキさんなら何か知っているかもしれんぞ。何せ軍部に在籍して40年以上になるからな。先人から何か聞いているかもしれん。」
「なるほど、シラキさんか・・・うん!明日アポイント取ってみる!ありがとうガツクさん!」
満面の笑みでこたえるモモコにガツクはモモコの役に立ったようでホッとした。
これ以上モモコに呆れられたくない。
モモコが人になり、こうして直接会話したりクルクルとよく変わる表情を目の当たりにするようになると自分がどう思われているかものすごく気になる。
他の奴らに何と思われても気にもかけなかった自分が・・・・
それは少しの苛立ちとくすぐられる様なむず痒さをガツクにもたらした。
ガツクは何だかモヤモヤしたものを抱えながらモモコが今日した事思った事を手振り身振り話すのを晩酌片手に楽しんだ。
そして、ガツクの寝室まで短い距離を抱きかかえられて(ガツクが自然に抱っこ。モモコは小さな子供の様に思われて気に入らないが、嬉しい事には変わらないのでそのまま)仲良く入り、
「今夜は一緒にね」
「イヤです。」
と断り、断られ、がっくりしてムスッとなるガツクとそれを「可愛い(!!!)」と思いながらカーテンの(説得に2時間費やす)向こうの部屋に入り、寝る支度をするモモコ。
「おやすみなさい、ガツクさん。」
とガツクに声をかけ、しばらくしてモモコの部屋の明かりが消えると、ガツクの低い声が
「おやすみ、モモコ。」
と短く答える。
これが2人の日常になりつつある。
ありきたりだけれど確かな温度と幸せ。
モモコはそれがとても好きだ。いや、大好きだ。
朝元気よくガツクと出勤し、なるべく多くの隊士達に笑顔で挨拶。
だが、隊士達の顔は引き攣り、直立不動で挨拶を返されるのには閉口した(お前の背後に何かが)。
広報課部屋前までガツクに送ってもらい、「お仕事頑張ってー!」と手を振ると背を向けながらも軽く手を上げて応えるガツクに二マニマしながら部屋に入ると頬をぺチぺチ叩いて気合を入れ直し、早速シラキの執務室に電話を入れた。今日窺いたい旨を伝えると午後一なら空いているとの返答。互いの微調整をしてモモコは受話器を置いた。
それから昼食まで地図を取り出し周辺の道を覚えたり、隊士達に挨拶したり(逃げる事ないと思う・・・)した。
シラキの執務室まで送ると言い張るガツクを何とか説得し、ギリギリの時間でシラキの執務室の前まで来たモモコ。
緊張して上がる息を深呼吸を何度もして整えると薄茶色のドアをノックした。
「・・・どちら様で。」
長い黒髪を片側にさらりと垂らした秀麗な隊士に静かに聞かれ、モモコはどもりながらも聞かれた事に答えた。
「モモモモコ・クロックスです!あ、あの、1時の約束で来ました!」
「あなたが・・・ようこそいらっしゃいました。ディグニー大将がお待ちです。こちらへどうぞ。」
黒髪の隊士は柔らかく微笑するとモモコを促し、モモコが部屋に入った後、隣の応接室の扉を軽くノックした。
「クロックス課長がお見えです。」
「通しておくれ。」
シラキの穏やかな声がくぐもって聞こえ、黒髪の隊士は大きく開けたドアへとモモコをまた促した。
「よく来たね、モモコ。そこに座んな。」
笑顔のシラキが真向かいのソファを勧めた。
「・・・・来ると言う連絡を受けてから予想はついていたけど・・・昔の奥と軍部の事だね?」
「は、はい。・・・あの・・・私、過去を知らなくても今の軍部と奥は絶対仲良くなれると思っています。でも、どうしても気になっちゃって・・・あ、あの!でも決して野次馬的なモノはありません!」
ハッとなり、慌てて付け足すモモコに
「わかってるよ。そんなに構える程の話でもないしね。」
シラキは声を立てて笑い、入れた茶をモモコの前に置くと足を組んで当時を語りだした。
この国の歴史は知っているね?
そう、60年前の大戦の後ゼレンの属国になった・・・・ドミニオンに軍隊がなかったわけじゃあない。だが生来争い事が嫌いな国だ。加えて楽観的な国民性も手伝って今の5分の一はどの規模だった。その頃勢いのあったゼレンにたちまち攻め込まれてしまってねぇ・・・軍は崩壊したが代わりに怒りに燃える抵抗勢力が生まれた。その中には密かに武器を運んだり、潜伏場所を誂えたりと彼らをサポートする人達もいた。そう、これが奥の前身だ。
今の軍部の基礎時代に奥も存在していたんだよ。その頃は時代が時代だったからねぇ、両者共互いに協力し合って友好な雰囲気だったそうだ。だけど、軍部は相次ぐ戦闘で力をつけ、数が多くなっていくうちに戦う事を至上とし、周りをかえりみない事が多くなった。
・・・・・何年も続く戦闘は人の心を安く変える。優しさなんぞ持ってたら敵の命なんて奪えない、無事屯所に帰って今日一日生きていたからってさっきまで殺し合いしてたんだ。さあ終わったぞって切り替えのできるほど単純でもない。
仕方がない事だったかもしれない・・・・穏やかになるには時代が許さなかった。
奥はそんな彼らの我が儘を文句ひとつ言わずにサポートし続けた。わかっていたからね。
でも奥だって人間だ。ぞんざいに使われると不満もたまる。
奥は爆発寸前だった。
それを大噴火させたのは・・・稀代の英雄、そしてドミニオン一の大馬鹿男、シス・フェザーランだ。おや?シスの事を知っているのかい、それなら話が早い。
あの馬鹿はある日奥の職員を公衆の面前で、あろうことか尻を引っ張叩いたのさ。
子供にするように膝に乗せてね。しかもあの男の力だ、加減はしていたんだろうがかなり痛そうだったね。
恥をかかされた奥は責任者はおろか職員達全員大激怒。
当り前さね、シスの叩いた理由ってのが彼女が酌をした酒が服に掛ったってぇ些細な事だったからね・・・奥と軍部は急激に仲が悪くなった。互いの仕事はきちんとこなすが雰囲気は最悪だった。特にシスが率いていた雷桜とシスの親友が大将をしていた霧藤とは犬猿の仲。寄ると触るとケンカしていたっけ。
それからしばらくしてシスはあの大事件を起こし国を追われ、残された軍部と奥は互いに歩み寄れないまま。
・・・・ただねぇモモコ、シスは只のイラつきでこんな事を仕出かしたんじゃない。ちゃんと理由があったんだ。
尻を叩かれた職員だがあれはゼレン側の間者だったんだよ。
酒に毒を混ぜて軍部の幹部を毒殺しようとしていたのさ。
聞かされた時は耳を疑ったもんだよ、それほど彼女は慎ましく優しく愛国心に満ちて周りから好かれてたからねぇ。
だがあの時シスに正体がバレタのを察した彼女は翌日には居た堪れなくなったからという書き置き一つ残して消えてしまった。
・・・雨牡丹隊が密かに調べた所、残念な事に証拠が上がったよ。
潜伏先で追い詰められた彼女は毒を呷って死んだ。
全てが終わってシスにこう言ったよ。「奥に伝えるか」と。
だがアイツは首を振って
「このご時世だ、疑心暗鬼に陥らせるな。ドミニオンは団結力が売りだぜ?それを揺らがせるのは敵の思う壺だ・・・・なぁに、俺が憎まれ役を引き受けるからよ・・・・隣の奴が間者かもって互いに疑うよりはマシだろ。それよかシラキ、間者はまだいるかもしれねぇ、お前の部隊に任せるぞ。それからこの事は他言無用だ。」
・・・・これで奥と軍部の昔話はお終いだ。
まぁ、今は両方とも随分柔らかくなってホッとしている所だよ。モモコのお陰だね。謙遜しなさんな、話は聞いてるよ。
・・・・さて、ちょいと長かったかねぇ、疲れたろ、茶のお代わりはどうだい。
シラキは美味しそうに茶を啜るモモコを目を細めながら見た。
よくそこに座って仲間達と歓談していたあの馬鹿を思い出す。
シスには想い人がいた。
当時の奥の責任者だ。
極度の照れ屋でもあった彼はうまく好意を告げられず絶えず空回りしていたが、何となく責任者は察していたと思う。だがあの一件で責任者とは口をきく事さえなくなり、やがて彼は去った。
本当に馬鹿な男だよ・・・・・・アンタの想いは届いていたのに。
シラキはシスが去ったあの晩、泣きながら自分を訪ねてきた幼馴染を思い出す。
シスの事がずっと好きだったと泣きじゃくる責任者を。
結婚したばかりの旦那と一緒になって慰めたっけ。
今頃何処で何してるんだか・・・・あの無責任の大馬鹿野郎は。
シラキが懐かしくもほろ苦い過去を思い出していた頃。
すっかり冬支度がすんだ中庭を見下ろしながら一人の男が呟いた。
「最近ヒマヒマだな~・・・・ドカンと祭りでもねぇもんかね。」
何気ない日常書いてみました。
・・・そして久々にキた、この男。