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偏屈さんと一緒  作者: ロッカ
64/84

6-4 ヤンデレ発動です

ザワザワザワ・・・・


カインの次なる連絡事項に隊士達はざわめき始めた。が、ガツクの目が少し狭まると


シン・・・・・


それだけで隊士達は物言わぬ像と化す。(一応言っとくけど恐怖だけで抑えてるんじゃないよ?ちゃんと尊敬もされてるからね。決してそうは見えなくても)


「軍部と奥が和解してからしばらく経ちますが両方の橋渡しと言いますか間をとりもつ部署がなく、おおいに皆さんにご迷惑をかけておりました。が、この度漸く最適な部署、責任者が決まり、皆さんの不満も解消できるかと。それでは紹介しましょう。軍部特別広報課課長、モモコ・クロックスさんです。」


隊士達からして右側から小柄な女の子(にしか見えない)が、タタタタ・・・・と駆けて来て、壇上の前で止まる。


「モッモモモモモコ・クロックスです!じゃ、じゃ若輩者ですが!」

「クロックスさん、マイクを使わないと皆さんに聞こえまえんが。」

「ゲッ!」


ド緊張のあまり盛大にどもりながら挨拶したモモコだったが、事前の取り決めをパ二くって忘れ、冷静にカインにツッコまれる。

くうううう~っ!

モモコは真っ赤になりながら、あたふたと壇上にえっちらおっちら(大きな体躯の者共に合わせて作られた壇上はモモコにとってアスレチック)上った。


「す、すみません・・・」

「気にしなくていいですよ。隊士達は(あなたの姿に)驚いて気にする余裕はないでしょうから。」


カインはガツクに決して睨まれない程度に、しかしモモコを気遣うという芸当をやってのけた(ガツクの補佐官は最早お前にしか務まらんであろうカイン。雷桜隊はお前のおかげで8割ガタもっているぞ)。


「み、皆さん 初めまして!モモコ・クロックスです!若輩者ですが精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」


マイクを握ったままモモコは深く頭を下げて自己紹介を終えた。


そして、静かすぎる場内に気付いた。

慌てて顔を上げると雷桜隊の面々が驚きの顔で自分を凝視している、中には口をぽかんと開けている者がいたり、指差している者までいた。


(な、何だろう・・・何か大袈裟に驚かれてない?・・・ポッと出のあたしなんかが重要な役職についてるんで驚いてるんだろうか。やっぱこういうのってダメなんだろうな・・・そりゃそうだよな 思いっ切りコネだし。)


鈍いというか相変わらず斜め思考のモモコだが、隊士達は勿論そんな事に驚いているのでない。

それどころかモモコの姿を見た途端カインの言ったことなど頭から根こそぎすっ飛んでいた。





裏の裏の裏の裏の裏のそのまた裏が・・・・出た。


日の光に煌めくピンクが混じった茶色の髪。

小さな顔に不釣り合いなほど大きくちょっと垂れた瞳。

その目の色はよく見ればあの小さな猫と同じ色合いなのがわかる。

真新しい軍部の黒い制服から伸びた標準程度の白い手足。

そしてこの世界では異様に低い身長。


中等部・・・いやまさかの小等部?いやいやいや!!そんな事より!!!


モモコちゃん・・・・?





「あ、そうそう。クロックスさんは不慮の事故でご両親を亡くされてまして、そのご両親と親交の深かったガツクさんが後見人をしています。ちなみにモモコさんは軍部に在籍してはおりますが隊士ではありません。なぜならば奥やその他の部署と改めて交流を持つに当たり、我々軍人ではなく、一般の感覚を持った方があちらの気持ちも、我々の言いたい事もうまく伝えてくれるのではないかと思うからです。全てはドミニオンのさらなる繁栄と安定のための国主直々の推薦ですので皆さんもクロックスさんにご協力お願いしますね。あとクロックスさんについて何か質問したければ(ガツクさんに行きつくのを覚悟で)どうぞ、個人でなさって下さい。」


カインは軍部きってのジョーカーをいまだショックから抜けきれない隊士達に提示した。

こうなれば彼らはどんなに言いたい事があろうとも、どんなに不可解に思っていたとしても沈黙のうちに沈む他はない。


モモコは沈黙を訝しげに見ながらチラッとガツクを見上げた。

視線を感じたガツクはモモコを見下ろす。

その眉間にはこの事が決定してから刻まれ続けている皺があった。


(まだ怒ってんのかな。でも!これだけは譲らないぞ!)







~前回の続き~


激化必至のガツクのヤンデレ問題はひとまず厳重に封をしてマントルに到達するまで埋め込み、当面のもっと建設的な問題に超前向きな(見ない振りともいう)ホクガンは、モモコが完全に目を覚ましたのを見るとこの世界で生活していくうえでの重要な事を再び検討し始めた。


「取りあえず、後見人がどうしても必要だ。この世界に居るお前に当然だが身寄りがいねぇ。酷な事を言うようだが天涯孤独の身にゃ、何をするにしても保証人、しいては後見人が必要だぜ。」


ホクガンが懸念する表情で言うのをモモコも神妙な顔で頷いた。


「俺がやる。」


ガツクが低い声で名乗りを上げた。


「え・・・」


だろーな。

モモコだけがいいの?みたいな声を上げる中ホクガン以下2名は思った。

ガツクがモモコに関するありとあらゆる事を他人にゆだねる筈がない。

(でもあいつが「やる」っつーと「殺る」って脳内で変換されて聞こえるんだよなぁ、しかも自動変換。)

どうでもいい事を考えるホクガン。


「・・・ガツクさん、無理しなくてもいいんだよ?あの・・・飼い主としての責任とかだったら、もうすごく良くしてもらったし、だからその・・・」


モモコはガツクがいの一番に申し出てくれた事が何より嬉しかったが、責任感で引き受けようとしているのでは・・・と言いかけるがこの男に責任感とか謙虚とか譲る精神があるはずもない。


「いいや、俺にはお前に関する全ての事に関わる義務がある。・・・・お前と約束したではないか・・・それとも俺では不満か?」


お前は俺のモノなのだから面倒を見るのは当たり前。

あの約束はお前が人間に変わったとしても履行は当然。

俺に代わる者があるのならここに連れて来い・・・・直ちに存在すらなかった事にしてくれよう。


(裏の声が聞こえそうだぜ・・・・)


ガツクと長い付き合いのホクガンは腕を組んで仁王立ちする、想い人に向ける態度ではないガツクを半目で見て正確にガツクの心の声を読んだ。


「そ、そんな事!不満なんてあるわけないよ!あ、あの身に余るっていうか・・・本当にいいの?」


ちょっと顔を赤くしながら上目遣いで躊躇うモモコ。

たちまちガツクの空気が重く濃密なモノになり、目はモモコを溶かしてしまいそうなほど熱が宿る。


「いいに決まっている・・・・お前のためならば・・・」


「じゃあ世界征服してくれるぅ?」「お前が望むならいいとも!」「やったァ!手始めにゼレンからね!キャハ☆」「フッ!塵も残さん。」「素敵!」なんつって。


ホクガンのバカげた妄想と(だって暇なんだもん!)


それは逆効果にしかならんぞ、モモコ。

モモコ・・・これ以上は危険よ!やめておきなさい!


2人の忠告も空しく


「・・・・ありがとう・・・ガツクさん。」


はにかみながらも嬉しそうに笑うモモコ。


グハァッ!

痛恨の一撃!

ガツクは56814ポイントのダメージを受けた。


ホクガンはモモコの笑顔にヤられ、ヨロヨロと立ち上がったかと思うと両膝を付いて何やらブツブツとつぶやき始めたガツクを見て、また勝手に付け足した。(セリフ付き)


「ガツクさん?大丈夫?」


ガツクのHPを大幅に奪ったモモコだがそんな事知らんので普通に心配する。


「気にすんなモモコ。勝手に復活するから、ほっとけ。それより、この中から一つ選べ。壱、学生をやる。弐、働く。参、俺のパシリをする。四、何もしたくない。」

「取りあえず、参だけは絶対嫌。」


モモコはナゼそんな事しなくてはならんか!と言わんばかりに顔を顰めた。

そしてうーむと腕を組んでこれからの事をどうするか改めて考え始めた。

これからこの世界で生活していくに当たって、何はなくとも先立つ物が必要になのではないか。どうしても学業をしたいわけではなく、働く方が自分にはあっていると思うし、むしろ好きだ。

猫の時はともかく、人間に戻った今ではガツクの世話になっている訳にはいかないだろう。

当面はガツク達に厄介をかける事になるかもしれないが、


(自立できるようになったら・・・できるように・・・なったら。)


モモコはそこまで考えて、今まで側にいるのが当たり前だったガツク達ともしかして離れる事になるかもしれない事に気が付いた。

急に心細く、不安になるのを、目をギュッとつむって堪える。

もう充分な事をしてもらってる。これ以上は考えられない程良くしてもらった。今だって自分の今後を真剣にどうにかしようとしてくれてる。


(甘えちゃダメだろ。五体満足だし、頭だってそんなにバカじゃないつもりだ。一人でだって・・・・)


そして、無理に笑顔を浮かべると、皆を見渡して元気よく返事をした。


「働きたいかな。(働くの)好きだし、早く自立しないとね!いつまでもガツクさんの世話になっている訳にもいかないし。」

「どういう意味だ?」


本当に勝手に復活したガツクが間を置かずモモコに問いかける。

え、あれ?

ガツクの妙に険しい顔に面くらいながらもモモコは返事を返した。


「いや、あの・・・猫の時は保護してもらってたけど、人間に戻ったからにはそうはいかないでしょ?自分一人の力で生きて行かないと・・・・アレ?」


シーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン。


モモコが言い終えた瞬間、空間は凍りついた。

あ、あれ?どうした?

モモコは、もしかして心配されたり、もしくは励ましてくれたりする場面を思い浮かべていたので想定外の静まりかえった部屋の空気に戸惑った。

それに発言したモモコではなく皆いつの間にか近くまで来たガツクを注視している。

モモコもつられてガツクを見た。

何となく、なーんとなくだが若干ガツクの影が濃くなったような気がする。

空気が渦巻いている様な寒いんだか熱いんだかよくわからない感覚。

恐る恐るモモコはガツクに声をかけた。


「どうしたのガツクさん。眠いの?」


この状態が眠いワケねえだろ!!!見てわかんねえのか!魔王様降臨だよ!!!どうしたのはお前の頭だ!!!


ホクガンからエア・シャウト版ツッコみが入った。

ガツクはモモコの脳天気な質問には答えず、


「モモコ・・・・・お前が働く必要はない。」


受け取る者によっては心肺停止な声で言った。


「え。で、でも、働かないとお金だって稼げないし、お金がなかったら自立だって難しいでしょ?」


ガツクの予想外の言葉に戸惑いを深めるモモコ。


「自立?何のために。働かなくとも、金が欲しいのならいくらでもやろう。欲しい物があるのならば何でもくれてやろうではないか。だが、俺から離れる事だけは許さん。」


ガツクは無表情で言い切った。


ハイ

ヤン発動でーす。


帰りたいけど無理だよねー超無理だよねーだって軍部半壊させるわけにもいかないじゃん?俺らが止めねーとどうなるかわかんねーべよ。むっちゃ嫌だけど。ていうかなんでお前平気なワケ?普通はビビりまくって気絶してるトコだよココ。


「な、何言ってるんだよガツクさん!お金が欲しいとかそんなんじゃなくて!あたしもう猫じゃないんだよ?このまま・・・このままお世話になりっ放しなんてイイわけないじゃん!」

「何か問題あるか?お前は俺とずっといる、お前の面倒は俺が一生見る。今までと一緒だ。」


マントルに埋めたはずのヤンデレはそんな封印、歯牙にもかけず浮上すると(ホクガンの脳内でだけどね)結構早めに炸裂した。

モモコは啞然と固まったまま何処かでこれと同じ経験をしたのを思い出した。


(・・・・こ、これ前にもあった。あたしが・・・そうベントさんの頬をペロッとした時だ。あの時もワケわかんない事言われてガツクさんとケンカっていうか追いかけっこしたっけ・・・懐かし・・・がってる場合じゃないだろ!)


「あたしは。」


ガツクは胸を焼き尽くさんばかりに暴れる想いとどうやったらモモコを囲い込む事が出来るかを冷静に考える想いとを同時に感じながらもモモコの小さな小さな声を聞く。


こんなにも俺の中は相反しているというのに・・・お前は。


ガツクはモモコの強い意志の籠った目を見つめ続けた。

ガツクはモモコのどんなに小さな言葉や仕草でも絶対に無視できない。

はにかむ様に笑い、困ったように首を傾げ、自分の名を呼ぶ時は少しだけ上ずるその声。

その全てがガツクの五感を揺さぶる。

ガツクにとってモモコはかけがえのない存在だ。

なのにモモコは簡単にガツクから離れると言うのだ。

その口で。

ガツクと共に在ると約束したその口で。


俺の半分もない脆い体の。抱き締めたら易く壊れるだろうお前は・・・なぜこんなにも。


「あたしは、ガツクさんにずっと守られてるわけにはいかないよ。そりゃね、ガツクさんに全部任せて、おんぶに抱っこなんてむっちゃ楽だろうけどさ、でもこんなのあたしじゃない。そんなのあたし耐えられない。ガツクさんに今までたくさん良くしてもらってて、こんな事言うのって生意気だし、何様って感じだろうけど、でも、でもあたしにだって意思がある。何でもかんでもガツクさんに従うんじゃないから。」


モモコは頭ではなく心で思った事をガツクにぶつけた。猫の時はそもそも言葉事態が通じないので半ば諦めていたものだが常にそれはモモコの中にあった。ガツクの事は好きだが(もちろん異性として)だからと言ってガツクのいうままになったり、任せっきりにするのとは違う。


(ガツクさん責任感強いからそう言ってくれるんだろうけど(違うぞーどっちかと言ったら邪な事しか考えてない)、あたしはそんなふうに見て欲しくない。あたしを一人の人間として一人の女性として見てもらいたい(見てる。お前が猫だった時から超見てる、立派な変態だ)。無理だろーがなんだろーがガツクさんと対等になるんだから(確かに対等じゃないな。お前がその気になれば世界征服できそうなほどガツクを従えているから)。)


あたしという一個の存在を認めてもらいたい。特にあなたから。


ガツクのともすれば相手を目茶苦茶にしてしまうほどの激情とモモコの一途に想いながらも相手と共に立ちたいという心のぶつかり合いは結局のところ・・・・


「わかった・・・・。」


モモコには思いもよらない程深くモモコを想うガツクが負けた。


「だが条件がある。」


だが、膝をついたとしても只ではついてやらないのがガツク。


「働くから。」


用心深そうにモモコが先手を打つ。


「心配するな、働くななどとはもう云わん。だが俺の目が届く所、軍部で働いてもらう。」


軍部・・・かぁ。


うーん、と腕を組んでモモコは考える。

隊士っていうのはないだろうな。軍人など自分とは対極にある職業だろう。

ドミニオンの軍部はいわゆるそれ専門の仕事というものがない。

それはなぜかと言うと、フリフリのフリルが付いたエプロンを付け、甘味を欲しがる者達のためにモンブランやガトーショコラを作るパティシェ(身長3m越えの厳ついおっさん)も、洗濯バサミを咥えながら真っ白なシーツを干すランドリーマン(顔に十字の傷がある鋭い顔付きの青年)も、窓ガラスをハァーッと息を吐いてキュッキュッとクロスで磨くクリーナー(スキンヘッドの眉なし強面野郎)も、皆隊士達であるからだ。彼らは自分達で出来る事は全て自分達でローテーションを組んで実行している。軍部で働く全ての者が隊士。

国の有事には最前線で戦う事が職務である彼らは隊士になるための体力とペーパーの試験がある。

ちなみにジエン率いる武器開発製作部隊、雪菫隊は特別枠で体力テストはないがその代り超難関なペーパーテストがあり、他の部隊よりも受かる確率は断トツで少ない狭き門と評判である。雪菫に入れたとしてもひとたび有事が起これば隊士として前線へ配備され、常に武具の具合や防具などの修理、補強、そして要望があればその場で製作なども担当する結構体力も使う専門職だ。

他にはカイン達補佐官のように固定された仕事もあるがそれでもちゃんと隊士として前線に立つ。


「あの・・・言い返すようで心苦しんですけど、軍部にあたしに出来る仕事ってあるのかな?そもそも軍部って隊士じゃないと入れないし。そのための試験だってあるんでしょ?あたし受かる自信ゼロだよ・・・」

「俺の補佐官。」

「カインさんがいるでしょ。言っとくけど無理矢理規則を捻じ曲げるのはなしだから。大将のガツクさんがそんなことしちゃダメだよ。勧めてくれるのは有り難いけど・・・軍部は無理なんじゃないかな。」

「補佐官の補佐。」

「ガツクさん、あたしが言った事聞いてた?」


なおも諦めないガツクに呆れた視線をモモコは送った。


「確かに軍部は難しいかもなぁ・・・お前んとこどうよ。」


黙って2人の会話を聞いていたホクガンが隣のダイスに聞く。だがダイスも眉間を寄せながら顎に手をやって唸った。


「ない・・・じゃろうなぁ。というかモモコのこの体の小ささではできる仕事は限られてくるんじゃねぇか?」


この世界の平均身長を遥かに下回るモモコの身長。

だいたいの平均が男性が2m越え、女性は1m90cm程だ。

平均でこれなのだから身長が高い奴はうんと高い。

ただでさえガツク達高身長の者は他の者が小さく見える。その平均身長の者たちからさらに低いモモコはまるで少女と言ってもおかしくはなく見える。


「だけどな~モモコが軍部に居てくれた方が何かと対処しやすいのは確かだよな。特にガツクの側に置いといた方がいいのはな。」


たいていの事ならひと睨みで解決してしまうだろう。


「モモコ、向こうの世界で就職しとったゆうたな。どんな仕事だったんじゃ?」


ダイスからナイス提案が出された。


「出版社。地元中心の広報とかコラムとか載せた情報誌みたいな雑誌とかガイドブックとか作ってたの。あたしなんて入りたての新人だったから雑用ばっかりさせられてたけど、たまには小さな記事を書かせてもらってました。」

「そう。じゃあ文章を書くのが好きなのね?」

「うん。色んな所に取材に行ったり、いろんな人にインタビューしたりしてそれをたくさんの人に読んでもらうの夢だったから・・・大学の途中だったけど来てもいいって言われた時は迷わず仕事を取りました。」


えへ、と笑うモモコの顔を見てテンレイは閃くものがあった。


「隊士じゃなくても軍部に居られて、尚且つモモコが好きな仕事が出来る事・・・・簡単じゃない。職種がなければ作ればいいのよ。」


あっさり言うとホクガンに向き直り、


「前から言ってたアレ、モモコに任せたいんだけど。」

「アレ?何それ。」


は?としたホクガンにたちまちテンレイの目が氷点下まで下がる。


「・・・・・何か言ったかしら国主。」

「あーっ!!アレね!はいはい!」

「・・・・忘れてたのね?どうりで返信がないはずだわ。」

「いやいやいやそんな事ねえよ?おっかしいなー行き違いってヤツ?よくあるよねー。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・。」


素直に謝っちゃえばいいのに・・・・

モモコは氷の刃と言う圧力に晒されるホクガンを呆れて見た。


「このボンクラは放っておけテンレイ。今に始まった事ではない。それよりモモコに合った職種を作ると言う話は?何か案でもあるのか。」


ホクガンなど野となれ!とガツクはテンレイの方に身を乗り出す。


「・・・・国主、この件はまた後でじっくりお話しましょうね?逃げたりしたらどうなるかわかってるわよね。」


テンレイはホクガンにトドメを刺すとガツクとモモコに視線を移した。


「軍部と奥が和解してから少したつけど、あまり進展がない様なの。」


テンレイは頬に手を当て困ったように眉尻を下げた。


「どういう事じゃ。因縁などつけとらんじゃろ?部下共にはきつく言うとるぞ。」

「俺も同様だ。特に何かあったと言う報告はないが。」

「そうなのよねぇ・・・でもどうやらそこが問題なようなの。」


???


今度ははっきりとテンレイがため息が落ちた。


「慇懃無礼すぎるんだよ。」


ホクガンが手を組み頭の後ろに廻しながら大きく伸びをした。


「そう。隊士達は何を遠慮してるのか必要以上に奥に接してこなくなったのよ。多分距離感がわかってないだけだと思うけど、何か用事があっても丁寧過ぎるほど畏まるの。あんなにそっけないと言うか無言と言うか逃げ足が速いと言うか。ただでさえ可愛くない顔でそんな態度をとられると職員達も不気味がっちゃって・・・なんだか前より軍部を怖がってるのよ。」


・・・・中間と言うモノがないんだろうか・・・・

モモコは極端な態度しか出来ない隊士達に呆れた。

不器用と言うか一直線と言うか戦う事に関してはエキスパートである彼らも人間関係の(特に奥は女性が圧倒的に多い)機微は苦手なようである。


「どうにかならないかってテンレイに相談されてたんだよ。すっかり忘れてたけ・・・あ、ヤベ。」

「・・・・・お話は長引きそうねぇ お兄様。」


ウフフ・・・と笑うテンレイに顔が蒼白になるホクガン。


「それとモモコの件がどう繋がるのだ?」

「前にモモコに奥と軍部の架け橋になってほしいと言った事覚えてる?」

「いや。」


コイツら・・・・・

モモコはテンレイの美しい額に青筋が浮かぶのをヒョエエとしながら見た。


「テ、テンレイさん抑えて!あ、あたしは覚えてるよ!テンレイさんがあたしに猫用の服を持って来てくれた時でしょ?」


テンレイはあの時の可愛いコート姿のモモコを思い出したのか機嫌を直し、ニッコリ笑って頷いた。


「そうよ。モモコはこのバカどもと違ってお利口さんね。」


本当に容赦ないよねテンレイさん。

モモコは引き攣った半笑いで応えながら思った。


「奥とその他の部、軍部の相互理解を深めるため、モモコの職業のため、広報紙・・・みたいなものを作ったらどうかしら。互いの良さとか軍部はこんな所、全体的に可愛くないけど特に害はないわよ、みたいに紹介してやる情報誌。それをモモコが担当するのよ。」

「え・・・ええーっ!!」


モモコは仰天して思わず大きな声が出た。


(そんな・・・ちょっと大事すぎない?あたしみたいな素人に毛が生えた程度のペーペーにそんな事任せていいのかな)


「あたしに・・・できるかな?そんな大事な仕事。」


自信なさそうにモモコが呟く。


「大丈夫。出版社に勤めてたのなら多少の流れは習ったでしょう?私達もサポートするからきっとできるわよ。」

「まずはやってみたらどうじゃ?無理ならまたその時考えればええじゃろ。」

「そうだな、その時は俺のパシリでもやってもーらお。」


うぐ・・・それだけはイヤだ。


「どうするモモコ・・・やはり諦めるか?俺としては願ったりだが。」


モモコはガツクを見上げた。

意地悪そうにニヤついてる。

いつものモモコならムカつくはずだが今回はそうはならなかった。

なぜなら反対しつつもガツクの目が後押ししているのがわかったから。

わざと意地悪な言い方をして背中を押してくれている。

だからモモコも・・・


「べーっ!そんな事にはなりませんよぉ!やってやる!死ぬ気でやり遂げて見せますとも!見てろ!ガツクさん!」


モモコはビシッ!と人差し指でガツクを指し宣言した。

やる気に満ちたモモコの真っ直ぐな目を暖かい眼差しで受け止めつつも少し残念に思ったガツク。

モモコの再出発がほぼ決まり、ほのぼのとした所で幕は降ろされる。


・・・・・・・・はずだが、これだけで終わるほど奴のヤンデレ具合は甘くなかった。




「では次の条件だが。」




はい?


前回と同じ終わり方だなオイ。

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