6-3 ほんとうです
4日間。
それは、それまで存在すらなかった人一人を誕生させ、生活の基盤を整え、この世に現われさせたのに要した時間だ。
これはその血・・・はなかったが冷や汗と心の涙とツッコミの嵐が混じったドラマの記録である。
ガツク達はうるさいホクガンが渋々と席につくと、モモコの今後を話しあった。
「モモコ、本当の名前はなんちゅうんじゃ?元の世界のがあるんじゃろ?」
モモコはコクリと頷いた。
「クロックス。モモコ・クロックスです。」
「ほーこっちの名前と同じじゃねえか。その髪色から来てるのか?」
ホクガンがへえと言う風にモモコの頭を見る。
モモコの髪色はいわゆるストロベリーブロンド。金髪と言うよりは茶色に近いが光の加減で桃色が混ざる珍しい髪色であった。モモコの父はイギリス人でその父の母、つまりモモコにとって父方の祖母がこのような髪色であった。隔世遺伝と言うものであろう。
モモコが産まれた際、ふわふわのピンク色の髪に包まれた我が子を見て日本人の母が、桃のお花みたいと「モモコ」と名付けたのだ。
ピンクの髪だからピンクの毛色って単純すぎねえ?まっ単純なお前にピッタシだな。等とまたもやホクガンがモモコをカチーンとさせていると・・・・・
「ふっ。」
ガツクがテンレイを見て鼻で笑った。
それにテンレイが静かに青筋を立てる。
カーンッ・・・
何かのリングの鐘が打ち鳴らされた。
「最早、運命と言っても過言ではないな。俺とモモコは出会うべくして出会った・・・そうは思わんか?テンレイ。」
どや顔でガツクが言い放つと
「そうかしら。あなたの「モモコ」って名付けなんてどうせ丸くてピンクで子猫だからっていう理由でしょ。そんなの誰だって思いつくわよ。現に私が名付けた名前だって「コモモ」だったし。ソレぐらいで運命だなんて男って単純ねぇ。」
テンレイがバカにしたようにフフンと笑った。
2人はくだらないどうでもいい事でいつもの口論・・・いや討論・・・(もういいや)口喧嘩を始めた。
(す、すごい・・・ドンピシャだよ テンレイさん。さすがだな・・・あとガツクさん大袈裟だな~運命だなんて(鈍))
言い返されたガツクの目に怒気が浮かぶ。が、奴も負けない。
「よく喋るなテンレイ。負け犬ほどよく吠えると言うが・・・」
「なんですって!」
「たかだか名前一つでよくここまでムキになれるな。」
「腹減ったのう。酒と軽くつまむものでも作るか。モモコ何か喰いたいもんあるか?ただしアルコールは駄目じゃぞ。」
ダイスが手早く作ったツマミとモモコを除く全員に酒類を配る頃、漸くガツクとテンレイの口喧嘩は止んだ。
「くだらない事で時間を食ったわねえ。(自覚あり!?)その名前はそのまま使いましょうか。モモコにとって大事なものでしょうし、呼ばれた時咄嗟に返事が出来なかったらおかしいから。」
テンレイがレポート用紙にさらさらとモモコの名前を書いていく。
モモコは久しぶりに見た自分の名前を感慨深く、だがくすぐったく思いながら覗き込んだ。
「なあにモモコ。どうかした?」
「えっ・・・あ、いや久しぶりに文字になった自分の名前見たから・・・えへ。」
頬をぽりぽりと掻きながらモモコが照れたように笑うと・・・
「モモコ・・・・」
ガツクが名前を呼んだかと思うとモモコの何倍も大きい手がクイッとモモコの顎をすくった。モモコの視界からテンレイやテーブルが消え失せ、代わりにガツクの涼やかと言うよりは凍つく様な眼差しとぶつる。
「な、なに、ガツクさん。」
「お前さえよければドミニオン一の書道家にお前の名を書かせ、額に入れて執務室に飾りたいのだが。」
「やめて下さい、んな恥ずかしい事。」
「よし、名字は決まった。戸籍はどうとでもなるから後にするとして。」
一国の主の発言とは思えない事を言ってからホクガンは
「誰に真実を話しとくかな。まさか大々的に発表するワケにはいかないからな。」
ガツクの人生を、引いては軍部の今後を握っていた猫のモモコが消えたのだ、大騒ぎになる事は必至。
それらが巻き起こす、どんな不測の事態が起こってもいい様に、ある程度までは知っている人物がいた方がいい。
「まず、私達の補佐官は全員ね。」
「そうじゃのう。モモコもワシらも動きやすい。」
「大将達もな。」
「モモコは有名だからな。軍部にゃ大人しくしてもらわんと。」
「奥は私とリンドウ君で抑えるわ。」
「執政部とその他の部は問題ないだろ。元々モモコとは接触が少ねぇし。」
トップダウンからの指示には、おかしいと思いながらも隊士達や職員達は従ってくれるだろう。
ホクガンは他に知らせておいた方がいい人物は・・・と思い浮かべながら、ふと、目の前に並んで座るガツクとモモコを見た。
それにしてもすげぇ体格差だな、まるで大人と子ど・・・・
ズガアァン!!!
その時、ホクガンのド頭に稲妻が奔った。
天啓である。
いや・・・いやいやいやいや!!マズい!これはマズい!これはマズいな俺!
このままじゃ・・・・ガツクが変態の烙印を押されちまう!!
この顔でロリだなんて世界滅亡クラスだろ!!!
警戒レベル5どころじゃねえよ!世界全体でどうにかせにゃアァアア!!!(混乱中)
この世界から見たモモコは童顔や身長の低さも手伝って14、15歳ぐらいしか見えない。
そこに37歳のガツクが並ぶと・・・・完璧にロリコンの域である。
猫のモモコを抱っこしたガツクは見る人の良心に最大限に訴えて「異常な猫好き」で救ってもらえるが、人間のモモコを抱っこしたガツクはどんなに好意的に見ても性犯罪者以外の何者にも見えないだろう。それはガツク本人が軍人なのにすぐさま通報したくなるほど。
「モ、モモコよう・・・お前いくつなんだ?ま、まさか小等部(こっちで言うところの小学生)とか言うなよ。」
ホクガンは近年にないほどドキドキビクビクしながら一応聞いてみた。
モモコはホクガンから珍しく無難な事を聞かれたので、小等部と言われたのにもかかわらず機嫌よく答えた。
「20歳だよ。小等部だなんて失れ」
「嘘つけ。」
ホクガンは自分の望んだ結果だったのにもかかわらずモモコにツッコんだ。
「う、嘘じゃないもん。ほんとに20さ」
「モモコ・・・背伸びしたい年頃なのはわかるが20歳は言い過ぎじゃ。心配せんでもモモコはきっとええ女になる。ワシが保証するぞ。」
ダイスにまでいらん保証を付けられ、モモコはムカッとした。
「本当に20歳なんだってば!車の免許だって持ってたし大学は・・・途中でやめちゃったけど、就職だってしてたんだからね!」
「もうそれ以上はイタイだけだからやめとけ。な?・・・・おい、これだけは言わせてくれ。」
「・・・・・・なに。」
「・・・12歳は過ぎてるんだよな?」
コ、コロス・・・
モモコが猛然とホクガンに言い返すのを見てダイスはため息をついた。とガツクとテンレイが黙ったままなのに気付く。
「どうしたんじゃ、2人とも。お前らからもモモコに本当の年齢を言うように促さんかい。」
ガツクとテンレイは顔を見合わせた。
「・・・・モモコが言っている事は本当だと思うわ。」
「何?」
テンレイがややぎこちなく首を傾げるとガツクが続けた。
「モモコは成人しているだろう。なぜならば」
「わああああああぁぁああああ!!!!」
ガツクが何を言おうとしているか気付いたモモコから大音量の声が発せられ、ホクガン達は突き抜ける様なうるささに耳を押さえた。
「・・・っるせえな!何だいきなり!」
ホクガンが真っ赤になったモモコを睨みつける。
「ガツク、さっき何を言おうとしたんじゃ。」
「ガツクさん!言ったらダメだからね!絶対ダメだから!」
「なぜだ。構わんだろう、お前が」
「わああうおおおおー!!」
「猫の姿から変わったと」
「ぎゃああああああ!!」
「ベッドから飛び出したお前の」
「わあー!わあー!わあー!」
「・・・完璧に遊ばれとるのう、モモコ。」
「まあ、大体何があったかはわかったけどよ。つうかうるせえ。」
「可哀相なモモコ・・・・。」
ゼエ、ハア、ゼエ、ハア・・・
モモコは叫び過ぎて息切れした呼吸を整えながら、ガツクを弱々しく睨んだ。
またガツクが何か言おうとしている。
オノレ ガツクさん!いい加減にしてよね!
「ガツクさん!それ以上言ったらタダじゃ置かないから!」
「ほう?どうタダでは置かないんだ?」
ガツクがニヤリと笑ってモモコを見下ろした。
「うう~!えーと・・・ガツクさんの弱点・・・・弱点・・・」
・・・・・ガツクさんに弱点なんてあるか!?
頭を捻ってない脳みそを絞るが全く思い浮かばない。ガツクの弱点というかその気になればガツクをいいように従える事が可能なモモコだが、自分にそんな事が出来るとは露ほどにも思っていない。まあ、モモコらしいと言えばらしいのだが。
「どうしたモモコ。俺をどうにかするのだろう?」
ガツクはモモコの頤を軽くつまんで自身の顔を見るように上向けた。
余裕たっぷりの顔。
その目はモモコのどんな表情も見逃すまいと鋭くだが熱く射抜く。
面白いようにモモコの顔が赤くなり、困ったように眉が顰められガツクにいい様にされる口惜しさで目が潤んで来る。
それを見てガツクの胸も早鐘を打つ。背骨をゾクゾクとした感覚が駆けた。
「モモコ・・・・。」
ザラリ
ガツクはややざらついた声で愛しい者の名を呟くと、モモコの顎をもっと上向けた。
「はい 終了ー!!時間切れでーす!戻って戻って!」
ピンクの霧がかかり始めた所で、いい加減イライラしたホクガンが強制的に終わらせた。
「チッ!なぜいる。」
「オメーが呼んだからだよ!!」
「もう帰れ。」
「ふざけんな!!!おいお前らな、俺の許可なくイチャつくんじゃねえよ、ウゼーんだよ。んなこたぁ誰の迷惑にもならん所でやれ。」
ホクガンが毒づき、ダイスが話を軌道修正した。
「それにしても・・・本当に20歳なんか。童顔にも程があるじゃろ。」
「世の中には不思議な生き物がいるもんだな(取りあえずセーフだ。何も解決してなさそうだが法律はクリア)。」
「若々しい・・・と言うのはちょっと違うわねえ。」
そ、そんなに?
モモコは元の世界でも年相応に見られる事は少なかったが、そこまで言われるほどじゃないと思っていたので地味にショックを受けた。
ホクガンがジロジロとモモコの頭の天辺から足の先まで観察するように眺める。
「な、なにさ。」
「お前さぁ、俺達が勘違いするのも無理ねえんだぞ。なんだよその完璧な幼児たいけ・・・・」
そこまでホクガンが言いかけた時、両サイドに座っていたダイスとテンレイによって腹部を強烈な肘打ちで同時に打ち込まれ、ホクガンは黙った。
・・・・そのまま静かに前のめりになるとテーブルに突っ伏す。
「あ、あの・・・」
「ごめんなさいね、モモコ。お兄様にはあとできっちりお仕置きしておくから。」
「あ、うん。いや、そんな事よりホクガンだいじょ」
「モモコは心の優しいええ子じゃのう。女心どころか人の心も知らんような奴じゃて、今更じゃが許してやってくれ。」
「は、はぁ・・・」
その後もガツクにゲンコツで起こされたホクガンをまじえながら、ガツク達はああだこうだとモモコの今後の生活ために話をしているのだが・・・
(眠い・・・眠い・・・ふぁー・・・ねむい~・・・パトラッシュ・・・僕もう眠いんだ・・・)
某有名な号泣必死なアニメのセリフをリターンしながら、モモコはうつらうつらと船をこいでいた。
「モモコ、眠そうねえ。」
テンレイの呟きにモモコのあれこれを模索しているホクガンから苛立ちの声が上がる。
「・・・このヤロ・・・おい、モモ」
「静かにしろホクガン。」
ガツクが低い声でホクガンを制す。
「だぁってよ、コイツの意向も聞かにゃならんだろ。俺達だけで決めるもんじゃねえし。コイツのこれからの人生がかかってんだぞ。」
ホクガンは何も感情的な事でモモコにイラついているのではない。
ホクガンなりにどうせならモモコもそして周りの者にも納得でき、支障ない地盤を整えてやりたい、何とかしようと真剣なのだ。
猫のモモコが消えた今、それらを完璧にしかも早急に成すには一時の時間も惜しい。なのに肝心のモモコに頑張ってもらわないと進展する物も成らない。
「お前の言いたい事はようわかるがモモコは疲れきっとる。大変な経験をしたんじゃ、じゃけェ、そこを考慮せえ。」
宥めるようにダイスにまで言われるとそれ以上はホクガンも言えない。舌打ちするとモモコの意向は後で聞くとしてどんどん案件を詰めていった。
(うう~ん・・・ホクガンうるさい・・・いつもだけど・・・それにしても眠い・・・あと何か寒いなあ・・・寒~・・・暖ったかいモノ・・・ガツクさんの膝に乗ろ。)
モモコは半分眠りかけのボケた頭のまま、隣に座るガツクの腕と太股の間を通り抜けた。
ビシッ・・・
体にひびが入りそうなほどガツクが硬まる。
そんな事にはお構いなしのモモコは、猫の時よくしていた様に膝の上で丸くなろうとする。
が、当然だがいつもと違って居心地良くならない。
ゴツゴツと筋肉の発達したガツクの硬い脚に何とか具合よく収まるようにモゾモゾ動く(モモコが動くたんびにガツクから押し殺したような声が漏れる・・・・が決してやめさせようとはしない)。
(何か・・・いつもと違うなぁ・・・収まりが悪いっていうか・・・あれぇ?ガツクさん、こんなんだったっけ?)
????だらけのモモコの寝ぼけた頭は状況を把握できない。
何度か態勢を整える内にガツクの腹に置かれた自分の手が閉まりかけの目に入った。
・・・・・・・・・・・え?
「ぎょええええええええええ!!!!!」
一気に覚醒するモモコ。
モモコは素晴らしき反射神経でガツクの足の間から飛び出すと、そのまま意味もなくピョンピョン跳ねる。
「ちっ!違うんです!つい!つい!ついですね!つい猫の時の癖が出たっていうか!ついなんです!つい!つい!」
顔を真っ赤に染めながら「ついついついつい」を大声で連呼しながら後ずさったモモコは・・・ガッと何かに足をとられて後ろ向きにスッ転んだ。が、
「大丈夫か?モモコ。」
今度は後頭部を強打する所をダイスに片手で軽々と支えられたモモコは、そう言われて顔を覗きこまれた。
ダイスのワイルドなイケメン顔が(忘れている方も多いでしょうがダイスは顔だけでモテます)おかしそうにモモコの慌てぶりを笑っている。
うおおおおおお!恥ずかしいい!!
寝ぼけて猫の時の癖を出したうえ、転ぶ所を助けられたモモコの顔は熟れたトマトの様に赤くなった。
それを可愛いのうと思いながら、
「気ぃつけんと、オメェは大事な・・・」
「大事な?・・・・・聞き捨てならんなダイス。」
ガツクの女じゃけェ。
と続けて言いかけ、その本人に遮られたダイスは硬まった。
同じようにモモコに腕を伸ばしたが、あと一歩ダイスに及ばなかったガツクの、氷結しそうなガンとまともにぶつかったからである。
ダイスは取りあえずモモコの腰を支えていた手を慎重に外し、モモコを立たせた。そして殺意をちらつかせるガツクに必死になって言い訳し始める。
「た、他意はネェぞ?咄嗟に手が出ただけじゃ・・・こ、転ばんように支えただけじゃて!だ、大事なっちゅうんはそういう意味じゃのうて!だからそれ以上はねぇと言っとるじゃろ!!!」
違うの!続きがあったんだからね!聞きたいか!?つーか聞いて下さい!!
(ダイスの)心の叫びが聞こえてきそうな形相で。
ため息を付いて見つめるテンレイとオロオロするモモコ。
そして冷静にそれらを観察していたホクガンに・・・・・・・
ダダダダァーン!!(火サス風に)
またもやこなくてもいい天啓がキタ。
しかも最悪の。
コ・・・・コレ さっきのよりヤベんじゃね?
猫の時でさえ触っただけで殺されそうなほど異常にヤミー(美味しいという意味ではなく。諸君ならわかるであろう)だったのに人間の女なんて・・・ど、どうすりゃいいんだ・・・
ホクガンは今にもダイスを殺害しそうなガツクの顔に戦慄した。
(どうする・・・どーすりゃいいんだ。さすがの俺も簡単にどうにかできる問題じゃねえぞ。)
モモコの今後の生活を固めるよりも遥かに難関なミッションに行き当たったホクガンと巻き込まれ必死な人々。
彼らの苦難は始まったばかりである。
その四日後。
「皆さん、お早うございます。今日は訓練の前に連絡事項があります。」
壇上に立ち、硬い表情でカインは告げた。
隊士達は何事かと言う風な顔付きをしたが私語はもちろん身じろぎさえせずカインの言葉を待つ。
シン・・・と静まりかえるここは、雷桜隊専用屋外訓練場。
整然と並ぶ屈強な隊士達。彼らは今、何かが尋常じゃない何かが起ころうとしているのを肌で、と言うか目で見て知っていた。
じわじわと締め付けられるような緊張感。
それはもちろんカインから出ているのではない。
カインの背後に腕を組んで立つ彼らの大将ガツク・コクサからだ。その威圧感溢れるデカイ体には何かが足りない。
「・・・皆さん、気付いておいでかと思いますが、えー、ガツクさんの・・・いえ、モモコさんが居ません。・・・実は先日モモコさんは・・・本当の飼い主の元へと帰られました。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?
ええー!ええええー!
隊士たちの驚愕を余所にカインは続ける。
「実はモモコさんは・・・さる令嬢の飼い猫だったのですが、家人が目を離した隙に悪人によって連れ去られ、紆余曲折を経てガツクさんの元へと渡った。と言うワケです。先日のレセプションでモモコさんの記事が載り、令嬢の家族から総所へ連絡がありまして綿密な調査の結果、モモコさんの飼い主だという事が判明しましたので・・・ガツクさんは涙を惜しんでお渡ししました・・・。皆さんもモモコさんの幸せを陰ながら祈って下さいね。」
カインが厳かに言い切ると訓練場は墓場のように静まり返った。
今までモモコが原因で起こるガツクの鬼の様な形相と破壊神の様な行動を目の当たりにしてきた彼ら。
これから起こる事態を想定して恐怖のあまり隊士達の理性がグラグラと崩れかかる。
しかし理性は失われようとも国内最強部隊。ガツクによって日々、戦場の方がマシな訓練を課せられ、最近もメンタルに多大な被害・・・いや試練を乗り越えた彼らの隊列は崩れない(だからなんだと言わないように)。
カインの話に何らおかしい部分はない。
そうこれがモモコの事でなければ。
それを証拠に訓練場の空気は
ぜっっっったい嘘。
裏だ裏だ裏だ裏の裏のそのまた裏があるに違いない!!!!
そう言っていた。が、
「この件について何らかの質疑がある者は直接俺の所まで来るように。」
この男のこの一言が放たれた瞬間からモモコの件は闇に葬られたも同然、絶対不可侵領域となった。
どんなに真っ黒な暗黒神でもガツクが「これは白」と言えば純白の天使長になるのだ。
「それと、モモコの件は安全性も考え、他言無用とする。・・・わかったな。」
「はっっ!!!」
「では、皆さんが納得した所で(全然していませんよお)、もう一つ連絡事項があります。」
こ、今度はな・・・・に・・・
本当に何一つ解決してないな。




