6-1 急展開です
漸くの事でモモコを取り戻したガツクであったが・・・・
イライライライライライライライライライライラ
幸せなはずの彼の眉間には、ここ数日深い皺が刻まれ続けていた。
日が経つのに連れ皺は深まり、本数は増える。
ガツクの不機嫌の理由、それはやっぱり(というかそれ以外にない)モモコにあった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
カインは自分のデスクからこっそりガツクとモモコを見てみた。
ガツクは普段より3割増しの凶悪な顔で書類を手繰っている。
そしてその膝には当然の様にモモコが・・・いなかった。
モモコはガツクの膝には座らず、そのデスクでしかもガツクに背を向ける形で座っている。
時折送られるガツクの視線を感じるのかその度に硬直して。
(帰ってきた時から何か様子がおかしいんだよな・・・・一体モモコちゃんに何があったんだ?)
カインはガツクに気付かれる前に視線を戻すとここ数日の事を思い起こした。
しかし、特別変わった事はなかったはずである。
ガツクの(傍から見ると)異常な程な執着もいつもの事だし(何事も慣れだ)、モモコが救出されてからの自分等の態度も・・・・なのにモモコはあの日から、ガツクに必要以上に近づくのを嫌がるようになったのだ。
お陰でカインやその周囲の者は、段々と機嫌の度合いが悪く傾くガツクに胃の痛い日々を、強制的に送らされていた。
賢明な諸君は気付いて、いや正にニヤニヤ笑いでモモコを見ているのではないだろうか。
そう、モモコの不可解な態度は好きな相手に対する過剰な反応、つまり意識しすぎて、照れまくっているだけなのである。
しかもガツクはモモコに対して過剰なほどスキンシップを求める男である。
前は(なんかなぁ)と思うだけだった行為はモモコにとって強烈なモノになった。
(ぎゃああああ!顔!近い近い!!やめてー!)
(うわあぁあ!そんなぎゅって!ヤバいっしょ!鼓動が!ガツクさんの鼓動が!)
(膝は・・・あのちょっと・・・肉球にナンか・・・)
(無理!無理無理無理無理無理!体洗ってもらうなんて無理だからああぁぁあ!!)
モモコ専用のシャンプーを手に泡だてたガツクを置き去りに、風呂場からモモコは飛び出し、部屋中を水浸しの体で逃げ回った事もあった。
(その後ガツクにあっさり捕まり体の隅々まで洗われるが、じたばたと暴れまくり、ガツクのイラつき度を増幅させる)
「はぁ?モモコとガツクがケンカ中?」
ホクガンはデスクに着けていた額を持ち上げて怪訝そうにレキオスを見た。
レキオスは新たな書類の束をホクガンのデスクに置きながら頷いた。
「ええ。モモコさんが帰って来てから何かあったそうで、ずっと膠着状態だとか。」
「うっそお!あん時にゃあ何もなかったぜ?何かの間違いじゃねえのか?」
「この前の懇談会の最中、カイン君が呟いていましたから間違いありません。」
「懇談会?」
「どうしようもない上司をもった補佐官達の情報交換の場です。」
「・・・・あっそう。」
氷柱の様な目で返されたホクガンは明後日の方を向いた。
「マジかよ・・・ったく面倒ばかり掛ける奴らだなあ。」
口ではそう言っているが、表情はまた新たな暇つぶしが見つかったとでも言いたげなものである。
「なんじゃと?」
ダイスは死んだような目で部下達の訓練の様子を見ていたが、リコがふと呟いた一言に目に光が戻った。
「ですから、モモコさんが家出して強制的にコクサ大将に連れ戻されたという噂が。」
「・・・・・噂じゃろ。」
「ですが、コクサ大将の家から飛び出したモモコさんを見た者がいて、はっきりと証言しています。」
「・・・・・・・・・・。」
きたんか。
遂にきたんか。
ダイスはこないで欲しいと願っていた事が起きてしまった事に、沈む想いで目を瞑った。
「モモコが私の元に戻りたがっている?」
テンレイは信じられないといった風にリンドウを見返した。
午後の休息タイム。
リンドウが何か言いたそうにテンレイを見ては口ごもる様子にテンレイが優しく促すと、全く想定外の言葉が出た。
「いえ、ペットが直接言った、というわけではないんですが・・・・何でも事あるごとにコクサ大将を突っぱねているとか。猫というモノは気まぐれで有名ですから、がさつで野蛮な軍部に嫌気がさしたのかも知れません。」
確かに世間一般ではそうだけど・・・・
テンレイはモモコはそれには当てはまらない事を知っていた。
モモコは我儘で子供っぽいところもあるがこうと決めたら一途に貫く所がある。
今更、しかも気まぐれで主人を代えるなどあり得ない事だった。
とすれば答えは一つ・・・・
ガ・ツ・ク
テンレイはガツクがお馴染みの、デリカシーのデにたどり着く以前の問題、レディに対するマナーの酷さでモモコを怒らせたな!という実にテンレイらしい結果に落ち着いた。
「・・・・・何か用か。」
ガツクは深夜の突然の呼び出しに不機嫌さ丸出しでホクガンを見据えた。
その腕にはいつものようにモモコが抱えられている。
!!!
(マジかよ)
(本当じゃったのか)
(ガ~ツ~ク~)
が、度重なるガツクの暴走(モモコが全ての原因)ですっかりモモコの反応に敏感になった3人は容易くモモコの変化を見てとった。
「いや・・・ほれ、ゼレンとの会談の結果と今後の対応を話合おうと思ってよ。皆忙しいからな、延び延びになってただろ?」
「・・・・・こんな時間にか?」
「すまんのうガツク、モモコ。ワシの仕事の都合じゃ。」
「何かの任務か。」
「ああ。」
「ならば仕方あるまい。」
同じ軍部に属しているとはいえその任務内容は隊 毎に当然のごとく異なる。
ガツクの知らない任務があってもおかしくはない(だがこの場合ただの方便)。
ガツクは納得した様に頷くといつものようにモモコを膝に乗せるスタイルでソファに座った。
・・・・・・・・・・・・・・・。
「なあガツク。」
「なんだ。」
「単刀直入に聞くけどよ。」
「なんだ。」
「お前達・・・・ナンかあったわけ。」
「・・・・・・・・・・・・・知らん。」
ガツクはイラ立ちのあまり充分タメを取ってから答えた。
その険悪さを含んだ視線は、自身の膝に座らせようとした途端、ピョンと跳ねてテーブルに着き、そしてなお一層腹立たしい事に自分に背を向けて座るモモコに向けられている。
(おいおいおいおい!マジでマジ!?マジでウザくなったのかよモモコ!面白くなってきたけどこれからの被害が尋常じゃねえからやめてくれ!!)
ダイスとテンレイもだいたい似たような思考だ。
が、モモコの心の中は
(ガツクさんの膝に乗るっていう事はアレが確実に来るから!耐えきれるわけないよお!)
ガツクがモモコをこのように膝などに乗せる場合、必ずと言っていいほど体中を撫でられる。
それは最早ガツクの、モモコにいつでも触れていたいという無意識の癖になりつつあった。
しかし、好きな相手に弄られるのは例え恋人同士と云えど羞恥心を伴う行為である。
まして恋愛初心者のモモコには到底受け入られない事であった。
自然、親密すぎるボディタッチを嫌がり、ガツクが思い通り撫でる手を拒否するようになったのだ。
だが、拒否されるばかりのガツクではない。
すぐさま拒否する理由をモモコに、あのお馴染みの方法で問いただした。
が返ってきた答えは
「なんでもない」
何でもなくはないだろう!!!以前は許してくれたではないか!なぜ現在は駄目なんだ!!
ガツクはしつこく問いただしたが、モモコの答えは一貫して「なんでもない」だった。
「知らんって・・・おいモモコ、ガツクが何かしたのか?」
ホクガンは今度はモモコに聞いてみた。
だがモモコはコレにも首を軽く振るに済ませた。
その小さな背中にガツクの欲求不満と苛立ち、そして溢れんばかりの愛おしさの混じった複雑な視線が注がれる。
「ガツク・・・あまりモモコに無体を強いるもんじゃねえ。ほれ、よく言うじゃろ、追いかければ追いかけるほど相手は逃げるってな。お前はモモコに対してテメエの感情をゴリ押ししすぎじゃ。少しはセーブせんかい。」
ダイスが諭すが
「今更それを俺に言うか。これまでに何度も言ったが、モモコに対する態度は例え誰が何と言おうと変えるつもりはない。モモコが俺を厭うと言うならその感情を塗り替える。」
「そんなんだから逃げられるんだぞ。」
「だからなんだ?その都度連れ戻すまでよ。モモコは俺と約束した、これから何があっても俺と共にいるとな・・・・・・・約束は守ってもらう。」
ヤベえよ、こっちも相当キテるぜ。て言うかケンカっていうよりもうバイオレンス・イッツ・ザ・ラブじゃん。
こりゃ、モモコでなくとも家出したくなるわい。しかし・・・
男3人は部屋の隅に立ち、ソファに座るテンレイとモモコを見た。
ガツクとモモコの緊張感が爆発する前に「いいからいいから」とホクガンがガツクを促しダイスと共に事情を聞くため引き摺ってきたのである。
無駄だろ~な~と思いつつも説得を試みた2人は案の定失敗した。
(どーすっかなー面倒くさいけど当たり障りねえ話題でモモコの硬さを取ってみるか)
唯一ガツクを宥められるモモコの機嫌を取るため、ホクガンはグランモアでの事をゼレンとの事後報告を交えつつ軽い感じで話し始めた。
「・・・しかし、俺は改めて女王の胆力に驚いたぜ。あの状態のガツクに誘いを掛けられるんだからな。」
ピク
モモコの耳が動いた。
(誘い?)
テンレイは呆れるように
「あの方まだ諦めないの。何カ月か前のグランモアでのイベント時にガツクに断られたんではなくて。」
言うとホクガンが差し出した書類を受け取った。
会談の内容と結果、ホクガンのメモ代わりの考察も書いてある。
「女王の趣味はストイックで強い男じゃからのう。ガツクなど正にタイプ。ガツク以上の男は中々おらんで。」
そこまでダイスは言ってから、モモコの反応を確かめる様に目だけで窺った。
するとこっちを見ている。
(おっ!)
ダイスとホクガン、テンレイは何もモモコの気持ちに気付いたわけではない。
ダイスはガツクのいいところを聞かせれば少しは見直すかなと考え、ホクガンとテンレイはまさか猫がという先入観があるので決して意地悪をしてこの話題を出しているのではない。
「あん時何で断ったんだよ、お前にあんなに積極的にな女なんて珍しいのに。」
美人だしな。
軽い感じでホクガンが付け足す。
(あの時・・・積極的・・・しかも美人・・・)
「公務で赴いてる。仕事中にその手の事は考えん。」
ガツクは当時の事を思い出したのか煩わしそうに眉を顰めた。
嘘つけぇ!じゃあモモコの事はどうなんだよ!思いっ切り私情入れまくってんじゃねえか!アレがその手じゃねえならどれがどの手何だ!!
軽く混乱が入ってるホクガンの思考。
本当は口に出してガツクにツッコみたいのだが、今は微妙な感じなのでググッと抑えた。
「これ何よ。まさかこれを広報紙に載せるんじゃないでしょうね。」
俺ってデキた男だよな・・・マジ友情に厚く生きる男。俺偉い。
ホクガンは自画自賛しながらテンレイが差し出した写真を見るとそれまでのしたり顔を一変、うんざりした顔をした。
「載せるわけねえだろ。こりゃ女王がふざけたからボツになった奴だ。もう一枚あるはずだぜ。」
あの方にも困ったものね
テンレイもため息をついてその写真をテーブルに置いた。
ちょうどモモコの目の前に。
グランモア国の、どうやらガツクの事が好きそうな女王の事を聞いてから、心中穏やかでないモモコは当然興味を引かれてそれを見た。
嘘!!
その写真はゼレンのお偉方と一緒にホクガンやダイスが映っているのだが、問題は。
(何よコレ・・・!)
中央よりやや端の方、ガツクとその隣には話題の女王であろう背の高い女性が並んでいるのだが、ただ並んでいるのではない。
なんと女王がガツクに抱きつくような感じでガツクの腰に手を回しているではないか。
しかもガツクもそれを支える様な感じで手を添えている。
ふーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん
ゴゴゴゴォオオ・・・・・
いつでもモモコの反応に敏感なガツクは、モモコから感じた事もない威圧感に気が付いた。
「・・・・モモコ?」
ガツクの声に女王の話からとっくに別の話題に移っていたホクガン達も、ん?という風にモモコを見た。
モモコがゆっくりとガツクに向く。
その煌めく(怒りの)目の炎にガツクは思わずたじろいだ。
「にやあお?・・・ぎいいにゃ?(何か楽しかったみたいじゃん?・・・あたしが頑張って仕事してる時にガツクさんこんな事してたんだ?)」
「・・・モモコ?どうした。」
聞いたこともない、低い声で唸るように何かを言っているモモコにガツクは困惑した。
モモコは怪訝そうに自分を見下ろすガツクに再びフンと背を向け、
(なにさ!なにさ!いいもーん!別に!フンっだ!ガツクさんがどんな女の人と・・・イチャイチャしててもあ、あたしに関係ないもんね!・・・・・・だってあたしなんて・・・所詮・・・猫・・・・・だし。)
う・・・う・・・ううううう!!
モモコは強がってはいても苦しい胸の内に耐えきれず、テーブルを飛びテンレイの膝に着地した。
そしてそのまま柔らかいテンレイの太ももで丸くなる。
「・・・モモコ?どうしたの?気分でも悪いの?」
いつにないモモコの行動に困惑したテンレイは、もしやどこか悪いのではとモモコを窺った。
「・・・・こいつマジどうした?腹でも痛ぇのか?」
「事件の後遺症か?」
「それはない。獣医に診てもらったが異常はなかった。」
頭を捻る大男3人を放って置き、テンレイはモモコが直前まで見ていたモノを見た。
!
「まあ、モモコったら可愛いわねえ。」
愉快そうに笑うテンレイにモモコはギクと身を強張らせた。
そんなモモコを見てまたテンレイは可笑しそうに笑う。
「おい、何一人で納得してんだよ。俺らにも説明しろ。」
可愛くてたまらないという顔をしてモモコを見やるテンレイに、焦れたホクガンから声が掛かる。
「にゃー!にゃうお!(テンレイさんやめてー!言っちゃヤダ!)」
「まあ・・・あなたの言葉はわからないけど今は何となくわかるような気がするわ。・・・ねえモモコ、ガツクは信じられないくらい鈍いから間違える余地がないくらいはっきり言った方がいいわよ。だからごめんなさいね、今後のためにも私が代弁するわ。あなた達、モモコが私の元に飛び込んでくる前に見ていたモノをよおく見てみなさい。何か思う事はなくて?」
悶えるモモコを優しく手で宥めながら、テンレイは綺麗に整えられた指先で問題の写真を指差した。
大男3人は注意深くソレを見た。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「あーそういうわけか。」
たっぷり1分たってからホクガンが納得した様に頷いた。
遅いわね!
テンレイは呆れたが、まだ頭に?マークが付いてるダイスとガツクよりはマシかとため息をつく。
「そお~いうことかあ~ククク。いっちょ前にヤキモチなんぞ焼きやがって。可愛いところもあるじゃねえか。」
ホクガンがニヤニヤしながら暴露すると、モモコはこいつにだけは知られたくなかった!とばかりにキッとホクガンを睨んだ。
それにまたカカカと笑うホクガン。
ダイスはガツクの肩にガシッと腕を回すと
「よかったのうガツク。お前の様に行き過ぎた想いでも報われるもんなんじゃなあ。何か勇気出てくるわい。」
「そ。一時はどうなる事かと思ったが、じゃあ一連の事は単なる意識の裏返しってわけか・・・なるほどなるほど。ま、猫と人間っつうのがネックになんけど当人同士がいいなら問題ねえだろ。むしろ(俺達周囲の者にとってもドミニオンにとっても)最良の結果だろ。よかったよかった。」
ぎょ!
モモコはホクガンが、ヤキモチを通り越して核心に迫ったのを心臓が止まりそうな思いで見た。
チラ・・・
モモコは恐る恐るガツクを窺った。
ガツクはダイスに腕を回された状態のまま、顎に手を当て、何か考え事をしている。
なぜかモモコはその姿に危機感を持った。
モモコの生き物としての危機回避によるアラートだろうか・・・・・・可哀相にそれは正しかった。
~以下ガツクの脳内会議~
女王との写真に嫉妬される⇒俺が他の女と一緒にいるのが気に入らない⇒俺もモモコが例え他の者(男でも女でも動物でも)を見やるのも気に入らない⇒俺と同じ想い(すげー飛躍しすぎ。あと言っとくけどガツクの想いは極端過ぎて他と比べようもない)
今までの腹立たしくも不可解な行為は意識の裏返し⇒俺を意識している⇒俺もモモコが首を傾げただけで・・・⇒俺と同じ想い(途中経過をすっ飛ばしてる感ありあり。もう一度言っとくけどガツクの想いは一般のソレとは違う)
結果⇒もう遠慮しなくていい。(・・・・・・・アレで遠慮してたんですね・・・さすがガツク)
ガツクはゆっくりとテンレイの膝に座るモモコを見た。
するとモモコもこっちを見ているではないか。
そのやや上目づかいの恥らった目線をくらったガツクは・・・・
ガツクはいきなり立ち上がるとテンレイの膝から有無を言わさずモモコをかっ攫った。
突然の事に固まってるモモコに
「アレは女王がふざけて抱きついてきたのを剥がそうとした時に撮られたのだ。お前が気にする事ではない。俺がお前以外の者を気にすると思うのか?・・・・心外だな。」
ガツクはそう言うといつもの様にモモコ頬を擦り寄せようと顔を近づけた。
!
モモコは近づいてきたガツクの口に咄嗟に前足を置いてストップをかけた。
「・・・・・・。」
ガツクは何を思ったのか自身の口をふみっとしているピンクの小さなモモコの前足を。
パク
咥えた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!
モモコはガツクの舌が味わうように指と指の間を往ったり来たりするのを感じ、全身の毛を逆立てた。
!!!!!
「モモふぉふぁはどおふぉもやわふぁかいな(モモコは何処も柔らかいな)。」
ぎょえええええええええ!!!
前足を口に含んだまま何事かを言うガツクにモモコは思わずその口の中に爪を立ててしまった。
「可愛い奴だ。」
きゅっと目を瞑って恥ずかしがるモモコを見て満足気に笑うガツクに
「おーいガツク、口から血出てんぞ。」
ホクガンの呆れかえった声が掛けられた。
その夜、漸くの事で寝る事が出来たガツクとモモコ。
今までの経過から離れて寝るのだろうと思われがちだが
(あったかーい!)
寒さが厳しくなった昨今。
体温が高いガツクは猫の特性か傍又人間だった頃の冷え症の名残か夜はモモコの湯たんぽと化していた。
昼とは雲泥の差で夜はくっ付いてくるので、モモコに嫌われてはいない様なのに昼のアレは一体とガツクを無用に悩ませていたのだが。
謎が解けた今、ガツクは遠慮なくモモコを腕に囲っていた。
(ふぁーあったかいよーあー天国だー)
囲われて密着されているのにそれを気にする事もなくうっとりとされるがままのモモコ。
だが。
事態は今夜急変する。
(うーんあったかい・・・あったかい・・・?・・・あれ、ちょっ・・と暖か過ぎかな?・・・・アレ?ナンか熱くない?)
ズクン ズクン ズクン
(・・・何、どんどん熱く・・・熱っ!熱い熱い!・・・何!?何なの・・・ナンかあたしの中熱いよォ!!!なにこれ!)
モモコは心臓が熱く、ドクンドクンと苦しいぐらい打つのを感じた。
手足が無理矢理伸ばされる感覚。関節が燃える様に熱い。
「どうしたモモコ!!」
ガツクは急にもんどり打ってシーツや毛布の中をのた打ち回るモモコに驚き、すぐに出そうとするがモモコは小さく、シーツ類は桁違いに大きいのでやや手間取る。
そのうちガツクは不思議な事に気が付いた。
モモコと思われる塊が明らかにいつものモモコのサイズではない事を。
あまりの出来事にガツクの手が止まっている間にもその塊はバタバタ動きながら段々大きくなってくる。
やがて動きが小さくなり、塊の成長?も止まった。
ガツクは何がどうなっているのか大量の?を頭にいくつも作りながらも、ゆっくりとシーツを剥がしていった・・・・・
まさか。
これはな・・・・ん・・だ?
何か苦しいのかハアハアと息を荒げながら顔を顰めてる小さな顔。
その顔を縁取る不思議な色合いの柔らかそうな髪。
まだビクビクと小さく動く白く小さな手足。
その体はしっとりと汗に濡れている。
ガツクが人生初の、いったいどうなってんのどうしたらいいのコレ的思考停止に陥っていると、それは恐る恐るといった感じで上半身をゆっくりとややぎこちなく起こした。
ソレは・・・・女の子だった。
ハダカの。
あばばばば
あばばばばばばば
あばばっばばばばばばば