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偏屈さんと一緒  作者: ロッカ
56/84

5-4 メロメロパンチです


モモコは何処に消えたのか。

それを知るためには、クーザ達にガツクという名の惨劇が確実に迫っている1時間半ほど前まで、話をさかのぼらなければならない。


「思ったより緩かったな。」


レイレスは車を降り、大きめのボストンバッグを慎重に持ちながら、隣を歩くクーザに話しかけた。


「ああ。護衛も一人しかいなかったし。恐らくラウンド管理官自身が相当な武道の使い手だからだろう。下手なSPより強いからな。」


2人は人気のない路地裏を傍目には悠々と、だが実は早足でシャッターとティカが待つ部屋へと急いでいる。


(・・・今度は歩いて移動してる?・・・チャンスだ!)


すううう・・・・

モモコは思い切り息を吸い込んで


「にゃああ!にゃああああー!!!(助けてー!こいつら誘拐犯ですよー!!!)」


自身が出せる最大音量で助けを呼んでみた。

2人は急にモモコが鳴いたのでギョッとしたが、モモコにとっては残念な事に誰にも気づかれなかった。

もとより人気ひとけがあまりないという事もあるが、夕暮れ時、行きかう人々それぞれ忙しい時間帯である。若い男2人を気にかける者はなかった。

しかしモモコは果敢に鳴き続ける。


「なああうお!にゃあああ!(出せー出せー!こっから出せよな!)」


”そして大声で鳴いて周りに知らせるんだ”


真剣になってモモコに対処法を施すあの夜の黒猫の姿が浮かぶ。


(黒猫さん、まさか本当に捕まるなんて思わなかったよ。何とかして隙を見つけなきゃな。)


「・・・急いだ方がよさそうだ。」

「だな。なんで急に鳴き始めたんだ?腹でも空いたか。」

「ネコの生態はよく知らないが・・・そうかもしれないな。大丈夫だぞ。部屋には食べ物がたくさんあるからな。」


クーザは優しくバックの中のモモコに話しかけると、レイレスと共に小走りで路地裏を進んだ。


(ちっがーう!出せって言ってんの!つーかあたしを帰せ!ニセ警官!)


モモコは激しくツッコミながら襲われた時の事を思い起こした。





モモコが警官達に心の中で労わっていると、突然、車内を照らしていた警官がテンレイの首筋に何かを刺したのが見えた。あっ!と思ったときには遅く、テンレイが座席に崩れ落ちる。モモコは慌てて護衛兼運転手の方を見るが、そちらも既にもう一人の警官によって意識を失った後だった。


「逃がすなよ。」

「わかってる。」


えっ!?えっ!?


モモコは突然の事にパニック状態になり、2人を交互に見つめる事しかできない。


ぐえっ!


呆然としているとやにわに首が苦しくなった。

運転席側の警官がモモコの首筋を掴んで持ち上げたのだ。慎重にモモコを引き寄せ、首を掴んでいる手を緩めると両前足を掴みもう片手をモモコの体に廻すと逃げないようにしっかりと固めた。


(く、苦しい!は、離せ!離せー!!テンレイさん!)


目の前の車には座席に横たわるテンレイが見える。


大丈夫だろうか。し、死んではいないよね!テンレイさん!


ここまできて漸くモモコは暴れ出した。懸命に手足を動かすが大きな警官の手はビクともしない。


「クーザ。」

「ああ。」


モモコは抵抗空しく空のボストンバッグに詰められてしまう。

それからも暴れまくったが、丈夫なバッグらしく、小さなモモコは全く歯が立たなかった。


ハアハア・・・


ちょっと息切れしてきた。


(・・・ダメだ、全然ビクともしない。・・・どうしようどうしよう・・・これ何なの?あたし誘拐されたんだよね!?・・・この人達何者なんだ!?・・・うっうっ・・・どうしよう!ガツクさん!もうガツクさんのトコに戻れないの!?・・・そんなのヤダ!絶対嫌!!!)


モモコはガツクの力強い顔を思い浮かべ、胸が締め付けられるように苦しくなった。と同時に黒猫が言った言葉を思い出す。


”・・・あっという間に攫われ、どこの誰とも知らない奴に・・・”


パニックに恐怖が加わりモモコから力を奪う。

しかし無理矢理抑えつけた。


(泣きそうになってる場合じゃない!今はどうすれば逃げられるか考えないと。ええと、ええと・・・この人達いったい誰だ?警官・・・じゃなさそう。)


時折声が聞こえる。

モモコはじっとして辺りに神経を集中した。

低く響く音、これはエンジン音だ。


(車で移動!?ヤバいじゃん!)


あばばば!


ガツク達からどんどん引き離される、待ったなしの展開に再びパニックになりかけたが、


(ふうふう・・・落ち着け落ち着け。パ二くっても何にもならないぞ。大丈夫大丈夫、絶対逃げだすチャンスは来る。大丈夫。)


モモコはまるで自分に暗示を掛ける様に、繰り返し大丈夫と唱え続けた。






タンタンタン・・・・


軽快な何かを踏む音が聞こえ、モモコは回想から目覚めた。合わせてモモコが入ったバッグも上下に揺れる。


(階段?・・・・一回・・・二回・・・三回・・・四回止まった。四階か。)


コン、コン、コンコン、コン。


合図のようなノックの音がした後、しばらくするとガチャという音がして


「おかえり~」


と、いささか脳天気な男の声がした。

対する男2人は無言で部屋に入ると、モモコが入ったバッグをそっと何かの上に置く。


「首尾の方は?」


女の声だ。


(女の人もいる?・・・・こ、これはチャンスきた?)


モモコは自分の容姿が人に、特に女性の皆さんにウケがいい事を知っている。

この三日間、パーティで施設でモモコは自分が小首を傾げるだけで皆さんが「可愛いー!!」と黄色い声を上げるのに調子に乗って、様々なお愛想のスキルを磨きに磨いた。

そしてどんな渋面の爺さんでもメロメロにしてしまうほどのお愛想の魂を手に入れてしまったのだ。(意味不明)



フッ・・・愛想のマイスターと呼べ!(ますます意味不明)



モモコはバックの隅に体を寄せた。

さっきまでは口が開いたらすぐさま飛び出し、逃走しようと思っていたのだが予想より人数が多いようだ。まだ他にもいるかもしれず、そして向こうも自分が逃げないように何らかの逃走予防策を取っているに違いない。それに闇雲に逃げ道を捜してもいずれ捕まり、さらに逃走を警戒されてしまうだろう。


(よおーし!あたしのお愛想のスキルでお前達にメロメロパンチだからな!(懐かしいな おい)足腰立たなくしてやっから!あたしと会った事を後悔するがいい!(何者だお前は))


何だかわからない、そして誤使用の言葉でモモコは自分を奮い立たせた。

そう思っているうちにバックのファスナーを開く音がジッとして、空間が横に切り裂かれる様にして口が開いた。


(あたしは女優よ!(・・・ガンバレ モモコ・・・))


モモコはなるべく怯える様にオドオドした潤んだ瞳(演技です)で覗き込んだ男女4人の顔を見上げた。

ちょっとした間があったが次の瞬間


「可愛いっ!」

「噂にたがわない可愛さだな。」

「しっ!あんまり大声出さないの!怯えてるじゃない。」

「疲れたか?ハラ減ったか?エサ食うか?」


これは・・・イケる!イケるな!


モモコは次に手を差し出したレイレスの手をクンクン嗅ぐ仕草をして「にゃあ」と鳴いてみた。もちろん小首傾げーの上目づかいーのはオプション装備で。


「うっ!」


レイレスはバックの中に入れた手をそのままに、もう片方の手で顔を覆った。


「どうした?」


クーザが怪訝そうに聞く。


「・・・ヤベえぞコイツ。・・・可愛すぎだ。」(レイレスの【ガツクの殺すゾ☆メーター】はクーザの次に高くなった)


クーザはネコ相手に顔を赤らめるレイレスに呆れ顔をした。


「早く出してあげた方がいいんじゃないか?喉だって乾いているだろう。」

「そ、そうだな。」


レイレスは深呼吸すると、両手をバックの中にそっと入れモモコを抱き上げようとした。


(ふふふ・・・)


モモコの目がキラーンと光る。

モモコはレイレスの手にすりすりと身を寄せ自分から彼の手に収まった。


「くっ!コイツ。」(ガツク2号か?いやテンレイを入れると3号か)


レイレスはドキドキしながら漸くモモコを出すと、そっとテーブルの上に置いた。

外に出されたモモコは辺りを見渡してここが普通の部屋だという事を知る。

初めての場所にきて戸惑っているかのような演技を続けながら目はしっかりと部屋の間取りを頭に入れ、入り口や窓の位置を確認した。


「すぐご飯にするからな。」


クーザがキッチンと思われる場所に引っ込み、途端レイレスを押しのけたシャッターとティカがモモコの前を陣取った。


「可愛いね~見てよこのちっちゃい手!」

「ほんと!コクサ大将が可愛がるわけよね!」

(ん?ガツクさん?)


モモコはティカからガツクの名が出た事に思わず反応しそうになったが、堪えてモモコの前足を優しく握ったり、首筋をこちょこちょこしたりしてくる2人に気持ちよさそうに目を細めたり、甘えたりを繰り返して愛想を振りまいた。2人がニコニコと楽しそうにしていると・・・


「おいどけ。」


2人は紐がついた棒を手に持ったレイレスにどかされた。

ぶーぶー文句を言う2人を全面無視でレイレスは、ソレをモモコの目の前でぶらんとしてみせた。


(これは・・・猫用のオモチャ・・・ハァ・・・これで遊んでみせなきゃならないんだろうな)


ため息をつきたいモモコだったが我慢我慢と言い聞かせ、キラキラとした瞳でその紐付き棒を見上げた。

そしてレイレスが横に振るたびに子猫がよくやる様にピョンピョン飛びはねめっちゃ興奮しているぜ!もっとやってくれだぜ!という風に見える様に頑張った。

楽しそうなレイレスと、さっきよりももっと可愛い仕草で懸命に紐を追いかけるモモコ。

それを見たシャッターやティカは妙な対抗意識をレイレスに出し、負けじと猫用オモチャを持ってきてモモコと遊ぼうとレイレスを突き飛ばす。


「ちょっ!お前ら!」


突き飛ばされたレイレスだが、すぐに体を起こすとシャッターの頭をスリッパでスパーン!と小気味いい音をさせてはたいた。


「いったーい!何すんだよ!」

「うるせえ!お前が俺を突き飛ばしたんじゃねえか!」

「僕だけじゃないよ!それにレイが悪いんだろ!モモコちゃんを独り占めしてさ!」

「モモコちゃ~ん!ほら!このネズミのオモチャ最高よ!野蛮な男達はほっといてあたしと遊ぼうね!」

「ティカ!」

「ティカ!テメエ!」


う、うるさい・・・・


モモコは3人が、オモチャを取り合う子供のように自分を巡ってケンカを始めるのを呆れ顔で見ていた。


(この人達結構若そうだなぁ・・・クーザ・・・だっけ、あの銀髪の人。あの人が一番落ち着いていてリーダーっぽい。それでもすごく若い。あたしと同じぐらいか・・・皆 学生?もしかして高校生ぐらいじゃないか!?)


呆れながらも注意深く観察していたモモコは犯人達 (ギャイギャイ騒ぐ様からは到底見えないが)が以外と若い事に気が付いた。


(この人達何の目的であたしを攫ったんだろう?単に珍しいからかな?一応希少種らしいからな・・・でもんな粘着質な感じはしないし・・・わからん!お前達が何を考えているかわからん!)


モモコは考えるのをやめ、キョロキョロと周りを見渡し逃げ道はないか探った。

窓は開いているがモモコからは高い位置にあり、3人に気付かれずに近づくのは難しい。


(向こうはキッチンだったな)


モモコがキッチンのほうを見ると、キッチンに続くドアとは別のドアが少し開いていた。


(おっ!)


モモコはまだ言い合いをしている3人をチラッと見、気づかれないようにソロリ・・・と歩き出した。


(気付くなよ~気づくなよ~)


まるで呪いのように口の中で呟きながらモモコがもう少しでドアに到達しようとした瞬間、


「ちょっと待て。」


レイレスに捕まった。


(ちっくしょー!!あともうちょっとだったのにぃ!)


舌打ちでもしたいモモコだったが、ここはスキルの見せ所。

思い切り甘えモードでレイレスを見上げる。

イメージ的には周りにピンクのハートが飛びかってる感じ。



”あなたの事が好きで好きでたまらないの。甘えてもいい?”



というありもしない幻聴まで聞こえてきそうだ。

モモコのこの甘えスキルを使えばガツクを0・2秒で倒せるのだが、モモコにガツクに対して使うという意識はない。

このスキルはあくまで他人用だ。(というか、普段のモモコの何気ない仕草でもヤラれているガツクにこれ以上は・・・)


レイレスは自分の大きな手に収まった桃色の小さな猫が濡れた様にキラキラした瞳で己を見上げた途端。


「コイツカウ。」


壊れた。(ガツク3号が生まれた瞬間である)


(なにぃぃ!!やりすぎたか!しかも狙ってた女の人と違うのが釣れたし!)


突然の飼う宣言に驚き慌てるモモコ。じたばたと暴れるが前足はガッチリレイレスに捕らわれている。

顔を赤らめたままモモコの小さな顔に、何をしようとするのか顔をどんどん近付けるレイレス。

その言葉と異様な雰囲気にドン引きしたシャッターとティカがズザザァッと親友から遠ざかる。(レイレ

スの【ガツクの殺すゾ☆メーター】はその針をぶっちぎりクーザを遥かに抜いてトップに立った)



「いい加減にしろ・・・」



その時クーザの冷凍庫さながらの声がいきなりレイレスの耳元で炸裂し、驚いたレイレスは思わずワァッ!とモモコを放り出してしまう。


ポォーーーン。


モモコは慌てる4人の頭上を大きく弧を描いて宙に浮き・・・・


ストン。


まるで吸い込まれるように開いていた窓から落ちた。


!!!!


狭い窓に大柄な4人が一斉に集まり、当然というか空間がないので互いにぶつかり弾き飛ばされる。


いたた・・・」

「いってぇ・・」


呻く仲間に構わず態勢を直したクーザは窓から下を覗いてみた。

祈る様にピンク色の塊を捜していると・・・


いた!


モモコは下の部屋の住人が張った日よけテントに上手く落ち、モゾモゾと動いている最中であった。


「ネコは無事だ!下のテントにいる!シャッターは部屋に残ってネコを見ててくれ!レイ!ティカ!行くぞ!」


モモコは落ちた衝撃でクラクラしていたが、頭を振ってしっかりしろ!と己を奮い立たせ、せっかくのチャンスを無駄にしないようにテントの端に立つ。

そこからちょうど伸びている隣の部屋の手摺に飛び移りそこからまた足場を捜し・・・と焦りながらも無事地面に飛び降りた。

ホッと息をつく間もなくバタバタする足音が聞こえてきてモモコは彼らが追いかけてきたのがわかると、大急ぎで取りあえず前の道をひたすら駆けた。


「あっち!廃船置き場の方だよ!真っ直ぐ!」


背後からあの金髪の青年の声がして、モモコは走りながら後ろを振り返ってみた。

すると、思った通りクーザ、レイレス、ティカが追いかけてきている。

モモコは真っ直ぐ走らずジグザグに走り、新旧の船がたくさんある場所に着くとその小さな体の特性を充分生かす、モモコが大得意のかくれんぼを始めた。

モモコがいったん隠れてしまえばあのガツクとて容易には見つけられない。

まして今日初めて会ったクーザ達に見つけられるはずはなく、モモコは様子を見ながらクーザ達からどんどん遠ざかった。

やがて彼らの声がかすかに聞こえるまでになった場所まで来ると、これからどうするか考える。


(どうやって帰ろうかなぁ・・・今日ガツクさん帰ってくるはずだけど・・・もう着いたかな・・・出迎えたかったな。)


モモコだけに向ける微笑みでガツクが自分に手を差し出す光景が浮かぶ。


(・・・うっうっう・・・どうしてこんな事になっちゃったんだろ?・・・ガツクさーん)


泣きたい気持ちでガツクの名を心で呼ぶモモコ。

モモコがようやく落ち着く頃、太陽はその姿をほんのわずか覗かせている頃だった。


(・・・こうしていても仕方ない。この場所から出なきゃ。)


モモコがよいしょと腰を上げた時である。




「こいつぁ・・・!へっへっへっ!ついてるぜえ!」




ぎゃっ!


モモコは突如襲ってきた苦しさに声にならない声を上げた。

喘ぎながら自分の首を鷲掴みしている何者かを見ようとする。

そこには汚い不潔そうなナリをした大柄な男がギラギラと欲にまみれた目で自分を見ていた。

モモコは反射的に足を突っ張りもがくが、すぐに首をぎゅっと絞められ息苦しさと骨が折れそうな痛みに大人しくなる。

それをニヤニヤと見ていた男の背後から


「ホータイどうした?何か見つけたか?・・・すげえ!いいモン見つけたなあ!こりゃあ金になりそうだぜ!」


男の相棒だろうか、男より随分小柄な男がはしゃいだ声を上げる。


「コイツ、あの大将のネコだ。どうしてこんな場所にいるのか知らんが拾ったもん勝ちだよなあ。」

「その通り。何でも世界に一匹しかいないらしいぜ。コレクター達に売り飛ばせば目ん玉飛び出る値で買ってくれるはずだ。」


あ・・・ぐうぅ・・・くるしい・・・・やめ・・


大金が入る予感にホータイの手に力が入る。

モモコは息が苦しくなり、ホータイの手に弱々しく爪を立てどうにかして緩めようとした。


「おいおいホータイ、あんまり絞めると死んじまうぜ。金のなる木がダメになっちまう。」

「おお、危ねぇ危ねぇ。」


その時、遠くから人の声が聞こえてきた。

男達が耳を澄ませているとどうやらこの猫を捜しているらしい。

2人は顔を見合わせてニヤリとほくそ笑むとコソコソとその場から立ち去り始めた。


「おい、ちょっと待て。」


小柄な男がホータイを呼び止める。


「なんだよヤクシー。早くズラかろうぜ。」


ホータイがイライラした様にヤクシーを振りかえる。

ヤクシーはモモコの首からキラリと光る物に気づき、


「ネコのくせにいいモン持ってるじゃねえか。本物かな?」


高価そうな宝石だと知ると慎重にモモコから外した。


(ああ・・・テンレイさんから貰った物なのに・・・か・・え・・)


モモコは先程よりは緩んだがいまだに首を絞めるホータイに意識が朦朧として、霞む目でヤクシーが首飾りを値踏みするのを見ていた。


「けっ!」


ヤクシーはいきなり首飾りを地面に投げつけ足で踏みつぶした。


「ど、どうしたんだヤクシー。もったいねえじゃねえか。」


突然の行為にホータイが驚き声を上げる。

ヤクシーは忌々しそうに首飾りを睨むと、ホータイを促してここから立ち去り始めた。


「あれはよぉ。発信機だ。」

「えっ!」

「これだけ高価な猫だ、逃げた時や連れ去られた時のためにだろうぜ。宝石は模造品だがそれなりのモンだった。もったいねえが足がつくよりゃしょうがねえ。」

「知らねえでもってたら危ない所だったなァ。」

「おうよ。さっ早く船に戻るぞ。」


そ・・んな・・・アレ・・・


モモコはテンレイがすごく似合うわよと言って着けてくれた首飾りを見た。

首飾りは今、宝石部分が無残にも潰されて機械らしきものがむき出しになり、土にまみれて転がっている。



ガ・・ツ・・・ク・さ・・・・ん



モモコはその光景を最後にガツクの名を呼びながら意識を失った。







廃船置き場の端の方、波打ち際に一匹の黒猫が残照を楽しんでいるとコソコソした2人組の男が現れた。

黒猫が警戒して2人を観察していると、2人は隠していたのだろう黒い船を入江の奥の方から引っ張り出してきた。


(ははあ、あいつら船の部品を盗みに来たやつらだな。)


ドミニオンには総所が管理運営しているいくつかの廃船置き場があるが、中でもここ北の廃船置き場は一番広く、また捨てられる船も種類が多い。中にはまだまだ使える部品を抱えている船や珍しい装飾をしている船も多い。だが捨てられているという理由で勝手に持って言っていい事にはならず、キチンと総所に「この船のどんな部品が欲しい」と願い出て査定してもらってから買うというシステムになっていた。

だが悪い奴らもいるもので、忍び込んでは盗み、裏のルートで部品やらを捌く輩も多かった。

黒猫は興味を失くしてその場から立ち去ろうとした時、信じられない事を聞く。


「しかし今日はツイテたなぁ。まさかあの猫が手に入るとはなぁ。」

「ああ。大将のネコだからまず盗むのは無理だろうと言われていたからな。」

「これで俺達も有名人になっちまうな。」

「ヒヒヒ、箔がつくってもんよ。」


(なっ・・・大将の猫だって!モモコの事じゃないか!)


黒猫は踵を返すと目を凝らしてモモコを捜した。

すると看板の上に立つ大男の手にしっかり捕まえられたピンクの猫がいた。動かない所を見ると意識がないようだ。

黒猫はいいようのない怒りを覚える。


(あんな小さな子供になんて事を・・・だから人間は嫌いだ!)


怒りに燃える黒猫は男達の船にそっと近づき、隙を見て船に乗り込んだ。

幸いにも部品を運ぶ船は大きめに作られており、隠れられる箇所もたくさんある。猫一匹が入り込んだとしてもすぐには気づかれそうにはない。


(モモコ・・・僕がきっと助け出すからね。・・・・それにしてもモモコのあの怖ろしい飼い主は何をしてるんだ?モモコの事を大事にしていると思ったのに・・・もしかしてモモコは捨てられたのか?そんな風には見えなかったけど・・・まあいい、もしモモコが捨てられたのなら僕がずっと側にいよう。)


黒猫は、今はモモコを助けるのが一番だ。後の事はモモコに話を聞いてからと自分の疑問はいったん棚上げする事にした。




クーザ達の単なるゲームは様々な色を帯び、ますます混迷の様子を見せ始めてきた。




モモコと男達、黒猫を乗せた船が波を蹴立ててその場を離れた時


北の廃船置き場にガツクが到着した。


モモコ大ピンチです。

クーザ達も大大大大ピンチです。

お次は皆さんお待ちかね、ガツクのターン。

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