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偏屈さんと一緒  作者: ロッカ
54/84

5-2 やめておいた方がいいですよ

「モモコ・・・・・・・・・・・。」


ガツクは身の内にいつもたぎっている想いを込めてモモコの目を見つめた。

別れの朝。

周囲には見送る方々、出立する方々が何かが起こったらどうしよう!と、固唾をのんでガツクとモモコを(ホクガンとダイス、テンレイを除いて)遠巻きに見守った。


しかし。


「・・・ではな。任せたぞ、テンレイ。」


ガツクは意外にもあっさりそう言うとテンレイにモモコを預け、すぐに踵を返すと風に黒いコートをはためかせながら自身の戦闘用バイク[レイマド]に(全長2メートルを超す化け物マシン。オプション(アッチ系)多機能につき紹介は後ほど)跨った。


「にゃおーん!ふみ!(お仕事頑張ってねー!お土産もよろしくね!)」


ガツクの血がにじみ出るような我慢に我慢を重ねた別れの挨拶とは対照的に、出張で会えなくて淋しいけどたった3日間だしね とあくまで普通に見送るモモコ。

モモコの鳴き声を聞いたガツクはゴーグルを着けようとした手を一瞬止めたが、グッと奥歯を噛み締めて堪え、装着すると革手袋に包まれた両手をグリップに置いた。


(やせ我慢してんなぁ・・・おいおい、手、ナンか震えてね?とと、早く出ねえとヤベえなこりゃ)


ホクガンは注意深くガツクを観察し、ガツクが思い直さないうちにと慌てて出立の合図をした。


「じゃあな!留守の間にゼレンが何を仕掛けてくるかわからねえ!気合入れろよ!」


ホクガンの奨励交じりの挨拶を皮切りにガツクは先頭を切ってレイマドを発進させた。

続いて雷桜隊、車に乗ったホクガン、霧藤隊が続き、殿しんがりを戦闘用バイク[ウィンドニク]に乗ったダイスが務めた。






どう見ても今から戦争しに行く武装集団にしか見えない一行を、いってらっしゃ~いとのんきに見送ったモモコは


(初仕事だよ~!緊張するなぁ!でも頑張るぞ!)


今日から始まるみっちり詰まったスケジュールを思って気合を入れた。


「モモコ、忙しい3日間になると思うけどこれで最後にするから頑張って頂戴ね。」

「ふみみ!みゃお!(わかってるともさ!任しといてよ!)」

「うふふ。お利口さんね~モモコは。」


元気に応えるモモコを、これからしばらく独占できるテンレイは満面の笑みで見下ろして、最初の慰問先である施設へと向かった。


* * *


昨夜。

モモコがあっさり承諾した留守番の件がすむと、ドォーンと落ち込むガツクを尻目にテンレイが「モモコに依頼が来てるの」とくだんのチャリティーや慰問の事を話した。


(マジー!?あたしにそんな事務まるのかなぁ?ちょっとした役職じゃないか?でも遣り甲斐ありそう・・・お愛想だけだったらあたしにもできそうだし)


びっくりしたモモコだったが初仕事の予感にわくわくした。が、


「駄目だ。」


ガツクの冷えた声にそのワクワク感もストップする。


「何でよ。モモコはやる気よ?」


テンレイがやっぱ反対したなこのヤロウといった顔でガツクに抗議した。

ガツクがモモコを見下ろすと確かに「なんで?」と怪訝そうに自分を見ている。


「外に出て事故や事件に巻き込まれたらどうする?俺以外がお前を守り切れるとは到底言えんな。」


いや、そりゃあアンタ以上に強くは・・・だけど。

3人と一匹が半目でガツクを見やる(比べるのが人より人外に近いガツクでは・・・)。


「モモコもやりたがってるし、暇だろうから」とか「あれだけ注目を浴びては仕方ない」だの言われても頑として首を縦に振らないガツクだったが、結局はモモコがABC表で「やりたいやりたい」と訴え、「これで最後にするから」というテンレイにとうとう渋々、仕方なさそーに嫌々頷くガツクが見られた。


* * *


その後、グランモア国に親書を送り、快く承諾の返事をもらったホクガンは、電話の向こうで青筋を立てているだろうゼレン国王に慇懃に会見場所などを伝えた。

そしてモモコがいない分身軽になった3人は、いまだに細かくちょっかいを出してくるゼレンに太っとい釘を何本か刺そうとあんな事やこんな事を画策し始めた。


ちょっと内容が憚れる事を話しあっているホクガンの執務室とは対照的に、テンレイの執務室では依頼があった団体や施設などを慎重にリストアップ、パーティーに着ていくドレスの(もちろんモモコの)コーディネートや スケジュールを調整したりと健全に順調に事を運んだ。


(準備に忙しくてあんまりガツクさんとゆっくりできなかったな。・・・・淋しいけど3日間の辛抱だし・・・よーし!頑張って仕事して 胸を張ってガツクさんを迎えるぞ!)


慌ただしかったここ数日を思い起こし、別れの時の切なそうに自分を見るガツクの顔を思い出したモモコは、何だかわからない胸の疼きを感じた。そしてその疼きが何なのかわからないまま、ガツクが恋しくなったモモコだったが、この初仕事で成果を上げてガツクに褒めてもらおうと健気にも淋しい気持に蓋をした。


「ほらモモコ、着いたわよ。くれぐれも無理はしないようにね?気分が悪くなったりしたら遠慮しないで言うのよ。」

「ぶみ!(だいじょーぶ!)」


モモコはテンレイに声を掛けられ慰問先に着いた事を知ると、意識をガツクから仕事の事へと切り替えた。






「我らがターゲットのお出ましだ。」


クーザはモモコとテンレイがにこやかに手を振りながら施設内に入るのを、双眼鏡で見ながら呟いた。


「生で見ると本当に小っちゃいよね~!まだほんの子猫だよ~!・・・それにしてもすごい人出だね。」


シャッターがニコニコしながら、一目モモコを見ようと群がる人々を見渡しながら言った。


「今、一番話題の主だからな。」


レイレスは関心なさそうに眠たげに相槌を打つ。


「警備の数は想定内ってトコね。・・・・ねえ、本当にやるの?」


ティカが警備の数を確認してから少し不安そうにクーザを見た。

あんなに小さな猫に乱暴めいた事をしていいのだろうか。ちょっとした事でも死んでしまいそうだ。

クーザはティカを見下ろして


「大丈夫。(全然大丈夫じゃない)たかが猫だろ?(この時点でアウト)人間を誘拐するわけじゃなし、(人間の方がよっぽどマシ)リスクだって相当低い。(低いどころかリスクしか見当たらない羽目に)猫とは云え丁重に持て成すし、それにすぐに返してやるんだから。ゲームだよゲーム。(死のゲーム)この国最強の男がどう出るか見たくないか?(クーザの予想を遥かに上回り恐怖のどん底に叩き落とすガツクが見られます)」


ニヤリと笑った。

ティカはクーザの自信に溢れる顔を見ていたが、かすかな不安を拭いきれない。(ここで引き返していれば・・・)だが、ガツクに挑戦してみたい気持ちがないわけでもなかった。


「・・・そうよね。面白くなりそうだもの。(絶対にならない)」


「そうそう。もしかしたらさぁコクサ大将と仲のいい国主やラズ大将も出てくるかもよ?(出る出る。全然出る。ホクガン達どころか軍部全体出る。特に雷桜隊は今後が懸かっているので必死)」


シャッターがそんな事になったらどうしよう!?とワクワクしながら興奮気味にはしゃぐと


「そんな事あるわけないだろ?(あるんだなこれが)猫がいなくなったぐらいで。(ソレがいないだけで鬼と化します)」

「まあな。でも出てきたらもっと面白くなりそうだ(混乱の極致である意味面白いだろう)。」


レイレスが呆れながら言い、クーザが笑いながらシャッターに賛成すると4人はそこを去った。





クーザ達は完全にガツクの事を読み違えているが無理もない事であろう。

誰があんなにモモコに執心していると思うだろうか。

国の中心人物の一人で、軍部最強であり、威圧感バリバリの37才の伝説の男が





全てを賭けてもいいほど深い想いを寄せているなど。





モモコに危機 (というかドミニオンの危機になりそうな)が訪れるのを夢にも思わないガツク達のその頃。


「予想はしてたけどよ。」


椅子に座り肘かけに手を置いて指を組んだガツクはその手に額を置いている。

その体勢はドミニオンを出た時から続いていた。

ここは国主専用船内。

ガツク達はバイクを格納庫に収めた後、ラウンジへと向かった。


「3日間これかい。」


モモコに別れを告げた途端、普段より数倍凶悪な顔になったガツクに声を掛ける勇気のある者はいない。

道中も皆、無言で隊列を進め、船内に入った後はガツク達のいるラウンジに近づく者は皆無。

だだっ広いラウンジは3人以外は無人であった。


「ま、この状態の方がゼレンには圧力をかけやすいからいいんじゃねえか。おいガツク、ゼレンは構わねえがグランモアの女王にゃ、もうちっと何とかしろよ。場所貸してもらったんだからな。」


ホクガンは前に座っているガツクに注意を促した。

ガツクは少し顔を上げると暗い目でホクガンを見返し、


「女王などどうでもいい。向こうが俺を見なければいいだろう。」


と、己の態度を変えるつもりがない事を示唆した。


「いやいや今のお前は見なければいいだろってレベルじゃないから。見ちゃうから。見えちゃうから。」


ガツクの苛立ちと怒をふんだんに含み、普段の数倍威力を増した威圧感は周囲の者に絶対無視させない程ダダもれ。

ガツクはホクガンの言葉にフンと返してまた同じ体勢に戻った。

ホクガンはテンレイの依頼事がなくてもモモコは置いていくつもりで、このガツクの態度もわかっているものではあったが、こうまで酷いとモモコを置いてきた事を後悔しそうになった。

ため息をつくホクガンとダイス。不機嫌さが膨張してきて手がつけられなくなりそうなガツク。任務とは云え、泣きそうな心境の隊士達を乗せた船は順調に航路を進んだ。


そんなこんなでモモコとテンレイにとっては忙しいながらも充実した、ダイスとホクガンにとってはゼレンをじわじわと嬲りながらも必死にガツクを制御し、胃の痛い思いをしながらの日々が過ぎた3日目。

モモコは最後の慰問先である施設から帰途につく車の中にいた。


「御苦労さまだったわね、モモコ。疲れたでしょう?帰ったらマッサージしてあげましょうね。」

「ふみふみー。ぶにゃあお。うにゃ。(テンレイさんこそお疲れ様ですー。テンレイさんのマッサージ楽しみだなぁ。超気持ちいいんだよね!)」


そんな和やかな会話を交わしていると道の途中で車が止まった。


「どうしたの?」


テンレイが怪訝そうに前を見やる。


「警官が。何かあったのでしょう。」


警備を兼ねた運転手は前方を塞ぐ感じで止めてある停止用のガードの横から制服を着た男が2人、こちらに来るのを見て言った。

警官の一人は運転手に窓を下げる様に合図すると申し訳なさそうに言った。


「すみません。実は強盗事件が先程起こりまして車で市内を逃走中です。それで今通行中の全車両を調べているのですが・・・捜査にご協力願います。」


テンレイがコツコツと叩く音にそこを見るともう一人の警官が窓を下げる様にジェスチャーしていた。

テンレイは頷くと


「改めてもらいましょう。」


あっさり了承した。

モモコはマスクをした警官達がライトを持ったまま車中を照らすのを見ながら


(風邪でも流行ってんのかな?こんな緊急事態とかあったらおいそれと休めないんだろうなぁ。お疲れさんですほんと)


心の中で彼らを労わった。


それが自身を攫おうとしているクーザとレイレスだとは知らず。


人ってね、百聞は一見にしかず、なんですよね。

どんな”一見”になるんでしょうかね。

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