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偏屈さんと一緒  作者: ロッカ
46/84

4-15 ワケのわからない押し付けはやめてください


モモコは困惑していた。

目の前には膝をつき、腕を組んだガツクが眉間に皺を寄せてモモコを見ている。


モモコがベントの頬をぺロリした後、周囲の方々を跳ね飛ばしながらベントからモモコを引っぺがした(その際ベントに裏拳をお見舞いするのを忘れなかった)ガツクはその場で話しをしようとしたのだが、


「国民が見ている前でなにやらかす気だ!」

「せめて閉会式が終わってからにせんかい!」


と鬼気迫るガツクの様子にただならぬモノを感じたホクガン達に止められ、しぶしぶベントや他の選手達と共に舞台上に上り、総責任者であるジエンから称賛と共に賞品が手渡された。

ガツクはそれを仏頂面で受け取り、「やれ、やれ」とうるさいホクガンとダイスにせっつかれ、歓声を上げるドミニオン国民にしかめっ面で手を軽く振った。


「その顔なんとかならねえのか。」

「黙れ。」


ホクガンが呆れて声を掛けるが早くモモコと2人きりになり、


”なぜベントなんぞの頬を舐め・・・舐めたりなどするのだっ!!俺にもした事なぞないのに!!なぜだ!モモコ!”


と追及したくてたまらないガツクは、ホクガンの止める声を今度こそ無視して舞台を降り、ガツクを称賛しようと群がる人々をその鋭い眼光で固まらせ、空いている部屋に入り、誰にも邪魔されないよう鍵を掛けた。

ガツクはモモコを床に下ろすと、不機嫌そうに膝をつきモモコを見下ろした。


「ベントなんぞの頬を舐めるとは何を考えている。」


モモコはなぜガツクが怒るのかいまいちわからない。


(舐めたっていってもちょいと舌で触った程度だし。猫らしく傷をさ、ほら、なんでも舐めちゃうでしょ?猫っぽいかなって思ってやったんだけど・・・他にどう(感謝の気持ちを)表現していいかわからなかったし・・・失敗したのかな。)


自分があまり猫らしくない事は承知しているし、たまには猫らしい感じをアピールしようと、自分なりに考えただけなのだが、それがガツクの独占欲とか嫉妬心を煽っているとは夢にも思ってないモモコ。




ガツクにした事がないのは、ケガなどしないから。

したとしてもすぐに治る。

肩に止まる訓練中、思わず爪を立ててしまった時があったのだが、翌日にはうっすらと跡が残っているだけであった。


(ガツクさんて丈夫だな)


で終わった。(哀れガツク)





猫として駄目だったのかなぁと、他にやりようがあっただろうかと模索しているモモコとは180度違う対極にいる大男は続ける。


「モモコ、今後、俺以外のどんな人間や動物にも接触するんじゃない。いいな。」


へっ!?

モモコはあっけにとられてガツクを見上げた。


「抱かれるのも、触るのも、必要以上に話すのも駄目だ。わかったな。」


嫉妬に駆られた男ほど恐ろしい者はいないかもしれない・・・・これが他の女性だったらガツクのマジな(ただでさえ恐ろしい)顔に慄く所だが、モモコは違った。


(な、なにそれ!ちょっと横暴じゃない!?飼い主だからって無茶言い過ぎ!干渉しすぎだよ!)


ガツクは飼い主として言っているのではないのだが、(というかペットに対する態度や感情ではないだろコレ)自分を猫として扱っていると疑わないモモコには、ガツクの過干渉は不可解かつ横暴に見えた。まあ、モモコが人間だったとしてもガツクは同じような対応をするだろうなと思われる。

それにしてもこれは行き過ぎだ。

モモコは激しく首を振ってガツクに否と返答した。

ピク・・・

ガツクの頬が引き攣る。


「・・・・嫌、じゃない。守ってもらうぞ・・・拒否は許さん。」


ムカッ!


(冗談じゃないよ!そんなのガツクさん以外とは何にも出来ないじゃん!ムカツク!)

モモコにだって当たり前だが自我はある。

たまにはテンレイと遊んだり、ショウと話したり、本当はもっと色々な人と交流を持ちたいのだ。

モモコはベーッと舌を出してガツクを睨みつけた。

ガツクの眉間の皺が深くなり、モモコを見下ろす眼光が鋭さを増す。


「モモコ・・・俺の言う事が聞けんのか?」


ガツクは黒い革手袋を嵌めた手をモモコに伸ばし、抱きかかえようとした、がモモコは素早く後ろに下がりこれを避けた。

ガツクの右手が宙を切る。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


ガツクはゆっくり立ち上がった。

モモコはガツクを睨みつけながら慎重に間合いを取る。


「モモコ・・・俺は拒否しなくていいんだぞ?」


じりじりとモモコに近寄りながらガツクは低~い声で話しかけるが、


「ふううう・・・!(なにさ!こうなったらガツクさんを拒否してやる!)」


モモコはますますガツクから距離をとり唸る。

さほど広くない部屋で大男と小さな猫の追いかけっこが始まった。


「モモコ!ベントにした事を他の奴らにもするつもりか!許さんぞ!」

「ふぎゃー!ふぎぎ!(あれはガツクさんが殴ったからでしょ!感謝と謝罪の気持ちなの!)」

「なぜだ!お前は俺だけを見ていればいい!!他の奴らなど見るんじゃない!!」

「ふぎぃ!?ぶにゃゃ!(なに言ってんの!?めちゃくちゃだよ!)」

「逃げるんじゃない!」


ギャーギャーと本当にくだらない、だが必死な、そしてとにかく噛み合わない一人と一匹。

と、そこへドンドンとドアを激しくたたく音が加わり、一人と一匹は動きを止めた。


「おい ガツク!何してんだ?ここ開けろ!」


ホクガンの声だ。


チッ!

時間切れか。


ガツクは渋々ドアの鍵を解除した。

ホクガンが大きく扉を開ける。


今だぁ!


その間を逃さずモモコはドアに向かって走り・・・


「ま~た総所中を捜させる気か。」


ホクガンに捕まった。

ホクガンはじたばたするモモコをガツクに渡そうとして


「おい。」


胸にひっつき、爪を立ててぶら下がるモモコにつっこんだ。


(この際ホクガンでもいいや!ガツクさんのとこには戻らないぞ!)


「どうしたんだよコレ。いでで、おい爪立てんな!」

「うるさい。戻れモモコ。」


モモコはホクガンの胸に顔を押し付けるよう感じで嫌々と首を振った。

ガツクの頬がヒクヒクと痙攣し始める。


「モモコ・・・・俺よりホクガンがいいと言うのか?」


ガツクはホクガンの方へゆっくり視線を移した。

その目を見たホクガンはギョッとして慌ててモモコを引き離そうとする。


「おい!悪いけど離れてくれ!ここで死にたくねえ!」


モモコは必死に抵抗するがガツクとホクガン、2人がかりでベリッと遂に剥がされた。

無事?にガツクの腕に戻ったモモコは、ガツクが目が合う位置まで持ってきてもフンッ!とそっぽを向く。

イライラが増幅するガツク。


「あのよぉ・・・」

「何だ。」

「ハァ・・・何があったかは知らねえが、この後祝勝会がある。モモコと絶対出ろよ。」


ガツクは顔を背けているモモコから目を離さずホクガンに言い返した。


「わかっている。モモコ、この話はまだ終わっていない。祝勝会の後もう一度話し合おう。」

「ふううう!ふぎいい!(あれは話し合いじゃないでしょ!ガツクさんが一方的に命令してんじゃん!)」


モモコは唸り声で返した。

目の前で睨みあっている一人と一匹を見てホクガンは


(たぶん、モモコがベントを舐めた件だろうな。またガツクがモモコに無茶でも言ったんだろう。ほんとにコレ(モモコ)が絡むと暴走しやすいな)


正確に状況を判断した。


「おい、ガツクとモモコいたか。」


そこへダイスがやってきた。


「ああ。」


ダイスは自分が来た事に気づいたモモコの、訴えるような目を見てガツクに訪ねる。


「何したんじゃァ ガツク。モモコが何か訴えちょるぞ。」


自分ではなくダイスを見やるモモコにガツクの嫉妬心は増すばかり。


「・・・・祝勝会の場所はどこだ。」


ダイスを無視してガツクは冷えた声で聞いた。

ダイスは片眉を上げてホクガンを見やった。

ホクガンは肩をすくめてガツクに応える。


「そのまま会場にテントを張って、気取らない感じでする事にしたよ。ゼレンの事があったから自粛した感じだ。」

「わかった。」


ガツクは唸るように言うといつもよりきつくモモコを抱いて部屋を後にし、その溢れる圧力を辺りに惜しみなく発散しながら去った。


「何があったんじゃ?」

「さあなぁ・・・ま、想像はつくけどよ。」


ホクガンはさっきまで一人と一匹がいた部屋に入りながら答える。

続けてダイスも入りながら、一人と一匹が暴れた部屋の荒れ具合に少し目を見張った。


「・・・荒れとるのう。あいつらか?」


ホクガンは窓に寄ってガツクが進むたびに人垣が左右に割れるのを見ながら、


「だろうな。ベントの件だろ。」

「あれか・・・モモコもなぁ ガツクへの影響力を、とは言ってもあいつは猫じゃ。わからんのも無理はないんじゃが。」


違う。鈍いだけ。


「う~ん。まあな、普通は思わねえだろ。人語を解してもガツクのあの感情は。」


中身はまるっきり人間なのだが、自分はただの猫だとは認識はしてるので、激しすぎる感情をぶつけるガツクに当人のモモコの???は増えるばかり。


「それにしても・・・とうとうきたな。」

「ああ。いつかくるじゃろうと思うておったが・・・予想通りというかなんともじゃ。」


ガツクの、動植物に対する無関心具合にみえるように興味のない事には一切見向きもしないが、いったん心を寄せるとそれには凄まじいまでの執着をみせる。

それは軍校卒のルーキーがたったの8年で軍部の最上位である大将に就任したことからもみられる。

普通は20年から30年は掛るのにもかかわらずにだ。

そのひたむきさを今、一身に受けるモモコ。

受難というか迷惑どころではない周囲。

猪突猛進のガツクに、今さら何を言っても聞く耳を待たないだろうと言う事は 今までの事例からいって明らか。


「ドミニオンの平和のために、モモコには諦めてもらうか。」

「ズバッとひでえ事をゆうのう。もう少しオブラートに包まんかい。」

「包んでどうする。ガツクに見初められた時点でモモコに選択肢はないも同然だろが。」

「見初められたか・・・・・モモコが人間だったらのう・・・」

「・・・そうだな・・・猫の寿命は14年ぐらいか?」

「今は18年ぐらいはイケる猫もおるぞ。まあ、個体差が激しいがの。」


モモコを失った後のガツクに今から暗澹とする2人。


「やめようぜ。無駄だ。」

「そうじゃな。」


2人はくる未来を思って悩むなど無駄な事はやめた。

悩むくらいなら対処法を考えた方がいい。

武道会が終わっても雑事はたくさんある。レセプションはまだ続いているのだ。ホクガンはダイスを促すとそれぞれの役目を果たすため部屋を出て行った。




モモコが人間だったら・・・それはホクガンとダイスだけではないガツクをよく知る人々が一度ならず思った事。

だが、心を寄せるモノがいるだけでもよかったよな!と生温く見守る事に徹し、誰一人としてガツクやモモコにこの話題を振る者はいなかった。





篝火がたかれ、華やかに飾りつけられた巨大なテントの中、人々はあちらこちらに置かれたテーブルのおいしい料理に舌づつみを打ちながら歓談する。


「ローさん、ベントさんの具合はどうですか?」


エルヴィが心配そうにローに聞く。


「大丈夫だ。ガツクに蹴られた胸骨にひびが入ったくれえで、あとは打ち身があちこち。旦那の丈夫さは折り紙つきだ。処置が済み次第こっちに顔を出すだろうよ。」


ひびが入ったことぐらいで国王も出席している祝勝会を欠席するベントではない。


「よかった・・・それにしてもあのベントさんに勝ったコクサ大将はすごいですね。まさに圧巻な試合でした。」


エルヴィはホッとしたように笑うとガツクを称えた。


「ああ、うん、そうだな・・・」


ローはベントが仕出かした一連の行為と、ガツクの猫に対する固執ぶりを間近に見て思う事が多々あったが、無理矢理押しこんで無難に答えた。

そして、談笑する人々とは明らかに空気が違う一角に心配そうに視線をやった。


モモコとガツクは険悪な雰囲気を周囲にまき散らしながら、ホクガンやダイスと共にゼレンを除く各国代表団から祝辞を受けていた。

本来なら優勝者を囲んでワイワイと盛り上がる所だがガツクの発する威圧感に(ただのイラつき)引き攣った顔で言葉少なに述べるのみ。


「よい試合だった ガツクよ。主が飼い猫と出ると聞いた時は冗談であろうと思っておったが、さすがはガツク・コクサの飼い猫よの。誠に勇敢な戦いぶりであった。」


べリアル帝国ワイズムはガツクの威圧感などどこ吹く風。ひょうひょうとガツクとモモコを褒めた。

モモコはフンッとしていた態度を忘れ、深い知性を感じさせる不思議な緑の目のワイズムを見つめた。


(この人は・・・確かべリアル帝国の王さまだったよね・・・挨拶しても失礼にならないかな?)


モモコはちらっとガツクを見た。


(必要以上に話しかけるなってさ・・・なにさ偉そうに!・・・いや偉いんだけど。で、でもコレは違うと思う!ここで言う通りにしたら何かヤバい気がする!な、なんか負けた気がするから絶対私から折れないんだからね!)


ガツクはワイズムと握手を交わしている。さしものガツクでもワイズムとはにこやかに・・・とは言い難いが他国よりはマシに話をしていた。


(かっこいい・・・・)


モモコは帝国の王とも堂々と渡り合うガツクを惚れ惚れと見ていたが、ガツクが国王と話しながらこっちをチラリと見ると慌てて顔を逸らした。


イラ・・・


ガツクの額に青筋が浮かぶ。

それを面白そうに見やるワイズム。

モモコは気まずさを隠すようにキョロキョロと意味なく周りを見渡した。

最初はガツクの腕に抱かれていたモモコだったがきつく抱くガツクに我慢ならなくなり、精いっぱい足を突っ張って抗議した。が、当然のようにガツクが放すはずがない。

うぐぐ・・・

モモコが足を突っ張るのをやめないのでイライラが再燃するガツク。

その一人と一匹にまあまあとホクガンとダイスが宥めに入り、ガツクの腕が届く範囲で、という制約のもとモモコは飲食が載っているテーブルに(行儀悪くないかなぁ)と思いながらも大人しく座って人々 (主に軍部。一般や他の部はガツクが恐ろしくて近寄る事も出来ない)がガツクと歓談(にしては皆の顔が強張っている)するのを見ていた。


ワイズム王とこれからの軍のあり方を話すガツクにホクガンやダイス、治療を終えたベントとローが加わり、モモコにはつまらん話で盛り上がり始めた男達に飽きたモモコは、ふと甘い香りを嗅いだ。


(何だろう?いい匂い・・・)


モモコが匂いの出所を探ると・・・ガツクのまん前にある飲み物から漂っているようだ。

モモコはじと目でガツクの前にある飲み物を見た。

モモコはムカツク ガツクから許された範囲のギリギリ遠くに座っていたので(これもガツクの苛立ちを増大させた)ちょっと躊躇したが、疲れた体に甘い匂いは勝てないようで


(ちょっと舐めてもいいよね・・・)


モモコはソロリソロリと飲み物に近寄っていった。

ガツク達は話に熱中していたのでモモコに気づかない。

気付いたら全員で止めていたのだが。


それが口当たりはいいがかなり度数が高い酒だと言う事を。


モモコがガツクにトドメを刺したあの日から往く年月としつき・・・・

遂にガツクが爆発しました!

・・・あれ・・・前からこんなんだったっけ?

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