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偏屈さんと一緒  作者: ロッカ
45/84

4-14 レベルは999ですか?


モモコは焦っていた。


ベントとガツクの試合は、決勝戦という名にふさわしく熾烈を尽くしたものになったが、いつもならガツクが断然有利になっている展開が今回はややガツクが押されぎみだ。

それもそのはず、ガツクのスピードがモモコのせいで半分以下に押さえられているのだ。

ベントさんを見返してやる!私を認めさせてやるぞ!と意気込んだのはいいが当然のように現実は甘くなかった。


(確実に私がハンデになってる!これだけ左右にズレまくれば当たり前かぁ~!わあああ!)


肩に止まる事はおろか、落ちない様にするのがやっとだ。

しかもベントはモモコが大きくズレるように攻撃を加え、ガツクが修正するそのわずかな隙を狙って、的確にガツクに拳や蹴りをヒットさせていた。


(ベントさん意外に速い!顔も怖い!わあああ!)


ベントが大きく蹴りを出し、ガツクはこれを避けようとして大きく跳んだ。

と、それに置いていかれるような形でモモコはズリリ~とまるで崖からずり落ちる人のようにガツクの背中側から落ちようとして


(ふおおお!落ちてたまるかぁ!足で足りなかったら・・・・これだぁ!)


ガブッとガツクの上着を口で噛み、足に力を入れて耐える。

ガツクは着地すると同時に肩に戻ったモモコを撫で


「モモコ・・・よく耐えたな。偉いぞ。この調子だ。」


ベントに殴られ少し腫れた顔を緩ませた。


「ふん!その猫よく訓練しておるようだな!先程の速さについてこれるとはなかなか!」


ベントは腕を組んでモモコをギロリと見下ろす。

モモコも負けじと睨み返す。

その様は一端いっぱしの戦士のように・・・・まあえらく可愛いが見えなくもない。が、内心は


(ひょえええ!怖い!超顔怖い!ガツクさんと違う領域で怖い!)


いっぱいいっぱい。

ベントは可愛くも強い目で己を見るモモコをしばらく見ていたが、口の端をくっと上げると唐突に大声で笑い出した。

ビクゥ!となるモモコ。あまりの声のでかさにさっと耳を塞ぐガツク。

ベントは一頻り気が済むまで笑うとモモコを見つめて


「この俺を睨み返すとは生意気な!気に入ったぞ猫よ!」


ニヤリとさらに恐ろしい顔で笑った。

直後、モモコに向かって手を突き出した。

ガツクはすぐさまベントの手を払い、ベントの顔に掌打を当てるがそんなものに怯むベントではない。体勢を立て直すと裏拳でモモコを狙う。阻まれると今度は蹴りを。次は・・・

執拗にモモコを狙い始めたベントにモモコを守るため防戦一方のガツクの額の青筋は一本、また一本と増え始める。

そしてモモコはベントの息をも附かせぬ攻撃に落ちない様に口と脚を使って耐えるのに精いっぱいでそんなガツクの様子に気付かないでいた。

目の前のベントに集中していた事もあったが、激しい攻防に遂にモモコの体力が限界に達しようとしていたのだ。


(や、ばい。感覚がなくなってきた。)


足を踏ん張って堪えるがもう口でぶら下がっているような状態。しかもその口も危うい。

だがその目だけは闘争本能を燃やして強くベントを見つめる。

ベントはそんなモモコを見、ニヤリと笑うといきなり右回し蹴りをガツクに、ゆるい右掌打をモモコに分けて同時に繰り出した。


「ぐッ!」

「ぶにゃあ!」


一人と一匹は左右に別れるよう引き離される。


しまった!


「モモコ!!」


弾き飛ばされたガツクが叫ぶ。

モモコは投げ出されたショックでぼうっとした頭を振って前を見、ベントが悪鬼の形相でこちらに走ってくるのを信じられない様に見た。


(殺されるぅ!!)


あばばばば!

モモコはヨレヨレの足を使って必死にガツクの所へ走ろうとして・・・コケタ。


痛ったーい。


ググッと上半身を起こした時モモコは、ベントが下手したてに平手を出したのが見えた。


(やられる!)


衝撃に耐えるようにギュッと目を瞑った。




(・・・・・・・あ、れ?)




いつまでたっても衝撃が来ない。

不思議に思って目を開けたモモコの目に飛び込んできたものは。


「モモコ、無事か?」


ベントから庇うように自分に屈みこみ、額から血を流したガツクだった。

ポタッ・・・ポタッ・・・と血はガツクの頬を滑り、モモコの足元に落ちる。


(ガ・・・ツクさん?)


モモコは体中の血が一気に下がるのを感じ、自分の心臓だけがドクンドクンとと波打つのを感じた。


(うそ・・・血が。ガツクさ・・・ん・・・私を庇って?・・・・・あっ!)


モモコが無事なのを見て緩むガツクの肩越しに手刀を構えたベントが見えた。

何かを考える前にモモコの体はガツクを飛び越え、ガツクとベントの間に着地すると毛を逆立て唸り声を上げてベントを威嚇した。


「ふぎゃお!ふぎぎーっ!(いい加減にしてよね!これ以上ガツクさんは殴らせないんだからな!)


ガツクは大の男でも逃げ出すベントの強面の前に憤然と立ち向かう小さいモモコを、あっけにとられて見ていたがじわじわと喜びが体中を駆け巡るのを感じた。


(モモコが・・・俺のために、俺を守るためにあのベントに立ち向かうとは・・・モモコにこんなに想われて俺は・・・モモコ・・・もう一生お前を(長いし内容もアレなので省略)・・・そんな俺とモモコを引き離そうとするかベント・・・・・・おのれ(自主規制)してくれる・・・)

ガツクは流れる血を拭おうともせず立ち上がると、戦場や任務以外で滅多に出さない本気の力をベントに出した。

小さな猫が自分を威嚇するのに虚を衝かれたベントだったが迫る影にハッとした。

直後ガツクの本気の拳が腹に打ち込まれ堪らず膝をつく。


「・・・・少し待て、ベント。」


ガツクは静かすぎる声でベントに命じると、支柱の一つに歩み寄り、拳を振り上げて叩き込んだ。


ズダァン!


ビシビシィと支柱にヒビが入り続けてバキッと折れ、さらにズウウウンンと音を立てて地面に転がった。

ア然として静まりかえる会場の皆さんと同じように、モモコも口をあんぐりさせていきなり支柱を叩き割ったガツクを見ていたが、


「モモコ・・・俺のわがままを聞いてくれないか?」


と無表情の中にも青筋を立てたガツクにコクコクと首を縦に振った。

ガツクは激怒するあまり震える手でモモコを抱き上げると、ガツクの肩ほどで折れた支柱の上にそっと降ろした。


「お前と共に戦おうと決めたが、もう我慢ならん。お前のやる気に水を差すようで心苦しいが、俺一人でやらせてくれないか?この償いは必ずする。」


この事をホクガンが知ったら(というか支柱を叩き割った時点でホクガンは察し、ベントが死なない様神に祈っていた)全力でモモコを押し付けていただろう。

モモコはある意味ガツクのリミッターでもあったのだ。

モモコがいるからグリードやエミリオ、ベントもガツクと対等に戦えた。(グリードは瞬殺されたけど)

コレ(モモコ)がガツクから外されれば。

しかもベントはモモコを執拗に狙い、挙句の果てには叩き落とすという暴挙まで仕出かしている。とは、激怒しているガツクから見たベントの行為で、実はベントはモモコに攻撃を当てるつもりはまるでなく(弱きものに振るう拳など!このべリアル帝こ・・(ウザいので省略)持っとらん!!!)モモコがいるため動きがまるで鈍いガツクに最初から狙いを定めていた。まあ、モモコがあんまりにも可愛らしく勇敢なため調子に乗ってしまったところもあったが。

ガツクと引き離した掌打もなるべく力を入れないようにしたし、モモコに向かったのもガツクが戻るまでにモモコを場外に出そうとしただけ。必死になるあまり悪鬼のようになってしまったが。

要するにガツクと本気でぶつかりたいベントは、ホクガンからモモコの事を聞いてからなんとかモモコだけを場外に出そうとしていた。それとは別に外見からでは全く予想もつかない勇敢なモモコを気に入っただけなのだ。


モモコから承諾をもらった(するしかない)ガツクはゆっくりとベントに向き直った。

その顔は彫像のように静かだがよ~く見ると青筋が一本や二本どころではなく、目はベントを地獄の底に突き落とさんばかりに鋭く、薄い唇は歯を食いしばるあまりヒクヒクと引き攣っている。


「フッ!漸く俺と本気でやり合う決心がついたか!やはりこうでなくてはな!」


だがベントはそんなガツクを見ても怖がるばかりか嬉々としてガツクと対峙した。


「ベント・・・覚悟はいいか?」


ガツクの平坦な声が逆に怖ろしい。


「何の覚悟だ?」


ベントはガツクから先ほどとは比べようもない覇気にゾクゾクしながら応える。


「無論・・・死ぬ覚悟だ。」


瞬間、ガツクの姿が消えた。

あれ!?とモモコが思った時、既にベントの後ろにいてそのぶっとい首に蹴りが入れられていた。


「ぐああっ!」


ベントが前につんのめるように傾ぐとガツクは跳んで前に着地し、ベントの脇腹に蹴りをぶち込んだ。が、ベントは予測していたようにガードし、その足を掴んだまま大きく二回転させると支柱に向かってガツクを投げた。ガツクは難なく支柱に足を着くと逆に勢いをつけてベントに突っ込んでいった。その衝撃に支柱にひびが入り瞬く間にビシビシと広がる。

ベントの拳をかわし顔を掴むとグリードにしたように舞台の石畳に叩きつけた。

そして間合いをとって仁王立ちでベントが起き上がるのを待つ。

ズウゥンン・・・

支柱が倒れ重い音が聞こえる中、ベントが頭を振りながら起き上った。パラパラと石の破片が振り落される。


「ウォーミングアップはこれくらいでいいか?」


ベントが首をコキコキ鳴らしながらガツクに平然と尋ねる。


マジ!?

モモコはガツクの怒涛の攻撃にも全く怯まないベントと


「ああ。」


あれだけの動きをしても息一つ乱さないガツクにア然とした。

すぐさま目で追いかけるのが難しいほどのハイレベルの戦いが再開される。


(私の存在がふざけて見えるはずだよね・・・何じゃコレ?lev999か?こんなにすごいなら最初から言ってよね!・・・・私の悩みとは次元が違うっていうか・・・・あんなに苦しんだのがバカらしくなってきたぞ。この人達に認められたいってもしかしなくても無謀そのものなのか!?)


2人の凄まじい戦いぶりに自立の決意も鈍るモモコ。

というより自分よりずっと高みにいる2人にビビりを通り越して呆れ気味だ。


結局その後すぐ勝負はつき、ガツクがベントの胸倉をググッと掴み、ベントの胸を力を込めて足で蹴り付けて終わった。

ベントの巨体が場外まで吹っ飛びバウンドして止まる。


観客達と共にポカンとしていたレフェリーが我に返り慌ててガツクの勝利を叫んだ。


「じょ、場外です!!ガツク選手!モモコ選手の勝利です!!」


ドワアアアアァァ・・・・!!!!


耳をつんざくような歓声が会場中に響き渡る。

ガツクは観客達の自分を称える声をいつものように無視するとモモコに歩み寄った。


「待たせたな、モモコ。」


そう言い、片手をモモコに差し出す。

モモコはちょっと躊躇する。


(私なんかがガツクさんの側にいていいのかなぁ。)


認められたいと思いながらも思えば思うほどガツクの凄さがわかってくる。

国民の熱狂を一身に受けるガツクにモモコは気おくれを感じ及び腰になる。

モモコが戸惑っていると何を勘違いしたのかガツクは


「・・・拗ねているのか?」


モモコが機嫌を損ねているのかとちょっと困った顔になった。


(この事は後で考えよう。いろんな事が起こり過ぎだよ。これ以上はもうムリ。)


モモコはゴチャゴチャした思いをいったん棚上げすることにした。

モモコが首を振り、ガツクの長くて太い腕を伝って肩に落ち着くと、ガツクはホッと息をついて舞台を降りたところ、ベントがロー達に支えられながら身を起こすのを見て


「チッ!・・・生きていたか。相変わらず呆れるほどの丈夫さだ。」


ちょっとぉ!とホクガンが言いそうな事を呟いた。

モモコもベントのタフさにびっくりしていると、ベントがガツクとモモコに気づき、さっきまで死闘を繰り広げていたとは思えない程の快活さで話しかけてきた。


「いい試合だったなガツク!!そして猫よ!!」


え、私?


モモコが首を傾げるとベントはわっはっはと笑いながらズンズンと近づき、モモコの目の前まで来るとワシャワシャとベントらしく乱暴にモモコを撫でて直後ガツクに思い切り殴られながらも


「お前のその勇敢な魂!このベントしかと見届けたぞ!なるほどガツクが執着するはずだ!」


吹っ飛んだ体をロー達に支えられながらモモコを称えた。


(ベントさん・・・・)


武道会に出ようと決めた気持ちの正体が、ベントのおかげで間接的とはいえわかり、モモコは自分なりに感謝の気持ちを伝えたくなった。

モモコはガツクが止める間もなく肩から降りてベントの足元に走ると


「にゃーん。にゃあ。(ありがとうベントさん。お陰で胸のモヤモヤがすっきりしました。)」


可愛く鳴いて、ベントによじ登り、ガツクに殴られた頬を謝罪の気持ちも込めてぺろりと舐めた。


!!!!


ベント達はモモコの可愛い仕草に胸を撃ち抜かれると同時にガツクの凄まじい殺気の嵐に晒された。


「・・・・ベント・・・・俺ともう一度 殺し合・・・いや試合しないか?」


どんな手を使ってでもお前を葬る。


言外にそう言われているような気になったベントは初めてガツクとの手合わせ(という名の一方的な殺戮)を断った。


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