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偏屈さんと一緒  作者: ロッカ
40/84

4-9 嫌な感じです

「・・・・・ほう?」


あああ~~ 遅かったか・・・・


ガツクの広い背中からどす黒い何かが漏れ出るのを「錯覚だ」とは思いながらも見たホクガンとダイス。

続いてガツクが言う声が届き、さらに震撼した。


「・・・そうか・・・ベントといいゼレンの連中といい・・・俺もすっかり舐められたものだな。ならばそんな気が二度と起こる気になれない程刻んでやるか・・・フフフ。」


ホクガンはしれっとしているテンレイとその腕に抱かれているモモコを見た。

テンレイは普段どおりだがモモコは口をあんぐり開けてガツクを凝視している。

きっともの凄い形相なのだろう、人間だったなら青ざめた顔色だったに違いない。

こころなしかピンクの毛色も薄まった気がする。

そっち側にいなくてよかった・・・ホクガンとダイスは思った。


「テンレイ・・・この武道会が接待の一環なのを忘れたのか?死者を出してどうすんだよ。」


ホクガンは俺って最近ストッパー役多くねえか?と思いながらテンレイを叱る。


「わかっていてよ?ガツクが鈍いゼレンにわかるようなヘマ、するわけないじゃない。」


ねえ?とばかりにテンレイはガツクを見やる。

ガツクはホクガン達に向き直ると


「心配するな・・・ドミニオンの軍力を見せつけてやろうではないか、ホクガン。お前の希望だっただろう?」


ガツクは完璧獲物を狩る目をしながら・・・なおもフフフと薄く笑う。

今度はホクガンとダイスが青ざめ、モモコがそっち側にいなくてよかった~となった。






黒いオーラを放っているガツクからちょっと離れて避難しているダイナンは人生究極の選択を迫られていた。


「なぁ、リコ。」

「・・・わかってる、ダイナン。」

「お前ならどっちを取る?ベント軍隊長とガツクさん。」

「・・・どっちも嫌だ。」

「俺もだよ! はあああ・・・なんてくじ運がないんだ俺は・・・。」

「安心しろ、ダイナン。お前ではベント軍隊長は倒せないと・・・」

「ソレ慰めてるつもりか?」


ベントに勝てる見込みはないがもし勝ってしまったとしてもガツクとのデッドアライブが待っている・・・・。






エルヴィはローの試合を見ながらもガツクの方をちらちらと窺っていた。

伝説になるほどの強さ・・・一体どれくらい強いんだろうか。ベント軍隊長より強いなんてほとんど人間とは思えない・・・(正解)見てみたい。いや、できれば手合わせしたい。


ローのなんかきた は正しかったようだ。


エルヴィは対戦表を見た。

武道会本選はトーナメント方式だ。ガツクと当たるには決勝までコマを進めなければならない。ベントを始めローやゼレン国のモルディなどの強敵もいる。と、ホクガンの名を見つけた。

エルヴィはガツクと何やら話をしているホクガンに視線を移す。


(国主という国のトップにいながらもなかなかの強さだ。私とは二回戦目か・・・面白そうだ。)


「副隊長・・・・」


エルヴィは寝ぼけたような声で話しかけてきたエミリオを見上げる。


「なんだ?」


エミリオはいつも 今、寝てただろうとしょっちゅう指摘される眠そうな目で注意する。


「・・・・ローさんが言ってたでしょ?僕もそう思う・・・・。あのガツクって人はヤバいよ。」


エルヴィはムッとして


「わかっている。猫に攻撃しなかったらいいんだろ?それよりトーレの方が先に当たるんじゃないか。お前こそ気をつけた方がいい。寝ぼけて猫を襲うなよ。」


わずかに険を含んで言い返した。


「・・・・あの国主も・・・・」

「国主も?もちろん油断はしないがそこそこ勝てると思うぞ?今から楽しみだ。」


エミリオはゆる~く頭を振りながらその動作にイライラしているエルヴィを見下ろした。


「・・・・あの人、甘く見ない方がいいよ・・・・。かなりやる。」


エルヴィはもう一度ホクガンを見た。

今は疲れたように腕を組んで天を仰いでいる。


「そうか?・・・・まあ闘ってみればわかる事だ。」


はぁ・・・・エミリオからため息が漏れた。






「グリード、コクサの猫を殺すのか?」


モルディはガツクの肩に乗っているピンク色の猫の方をしゃくって指した。

グリードはグローブを手に合わせながら頷く。


「おお。あの気持ち悪い色を見ただけで腹が立ってくるわ。コクサの肩から叩き落し、踏みつぶしてくれる。」

「ぐしゃぐしゃに潰された猫を見たコクサの顔が見ものですねぇ。いい気味です。」


ノーフェがヒヒヒと相槌を打つ。


「ノーフェはあのくそ生意気なドミニオンの女とだな。」

「ええ。うまく当たりました。男に逆らって生意気な口を聞いた事、骨の髄までわからせてやりますとも。」

「あの体は惜しいが、ドミニオンの国主を動揺させるぐらい痛めつけてやれ。偉そうに我々の元は属国が。」


モルディは忌々しそうにホクガン達を睨みながら吐き捨てた。


「国主を見事打ち負かせば皇太子から褒賞が貰えるかもしれんなぁ。」


グリードが退屈そうに試合を観戦している貴賓席の皇太子をちらっと見上げた。

モルディはその時の妄想をし、笑いがこみあげてきた。


「それはお前達も言える事だぞ。コクサもあの女もドミニオンだからな。」


3人はせいぜい派手に相手を倒し、王や皇太子の目に止まる事を想像して下卑た笑いで話を締めくくった。





それぞれの思惑が交差する中、1回戦、第一試合は予想通りローの勝ちとなった。





「第二試合を始めます!ギャッツ選手とベント選手は舞台に上がって下さい!」


ガツクは悲壮ながらも舞台に上がるダイナンを呼びとめ、横取りするなと脅すかと思いきや、


「ギャッツ、ベントは初動が速いぞ。気を抜くな。」


意外や意外アドバイスをくれた。

ダイナンが驚きまばたきもせずこっちを見るのを訝しそうにガツクは見返す。


「どうした?お前は雷桜の代表みたいなものだぞ、仲間の前で恥ずかしい戦いだけはするな。」


ダイナンはガツク直々の激励に嬉しく舞い上がるあまり(怖いけど尊敬してはいる)





「はい!必ず勝ってガツクさんと手合わせしますよ!」





人生最大の失敗をおかす。



あっ・・・(モモコ)

ああ・・・(ダイス)

あ~あ・・・(ホクガン)

バカ・・・(リコ)

珍しい子ねぇ・・・(テンレイ)



”ガツクの敵に勝ったらガツクと手合わせ”ダイスの刷り込みは成功した。が、予想外に誤爆した。

ハッとして自分の口を抑えたが・・・遅い。

ガツクは頷きながら、


「そうか、そんなに俺と手合わせしたかったのか・・・よし、お前が勝っても負けても手合わせしてやろう。楽しみに待ってろ。」


あ、いや、ちが・・・と青ざめるダイナンに無情にもレフェリーの声がかかる。


「呼んでいるぞ、早く行け。」


行けが逝けと勝手に変換して聞こえる・・・・・

ダイナンはヨロヨロと死地 (ガツクとデッドアライブ)に通じる舞台中央へと向かった。








「くそ!!」


ダイナンは落ちた場外からダンッ!!と舞台の床を叩いた。

結果はベントが体勢を崩したダイナンをすくい上げるように場外に投げ飛ばして勝った。

息が上がる肩を上下させ舞台に上がろうとするとベントから手が差し出された。


「なかなかやるな、雷桜の小童。よい戦いぶりだったぞ。」


ダイナンは赤毛の大男をちょっと驚いて見上げ、


「ありがとうございます、ベント軍隊長。光栄です。」


ベストを尽くした爽快感に笑いながら手を借りた。







「負けちまったな。」


ホクガンは舞台でガッチリ握手を交わしているベントとダイナンを見ながらガツクに話しかけた。


「ギャッツとベントでは力も経験の差も歴然だ。だがいい経験になっただろう。ギャッツの今後が楽しみだ。」


モモコはベントとダイナンの本気の試合に圧倒された。


(凄い・・・ダイナンさんって強かったんだなぁ。少将なんだから当たり前か)


今まで他の隊員たちとガツクに扱かれ、青い顔で怒られたりしているのをよく見ていたのであまり強いという印象がなかったダイナンにモモコは感心した。


「第三試合を開始します!ラウンド選手とコーク選手は舞台にどうぞ!」


レフェリーの呼ぶ声にホクガンはもたれていた壁からよっと体を起して


「んじゃ、行ってくるわ。やっちまうけどいいだろ?」


念のためガツクを窺う。


「ああ。どうせ全員の首はとれんからな。」


空恐ろしい言葉が返ってきた。


戦場じゃねえんだぞ・・・ホクガンは心の中でつっこみながら舞台に上がった。

レフェリーからボディチェックを受けながら、モルディがちらっと賓客席を見るのをみてホクガンはピンときた。


(ははぁ・・・俺を倒して皇太子にゴマをする気か・・・ふ~ん。)


ニヤ~


ホクガンの顔に人の悪そうな笑みが浮かぶ。


「第三試合・・・始め!」


モルディはまずホクガンの顔面にパンチを繰り出してきた。それを上体を少し後ろに倒して避けると蹴りが出た。ホクガンは上体を反らした体制のままバク転してそれも避けると、そのままモルディの顎を思い切り蹴った。

モルディが大きくよろける。ホクガンは悠々と体を起こし、モルディに向かって突っ込む。モルディは咄嗟に顔をかばったがホクガンの拳がクリーンヒットする方が速かった。モルディがたまらずダウンする。

ホクガンは相手が立ち上がるまで腕を組んで待ってやり、モルディが続行の意思を示すとまた突っ込む。


・・・・・モルディはホクガンと打ち合いながら段々言いしれぬ恐怖が湧いてきた。

顔の正面、常にホクガンの顔があるのだ。

どんなに大きくパンチを繰り出しても蹴りを繰り出してもそれは空振りし、ホクガンはブレたように戻って来る。

自分の攻撃より遥かにホクガンのスピードの方が上なのだ。

モルディはゴーストと戦っている気分になってきた。





「ホクガンの奴、遊んどるのォ。」


ダイスはニヤつきながら速いパンチを的確に入れるホクガンと、今や怯えた顔を隠そうともしないモルディを呆れて見ながらガツクに話しかけた。


「あのボンクラが。国主の自覚がまるで足らん。」


ガツクは苦い顔でホクガンの説教部屋行きを決定した。

ガツクさんに言われたくないと思うな。モモコは大将という地位を忘れ数々のワケのわからん行動をする大男を見上げて思った。

ワァッ!!という歓声が聞こえモモコがそっちを振り返った時、ホクガンがモルディを場外に蹴りだしている所だった。


「場外!!勝者ラウンド!!」


ホクガンは両手でピースサインをしてドミニオン国民の歓声に応えると、賓客席に深々と礼をしてから舞台を降りた。

ホクガンが長い黄金色の髪を揺らしながら控室に帰ろうとした時、後ろからモルディを抱えたグリードとノーフェに声を掛けられた。


「国主殿、一回戦突破おめでとうございます。このまぐれが続くといいですな。」


ホクガンはノーフェ達を振り返った。


「まぐれ?おいおいこの戦いはまぐれが通用するようなレベルじゃないぜ?素直に負けを認めたらどうだ?」


肩をすくめて両手を広げる。

ノーフェ達に青筋がうかび、


「フン、属国だった国の国主が。お前の妹がどうなるか楽しみに待ってろ。」


ノーフェは吐き捨てるように乱暴に言うとモルディを担いだグリードと共に控室の方へと姿を消した。




ホクガンの顔が無表情になる。


属国・・・・ホクガンの一番嫌いな言葉だ。


ノーフェを今すぐ追いかけ、殺してしまおうとした時、





俺たちは自由な海の民だ。

力ずくで抑えつけられれば力ずくで跳ね返すのが信条だ。

そうだろ?

力には力で。知恵には知恵で。蔑む奴らには誇りを持って立ち向かうさ。






かって少年だったホクガン達に笑いながら語った男を思い出した。


そうだな、シス。

俺たちはドミニオンの歴史を背負う者。

太陽を掲げる者たちだ。


俺もまだまだだな。


ホクガンは自身の頭を軽く小突くと仲間達の所へと歩き出した。






第四試合はエルヴィが勝ち、第五試合はダイスが余裕で勝利を収めた。

第六試合が間もなく始まるという頃、控室からダイスの怒号が響く。


「テンレイ!相手はゼレンと云えど予選を勝ち抜いた奴なんじゃぞ!ええな、駄目な時は素直にギブアップするんじゃ!!」


ホクガンからノーフェが言った言葉を伝えられ、嫌な予感がしたダイスはテンレイに話があると言い、皆から少し離れた所で注意した所、頑固そうに顎を上げたテンレイに拒否され思わず頭に来て言い合いとなった。


「嫌よ。絶対戦い抜くわ。バカにされたままなんて私が我慢できるわけないでしょ。」


テンレイはキッとダイスを睨みつけた。

ダイスはテンレイの意固地さに苛立ち、心配する気持ちがない交ぜになるあまり声を荒げてテンレイに雷を落とす。


「このどアホウがっ!!!勝っ手にせい!!!」


ダアーンッ!!


ダイスは後ろを向くと思い切り壁を拳で叩き怒り心頭の様子で歩き去った。







「何よ。いつもいつも妹扱いして・・・・」


テンレイが唇を噛みしめてぽつっと言葉を落とした。


選手たちの控室は舞台から離れた広いテントみたいな所にあります。あと書いてなかったと思うんですがエルヴィは25歳の女性です。書いてなかったらすんません。

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