4-5 なんかスイッチ押したようです
条件・・・・
モモコは緊張しながらガツクをじっと見つめた。
緊迫しているかもしれない場面な最中、ホクガン、ダイス、ショウはすごーく嫌な予感がした。
モモコが絡んだガツクは暴走する。
先ほどもモモコが見つかるまで散々総所中を捜しまわったのだ。
結局モモコを見つけたのはダイスの閃きで(遅い)出動したショウであった。
ガツクがじりじりとした緊張感のなか漸く口を開く。
「条件とは・・・俺と連名で出る事だ。」
・・・・・・・え? えっと・・・そんな事できるの?タッグっていう事に・・・なるのかな?
モモコが???となっている頃、
やっぱりねー!!
ホクガン、ダイス、ショウは悪い予感が直球ド真ん中で抉り込むかのように飛んできたのがわかった。
・・・・ただでさえ強いガツクはモモコを守るためさらに的確に相手を狩る、いや倒しにいく事だろう。モモコはガツクの弱点になるかもしれないが万が一にも相手がモモコにかすり傷ひとつでもつけたら・・・相手がどんな目に合うかは想像に易くない。
ダイスがお前の得意の話術でどうにかしろと目で訴えてくるが、ホクガンだとて出来る事と出来ない事がある。む~り~ というふうに首を振った。(ちなみに2人とそうは見えないがショウの顔色は青い)もしここでガツクとモモコにそんなのルール違反!インチキだろ!と言ったところで ならば出場しないと言い出しかねない。お前らより俺らの方が強いんだもんねと他国を牽制する為には軍部最強の男が出ないと困るのだ。
まてよ。ホクガンはこのタッグのメリットに気がついた。
武道会中、モモコに細心の注意を払うであろうガツクはどんな相手だろうと(たとえそれが自国の国主であろうと)ドミニオンの勝利を確実にしかも圧倒的に勝ち取るだろう。それは見方を変えれば最高のデモンストレーションになるのではないか。
(モモコを懐に入れたガツクが負けるなんて考えられねえからな。それにあいつ武道会どころか接待自体どうでもいいと思ってるからなぁ・・・モモコをいいように動かせばガツクもちっとはマシになるかもしれねえな。)
実はガツク、ダイス達に「ドミニオンの誰かが勝者となればいい」と言っているように武道会にまったくやる気がない。有事や訓練では圧倒的な力を惜しまないガツクではあるが、催しモノ的な事にはいつもの「どうでもいい」で適当に流し、場合によっては参加しない事もあるくらいだ。武道会に参加しているのもモモコの提案だからによることが大きい。
「おい。」
ガツクはう~んと考え込むホクガンに声を掛ける。
「聞いていたな。俺とモモコは連名で出る。特例という事で認めておけ。」
ホクガンはガツクが暴走する危険を踏まえてもドミニオンに利はあると判断し、
「わかったよ。俺と当たった時は手加減よろしく。」
ゴーサインを出した。
「テンレイにもじゃぞ!」
ダイスも慌てて叫ぶ。
「試合中、極力モモコに近づくな。どんな動作でも排除する。」
さらりと恐ろしい事を言いながら、モモコの前にしゃがみ込む。
「モモコ、聞いた通りだ。俺としてはお前が諦めてくれればいいんだが。」
顔を顰めながらガツクはモモコに手を伸ばした。
モモコは反射的にガツクの手を見た。大きな手だ。その手はいつも自分に触れ、撫でてくれる。
ガツクが自分の目を見つめながらゆっくり・・・優しく・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・ボンッ!!
唐突にモモコは顔が爆発したように熱くなるのを感じた。
(な、なななに考えてんのよ!か、かかか からだ なんてしょっちゅう撫でられてるし!触られてないところなんて・・・・どこも・・・・な・・・・い・・・・ぎゃああああああ!!!)
モモコはひっついていたショウの背中といい腹といいめちゃくちゃに叩きながら身もだえる。
[モモコ?なにしとるんじゃ?・・・と言うかもちっと離れてくれんか・・・。じゃないとわしの命が危うい。]
ショウはガツクの殺意のオーラを間近に受けながらも、モモコが落ち着くまではと逃げ出したい気持ちを抑えてじっとしていたがそれももう限界に近い。ガツクが どけ というふうに首を振るともう素直にどいた。
ガツクとの間にあったショウという名の衝立がなくなるとモモコはますます焦る。
(わぁああ!どうしよう!なんかわかんないけどどうしよう!)
「モモコ?」
ガツクが訝しそうにモモコに声を掛ける。その低い声も今のモモコには過敏に作用する。
モモコはくるっとガツクに背を向けいきなり駆けだそうとして、
「何処へ行く。」
気がつくとガツクの腕の中にいた。
あわわわわ・・・表情には出ないが焦りまくってじたばたするモモコに焦れたガツクはいつもより少し力を入れ抱きしめる。モモコの小さな頭はガツクの広い胸に押し付けられた。
ひいいいい!!
「どうしたというのだ モモコ。願いは聞きいれた。まだ不満があるのか?だがこれ以上の譲歩はできんぞ。」
ガツクは不機嫌そうに言うとホクガン達を無視してさっさと帰った。
残された2人と1匹の男たちは、
「俺達って何役?」
「完璧脇役じゃろうな。」
「何なの、アレ。」
「モモコ、様子がおかしかったのう。」
「どうしたんだろうなぁ。ショウなら知ってるかもな。」
ホクガンはショウをチラリと見た。
ショウは視線を向けられたのを無視してわざと大あくびをしてみせる。
(モモコの想いはモモコだけのもんじゃ。たとえ一時のものだとしてもなァ。)
人と動物の思考は異なる。
ショウはモモコの気持ちが飼い主に対する好意以上のものである事は察していたが、一過性のものだと思っている。やがて番いを捜すシーズンになれば、あっさりガツクへの想いは消え、番いとその子供達にモモコは愛情を注ぐだろう。それが動物の本能というものだ。
ショウはモモコの子供達と遊べる日を楽しみに待つ事にしている。
それはモモコが普通の猫だったなら 叶っただろう。
次の日、モモコは雷桜隊専用屋内訓練場にいた。
目の前にはTシャツにラフなスウェットを履いたガツクが仁王立ちしている。
「今日からお前を鍛える。とはいっても戦えるようにという意味ではない。」
モモコはガツクの言葉をほけっと口を半開きにしながら聞いていたが、次の言葉に気を引き締めた。
「俺はお前に傷ひとつでも負わせるつもりはないが、お前が俺の動きについてこれなければそれも危うくなる恐れがある。」
ガツクはモモコが神妙に頷くのを見て少しだけ口角を上げた。しかし、それをさっと消すと厳しい顔でモモコを抱き上げ自身の肩に乗せた。
モモコは急にガツクの顔が近くなったので慌てたが、すぐ注意される。
「動くんじゃない。モモコ、肩から絶対落ちるな。落ちたとしても俺の体からなるべく離れるなよ。背や足、腕、どこでもいいから止まれ。思い切り爪を立てても構わん、決して下に落ちるな。」
(ええー!思い切りって・・・できるかな?下に落ちたらどうなるんだろ?踏まれたりするから?)
ガツクは大男だけあって肩も広い。モモコが乗っても安定感はあるのである程度の動きにはついていけそうだ。
間近にあるモモコの顔が疑問系に傾ぐとガツクの頬をモモコの毛がくすぐった。
ガツクの身の内に痺れるような何かの感覚が流れる。
ガツクにとってモモコの重さはないも同然だが、こうして いや触れたり抱き上げている時いつも不思議なほど充足感という重さを感じる。モモコが存在し自分に触れている。それだけで。
「落ちるな、というのは戦っている最中、落ちた時の対処が他より(ずれたり等)若干遅れるからだ。もちろん落ちたお前に攻撃がいく可能性もある。させんがな。」
ガツクから落ち、1匹になったモモコに攻撃を加える・・・・・そんな神をも恐れぬ暴挙をする奴らがいるだろうか?少なくともここドミニオンには皆無だろう。なぜなら攻撃するそぶりを たとえ誤ってしてしまったとしてもその瞬間、キレたガツクによって前人未到の地へ到達(あの世?)、死より恐ろしい目に合いそうだ。
「準備はいいか?軽く動くぞ。」
ガツクがモモコに声を掛け、真横に飛んだ。
その瞬間。
「ふぎょ!」
モモコは謎の鳴き声と共に5メートルほど飛んで行った。
・・・・・・・・・・・・・・・。
「モ、モモコ!!」
焦るガツクの声が屋内に響く。
ズザザザザァ・・・モモコはうまく着地し床に爪を立てて止まった。
同時にガツクが追いつく。
「大丈夫か モモコ。」
心配そうに眉をひそめたガツクがモモコを抱き上げる。
そのモモコの顔は ぽかーん としていた。
(あ、ありえないでしょ!なんだあれ!あれで軽くぅ?ものすごく速かったぞ!!周りがぶれまくって見えなかったもん!!)
モモコはガツクが軍部で(だけではないが)恐れられてる一端がわかったような気がした。
口が全開で茫然としているモモコにガツクは、
「やはり、やめた方がいいのではないか?意地だけでどうなるものではないぞ、無理などさせたくない。なんなら俺も出場をやめ、ホクガン達を一緒に応援してもいい。どうでもいいが。」
好機とばかりに言い聞かせる。
無理など~という言葉にモモコはハッとした。
むううという意地なのか怒りなのかわけのわからない気持ちがこみ上げる。
(無理なんかじゃない!さっきは想像以上のスピードでびっくりしたけど、今度はひっついてみせるもんね!)
フンッ!と鼻息も荒く、ガツクを睨みつける。
そんな可愛いやる気をみせられてはガツクも頬が思わず緩みそうになるがぐっと我慢し
「では、もう一度。さっきと同じように動く。」
訓練?を再開した。
モモコにもどうしてこんなに武道会に出たいのかわからない。
戦ったことなど もちろんないし、攻撃されるのも するのも 痛いのも大嫌いだ。
なのにどうして?わからない。わからないけど自分を突き動かすこの衝動は正しい気がするのだ。
コレデアッテル。
自分の心に従ってみよう。モモコは決めた。
この日一度もモモコはガツクの肩に止まれなかった。
ガツクはモモコにレセプションの準備の合間を縫って訓練を施した。
落ちないは原則ではあるが、ガツクがどんな動きをしてもある程度ついてこれるように。
モモコは訓練を必死にこなしながらこんなの序の口だろうなと思う。
試合中はもっと早くなるに違いない。自分はついて行けるのだろうか?自分のせいでガツクがケガをしてしまったらどうしよう。
モモコはもう何回目かになるかわからない落下中 はた と思い至った。
落ちるモモコをキャッチしたガツクはモモコが物問いたげに己を見つめているのみて
「どうした?今日はもうやめにするか?」
疲れたかと思い労わった。
ううん。モモコは首を振ってべしべしとガツクの胸を叩く。(モモコにあった謎の照れは訓練をしているうちにどこかへいってしまった。)
察したガツクは荷物の中からABC表を取り出すと床に敷きその上にモモコを降ろした。
「が・つ・く・さ・ん・け・が・わ・た・し・の・せ・い・ど・う・し・よ・う。」
ガツクさん ケガ 私のせい どうしよう
ガツクは心配そうに申し訳なさそうにうるうるとした瞳で己を見上げるモモコに
キタ。
ザシュッ・・・!
いきなり崩れ落ちるガツクにビビるモモコ。
両手両足をつき、ちょっと震えているようにも見える。
(ど、どうしたの ガツクさん!しっかりして!お腹すいたの!?貧血!?)
相変わらずズレまくる思考をするモモコ。
にゃーにゃー!と自分の周りをうろうろするモモコにやっとの思いで体を起こしたガツクは、
「大丈夫だ モモコ。俺は絶対に負けん。この俺の全ての力を使って戦う事を約束する。心配は無用だ。」
モモコに圧倒的どころか死屍累々になるだろう武道会を宣言した。
「にゃう・・・うみ?(えっ それは・・・どうなんだろう?)」
(なんだか知らないけど取り返しのつかない事になってしまったような気がするぞ・・・。普通に心配しただけなのに・・・なんで?)
今だガツクに対する己の破壊力を理解してないモモコ。
のちに武道会で「お前なんかしただろ?」とホクガンに詰め寄られる。
数日後、ドミニオンは華々しくレセプションの当日を迎えた。
キレたガツク・・・・・作者も怖いんですが。