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偏屈さんと一緒  作者: ロッカ
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4-4 意地だってあるんです

友好国を招待して行われる、レセプションの細かい日程が決まるとにわかに総所中が慌ただしい雰囲気に変わった。


なかでも大変のはテンレイ率いる奥の職員である。


毎年の事ではあるが、連日深夜まで職員達は目の回る忙しさだ。賓客の部屋割から晩餐会等のメニュー、催し物の準備などなど数え上げればキリがない。

ただ今年は軍部が手伝ってくれるため随分スムーズに事は運んでいた。

去年のレセプション中 軍部は警備などの担当で奥の仕事にはノータッチだったのだが、協定(と言っては大げさだが)を結んだ今、毎日奥の職員と一緒に会場中をまわり、力仕事はもちろん細かい事まで嫌な顔一つせず黙々と片付けてくれた。

最初はどちらも警戒しあい、その空気もぎこちないものだったが、何度も打ち合わせや作業をするうちに段々と打ち解け、まだ和気あいあいとまではいかないが割かし良い感じである。


ホクガンはというと総所の雰囲気が良くなるにつれ、最初はまったくやる気のなかったレセプションにテンションが上がって来た。(やる気がないのも困るが、上がり過ぎるのも危険とまったく面倒くさい男である)自分が楽しめそうな催し物以外にもあれこれアイディアをだし、それがまた理にかなっていたり前の案よりぐんと良くなったりしていて珍しく皆に感謝されていた。


テンレイは毎晩2,3時間ほどしか睡眠が取れていないがなんのその、奥の誰よりも元気に働き、また自分のドレスはもちろんモモコの夜会用のドレスやその場その場に合う服やアクセサリーなどを職員達と作ったりして生き生きと動き回っていた。


自分の長年の片思いがバレたと察したダイスはモモコがどう出るかと気が気でなかったが、平素と変わらぬモモコの態度にホッと胸をなでおろし、自身の提案した犬のレースの準備をしたり、ガツクと共に武道会への出場者を総所と他国から募ったり会場を設置したりしてその準備に明け暮れていた。


レセプションの日が間近に迫った頃、モモコはいつものようにガツクに抱かれ、ダイスと共に奥の中庭、噴水前にいた。


実は奥からも武道会の出場者を誰か出せないかとテンレイに交渉しに。

忙しいテンレイに合わせて動くのは必然なので2人と一匹は此処まで来ていたのだ。


「私が出てもいいわよ。」


テンレイが首を傾げて言い、ダイスとモモコ、そして補佐官のリンドウをギョッとさせた。


「わかった。」


あっさりガツク承諾。


(えっ!いいの!?)


「ちょっと待て!」

「ちょっと待って下さい!」


ダイスとリンドウが慌ててストップを掛ける。


「テ、テンレイは女じゃろうが!万一怪我でもしたらどうするつもりじゃ!いかん!」

「そ、そうですよ!テンレイさんはそんな野蛮な大会は似合いません!」


テンレイとガツクは訝しそうに慌てる男2人を見る。


「テンレイの実力は軍部の実技・体力テストにトップで受かるぐらいだぞ。雷桜にも引けを取らん。」

「そうよ、それに女性だって出場できるんでしょ?他国から誰か出るって噂を聞いたわ。彼女はよくてどうして私が駄目なのよ。それにリンドウ君?この武道会は軍部はもちろん、総所の士気を高め、他国に我が国の軍力を見せつけ尚且なおかつ他国の力も試す事のできる貴重なチャンスなのよ?出場者はなるべく多い方がいいの。もちろん優秀な者がね。」


(ほえー テンレイさんってそんなに強かったんだぁ。すごいな。ガツクさんがスカウトするはずだね。)


二の句が継げない2人と素直に感心するモモコ。

ホクガン譲りの饒舌で2人を圧倒したテンレイは別の打ち合わせに去った。

それでも何とか止めようと今度はガツクに訴える2人に


「ではリンドウ、お前も出てはどうだ。なかなか強いとカインから聞いている。」


ガツクが面倒くさそうに言った。そして、


「リンドウとお前でテンレイより強そうな奴を倒せばいいのではないか?リンドウとホクガンとで手を結べばいい。この大会はテンレイが言った通り見せつけたり、試したりが目的だ。ドミニオンの誰かが勝者となればいいんだからな。」


今度はダイスに向かって言う。

ダイスはリンドウを見た。その目はリンドウに懇願している。

(お願い!お願い!お願い!)

リンドウは顔がいいといってもごつい大男からお願い光線を受けてドン引きしたが、テンレイを間接的にだが守るにはこれしかないだろう。上司は言い出したら聞かない。


「わかりました。僕も出場します。ダイスさん、共に頑張りましょう。」


ため息をつきながら承諾する。

ダイスとて男にしかもテンレイにほのかに好意を抱いてるリンドウになど頼みたくはないが、テンレイのためならば背には腹は代えられない。

味方は多い方がいいと今度はガツクにお願い光線を送ろうとしたが、


「俺は組まんぞ。」


先手を打たれる。


「なんでじゃ!テンレイがどうなってもいいんか!ガツク!」


リンドウも抗議しようとしたがガツクが何だというふうにこちらを見ると目をそらした。


「その覚悟もあって出るんだろうが。なぜ俺が協力せねばならん。」

「テンレイはお前の妹も同然じゃろうが!冷たいぞ!」

「何度も言うが、あんな扱いづらいうるさい妹なんぞ俺にはいない。」


(何回も言ってるのかな?健気だなぁ、ダイスさん。)


モモコは必死にガツクに協力依頼をするダイスを微笑ましく見た。


(ガツクさんは私が出るって言ったらなんて言うかな?ダイスさんみたいに心配してくれるかなぁ。)


モモコはちょっとイタズラ心が湧き、ガツクに言ってみる事にした。


「にゃー!(ガツクさん!聞いて!)」


ガツクはうるさく喚くダイスを無視し、モモコが何か伝えたがっている事に気づくと懐からABC表を出し、地面に敷いた。モモコはちょこまかその上を歩いた。






「で・た・い。」






それを見た瞬間、ガツクの頭に警戒信号が最大音量で鳴りだす。


「・・・・・・・・・・この中庭からか?」




ううん。モモコは首を振る。





(待てまだ何も言っていない。そう決まってはいないのだ。落ち着け俺。ダイスの様に騒ぐのはみっともな・・・・・)


ガツクがかろうじて自分にブレーキを掛けた時、





「なんだお前も出たいのか。面白そうだな いいぞ。」






どこから生えたのかホクガンがいつの間にか居てモモコに許可を出してしまった。


(え、いいの?)


「待て!!」


ガツクが叫ぶ。


「どうした。」


いきなり大声を出したガツクにホクガンは訝しそうに見た。


「このボンクラが!モモコが戦えるわけないだろうが!見ろ!この細い手足!細い首!小さな体を!これでどうやってお前たちのような奴らと対峙できるのだ!それを面白そうだと!モモコに傷一つでもつけた奴らは全員殺してやる!!」


ダイス以上の慌てぶり(いやこれはもはや恐慌と言っていいかもしんない)にモモコやダイスはもちろん周りで作業していた人達もア然とする。

なかには怯えてる者もいた。

ブレーキなどブッチ切りお前から殺す!といった風のガツクに


「ガツク・・・落ち着けよ 冗談だろうが。出すわけねえだろ?こんなの。」


呆れたようにホクガンが言う。



ムッ!



モモコはそう言われるだろうと思ってはいたがホクガンの言い方にムカッとした。

反対にガツクはホッとして


「だろうな。モモコには最初から無理だとわかっているのに俺とした事が・・・」



ムカムカッ!



モモコはますます頭にきた。ABC表の上をまた歩く。


「で・き・る。」


ダイスが読み上げる。

男3人は顔を見合わせた。


ホクガンがフッと小馬鹿にしたようにモモコを見て笑い、


「出来るわけねえだろ?お前は猫なんだぜ?どうやって人間と、しかも鍛えた奴らと戦うっつうんだよ。」


ダイスも聞き分けのない子供に言い聞かせるように言う。


「モモコ、悪い事は言わん。やめといた方がええぞ。ワシらのように手加減なんぞせん ひどい奴らもおるからのう。」


「無理だ。諦めろ。」


絶対許さん!という感じでガツクが断言する。



カッチーン!



モモコは完璧に頭にきた。今度は足音も(まあ猫なのでしないが)荒く表の上をどすどす歩く。


「ば・か・に・す・る・な・で・る・・・馬鹿にするな、出る、か。」


ホクガンが今度は読んだ。


「モモコ何度言ったらわかる。お前には無理だ、俺が許さん。」


頭ごなしに反対するガツクにモモコも意地になる。と同時に少し悲しくなってきた。

ベーッだ。モモコは舌を出してガツクに抗議する。





そしてダッシュで逃げた。





!!



突然の逃亡に誰もが固まったがガツクはすぐさま追いかける。が、小さい猫は生垣やら隙間に隠れてしまえばおいそれとは見つからない。

瞬く間に見失う。


「モモコ!!!」


ガツクの焦る声が辺りに響き渡るがモモコの姿はない。

ガツクはしばらく捜していたが、埒が明かないとばかりにカインに連絡を取った。


「カイン、手の空いている雷桜隊全員を引き連れ、奥の中庭まで来い。モモコが逃げた。全員で捜せ。」


それだけ言うと一方的に切り、自身は足音を消し気配を消しながらモモコ捜索を開始した。


遠ざかるガツクの焦燥に満ちた背中を見送りながら、


「見た?あんなに焦ったあいつ見たの初めてかもしんねえ。それにしても怖いな~ 捕まった後のモモコの運命はいかに。」

「ワシもああいう風に見られちょるんかのう。気をつけんといかんなァ。」

「いや、あれは特別だろ。お前は普通だと思うぜ。」

「お前の普通は当てにならん。さて、ワシらも捜しに行くか。ガツクより早く見つけられるといいがの。」

「だなぁ。監禁されちゃったりして。・・・・・・自分で言っててなんだが洒落にならん事が恐い。」

「おい、口に出して言うんじゃねえ。本当になったらどうするんじゃァ。」


2人はそこまで喋ると後は無言で足早に去った。


しばらくして3人が去った中庭の隅から、ピンクの猫が辺りを窺いながらそっと這い出てきた。

誰もいない事を確認するとため息をつきモモコはしゃがみ込む。


モモコだとてわかっている。自分が武道会などに出れるわけがないことなど。それにホクガンはどうだか怪しいがモモコのためを思って言ってくれることも。


怒りが収まると今度は悲しみがモモコの小さな胸を満たす。


(そうだよね・・・私 猫だもん。・・・・人間じゃない。なにムキになってるんだろ?そんな事わかりきってるのに・・・・。)


ちょっとしたイタズラ心で言ってみただけなのにどうしてこんな事になるのか。

どうしてこんな悲しい気持になるのか。





答えが出る日はもうすぐ。





モモコは前足で頭を抱え世界の全てを遮断するかのように丸まった。


どれくらいそうしていただろうか。

モモコは自分に寄りそう暖かい何かに気がつく。

勢いよく立ちあがると自分よりはるかに大きい軍用犬・ショウが暖かい眼差しで見下ろしていた。


[またしょぼくれおって。今度はどうしたんじゃァ。]


モモコはショウが突然現れたかのように感じたがふと空を見れば日が結構落ちている。

慌てて周りを見渡すとモモコとショウから3mほど離れた所にダイスとホクガンに腕を抑えられているガツクが見えた。

その眼差しはモモコに真っ直ぐ向けられモモコはちょっと怯み、そそくさとショウの後ろに隠れ、ピタッと体を密着させた。ショウがピクッと身動きする。モモコはそんな事にはお構いなく深呼吸をしてからちょろっとガツク達を窺った。





・・・なんか前よりガツクが前進しているように見えるが気のせいだろうか。

・・・そしてガツクを必死に抑えるダイスとホクガンが少しずつ引きずられているように見えるのも気のせいだろうか。

・・・そしてガツクの眼差しが前よりきつく、その大きな体から揺らめくように漏れる黒い何かが見えるような気がするのも・・・・・気のせい・・・・にしたい。





モモコは戻ってきた気まずさと意固地からますますショウにひっつき、ショウが固まっているのにも気がつかない。


「モモコ・・・。」


地を這うどころか地獄の底をさらってるがごとくの声音だ。

モモコはビクッとしたがカラ意地を張って、ツーンとしてみせる。


(あああたしにだって意地の一つやふふふたつはあるんだから。ねねねこだからって舐めんなよ!)


体どころか思考までも震えがちだが引っ込みがつかなくなったモモコはもう無視できない程近いガツクを睨んだ。(可愛いだけ)

ガツクはしばらくそんなモモコを見ていたがフウとため息を漏らして力を抜いた。

同時にダイスとホクガンもやれやれというようにガツクを離す。


「わかった。」


ガツクは諦めたように目を瞑る。


へ?


モモコが首を傾げた。


「武道会に出てもいい。」


「にゃっ!?(ええ!)」

「おいっ!」

「ガツク!」

「うう!?(大将!?)」


2人と2匹が声を上げる。


ガツクはそれらを無視してモモコには滅多にしない厳しい顔で見つめると言う。





「だが、条件がある。」


まあ、皆さんお気づきでしょうが・・・・

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