4-1 もしもーし
あれから3日が経ち、モモコが戻ってやっと休みらしい休みを取ったガツク。
それは低下したモモコの体力回復も兼ねていたので(ガツクは一晩寝ただけで元に戻った)外出はしなかったが離れていた時間をゆっくり埋める事にもなり充実したものになった。
同時に無理を重ねてガツクに付き合っていたカインの休みも取れ、充分休養に専念できた。
その間、奥と軍部の関係も大きく変わろうとしていた。
テンレイは奥の職員全員に今までの事を説明、謝罪した。
「今、責任をとって辞任する事は簡単です。でも今回の過ちを教訓にもっと奥を高みに持っていきたい。その時までどうかもう一度私に管理者を任せてくれないかしら。今度は軍部と連携し、総所・・・いえドミニオンのために尽くしたいの。」
テンレイの続投は満場一致で認められ、軍部の代表としてガツクの代わりに出席したダイスと握手を交わし軍部と奥の新たなスタートを皆に約束した。
その夜、ダイナンとジーンは「ダウンジ」で祝杯を挙げ、互いの上司、上官、そしていろいろあったが結果的に総所をより良い形で前進させた猫 モモコ に乾杯した。
充実した休みが開けたその日の朝、テンレイが大量の荷物と奥の職員と共にやって来てガツクにモモコの毛並みの手入れから食事等の注意事項、もし病気やケガなどをした場合に行くべき獣医の連絡先などモモコに関するありとあらゆる事をレクチャーしに来た。
「仕事があるんだがな。」
とガツクが逃げを打つが(これがテンレイ以外の奴だとガツクのひと睨みで事は済むのだが、テンレイだともう従ってただ嵐が通り過ぎるのを待つしかない)テンレイは容赦なくそれを塞ぐ。
「あら おかしいわね。さっきカイン君に聞いたら先の先の分の仕事まで片付けてこの先何週間かは暇も同然って聞いたんだけど?」
その暇は全てモモコにあてようとしていたガツクはそれが(たとえ1日でも)潰れた事にイラつき、隅っこで壁と同化しようとしているカインを睨みつけた。
「ふみー・・・ふにゃ。(ガツクさん・・・ガンバレ。)」
モモコも声援を送ることしかできない。
とは言ってもモモコとしてはガツクに学んで欲しいのはやまやまだ。なにしろ動植物に対してマイナスの方向に位置しているガツク。それを改めようとはせず(ぶっちゃけ無駄だと思っている)モモコの事を独自の見解と判断で扱い、加減を知らぬ行為でモモコと周りはしばしば迷惑を被っていた。
哀れなガツクはその後厳しい鬼監督の元、その優秀な頭脳にそれらを叩き込まれた。
カインとモモコは終始引き攣った顔で、大男が美女に
「違う!!何度言ったらわかるのよ!!それはこの後!次はこれ!モモコへの愛が足りなくってよ!ガツク!!」
と怒鳴りまくられるのを見ていた。
そして1週間後。
「こんにちわガツク。モモコはいて?」
「いない。帰れ。」
膝に乗り、机の下からはモモコがこんにちわしてるのだがガツクは言い切った。
「まあモモコ。今日も可愛いわね。」
不機嫌さ全開のガツクを鼻で笑い、モモコには笑顔全開でテンレイは挨拶した。
「にゃーん?(今日はどうしたの、テンレイさん?)」
この前会ったばかりなのに・・・もしかして教え忘れた事でもあったのかな。珍しいなぁ。
モモコがのんきに思っているとガツクが誰か(主にテンレイを阻止できなかった奴ら全員)を呪い殺すかのようの声音で
「月1ではなかったか?約束が違うぞ。」
これが定期化してはたまらんと言う本音を全面に出して抗議する。(ガツクに建前はあんまりない)
「うるさい男ねぇ。安心しなさい、今日は特別なの。私の元にいた時オーダーしていたモモコの服が昨日届いたの。勿体ないから持ってきただけよ。次からはしないわ。ほら可愛いでしょ?」
深まる秋に合わせたシックなドレスをジャーン!と出しながら嬉しそうに笑った。
ガツクとモモコは顔を見合わせた。
カインも?と首を傾げる。
「猫に・・・・服を着せる意味は何だ。」
ガツクの不可解な顔付きにテンレイはきょとんとなる。
「意味って?」
「猫は・・・既に毛で覆われているだろう。保温目的なら役目は充分だと思うが。」
(ガツクさん・・・あんまり深く考えない方がいいよ・・・。)
モモコは忠告した。心の中で。(意味なし)
テンレイはあなたってバカねぇといった顔付きでガツクを見てフッと笑うと(ガツクのイラつき度はもうすぐMAX。カインは退屈しのぎでしていた仕事を全力でやり始めた)
「可愛いじゃない。」
「は?」
「だから、可愛いからよ。これを着たモモコがちょこんとお澄まししている所を見てるだけで価値があるのよ。わからない?」
「わからんな。そんなビラビラと窮屈そうなモノを着せて動物虐待ではないのか。」
「なんですって!」
軍部の最強の男としてドミニオンどころかこの世界でもっとも他の軍から恐れられている大男とドミニオン1の才女として各国でも名高い美女が”猫に服を着せる意味・価値”について本気で討論。いや赤裸々に言うと互いの価値観についてのケチのつけ合い。ただの口喧嘩ともいう。
モモコとしては着せ替えは慣れれば特に嫌なモノでもなく、自分がドレスなどを着てテンレイが喜んでくれればそれで良し!的な付き合い程度であって特に思うモノはない。
なので行儀悪く大きな欠伸をしたりして2人の決着がつくのを待った。
「あ~らそう。これを見てもそんな口が聞けるかしらね。モモコ、ちょっとこちらへいらっしゃい。
この無粋な男に見せてやるわ!ファッションの凄さを!」
いつの間にファッションの意義にまでなっていたのか・・・・モモコは半ば呆れながらもこれ以上の展開を防ぐため素直にテンレイの側まで歩み寄った。
「ふん。モモコを飾り立てても無駄だぞ。モモコはそのままで充分愛らしい。」
恥ずかしくないのかお前?的発言でテンレイに応酬するガツク。
テンレイはツンとしながら隣の応接室に入ると、モモコにガツクへファッションの凄さとやらを見せる勝負服を(使い方が違う)出して見せた。
「にゃにゃ・・・!(こ、これは・・・!)」
テンレイが執務室に戻り、モモコであろうシルクのスカーフに包まれたもこっとした塊をガツクのデスクに置いた時も、ガツクはこんな無駄な時間を過ごすくらいなら訓練でもしていたらよかったな・・・と思っていた。まあテンレイならどこへ行こうと結局捕まり、同じ展開になるんだが。
「お・ま・た・せ!さあ!これであなたもファッションの神にひれ伏すといいわ。」
どうしたテンレイ!みたいなセリフを吐きながらスカーフをサッと取ると空中に放り投げる。
そこには小さな前足を袖に通し、襟をピンクのリボンでとめ、胸から背中までを雷と桜を散らした黒いコートを着たモモコがいた。
ガツクの時間が停止した。
横から覗いたカインが思わず声を上げる。
「おおー!可愛いですね。雷桜隊のコートじゃないですか。すごいな。」
「ふふふ・・・・可愛いでしょー。モモコがガツクの元に戻ってから大急ぎで作ってもらったのよ。私からのお祝いの品よ。これからモモコには奥と軍部のかけ橋になってもらおうと・・・って聞いてるのあなた。・・・ちょっと!ガツク!?」
モモコも微動だにしないガツクに?と首を傾げる。その愛らしい(らしい)姿がガツクを追い詰めているとも知らずに。
その後動かなくなったガツクを2人と一匹は1時間かけて元に戻した。
翌日、飼い主とお揃いの黒いコートを着たよく見ると顔が強張ったピンクの猫に軍部の皆さんは久しぶりにド肝を抜かれた。
なんか拍手話ぽくなりました。まあ、こんなのもたまにはいいか。いつもこんなんですけど。