2-15 始まりました
「題して! どっちが真の飼い主だ!流血沙汰はご勘弁!クイズで対決しやがれスペシャル~!!」
ホクガンが金色のマイクで高らかに宣言すると、場内は割れんばかりの歓声に包まれた。
晴れ渡った青い空、秋が訪れ過ごしやすくなったドミニオンの中枢では仕事もせんと何やっとるんだ的光景が繰り広げられていた。
何がスペシャルだこのヤロウ!
モモコはステージ中央に設置され、キレイに飾られた小さなソファにちょこんと座り、ホクガンを睨みつけた。
ホクガンは集まった観客にこれまでの経緯を面白おかしく語っている。
モモコはため息をついて、ステージを見渡した。
半円形のドーム型の会場は国主が演説をしたり、他国とのレセプションに使ったりする多目的なものらしくステージは1メートルほどせり上がりその上に立つと全体がよく見える。屋台を出し、あちこちでピクニックシートなどを敷いてくつろぎ、談笑する馬鹿野郎どもの姿が。
モモコはすっかりお祭りムードで盛り上がっている人々から、ホクガンの隣で腕を組み目を瞑って立つガツクと腰に手を当て、ツンとするテンレイを眺めた。
冷たく聞こえるかもしれないがこんなにテンレイが自分を好いてくれているとは思っていなかった。
素直に嬉しく感謝する気持ちはあるが、ガツクと心が通じ合ってきたモモコはガツクとも離れがたい。
ホクガンに問われるまでもなく、片方を選ぶなんてできない。
どっちも選べないならせめて(ものすごくイヤな予感がする)出される問題に真摯に答えて、勝った方と帰ろうと既に覚悟を決めていた。
モモコは再度ため息をついて3人からステージ右横に腕を組んで立つ、ダイス・ラズを見た。
ダイスもガツクやホクガンに負けない大男だが、2人と違って大人の余裕が感じられる。ガツクは威圧感というか厳しさというか決して恐怖政治ではないのにそれで従えているかのような・・・・・感じ。
ホクガンはまったくの子供にしか見えない。が、皆にイジられていてもいつの間にか自分のもっとも得意とする状況を作り出す喰えない男って感じだ。
あと、モテそうだな。モモコは「ダイスさ~ん!」と他の部の女性職員だろう方達に呼ばれ、笑顔で手を振るダイスを見て思った。キャー!と黄色い声があちこちで上がる。
(例えるならワイルド系イケメンか。ガツクさんもダイスさんと同じぐらいイケメンだと思うんだけどワイルドをマッハで通り越して恐怖の源まで行っちゃった感じだしなぁ。あと認めるのはしゃくだけどホクガンもかっこいいんではあるんだよね。ゴージャスというか。まああのオチャラけた性格が台無しにしてるんだけどね。)
そこまで思った時、ダイスがモモコの方を向き、ニヤっと笑って側まで来た。
モモコが?となると、
「猫よ、お前 明るい所で見ると本当にピンクじゃなァ。フワフワしちょるしわたあめみたいじゃ。ところでさっきワシを観察しとったじゃろ。なんじゃ、ガツクよりワシの方がええ男なのに気づいたんか?なんならワシが飼ってもええんじゃぞ?」
ガツクよりはマシな扱いができると思うがの。と笑い屈んでモモコの首筋を優しくくすぐる。モモコは冗談じゃない、これ以上ややこしくなってたまるかと思うが、ダイスの手つきに猫の部分が反応する。なので気持ちよく目を細めたところ、
「ダイス・・・・・何をしている。」
鬼が立っていた。
ダイスの真後ろに立って射抜くように見下ろすガツクはもはや鬼にしか見えん。
ヒィーッ!モモコは久しぶりにガツクにビビった。
ダイスはビクゥ!となったが、くさっても(ちょっと待たんかい!)さすが大将の一人。すっと立ち上がり、ガツクと目線を同じにすると、
「ちょっと世間話をしとっただけじゃァ。いちいち目くじら立てんでもええじゃろ?男の焼きもちは見苦しいぞお?」
軽く流すような感じであしらった。モモコがおおーッ!と感心すると、ガツクは全っ然薄らがない殺意に満ちた目で、
「ほう?”ガツクよりワシの方がええ男なのに気づいたんか?なんならワシが飼ってもええんじゃぞ?”と話しているお前の声が聞こえたんだがな。ついでに俺より扱いがマシともな。・・・そうか、敵は一人ではなかったか。こんな所に伏兵が潜んでいたとは・・・俺も迂闊になったもんだな?」
淡々と話し、最後には死刑宣告を出すかのような声音に大人の余裕があったはずのダイスもマジで慌てだす。
「待て!さっきのは猫をからかっただけじゃろ!お前から本気で取ろうなんて思っちょらん!だ、大体ワシにはもうショウがおるんじゃ!犬と仲が悪い猫を飼うわけないじゃろが!」
「ショウとモモコは仲が良いぞ。」
「えっ!?」
本当か とダイスが振り向けばモモコはショウさんの飼い主さんだったのかぁとのんきに思いながら頷いた。
「なるほどな、ショウを使って奪い去る計画だったか。そんなに早い段階から・・・さすが霧藤、だな?」
「ち、違う・・・・・。」
すっかり青ざめ、小さな声でしか反論しないダイスを置き去りにガツクはモモコの前へとしゃがみこみ、
「モモコ、ダイスは顔はいいが、あちこちの女に見境なく秋波を送る、ホクガンと双璧をなす最低な男だ。気を許すんじゃない。」
親友のはずのダイスをこき下ろす。
ひ、ひでぇ と呟くダイスの声が聞こえるような気がする。
(ガツクさん、私猫なんだよ?何言ってんの?もしかして緊張してるのかな。大丈夫かな。)
「みゃお!(しっかりして!ガツクさん!)
「そうか、わかったか。ならいい。」
相変わらず噛み合わない一人と一匹の会話?は、
「おーい!もう始めるぞ!なにやってんだ?」
もう一人の最低男ホクガンの呼び掛ける声で終わった。
「ただの世間話だ。」
ガツクは何事もなかったかのように戻り、ガツクの抹殺リストの上位に上がったダイスは覚束ない足取りで先ほどの位置まで戻った。
「お別れでも言ってたのかしら?」
フフンと微笑むテンレイに、
「ぬかせ。」
と返してガツクはいつの間にか用意されてあったテーブル付きの椅子に座った。
向かい合う形で座った2人の間にホクガンが立ち、
「さあて野郎ども!準備はいいかぁ!ルールは簡単!出題されるのは全部で9問!5ポイントゲットで猫をお持ち帰りだ!それでは早速最初の問題はこれだっ!」
派手な仕草でスクリーンを指差した。
[ジェスチャーキャット!!!]
センスの欠片もない・・・・命名者はホクガンであろう。
とりあえず嫌な事にはよく気がつくモモコは青ざめた。
(わ、私にさせる気だ!ジェスチャーを!)
モモコが茫然とホクガンを見ると奴はウインク返してきた。モモコは我に返り電光石火の早さで避けた。
ホクガンはそれにカカカと笑うと、
「俺が猫に仕込んだ芸を見て、それがなんなのか当ててみろ!答えは机の上にあるボードに書きやがれ!」
ガツクとテンレイがいつ仕込んだみたいな顔付きになったのでホクガンは小声で
「猫が言葉や文字を理解するなんてあんまり知られたくないだろ。うるさくなるだけじゃねえか。」
了解。2人は納得した。
ホクガンはモモコに勢いよく振り返ると、2人には見えない様に紙切れを見せた。そこには意外と達筆な手で、
[烏賊]
と書いてある。
要するに海にいるイカの真似をしろということらしいが、なぜイカなのだろう。素朴にモモコは思ったがホクガンの深淵など浅すぎて理解不能だと持ち直し、嫌だと首を振ろうとして”問題には真摯に答える”と決めた事を思い出した。こんな奴の・・・・と1分ほど葛藤し、モモコは遂に頷く。
ホクガンはにんまり笑うと横にどき、
「第一問!」
と声を張り上げた。
モモコはガツクとテンレイはもとより総所中の職員達に注目されながらイカのモノマネをした。
前足をなるべく三角にし、あとは降ろしてひらひらと触手に見えるように動かす。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
モモコは全身から見えない汗がどっと出るのを感じた。
羞恥心というか自尊心が口から天に昇っていきそうだ。と、激しく動く何かが目の端に映り横を向くと、ホクガンが床を転げ回りながら爆笑しているではないか。
オ・ノ・レ!あんたがやれっていったんでしょーが!なに1番お前がウケてんだよ!覚えてろよ!
モモコはホクガンを呪い殺す事に決めた。
その時大歓声が沸き起こり、モモコを心底ビックリさせ、飛び上がらせた。
皆、 くちぐちにカワイイー!!とかすごいなさすが国主とかどよめく声も聞こえる。
この国大丈夫か?モモコは真剣にドミニオンの未来を案じた。
そんなモモコの心中とは裏腹にガツクとテンレイはモモコの愛らしい?動きに茫然としたのち、ハッと我に返り、用意されたボードに答えを書き、合図を送った。
それに気がついたホクガンは涙を拭き、笑いにまだ若干震える声で読み上げた。
「ガツクは”タコ”!テンレイは”イカ”!両者出揃った!さて答えはこれだ!」
ホクガンはスクリーンを指差した。
ジャン!という効果音とともに答えが映し出される。
「答えは“烏賊”だぁ!テンレイまずは1ポイントゲット!」
再び歓声が起きる。テンレイは得意げにガツクを見やるがガツクは泰然とそれを受け止めた。
が、心の中では
(モモコ可愛らしかったな・・・・頼めばもう一度やってくれるだろうか。)
などと勝負とは関係ない事を考えていた。
なんかイロイロでてますねぇ。
秋波・・・異性の関心を引こうとして色目を使う事