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偏屈さんと一緒  作者: ロッカ
21/84

2-12 ごめんなさい

サアアァ・・・・・・

モモコは寝室の窓から外を眺めた。

昨日から雨が降り続いている。

雨の日に死んだからか、はたまた猫の性分なのか雨の日にはなにもかもが億劫になる。

昼間でも薄暗い中、モモコはベッドでゴロゴロしながらガツクの事を考える。


(ガツクさんに八つ当たりしちゃったな。)





ダイスから帰還する旨の連絡をもらい、引き継ぎの準備を終えたガツクは約1カ月ぶりになる休みを取った。元々誘われない限り、休日は家で過ごすことが多いガツクだが、モモコとの初めての休日になにやら考えがあったらしく(これまでの事例からおそらくろくでもない事であろう)モモコも楽しみにしていた。

朝方、カインから火急の連絡があるまでは。

カインに対応するガツクの深~く響く声は一生忘れられそうにない。

カインも忘れないだろう。


「わかった 今(八つ裂きに)行く。」


”今”と”行く”の間に不穏な言葉が聞こえたのは気のせいだろうか。気のせいにしておこう。

せっかくの休みが潰れ、しかも自分を置いて行くと告げたガツクにモモコは初めて駄々をこねた。


「にゃーうお!(ひどい!)」

「仕方ないだろう。だが・・・」

「うーおぉ!ぶみっ!(それに今日は休みだって言ったじゃない!嘘つき!)」


モモコは足早に寝室に走ると毛布に潜り込みストを決め込んだ。ガツクは戸口に立ち、


「モモコ・・・。」


と呼んだが、


「ふううぅぅ!!(さっさと行けばいいでしょ!!)」


モモコが唸ったのでため息をつき、雨の中迎えにきたカインと共に仕事へと向かった。


(へっ!ガツクさんなんか!働き過ぎるとね早く老けるんだから!あっという間に爺ちゃんだからね!)


一匹になり静かになった部屋で、モモコは泣くのを我慢するようにぎゅっと目をつぶると無理矢理寝た。

昼になってベッドにいるのも飽きるととぼとぼと居間に行き、ガツクがまだ帰ってきていない事にがっかりしたが、器に何も入っていない事に気づきご飯には帰ってくる!と期待してわざわざ玄関で待つ事にした。

薄暗くひんやりした空気、雨の音しかしない空間はいやがおうにも寂しさが募る。


(ガツクさん 早く帰ってこないかなぁ。帰ってきたらすぐ謝ろう!お仕事だもんね。私ってやつは・・・・自分で思ってたより全然子供だ・・・。ああ、恥ずかしい。)


昨日からの雨でいらだっていたとはいえ、あんな事するなんて・・・・

ただ、休みが潰れたこともイヤだったが、置いて行かれるのはもっとショックだった。

今までいつも片割れに置いてくれたのに・・・・。


(私 ・・・飽きられちゃったのかな。ずう~っとくっついてたから?それとも・・・・)


あれかなこれかなと考えている時、ドアノブが回り、ドアが開いた。


「にゃー!!うみぃー・・・・・。(ガツクさん!おかえ・・・・・。)」


入って来たのはガツクではなくカインだった。

傘を畳みながらモモコに気づき、声をかける。


「ごめんな、ガツクさんじゃなくて。でもおいしいご飯と遊び相手を連れて来たよ。」


「ほら入れ」と外から入って来たのは・・・・・


[よお モモコ。お前、主を困らせちゃあならんぞ。]


この物語中、一番男らしいドーベルマンのショウだった。




カインは「ほんとにコイツでいいんだろうか」などと言いながらショウの体を拭いてやり、二匹のご飯を用意すると、


「ガツクさん、今日はすぐには帰れないと思う。大人しくしていてくれよ。」


と言って慌ただしく出て行った。

モモコは俯き、何かの固まりが喉からせり上がってくるのをぐっと我慢した。

我慢するあまり震えるモモコにショウは穏やかに話しかける。


[モモコ、腹へっちょらんか。]


首を振るモモコに、


[じゃあ、わしは遠慮なく頂くとするか。]


ショウが食べ終わった後もモモコはさっきと同じ場所で頭を垂れたままだ。

ショウはそんなモモコに優しい視線を送るとすぐそばまできて顔を覗き込むように寝ころんだ。


[どうしたモモコ。なにしょぼくれとるんじゃ。]

[・・・・・今朝、ガツクさんと。]



モモコはポツポツと今朝あった事を話した。

わがままを言って困らせてしまった事。帰ってきたらすぐ謝ろうと思った事。


[どうしてこんな気持ちになるんだろ?ちょっと前までは置いてってもいいのになんて思っていたのになァ。]


不思議そうに首を傾げるモモコにショウは低く笑うと、


[その感情はお前さんにゃァまだ早ええ。気にせんでもそのうちわかる。・・・・のう、モモコ。]


聞いてもらって少し元気の出たモモコは明るく応える。


[なあに、ショウさん。]

[どうして今回ガツク大将がお前を置いて行ったかわかるか。]


モモコは目をパチパチさせるとまた俯いて首を振った。


[実は今朝、密入国者が騒動を起こしてのう。]

[えっ!]

[本来なら警察の仕事じゃが、やつら大量の武器も一緒に密輸してたんじゃ。それを使ってドンパチ始めおってのう。]

[ええーっ!]


話しているうちにショウの顔も険しくなる。


[しかも街のド真ん中でなァ。そこで早く収めるために雷桜隊の出番となった理由わけじゃ。そんな所にお前を連れて行けるわけあるまい。気も散るしのう。]

[私・・・・・・。]


さっきとは別の意味で深く頭を垂れたモモコにショウは、


[そういう事じゃ。なあに落ち込む事なぞない、お前はまだ子供じゃ。いつも通りに大将を迎えりゃええ。]


慰めるつもりだろうショウの言葉はグサァッ!とモモコに突き刺さり、危うく魂が出かかるところだった。


(うっうう・・・。ショウさん・・・私ほんとは20歳なんだよ。元の世界でもこの世界でも立派に成人してるはずなのさ・・・・)


ますます落ち込むモモコを今度はショウが不思議そうに見た。






シトシトと降る雨の中、早朝から集められた雷桜隊第一分隊と霧藤隊第二分隊、そして波桔梗隊第一分隊は、2人の大将を前に緊張していた。

やがて各部隊の配置などが告げられ、各々は迅速に動き始める。



雷桜の1人は今回一緒に行動するようになった霧藤の1人に話しかけた。


「お前、ウチの大将がものっすごく不機嫌なワケ知ってるか。」


霧藤のは顔を向けて、


「いいや。もしかして(猫が)いない事と関係あるのか?」

「ドンピシャ。今日なぁ、大将1ヶ月ぶりの休みだったんだ。」

「あー・・。すまんな、ウチのが。」

「や、そりゃいい毎度の事だから。でな、(猫が)来てから初めての休みだってんで大将、なんか計画してたらしい。」

「そ、そうか。相当(猫が)気に入ったんだな。あ、じゃあ・・・。」

「そ。今日のやつら死んだな。」

「よくて半殺しだなぁ。」

「なるべく早く治めようぜ。じゃないとこっちに跳んでくるぞ。あれが。」


霧藤のは雨のせいだけではない寒気がした。周りの者もした。


「よしっ!き、気合い入れてこうぜ!明日の朝日を拝むために!」


オオウッ!!と野太い声を上げて彼らは足を速めた。






ガツクは恨みを込めた一撃を首謀者の一人に叩き込むと相手は膝を折って崩れた。


「捕縛しろ。」

「はっ!」


部下に後をまかせ、「ガツクさん!」と走って来たカインに向き直る。

意外に体力のあるカインが息も切らさず駆けよると、


「ご飯、用意してきました。あと、ショウも置いてきました。」


ガツクに頼まれた事の事後報告をした。


「そうか・・・。アレは・・・いや、いい。悪かったな、任務とは関係ない事を頼んで。」

「いえ、本来ならガツクさん休みなのに・・・こっちのほうが申し訳ないですよ。」


黙って首を振るガツクに、


「玄関で待ってましたよ。ガツクさんじゃなかったんでがっかりしてました。」


モモコの様子を微笑ましく思い出しながら語った。

ガツクは意外そうに目を軽く開くと、わずかに口の端を上げた。


「状況はどうなっている。」

「はい。今 残党をブラムス通りに追い詰めています。いまのところ死者、重症者共にいません。」


頷き、すぐブラムス通りに向かうガツクの頬を振りつく雨が伝う。

その姿は見る者に孤高な狼を彷彿とさせる。

たった一人で己が信念を貫く者。


(バカな。ガツクさんはやっと見つけたんだ。心を寄せる者を。)


そんな印象を頭から振り払おうとするが、ふと思う。


(もし猫を失ったらガツクさんはどうなるんだろう?・・・いやそんなことにはならない、絶対に。)


しかし、カインがどんなに否定してもそれは澱のように心に残った。



それは予感だったのかもしれない。






ガツクが帰るとモモコが玄関で丸くなって寝ていた。

ガツクの胸に嬉しさと同時に愛しさがこみ上げる。

起こさないようにそっと抱き上げると、数歩先にショウが座っていた。


「お守、御苦労だったな。」


囁き声で言うとショウは耳を動かし、目を少しせばめた。まるで「何ほどの事でもない」と言っているようだ。ガツクはショウのために扉を開けてやり、出て行くと音をたてないようにゆっくり閉めた。

ガツクはモモコを寝室に運ぶとベットに置いた。すぐ毛布で包んでやる。

しばらくモモコの寝顔を眺め、やっと一息付ける自分を感じた。

疲れてはいないが(体力と精力は無尽蔵・・・恐ろしいですよね?)焦燥感は常にあった。


(待っていてくれる者がいるという事が、こんなに贅沢なものだったとはな・・・・)


ガツクは冷えた体を温めるため、風呂に入りモモコの隣に身を横たえた。

その振動に目が覚めたのかモモコが身動きし、ガツクがいる事に気づいて目を大きく開けた。と、


「ふみゃーお。(おかえり ガツクさん。)」


小さく鳴いた。

ガツクは自身の頭に手を置いてモモコに向き直り、


「ただいま モモコ。」


ガツクも囁き返す。



いつの間にか雨は止んでいた。





翌日の夕方、ダイス率いる霧藤隊第一分隊が到着した。



次!次こそは!たぶん!

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