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偏屈さんと一緒  作者: ロッカ
19/84

2-10 感謝感激です


「お前に名前を付けようと思う。」


ホクガンと再会した日から1週間がたち、ガツクとモモコはお互いモヤモヤとしたものを抱えながらも日常を過ごしていた。

そして。

風呂から上がったガツクが髪を拭きながら唐突にモモコに宣言した。

は?という顔をした後モモコはすぐさまつっこんだ。


(おっそ!遅すぎるわ!もう付けないだろうと思ったわ!・・・・あれ?今飼う気になったとか?今までの1ヶ月ちょいは一体・・・・この人はほんとに・・・理由わけわからん。)


首にタオルを掛け、ソファに座って顎に手を当て「うむ」と唸るガツク。


そんなガツクを呆れ顔で見ながら、モモコは最近 気づいた事を思う。


(髪を下ろすと普段の魔王顔も少しは和らぐんだけどな・・・なんで上げちゃうんだろ?見かけにあんまこだわりなさそうだけど。)


モモコはまだ熟考しているガツクを放っておき、背を丸めた。

ガツクは自分に背を向け居眠りしているようなモモコにそっと手を伸ばす。

柔らかで暖かい。

モモコを見つめる時、触る時、そして 思う時。どうしてこんな気持ちになるのだろうか。くつろいでいるというのも違うそこにいるだけで充分で いないと・・・・。

ガツクが感じてるその気持ち。それは安らぎである。

くつろいでいても軍人特有の厳しさが消えないガツクだが、モモコといる時だけは幾分その空気が柔らかめになる。本人達は気がつかないのだが旧知の者、身近にいる者、目ざとい者らは早い段階でそれを察していた。表情が豊かになり、声も穏やかで、手つきも優しい。(あくまでモモコ限定。その他に向くとギャップがありすぎ、逆に厳しさが増したように感じられる)

当初はモモコに気を取られ滞りがちだった仕事も、結構大人しくしてるモモコ(この時、そこにあった書類を退屈しのぎに読んでいるところをガツクに目撃され、また新たな認識を植え付ける)に馴れたガツクは的確にさばき始める。前から仕事はバリバリこなしていたが、今は余裕というかどっしり落ち着いてる感じがするのだ。カインも今後どうなる事かと思っていたが、あきらかにモモコがいい影響を及ぼしているのを目のあたりにして胸を撫で下ろした。

ガツクはしばらく丸まったモモコを見ていたが、ふと何事か思いつき、紙とペンを持ってきて何か書き始めた。


「これはどうだ?」


ガツクがモモコに声をかけ、紙をピラッと見せた。目をパチパチさせて書かれた文字を読むモモコ。

次第に目が半目になり眉間には皺が寄り始める。


「この中から選ぼうと思うのだが。」


その言葉を聞くやいやなモモコは滅多に出さない爪で紙を引き裂いてやった。きょとんとしているガツクにフンッとしてまた背中を見せて不貞寝する。


「気に入らないか?」


破られた紙を見ながらまた考える。その紙には


”マシュマロ”

”風船”

”わたあめ”

”毛玉”


などなどおよそ丸くてフワフワを表すモノが書かれている。さすがあのホクガンの親友というか・・・前も述べたので略。

ガツクは考えた。周りにいる奴から果ては昔倒した敵の名前まで。


「そうか なるほどこれは物の名だな。猫の名前ではない。そこか。」

「みゃうお!ふみっ!ふあぁぁ!!(どこだ!着地場所があさってだぞ!わざとか!)」


モモコが間髪いれずつっこむ。さすがあのホクガ・・・・3回目。

モモコに睨まれても可愛いだけなのだが、ガツクはできればモモコにも喜んで欲しいと思っている。モモコもできれば呼んで欲しい名前があるのだが口からでてくるのが猫語?なのでは到底無理だろう。


(もうなんでもいいよ・・・。マルでもいいもんっ!へっ!)


すっかり捻くれ荒んだ目になったモモコに、


「では・・・・モ モ コ はどうだ?お前は桃の実に似ているし、まだ子供だろう。桃の子供で桃子。」


奇跡がミラクルが(一緒)スタンディングオべーションが落ちてきた。

茫然としているモモコに


「これも駄目か?名前を考えるのも難しいものだな。」


却下されたと思い、次を考えるガツク。モモコは慌てて「さっきのがいい!!」と訴える。

にゃーにゃーと纏わりつくモモコにちょっと驚き、微笑みながら抱き上げる。


「モモコでいいのか?もう考えるのは面倒だからな、変更はきかんぞ。」


ぶんぶんと首を縦に振って承諾する。


「ではこれで決まりだ。今日からお前を”モモコ”と呼ぶ事にする。改めてよろしくな。」

「にゃ!うな!(うんっ!よろしくね!)


じゃあ寝るかと抱き上げたまま寝室に行きいつものように枕元にモモコをそっと降ろす。


「どうした?名は気に入ったのだろ。もう寝ろ。」


じっとこちらを見つめるモモコの頭を何度か撫でてからガツクは寝た。

暗闇のなか、静かに眠るガツクの横顔を見ながらモモコは泣きたくなる。

それは切なくて悲しいような迷子の自分を見つけてもらいホッとしたかのような気持ち。

猫の目からは涙は出ない。でもモモコは確かに泣いている。


(ありがとう ガツクさん・・・・見つけてくれて。)


ガツクにとってそれはモモコのイメージの羅列にすぎないだろう。(桃の実も丸い・・・モモコの印象丸いしかないのか?ガツクよ)しかしモモコにとってそれはかつて確かに存在した自分を形づける大事なモノ。



この事をきっかけに急速にモモコはガツクに心を寄せ始める。

その気持ちに気づくのはまだまだ、まだまだかかるのだが・・・・





次の日 嬉しくて眠れず、朝から欠伸ばかりしているモモコを抱いて元気に出勤したガツクは久しぶりに見掛ける奴に足を止めた。


「ジョウ?ショウだったか。ダイスに付いて行かなかったのか。」

「・・・・・・!。ばう!?(ガツク大将・・・・いい加減ワシの名前おぼえてくれんか・・・。うん!?おどれは!?)」

「どうしたんだ?俺に吠えた事などなかったんだがな・・・。モモコか?」


モモコは欠伸をしようとして口を大きく開けた時吠えられびっくりしてずり落ちかけた。

コートにしがみ付き、下を見てみると・・・


[久しぶりじゃのう。よう生きとったなァ。]


ガツクと出会うきっかけになったいつかの紳士なドーベルマンがおかしそうにモモコを見上げていた。




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