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偏屈さんと一緒  作者: ロッカ
15/84

2-6 見えてますか?

翌朝、モモコが額をくすぐる感覚に目覚めると目の前に仁王立ちしたガツクがいた。

思わず飛び上がって起きると、


「起きたか。朝飯を食べろ。」


と言って寝室を出て行った。

モモコはしばらくきょときょとしていたがガツクが戻ってくるかもしれないと思い慌てて後を追った。

居間に出るとガツクはソファに座って待っていた。その側には器が二つある。

モモコは器を胡乱な目で見た。軽くトラウマになっている。


(昨夜のナマズ?は夢に出てきたんだぞ!今度はなんだ!なんなんだ!)


足音も荒くしかしやや腰が引けながらも、覗いてみるとお馴染みのミルクと焼き魚が乗っていた。


(おおー!!ちゃんとしたご飯だ!)


モモコはガツクを見上げた。


「食べろ。」


モモコの目が100ワットに輝いた。


(わーい!いっただきまーす!)


すぐさま朝食を開始する。が、しばらくすると頭のてっぺんがちくちくする。何だ?モモコは上を見、すぐさま俯いた。ガツクが凝視していた。モモコはしばらく固まっていたが(ガツクとの生活では”固まる”はもはやオプション)、もそもそと再開する。


いつものように嫌になるほど食べこぼしが多い。猫の口は咬みつき、まる呑みが基本なので咀嚼には向いていない。だが中身は人間のモモコは租借しないとどうしても飲み込めない。しかしそうすると端からこぼしてしまう。ご飯は大好きだが嫌いでもあった。作ってくれた人に悪いし、見た目も嫌だ。それに食べるのを待っててくれるテンレイにも。昨夜はあまりにもお腹がすいていたので気にする余裕もなかったが今は違う。


(もしかしてこぼしたのが気に障ったのかな。どうしよう。でもおいしいから全部食べるけどね!)


開き直り、こぼしはしたがキレイ?に平らげた。

最後にミルクを飲み干し、口の周りを舐めて食事は終わった。


「終わったか。」


モモコは緊張したが、ガツクは食べこぼしをさっさと拾い、器を片付けるとモモコをひょいっと持ち上げた。目線と同じ高さまで持ってくると青ざめるモモコにガツクは衝撃的な言葉を告げる。


「俺は忙しい。正直お前にまで手が回らん。なので今日から一緒に軍部まで行ってもらうぞ。」

(ええー!?うそぉー!テンレイさんとこに連れてってもらおうと思ってたのに!ていうかなんか私を飼う事は決定事項っぽい!させてたまるかぁ!!)


モモコは抗議しようとしたがガツクの視線に負けた。ガツクはモモコをコートのポケットに入れると(!!!)自宅を出た。







猫は普通、ポケット等に入れるとすぐに暴れて脱出するものだが(ガツクがやったら大人しくなるかもしれない)モモコなので多少息苦しいが我慢していた。


(けど全然揺れない・・。外どうなってるんだろ?ちょっとだけ見たい。)


モモコは好奇心に負けて外を覗いてみた。前回同様の事を仕出かそうとしているのにまったく気づいていないあたり、学習能力がないようである。








ダイナン・ギャッツ少将は今年昇進したばかりの若い将校である。

彼は廊下の前からやって来た上官に気づき朝の挨拶をしようと礼をとった。


「ガツク大将!おはよう・・ご・・・ざ・・い・・ます・・・・。」


猫がいた。

大将のポケットに。

ね・こ。

しかもピンク。


「ギャッツか。今日は霧藤との合同訓練だ。抜かるなよ。」


大将 普通に会話。

部下 モモコ ガン見。


「は・・・い・・・。」


ダイナンは遠ざかる上官の背にやっとの思いで返事をした。


(俺・・・・疲れてんだな。それとも昨日飲み過ぎたのか。いや目が悪くなったのかもしれん。)


ダイナンはようような言い訳で現実を否定した。

その時、またもピンクいのがチラッと見えたが、今度は見なかった事にして訓練の準備に向かった。


(ふぉー。目があった時はどうしようかと思ったけど、なんにも言われなかったなぁ。もしかして軍部はペット同伴とか容認の方向?だとしたらちょっと気が楽。)


モモコは能天気に思っているが、そんな次元の問題ではない。


行く先々で隊員たちに目の錯覚だ・・・とか、あー俺って霊感あったんだな見える猫の霊が。とか現実逃避させながら、一人と一匹は執務室に到着した。


もちろんカインはバッチリ見た。すぐ目を逸らしたが。


「カイン、今回の合同訓練の内容だが・・・・どうした。」

「はっ!はいぃ!く、訓練ですか!?今日のですか!?」

「当たり前だ。今日の予定だろう。」

「そ、そうですよね。・・・・。」


今、俺が見ているモノは本物だろうか。猫に見える・・・ふわっとしたピンクの猫。女性が抱いていたらまったく違和感がないだろう・・・しかしガツクさんのポケットから出ている様は違和感ありまくりどころかシュールというかシュールに謝りたくなるというか今すぐなにかで覆い隠したいというか・・・この様子で自宅から出てこられたんだろうか?・・・・みんなには見えたんだろうか・・・。


簡単に確認しあい訓練後のスケジュール等を検討すると時間になった。ドアをくぐろうとしたガツクをカインは慌てて呼びとめる。

「ガツクさん!その・・・その格好で行くんですか!?」

「いつものと同じだろうが。」

「えっ・・・・・そ、そうですね。」

「・・・今日のお前はどうかしてるぞ。」


カインは言いたい事が山ほどあったが耐えた。


あれは・・違うんだ。何が違うのかわからんけど違う。うん違う。・・・・行かないと。行きたくないけど。







そして補佐官の頭を崩壊寸前にした一人と一匹は訓練場に降臨した。


ズラリと並んだこの国最強の部隊「雷桜隊」彼らはどんな戦いでも剛毅果断ごうきかだんに戦い、今だ負け知らずの戦闘のプロフェッショナルである。

対する「霧藤隊」は戦況に応じて臨機応変に対応。ある時は突破口を開いて戦い、ある時は守りに入れる変幻自在の遊撃部隊である。

彼らは互いを認め合い確固とした絆を持ち、己らの強さに驕ることなく精進してきた。

今日も厳しいながらも充実した訓練になるはずだった。


雷桜隊のある男は隣に立っている同僚を目だけでちらりと見た。すると同僚もこっちを見ている。その顔色は青い。自分も似たような顔色だろう。彼らはまた前を見た。


そこには、軍部最強の男 ガツク・コクサ大将が威風堂々と立っていた。

ポッケからピンクの猫を覗かせて。


彼らはつい 逸らしたり、泳がせたり、彷徨わせたり、俯きがちになる自分の目線を全精力をもって前に固定していた。壇上ではガツクが訓練の内容について説明、脱落したものはコロスと冗談とも本気ともとれる事を言っている。しかし全員聞いていない。というか目の前の光景が信じられず茫然としているといった方が正確だ。

最初一人と一匹が訓練場に姿を現した時、衝撃が、次に混乱の波が来て最後に恐怖が居残った。

静寂のうちにガツクの話が終わり、訓練開始となった。





訓練が進むにつれ、ガツクの眉間の皺が深くなっていく。

まだ1時間もしないうちに脱落者が続出している。普段の彼らからは想像もできない注意散漫が目立つ。

モモコに我が軍部の凛々しいところを見せたかったガツクとしてはおおいに不満がのこる結果となった。


「貴様ら・・・なぜそんなに弛んどるのだ?俺の鍛え方が足りなかったか・・・。そうか。」


過酷な訓練の後、追加で腕立て伏せ500回、訓練場200周をやり遂げ、息も絶え絶えの彼らを奈落の底に叩き落としてからガツクは去った。

相変わらず猫はポッケから覗いていた。


一人と一匹が消えてから彼らは思った。

これは試練だ。新しい形の。俺達の何かを試す、たぶん精神的な何か。しかし耐えてみせる。生き残ってみせる俺だけは!最強のあの人に挑んでやる!

最後に彼らは確固たる絆でつちかったテレパシーかなんかで「他言は無用」と固く誓いあった。


他言できるわけない。

あれに気をとられて(とられすぎだ)まったく訓練にならなかったなんて。

あのガツク大将が あ・の・鬼のガツク・コクサが・・・・・もうこれ以上言うまい。



今日ここに、軍部全体を巻き込んだ壮絶な なんかの試練が幕を切って始まった。


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