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偏屈さんと一緒  作者: ロッカ
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2-5 悪だくみにしか見えません

モモコは驚愕の事実を前にして、落ち着け落ち着けと呪文のように唱えていた。 そしてさらに気づきたくないものに気づいてしまった。 寝室にダッシュで戻り、コートの側まで寄ってもう一度図案を見る。


(雷に桜・・・雷・・・桜・・・雷桜・・・雷桜隊だぁ!!!テンレイさんの天敵雷桜隊のしかも大将の家にお泊り!!!ぎょえー!!どうしよどうしよ!!)


意味もなくコートの周りをグルグル走ってみる。


(そう言えば階級が高い人はコートやジャケット着用ってなんかで読んだような・・)


ドミニオンでは軍部は少将以上は黒いコート着用(下はスーツもしくは準ドレスコード)以下は黒の制服に階級章。その他の部は白のジャケットで部長、副部長のみ、以下は白の制服に階級章となる。そしてこれが最大の特徴なのだが、前述の通り胸から背中までをそれぞれの部署を表す図案が描かれている。ガツクなら雷桜隊を表す雷に桜といった具合だ。

ちなみに奥はダリア、国主は全ての生命の源、太陽の図案になる。ホクガンが源になっているかなんて考えたくもないが。

走ってもなにも解決しないので居間にすごすご戻った。


(なんとかしてテンレイさんとこ戻れないかなぁ。無理か。自分がどこにいるかもわかんないんじゃな。)


テーブルに乗り、ガツクの写真を改めて見てみた。相変わらず威圧感というか圧力というか「圧」しか感じられない顔である。ガツクの無表情な顔写真を見ながらテンレイのひとりごと(愚痴)を思い出す。 テンレイいわく、雷桜隊は「粗暴」で「冷血」で「奥を小馬鹿にし」、「筋肉バカ」で「デリカシーの欠片もない」(それはホクガンだと思う)な連中だそうだ。 モモコが知っている雷桜隊はガツクしかいないがちょっと乱暴ではあったものの粗暴というよりは加減がわかっていないようにみえる。はっきり言ってモモコにとって加減の知らぬガツクの行為は迷惑以外何ものでもないのだが、心意気?は認めるべきであろう。モモコは今も器に乗っかったままの巨大魚をチラッと見た。


(悪い人ではないと思うんだよね。わざわざ大変だっただろう(うん、周囲がね)こんな大きな魚。たぶん私が猫だろうから持ってきてくれたんじゃないかな。あいにくツッコミ入れるしかなかったけど。もしかして必死に訴えたら飼い主捜してくれるかもしんないし。行き過ぎる感がない気もするけど。)


不安と期待が半々のモモコはとりあえずガツクを大人しく待つ事にした。


(それはそうと昨日からなんか体がゴワゴワするんだよね。気のせいかなぁ。)


気のせいなのではない。正真正銘、洗濯用洗剤のせいだ。モモコよ。







ガツクの眉間のシワはこれ以上ない程深かった。

ここはガツクの執務室。


ガツクが今日の分の仕事をやり終えようとした時、

カインが、


「ガツクさん、すいませんこれもお願いし・・・・ま・・す・・。」


書類の束を差し出した途端、どちらかといえば無表情なガツクの表情が険悪の方向に傾いた。 しばらく(若干震えている)カインの手にある書類を睨みつけていたが、


「わかった。」


と諦め、受け取る。

ここ最近ガツクの仕事の量は増えていた。霧藤のダイスが小隊を連れ、サムズ地方の国境沿いに偵察に行っているので、そのダイスの部内の仕事をガツクが肩代わりしているからだ。

深夜過ぎに帰宅、も珍しくない。

ガツクもわかってはいるのだが今は事情が違う。

家にはアレが居るからだ。

昼に戻った時は寝ていたので起こさないようにそっと昼食?を用意できたが、今はすでに10時近い。

ガツクは今度は夕食の心配をしていた。

ついでにアレが食べる様を見て楽しもうとも思っていた。

イラついていても仕方ない。ガツクは書類を手繰った。


一方カインの方は今日のガツクの行動に???がいっぱいついていた。残業なんていつもの事なのにどうしたんだろうか。しかもレインボーフィッシュをかついで部内を駆け回ったって本当だろうか。

にわかには信じられない。もしかして出て行く直前に聞かれて答えたあの事と関係あるのだろうか。カインは本人に聞いてみたかったが、自分の想像を超えた答えが返ってきそうでやめた。 カインは賢明だと言えるだろう。ガツクの思考は余人のそれを超えている。 普通、2mの大魚を30センチにも満たない猫に与えようと思う奴がいるだろうか。いやいない。いや いたんだけど。そして、「魚」と答えたばかりにレインボーフィッシュをガツクが買うことになっただなんて知らない方がいいだろう。

この日の夜も遅くまでガツクの執務室の灯りはついていた。






ガツクが自宅に帰ると猫が物陰から覗いている。なんとなく恨めし気にみえるのは気のせいだろうか。


「遅くなって悪かったな。腹が減っただろう。」


ガツクが居間に入ると魚が手つかずで残っていた。猫は魚が好物だと聞いたが。情報源が(カイン)間違えたか?一瞬抹殺の方向で行きかけたが、確か一般的にと言っていた事を思い出しコレ(虹魚)はアレ(モモコ)の口に合わなかったようだ。と思いなおした。それになんとなく猫も申し訳なさそうにしている。 その頃、自宅でくつろいでいたカインは背筋がゾクゥ!とした。命拾いしたなカインよ。


「もう夜も遅い。今はこれで我慢しろ。」


そう言いながら、レインボーフィッシュをどかして今度は目にも鮮やかなターコイズブルーのナマズ(に見える)を器にどん!と置いた。どことなく自慢げである。おそらくこれも高級魚なのだろう。ナマズを前に固まっているモモコを置き去りにして、ガツクはまだ大丈夫くさってないだったレインボーフィッシュをあっさりさばいて好物である煮魚にし、残りは冷蔵庫にしまった。持ってきた仕事の書類を手に持ちながら、煮魚をツマミに一杯やろうとしたら横から視線を感じる。感じた方を見ると、モモコがヨダレをたらしながらガツクを見ていた。いや、正確にいうとガツクの持っている煮魚を見ていた。ガツクはナマズを見た。またもや手つかずで残っている。どうやら生魚は好かないようだ。ガツクは煮魚を見、モモコを見た。


「食うか?」


と言うと「えっ!いいの!」というふうに目が輝く。ガツクが皿ごとモモコの前に置くと、頭を突っ込むようにしてものすごい勢いで食べ始めた。結局ガツクはなにやら「ふぎふぎ」とか言いつつ食べるモモコをサカナに一杯やった。全部たいらげ、あくびをして眠ったモモコを観察していたガツクは思案していた。


(自分は忙しい。昼にいちいち戻る時間も夜、定時に帰る事もできない。その間アレの面倒をどうするか・・・・。部下に任せることもできる。皆、優秀で信頼できる仲間だ。だがなんとなくアレとの間に人を介入させたくない自分がいる。ならばどうする・・・・。)


彼の中でモモコを飼う事はすでに決まっているようだ。


その時、考えを巡らせていたガツクの目にテーブルに脱ぎ捨てたコートが入った。


(そういえばコートを置いた時アレが鼻に皺をよせていたな・・・フッ。ちゃんと掛けろと言わんばかりに。・・コート・・・そうかコートか・・・。あれならば。)


ガツクは凄味のある顔でニヤリと笑うと(ガツク的にごく普通に微笑)皿や書類を片付け、モモコを毛布で包んで寝室に行き、枕元に置いて自身も就寝した。


がんばっ!モモコ!無駄な足掻きだろうけど・・・・・

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