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平安猫魔伝〜異世界を滅ぼした魔導王、平安の都で猫になる〜【連載版】  作者: 伊勢吉
序章:転生と邂逅

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第七話「猫と陰陽師の攻防」

実俊の来訪から、数日が経った。


我が名は玄丸。真白の屋敷で暮らす、元魔導王の黒猫だ。そして、あの陰陽師見習いは、予想通り、再び現れた。


しかも、今度は、我を試すつもりらしい。



朝。


実俊が屋敷を訪れたのは、真白が庭で歌の稽古をしている時だった。


「失礼いたします、真白殿」


実俊が丁寧に頭を下げる。


「実俊様、いらっしゃいませ」


真白が嬉しそうに微笑む。


その笑顔を見て、我は、何故か不機嫌になった。


我は真白の足元にいた。膝の上ではなく、足元。何故か、実俊がいると、真白に甘えるのが躊躇われるのだ。


「本日は、お願いがありまして」


実俊が真面目な顔で言う。


「その猫、玄丸殿を、少しお借りできませんでしょうか」


は?


我を、借りる?


何を言っているのだ、この男は。


「まあ、玄丸を?」


真白も驚いたようだ。


「はい。実は、陰陽の術を試したいのです」


実俊が我を見る。


その目には、明らかな疑念がある。


「猫は、霊的な存在を感知する能力があると言われています。玄丸殿が、どの程度その力を持っているか、試させていただきたいのです」


それは、建前だな。


本当は、我の正体を暴きたいのだろう。ただの猫ではない、と確信しているのだ。


「玄丸は、そのような」


真白が困惑した顔をする。


「大丈夫です。危害を加えるつもりはありません」


実俊が保証する。


「ただ、少し術を試させていただくだけです」


真白は、我を見た。


「玄丸、あなたは」


我は「にゃあ」と鳴いた。


構わない。


この男が何を企んでいるのか、見てやろうではないか。我は元魔導王だ。陰陽師見習いごときに、遅れを取るつもりはない。


「……玄丸は、大丈夫だと言っているみたいですわ」


真白が微笑む。


「では、お願いいたします。でも、乱暴はしないでくださいね」


「承知いたしました」


実俊が頷く。


そして、我を見て、小さく笑った。


挑戦的な笑みだ。


いいだろう、陰陽師見習い。受けて立とうではないか。



庭に、実俊と我が向かい合っていた。


真白は縁側から、心配そうに見守っている。


「では、始めます」


実俊が懐から、符を取り出した。


黄色い紙に、何やら文字が書かれている。陰陽の符、だ。


実俊が符を空中に投げる。


すると、符が宙に浮いた。そして、ゆっくりと回転し始める。


「この符は、霊的な存在を感知するものです」


実俊が説明する。


「もし玄丸殿が、何か特別な力を持っているなら、この符が反応するはずです」


我は、じっと符を見つめた。


符からは、微かな陰陽の気配がする。だが、大した力ではない。初級の術だ。


符が、我の周りを回り始めた。


そして、我の頭上で止まった。


符が、微かに光る。


「……やはり」


実俊が呟く。


「普通の猫ではありませんね」


実俊が我を見る。その目は、鋭い。


「この符は、霊的な力を持つ存在に反応します。玄丸殿からは、確かに、何か特別な気配を感じます」


我は、しまった、と思った。


符に反応してしまった。魔力を完全に隠しきれなかったのだ。


「ですが」


実俊が続ける。


「それが何なのか、まではわかりません」


実俊が符を手に取る。


「妖怪なのか、それとも、別の何かなのか」


実俊が我をじっと見つめる。


「玄丸殿、あなたは一体、何者なのですか?」


我は、黙っていた。


答えようがない。言葉が話せないのだから。


だが、もし話せたとしても、答えなかっただろう。


我の正体を、簡単に明かすわけにはいかない。


「まあ、いいでしょう」


実俊が笑った。


「いずれ、分かることです」


実俊が次の符を取り出す。


「次は、もう少し強い術を試させていただきます」


その符は、先ほどのものより大きく、文字も複雑だった。


実俊が符を空中に投げる。


符が光り、そこから、小さな鳥のような形が現れた。


式神、か。


紙で作られた鳥が、我の周りを飛び回る。


「この式神は、敵意を持つ存在に反応します」


実俊が説明する。


「もし玄丸殿が、真白殿に危害を加えるつもりがあるなら、この式神が攻撃します」


式神が、我の目の前に降りてきた。


そして、我をじっと見つめる。


我も、式神を見つめ返した。


式神は、しばらく我を観察していたが、やがて、実俊の元へ戻っていった。


「……良かった」


実俊が安堵の息をつく。


「玄丸殿には、悪意はないようです」


実俊が我を見る。


「むしろ、真白殿を守ろうとする意志を感じます」


当然だ。


我は、真白を守るためにここにいる。


真白に危害を加えるなど、あり得ない。


「実俊様、玄丸は大丈夫ですか?」


真白が心配そうに尋ねる。


「はい。玄丸殿は、真白殿を守る良い猫です」


実俊が微笑む。


「少し、特別な力を持っているようですが、それは真白殿を守るために使われるでしょう」


真白が、ほっとした表情を浮かべる。


「良かった」


真白が我を抱き上げる。


「玄丸、怖かったでしょう。ごめんなさい」


我は「にゃあ」と鳴いた。


怖くはなかった。ただ、少し面倒だっただけだ。



実俊が帰る前に、真白が茶を出した。


我は真白の膝の上で、実俊を見ていた。


「実俊様、玄丸のこと、どう思われますか?」


真白が尋ねる。


「不思議な猫ですね」


実俊が正直に答える。


「普通の猫ではありません。何か、特別な存在だと思います」


実俊が我を見る。


「ですが、真白殿を守ろうとする気持ちは、本物です」


実俊が微笑む。


「それだけで、十分ではないでしょうか」


真白が、優しく我を撫でる。


「そうですわね。玄丸は、私の大切な家族ですもの」


その言葉を聞いて、我の胸が温かくなった。


「ただ」


実俊が真剣な顔になる。


「もし、何か異変があったら、すぐに教えてください」


実俊が真白を見る。


「玄丸殿が特別な存在であるということは、何か危険に巻き込まれる可能性もあるということです」


真白が、少し不安そうな顔をする。


「分かりました。何かあったら、すぐにご連絡いたします」


「お願いします」


実俊が頭を下げる。


そして、我を見た。


「玄丸殿、真白殿を頼みます」


我は「にゃあ」と鳴いた。


任せろ。


真白は、我が守る。



実俊が帰った後。


真白が我を抱きしめた。


「玄丸、今日は大変だったわね」


真白の声が、優しく響く。


「でも、実俊様はいい人よ。あなたのことを心配してくれているの」


真白が微笑む。


「私も、あなたのことが心配」


真白が我を見つめる。


「あなた、本当は何者なの?」


その言葉に、我は驚いた。


真白も、気づいているのか。我が、ただの猫ではないことを。


「でも」


真白が続ける。


「それが何であっても、あなたは私の大切な家族」


真白が我を抱きしめる。


「ずっと、一緒にいてね」


その言葉を聞いて、我は、誓った。


ああ、そうだ。


我は、ずっと真白の傍にいる。何があっても。



夜。


我は窓辺に座り、月を見ていた。


今日の出来事を振り返る。


実俊に、正体を探られた。だが、完全には暴かれなかった。


実俊は、我が特別な存在だと知っている。だが、それが何なのかまでは、分かっていない。


それで、いい。


我の正体を知る必要はない。ただ、真白を守る者同士として、認め合えればいい。


庭に、人の気配がした。


見ると、実俊が塀の外に立っている。


我と目が合った。


実俊が、小さく頷いた。


我も、頷き返した。


言葉は交わさない。だが、通じ合っている。


真白を守る、という想い。


それだけで、十分だ。


実俊が、何かを呟く。


また、結界を張っているのだろう。屋敷を守るために。


我は「にゃあ」と小さく鳴いた。


ありがとう、陰陽師見習い。


だが、勘違いするな。真白を一番守るのは、我だ。お前は、二番目だ。


実俊が、声を出して笑った。


「ふふ、分かった。お前が一番だ」


実俊が認めてくれた。


「だが、もし何かあったら、頼むぞ」


実俊が去っていく。


その背中を見送りながら、我は思った。


実俊という男性。敵ではない。だが、ライバルだ。


真白を守る者として、互いに、認め合う関係。悪くない。


だが、真白の膝の上にいられるのは、我だけだ。それだけは、譲らない。

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