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平安猫魔伝〜異世界を滅ぼした魔導王、平安の都で猫になる〜【連載版】  作者: 伊勢吉
第一章:都の小さな怪異

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第十五話「河童の皿」

秋も深まり、木々の葉が赤や黄色に染まる頃。真白と我は、屋敷の近くを流れる小川まで散歩に出かけた。


我が名は玄丸。最近、市で盗人を捕まえてから「福猫」などと呼ばれるようになった黒猫である。


「玄丸、川の音が聞こえるわ」


真白が嬉しそうに言う。秋の陽射しが優しく、散歩日和だ。真澄も護衛として付き添っているが、少し離れたところを歩いている。


小川は、屋敷から歩いて少しのところにある。水は清く、秋の木々が水面に映って美しい。


真白が川岸に座り、水面を眺めている。我は真白の隣に座った。


「綺麗ね、玄丸」


真白が微笑む。


「この川には、河童が住んでいるという噂があるのよ」


河童、か。


我は耳をぴくりと動かした。河童は、この国の妖怪の一種だと聞く。水辺に住み、頭に皿を持つという。


「でも、最近は姿を見せないそうよ。きっと、人を怖がっているのね」


真白が少し寂しそうに言う。


我は川の方を見た。妖気は感じない。だが、水の中には何かがいるような気配がする。


その時、川の上流から、小さな声が聞こえてきた。


「助けて……助けて……」


我は耳を澄ませた。確かに、誰かが助けを求めている。


「真白」


我は「にゃあ」と鳴いて、真白の注意を引いた。そして、声のする方向を見る。


「玄丸、どうしたの?」


真白が我の視線を追う。


川の上流、岩の間に、小さな緑色の何かが挟まっているのが見えた。


「あれは……」


真白が目を細める。


「河童?河童の子供じゃないかしら」


真白が立ち上がる。我も真白と共に、上流へと向かった。


岩の間には、確かに小さな河童がいた。体は緑色で、背中には甲羅があり、頭には小さな皿が乗っている。だが、その皿は傾いており、水が零れかけていた。


河童の子供は、岩に挟まって動けないでいる。


「助けて……」


河童の子供が、か細い声で言う。


「玄丸、あの子を助けなければ」


真白が川に近づこうとする。だが、真白が川に入るのは危険だ。


我は真白を制止するように、真白の足元に回り込んだ。


「玄丸?」


真白が我を見る。


我は川の方を見て、「にゃあ」と鳴いた。


任せろ、真白。我が助ける。


我は川に飛び込んだ。


「玄丸!」


真白の驚いた声が聞こえる。だが、構わない。


川の水は冷たいが、猫の体は意外と泳ぎに向いている。我は岩の間まで泳ぎ、河童の子供に近づいた。


「猫……?」


河童の子供が、驚いたように我を見る。


我は河童の子供の体を押した。だが、岩に挟まっていて、簡単には動かない。


ならば、岩の方を動かすか。


我は【土の理】結界座を使った。肉球から魔力を岩に流し込み、岩の位置を僅かにずらす。


岩が微かに動いた。その隙に、河童の子供が体を引き抜く。


「あ、ありがとう……」


河童の子供が、我に礼を言う。


だが、まだ安心するのは早い。河童の子供の頭の皿から、水が零れている。


我は河童の子供を背に乗せ、川岸へと泳いだ。


「玄丸!」


真白が駆け寄ってくる。


我は川岸に上がり、河童の子供を下ろした。


「まあ、本当に河童の子供だわ」


真白が河童の子供を見つめる。


河童の子供は、ぐったりとしている。頭の皿が、ほとんど空になっていた。


「玄丸、この子の皿に水を」


真白が慌てて懐から小さな器を取り出し、川の水を汲んだ。そして、河童の子供の皿に水を注ぐ。


河童の子供の顔色が、少しずつ戻ってきた。


「ああ……助かった……」


河童の子供が、ほっとしたように息をつく。


「良かった」


真白が微笑む。


「もう大丈夫よ」


河童の子供が、真白を見上げる。


「ありがとう、ございます……」


河童の子供が、丁寧に頭を下げた。


「こちらこそ。無事で良かったわ」


真白が優しく言う。


「ところで、どうして岩に挟まっていたの?」


真白が尋ねる。


「それが……魚を追いかけていたら、岩の間に入り込んでしまって……」


河童の子供が、恥ずかしそうに言う。


「そして、頭をぶつけて、皿の水がこぼれて……動けなくなって……」


河童の子供が、泣きそうな顔をする。


「そう、怖かったでしょう」


真白が河童の子供の頭を優しく撫でる。


「でも、もう大丈夫よ。玄丸が助けてくれたから」


真白が我を見る。


河童の子供も、我を見た。


「黒い猫……ありがとう……」


河童の子供が、我に頭を下げる。


我は「にゃあ」と鳴いた。気にするな。当然のことをしただけだ。


その時、川の中から、大きな河童が現れた。


「太郎!太郎はどこだ!」


大きな河童が、慌てた様子で周囲を見回している。


「父ちゃん!」


河童の子供が、大きな河童に向かって叫んだ。


「太郎!無事だったのか!」


大きな河童が、川岸に上がってくる。その後ろから、もう一匹、中くらいの河童も現れた。


「太郎、心配したのよ!」


中くらいの河童が、太郎と呼ばれた河童の子供を抱きしめる。


「母ちゃん、ごめん……」


太郎が、涙を流す。


「良かった、無事で……」


河童の母親が、太郎を抱きしめたまま泣いている。


河童の父親が、我と真白を見た。


「あなた方が、太郎を助けてくださったのですか」


河童の父親が、深々と頭を下げる。


「本当に、ありがとうございます」


「いえ、当然のことをしただけです」


真白が微笑む。


「太郎くんが無事で、良かったわ」


河童の父親が、我を見た。


「黒い猫殿も、ありがとうございます」


河童の父親が、我にも頭を下げる。


「太郎を助けてくださった恩は、一生忘れません」


河童の父親の声が、真剣だ。


我は「にゃあ」と鳴いた。大袈裟だな。だが、悪い気はしない。


「あの」


真白が河童の父親に話しかける。


「河童さんたちは、この川に住んでいらっしゃるのですか」


「はい」


河童の父親が頷く。


「この川の上流に、河童の里がございます」


「まあ、そうなのですか」


真白が興味深そうに言う。


「私、河童さんたちとお話しできて、嬉しいわ」


真白の言葉に、河童の父親が微笑んだ。


「姫君は、優しいお方ですな」


河童の父親が言う。


「人間の中には、我ら河童を恐れ、忌み嫌う者もおります。ですが、姫君は違う」


河童の父親の目が、真白を見つめる。


「姫君と黒い猫殿は、我ら河童の友人でございます」


河童の父親が、そう宣言した。


「友人……」


真白が嬉しそうに微笑む。


「ありがとうございます。私も、河童さんたちと友達になれて嬉しいわ」


河童の母親が、太郎を連れて真白に近づいた。


「姫君、これからも、どうぞよろしくお願いいたします」


河童の母親が頭を下げる。


「太郎も、ちゃんとご挨拶しなさい」


「はい、母ちゃん」


太郎が、真白と我に向かって頭を下げた。


「ありがとうございました。また、遊んでください」


太郎が、恥ずかしそうに言う。


「ええ、もちろん」


真白が微笑む。


「いつでも、遊びに来てね」


太郎の顔が、ぱっと明るくなった。


「本当ですか!やった!」


太郎が嬉しそうに跳ねる。


河童の父親が、真白に言った。


「姫君、これからは、川の幸を定期的にお届けいたします」


「え、でも、そんな」


真白が遠慮する。


「いえいえ、恩返しでございます」


河童の父親が言う。


「川で獲れる魚や、山菜など。我らが集められるものを、お届けさせていただきます」


「まあ、それは嬉しいわ」


真白が微笑む。


「では、ありがたく頂戴いたしますわ」


「はい、お任せください」


河童の父親が胸を張る。


こうして、我と真白は、河童一家と友達になった。



河童たちが川に帰った後、真白は満足そうに微笑んでいた。


「玄丸、今日は良い日だったわね」


真白が我を抱き上げる。


「河童さんたちと友達になれて、本当に嬉しいわ」


真白の声が、弾んでいる。


「玄丸のおかげよ。あなたが太郎くんを助けてくれたから」


真白が我の頭を撫でる。


我は「にゃあ」と鳴いた。


礼を言われるほどのことではない。だが、真白が喜んでくれるなら、それで良い。


「これから、河童さんたちとも仲良くできるわね」


真白が川の方を見る。


「きっと、太郎くんも遊びに来てくれるわ」


真白の声が、期待に満ちている。


我は、少し考えた。


河童か。妖怪との交流。


この世界には、様々な妖怪がいるのだろう。そして、その全てが敵というわけではない。


河童のように、友達になれる妖怪もいる。


我は、この世界の妖怪たちと、どう向き合っていくべきか。


それを、少しずつ学んでいくのだろう。


真白と共に。


「さあ、帰りましょう」


真白が立ち上がる。


「母上に、今日のことを話さなければ」


真白が嬉しそうに歩き始める。


我は真白の後を追った。


秋の風が、心地よく吹いている。


今日は、良い一日だった。

【妖怪図鑑】

河童かっぱ・太郎とその家族

【分類】水棲妖怪

【危険度】★★★☆☆(中)

【レア度】★★★☆☆(やや珍しい)

【出現場所】川、池、沼など水辺全般


【特徴】

頭に水を湛えた皿を持ち、背中に甲羅を背負った水棲妖怪。体は緑色で、手足には水かきがある。頭の皿の水が力の源であり、この水が枯れると力を失い、最悪の場合は死に至る。

性格は人間的で、家族を大切にし、恩義を重んじる。一度恩を受けると、生涯その恩を忘れず、恩返しをしようとする義理堅さを持つ。相撲が好きで、力自慢の人間と勝負することもある。

川の魚や水草を食べるが、特に胡瓜を好物とする。人間との約束を守る律儀な性格で、悪戯好きな面もあるが、本質的には善良。


【得意技】

・水泳:水中での動きは極めて素早く、人間では追いつけない

・水操術:水を操り、小さな波や水流を作り出せる

・怪力:相撲で大人の男性を投げ飛ばせる程度の力を持つ

・尻子玉抜き:伝承では人間の尻子玉を抜くとされるが、実際は友好的な河童は行わない


【弱点】

・頭の皿の水が枯れると無力化する

・礼儀正しいため、丁寧にお辞儀されると返礼してしまい、皿の水がこぼれる

・陸上では動きが鈍く、戦闘力が大幅に低下

・火に弱く、乾燥した場所を嫌う


【生態】

川の上流や、人里から少し離れた水辺に群れで暮らす。家族単位で生活し、子供を大切に育てる。夜行性だが、昼間も活動する。

魚や水草、川エビなどを食べる。人間が落とした胡瓜を見つけると大喜びする。人間との交流を好むが、近年は人間に恐れられ、姿を隠すようになった。

今回登場した太郎は河童の子供で、好奇心旺盛だがまだ未熟。父親は一家の大黒柱で、母親は優しく面倒見が良い。家族の絆が強く、太郎が危機に陥った際は必死に探し回っていた。


【玄丸の評価】

「河童か。異世界にも水棲の妖精がいたが、この世界の河童は家族の絆を重んじる点が興味深い。頭の皿が弱点とは、明確で分かりやすい。太郎という子供を助けたことで、一家と友好関係を築けた。妖怪との交流、悪くない。彼らは人間に近い心を持っている。理だけでは測れぬ、情の生き物だ。真白が喜んでいたのも、良い収穫であった」


【遭遇時の対処法】

河童は基本的に友好的だが、無礼な態度を取ると悪戯をされる可能性がある。礼儀正しく接し、特に頭の皿を傷つけないよう注意する。胡瓜を供え物にすると喜ばれる。

子供の河童は好奇心が強く、時に危険な場所に入り込むこともある。困っている河童を助ければ、生涯の友となる可能性が高い。


【豆知識】


河童は各地で様々な名前で呼ばれており、「かわたろう」「がらっぱ」など地域によって呼び名が異なる。また、河童の中には医術に長けた者もおり、骨接ぎの秘法を人間に教えたという伝承も残っている。

頭の皿の水は、河童が生まれた川の水でなければ完全な効果を発揮しないとされる。そのため、河童は自分の生まれた川を大切にし、生涯そこを離れない者が多い。

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