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平安猫魔伝〜異世界を滅ぼした魔導王、平安の都で猫になる〜【連載版】  作者: 伊勢吉
第一章:都の小さな怪異

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第十四話「盗人と猫」

翌日、真白はまた市に出かけることになった。昨日買い忘れた物があるとのことだ。


我が名は玄丸。昨日、真白に心配をかけた黒猫である。


「玄丸、今日は本当にお留守番よ」


真白が我に念を押す。


「昨日は本当に心配したのだから。もう、勝手に付いてきてはだめ」


真白の声は優しいが、少し厳しい。我は「にゃあ」と鳴いて返事をした。


分かっている、真白。今日は大人しく留守番をしよう。


だが、我の心の中には、昨日見た怪しい男の姿が引っかかっていた。


汚れた着物を着た、痩せた男。真白を狙うような目つき。


あの男は、何を企んでいたのだろうか。


結局、何もせずに去っていったが、油断はできない。もしかしたら、また現れるかもしれない。


我は少し迷ったが、結局、今日も真白の後を追うことにした。


真白を守るため、だ。



市は、今日も賑わっていた。昨日と同じように、様々な人々が行き交い、商品が売り買いされている。


我は屋根の上から、真白の様子を見守っていた。今日は昨日の教訓を活かし、真白から目を離さないようにしている。


真白は真澄と侍女を伴い、店を巡っている。布地を選んだり、装飾品を見たり、楽しそうだ。


我は安心して見守っていた。今日は、何も起きないかもしれない。


だが、その時だった。


我の目に、昨日の男の姿が映った。


同じ、汚れた着物を着た痩せた男だ。男は、真白の方を遠くから見ている。


我は警戒した。やはり、また現れた。


男は、真白が店に入るのを待っているようだった。そして、真白が店の奥に入った瞬間、男が動いた。


男は素早く真白の侍女に近づき、侍女が持っていた荷物を掴もうとした。


盗人だ。


我は即座に屋根から飛び降りた。


「にゃあ!」


我は大きく鳴きながら、男の前に着地した。


男が驚いて立ち止まる。


「な、何だ、猫か」


男が我を見下ろす。だが、我はそこで止まらない。


我は男の足元に向かって駆け、男の足に体当たりをした。


「うわっ!」


男がバランスを崩す。我は素早く男の周囲を駆け回り、男を翻弄した。


「くそ、邪魔をするな!」


男が我を蹴ろうとする。だが、猫の身のこなしは素早い。我は簡単に避けた。


そして、我は【金の理】鈴声を使った。


「にゃああああん!」


我の鳴き声が、高く響く。ただの鳴き声ではない。音の波動を調律し、周囲の人々の注意を引く術だ。


「何だ、あの猫の声は!」


「盗人だ!盗人がいるぞ!」


周囲の人々が騒ぎ始めた。我の鳴き声が、人々の警戒心を呼び起こしたのだ。


男が焦る。


「ちっ、まずい」


男が逃げようとする。だが、我はそれを許さない。


我は男の足元に駆け込み、男の足に絡みついた。男がバランスを崩し、地面に倒れる。


「うわああ!」


男が大きな音を立てて倒れた。その音に、さらに人々が集まってくる。


「盗人を捕まえろ!」


「あの黒猫が、盗人を止めたぞ!」


人々が男を取り囲む。男は逃げようとするが、すでに周囲は人で埋まっていた。


「離せ!離せ!」


男が暴れるが、複数の男たちに押さえつけられる。


我は少し離れた場所から、その様子を見ていた。


これで、安心だ。盗人は捕まった。


その時、真白が店から飛び出してきた。


「玄丸!」


真白の声が響く。真白が我を見つけて、駆け寄ってくる。


「玄丸、あなた、また付いてきていたの!」


真白が我を抱き上げる。その顔には、驚きと安堵が混じっていた。


「でも、あなたが盗人を止めたのね」


真白の声が、誇らしげだ。


周囲の人々が、我と真白を見ている。


「あの黒猫、賢いな」


「盗人を止めるなんて、すごい猫だ」


「福猫に違いない。あの猫は、福をもたらす猫だ」


人々の声が、口々に我を褒める。


福猫、か。


我は少し気恥ずかしくなった。褒められるのは、悪い気分ではない。


「玄丸」


真白が我の頭を撫でる。


「あなたは、本当にすごいわ」


真白の声が、温かい。


「私の誇りよ」


真白がそう言って、我を強く抱きしめた。


我は、真白の腕の中で目を細めた。


誇り、か。


真白にそう言ってもらえるのは、嬉しい。


我は、ただ真白を守りたかっただけだ。それが、こんなに褒められるとは。


「姫君」


真澄が近づいてくる。


「玄丸殿、見事でございました」


真澄が我に頭を下げる。


「拙者も、あの盗人の気配には気づいておりましたが、玄丸殿の方が早かった」


真澄の声には、敬意が込められていた。


「玄丸殿は、真に姫君の守護者でございますな」


真澄がそう言って微笑む。


守護者、か。


我は、その言葉の重みを感じた。


そうだ。我は、真白の守護者だ。


真白を守ること。それが、我の使命だ。



盗人は、市を管理する役人たちに引き渡された。男は、以前から市で盗みを繰り返していたらしい。ようやく捕まって、人々は安堵していた。


「あの黒猫のおかげだ」


「福猫が、市を守ってくれた」


人々は、我に感謝の言葉をかけてくる。中には、我に食べ物を差し出す者もいた。


我は、少し困惑した。こんなに注目されるのは、予想外だった。


真白は、誇らしげに我を抱いている。


「玄丸は、私の大切な家族なの」


真白が人々に言う。


「本当に、賢くて勇敢な猫よ」


真白の声が、嬉しそうだ。


我は、真白の腕の中で、少し恥ずかしくなった。


褒められるのは、悪くない。だが、少し照れくさい。


我は、尻尾を揺らして、気持ちを誤魔化した。


「ふふ、玄丸。照れているのね」


真白が笑う。その笑顔が、とても眩しかった。



市での買い物を終え、真白は屋敷へと戻った。


牛車の中で、真白は我を膝に乗せている。


「玄丸」


真白が我に語りかける。


「今日は、本当にありがとう」


真白の手が、我の背を優しく撫でる。


「あなたがいてくれて、私は守られている」


真白の声が、静かに響く。


「あなたは、私にとって、かけがえのない存在よ」


真白の言葉に、我の胸が温かくなった。


かけがえのない存在、か。


我も、真白にとって、そういう存在なのだな。


ならば、我は、もっと真白を守ろう。


どんな危険からも、真白を守る。


それが、我の使命だ。


「玄丸」


真白が我を抱きしめる。


「これからも、一緒にいてね」


真白の声が、我の耳元で囁く。


我は「にゃあ」と小さく鳴いた。


当然だ、真白。


我は、どこにも行かない。


ずっと、お前の傍にいる。


それが、我の誓いだ。


牛車が、ゆっくりと屋敷へと向かっていく。


秋の風が、心地よく吹いている。


我は、真白の膝の上で目を閉じた。


真白の温もりが、我を包んでいる。


この温もりを、我は守り続ける。


それが、我の生きる意味だ。



屋敷に戻ると、真白は母の部屋へと向かった。


「母上、今日も良い買い物ができましたわ」


真白が母に報告する。


「それに、玄丸が盗人を捕まえたのです」


真白が嬉しそうに話す。


「まあ、玄丸が?」


母が驚いたように我を見る。


「ええ。市で盗人が侍女の荷物を盗もうとしたところを、玄丸が止めてくれたのです」


真白が誇らしげに語る。


「人々は、玄丸を福猫と呼んでいました」


真白の声が、弾んでいる。


「まあ、玄丸。あなたは本当に賢い子ね」


母が微笑む。


「真白を守ってくれて、ありがとう」


母の手が、我の頭を撫でる。


我は「にゃあ」と鳴いた。


礼には及ばない。これが、我の務めだ。


「玄丸は、私たちの守り神ね」


真白が我を抱きしめる。


「これからも、ずっと一緒よ」


真白の声が、優しく響く。


我は、真白の腕の中で目を細めた。


守り神、か。


悪くない呼び方だ。


我は、真白を守る。真白の家族を守る。


それが、我の使命であり、我が生きる理由だ。


秋の陽射しが、部屋を優しく照らしていた。

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